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園芸係で良かった
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なんか気疲れが残っているけど、クズとの婚約が消えたからか、空気が美味い。
「おはよう スーザン、アリス嬢」
「「おはようございます、殿下」」
未練がましく見ているね。
馬車の乗降所の隅のベンチにオルデンが座りこっちを見ていた。
「わあ。朝から素敵なストーカー」
「お姉様、気をしっかり」
「座っているだけだから何も言えないな」
「こちらはお金を返しましたし 一児の父ですから、彼にはどうこう出来ないはずです」
「あまりとどまるとご褒美になりかねないから教室へ行こうか」
「急いで行きましょう。鳥肌が戻らなくなりそうです」
最後の授業時間は担当の活動をする時間。
私は園芸グッズを持って外に出た。
麦わら帽子を被り雑草を抜いていく。
「本格的だね」
「直射日光を舐めてはいけませんよ、マチアス様」
「そうだな。
やることはあまりなさそうだな」
「だって学園の雇った方が管理しているのですから。特に外は保護者などのお客様が目にしますので力を入れています。やれることは新たに生えた雑草を抜くくらい。学園は使用人をクビにするわけではありません。引き続きお仕事をなさるでしょう。
園芸係は楽だと思いませんか?こうやってお喋りもできますし」
「確かに。そうなると卒業パーティの企画運営を選んだ者達は大変だね」
「イメージでは、座って話し合うだけという楽で思い出に残る良い仕事と思ったことでしょう。ですが時間と共に、意見の違いで起こる進行の遅さや準備の面倒臭さに時間も奪われ心身も疲弊するのです」
「人数が多いしな」
「その点、園芸係は外仕事。途中で飲み物を飲みながら休憩をする権利が与えられています。そろそろお茶にしませんか。焼き菓子も持ってきました」
「準備がいいね」
「旅土産です」
意外にも、旅の最中に何が起きたのか全く聞かれなかった。箝口令のせいか、それとも興味ないのか。
「どうしたの?」
「いえ、何も」
「テムスカリン家は急いで次男の婿入り先を探し始めたようだ。女ならともかく、男じゃね」
「持参金たっぷりでも?」
「支援が必要そうな男児のいない家門なんか少ないのに、更にこの歳になったら無いよ。幼子と婚約しても成人するまで待った挙句、嫡男が産まれたら白紙になるだろうから博打は打たない。
そうなると、他国を当たるだろうが、いるかな?」
「あ~」
「それにテムスカリン家は商売をしているから信用が大事だ。支援が必要で男児のいない家門なら全て対象ではない。支援が必要な家門は難有りだからね。アリスの家門のように騙される人柄だったり、天災によるものだったりする場合もあるが、一家が浪費家だったり当主の賭博や事業の失敗などの場合もあるし、大体そんな家門には突かれたくない事が隠れているからね」
「怖っ」
「ん?」
「うちも調べたんですか」
「ジオニトロ家はお人好しを当主に選び続けていただけで、それ自体罪でもあるが、騙された側だ。
浮気はあったが、縁談を避ける要素には無い。
異母妹は王子妃になるし、当主と後妻は心を入れ替えたし、借金は無くなり貴族の暮らしが維持できている。アリスのおかげでね」
「怖っ」
「アリス」
「はい」
「アリスが大好きだ」
「っ!」
「どうしたら受け入れてくれるのだろう。まあ、アリスへの求婚はジオニトロ侯爵にして了承を貰ってるから」
「い、いつの間に」
「後はアリスが首を縦に振ってくれるだけなんだけどな」
「……」
「何が不満なんだ?」
「不満なんて…」
「じゃあ何?」
「次期公爵の妻は荷が重いですし、まだ婚姻は考えたくないのです」
「重い荷なんか背負わせないよ」
卒業が近付くにつれて、卒業パーティの係は雰囲気が良くない。シャルロットが引っ掻き回しているらしい。
「私も園芸係が良かった」
「殿下、今更ですよ」
「はぁ。何を言っても効果が無い。私や高位貴族の令息の隣に座ろうと必死だし、“どこに座ろうが自由だ”と言うし、話し合いの最中にずっと見つめてくるし、決定事項に急に文句を言い出したりな」
「席は固定にしたらどうですか?彼女に同意を得て、先に好きな席に座らせるのです」
「だが、」
「殿下は遠い席の椅子に荷物を置いておき、そこから一番離れた席に座って“好きな席を選べ、そこが固定席になる。一度決めたら変えられない。その代わり君に一番に選ばせてやろう”と言ってみてください。殿下はそこが自分の席のように資料か何かをテーブルに乗せてください」
「騙すのだな?」
「騙すとまでは。だって殿下はそこが自分の席とは言っていませんから。聞かれたら“私はもう決めているのが分からないのか?”とでも言えば。
よく見たら遠くの椅子から荷物が見えていればいいのです。どうしてその席に座っていたのかと聞かれたら、“資料が置いてあったから、見るために一時的に座った”と仰れば。
それに、“一番”ですよ?一番に決めさせてやると言うことは、二番目の殿下が他の席を選ぶのは自由です」
「騒ぎそうだがやってみるよ」
「彼女をクビにしても園芸係には寄越さないでくださいね」
数日後、シャルロットは引っかかって騒いだらしいが、一番という優遇を貰いながら文句を言うのなら出て行けと言われて渋々従い、彼女の周りは下位貴族で固められた。
既に決められたことに異議を唱える場合は代案を述べ、関連して影響する決まりごとにも代案を考えて9割の賛同を得ることが条件となったため、シャルロットは静かになった。
シャルロットからの私的な誘いも、はっきり断ったらしい。
“私には婚約者がいるし、いなくても君は好みではない。しかも愚かで礼儀知らずだ。絶対に好きにならないから、二度と私的に声を掛けないでくれ”
シャルロットは泣いて可哀想感を出して、学園だからとか身分は適用されないとか言っていたが、
“私が君を大嫌いなんだ。もう隠したくないくらい大嫌いで迷惑だ。しつこすぎて殺意しか湧かない”とまで言うと引き下がり、翌日からは高位貴族の令息にだけ付き纏うようになった。
シャルロットの精神力が無敵だと思う。
「おはよう スーザン、アリス嬢」
「「おはようございます、殿下」」
未練がましく見ているね。
馬車の乗降所の隅のベンチにオルデンが座りこっちを見ていた。
「わあ。朝から素敵なストーカー」
「お姉様、気をしっかり」
「座っているだけだから何も言えないな」
「こちらはお金を返しましたし 一児の父ですから、彼にはどうこう出来ないはずです」
「あまりとどまるとご褒美になりかねないから教室へ行こうか」
「急いで行きましょう。鳥肌が戻らなくなりそうです」
最後の授業時間は担当の活動をする時間。
私は園芸グッズを持って外に出た。
麦わら帽子を被り雑草を抜いていく。
「本格的だね」
「直射日光を舐めてはいけませんよ、マチアス様」
「そうだな。
やることはあまりなさそうだな」
「だって学園の雇った方が管理しているのですから。特に外は保護者などのお客様が目にしますので力を入れています。やれることは新たに生えた雑草を抜くくらい。学園は使用人をクビにするわけではありません。引き続きお仕事をなさるでしょう。
園芸係は楽だと思いませんか?こうやってお喋りもできますし」
「確かに。そうなると卒業パーティの企画運営を選んだ者達は大変だね」
「イメージでは、座って話し合うだけという楽で思い出に残る良い仕事と思ったことでしょう。ですが時間と共に、意見の違いで起こる進行の遅さや準備の面倒臭さに時間も奪われ心身も疲弊するのです」
「人数が多いしな」
「その点、園芸係は外仕事。途中で飲み物を飲みながら休憩をする権利が与えられています。そろそろお茶にしませんか。焼き菓子も持ってきました」
「準備がいいね」
「旅土産です」
意外にも、旅の最中に何が起きたのか全く聞かれなかった。箝口令のせいか、それとも興味ないのか。
「どうしたの?」
「いえ、何も」
「テムスカリン家は急いで次男の婿入り先を探し始めたようだ。女ならともかく、男じゃね」
「持参金たっぷりでも?」
「支援が必要そうな男児のいない家門なんか少ないのに、更にこの歳になったら無いよ。幼子と婚約しても成人するまで待った挙句、嫡男が産まれたら白紙になるだろうから博打は打たない。
そうなると、他国を当たるだろうが、いるかな?」
「あ~」
「それにテムスカリン家は商売をしているから信用が大事だ。支援が必要で男児のいない家門なら全て対象ではない。支援が必要な家門は難有りだからね。アリスの家門のように騙される人柄だったり、天災によるものだったりする場合もあるが、一家が浪費家だったり当主の賭博や事業の失敗などの場合もあるし、大体そんな家門には突かれたくない事が隠れているからね」
「怖っ」
「ん?」
「うちも調べたんですか」
「ジオニトロ家はお人好しを当主に選び続けていただけで、それ自体罪でもあるが、騙された側だ。
浮気はあったが、縁談を避ける要素には無い。
異母妹は王子妃になるし、当主と後妻は心を入れ替えたし、借金は無くなり貴族の暮らしが維持できている。アリスのおかげでね」
「怖っ」
「アリス」
「はい」
「アリスが大好きだ」
「っ!」
「どうしたら受け入れてくれるのだろう。まあ、アリスへの求婚はジオニトロ侯爵にして了承を貰ってるから」
「い、いつの間に」
「後はアリスが首を縦に振ってくれるだけなんだけどな」
「……」
「何が不満なんだ?」
「不満なんて…」
「じゃあ何?」
「次期公爵の妻は荷が重いですし、まだ婚姻は考えたくないのです」
「重い荷なんか背負わせないよ」
卒業が近付くにつれて、卒業パーティの係は雰囲気が良くない。シャルロットが引っ掻き回しているらしい。
「私も園芸係が良かった」
「殿下、今更ですよ」
「はぁ。何を言っても効果が無い。私や高位貴族の令息の隣に座ろうと必死だし、“どこに座ろうが自由だ”と言うし、話し合いの最中にずっと見つめてくるし、決定事項に急に文句を言い出したりな」
「席は固定にしたらどうですか?彼女に同意を得て、先に好きな席に座らせるのです」
「だが、」
「殿下は遠い席の椅子に荷物を置いておき、そこから一番離れた席に座って“好きな席を選べ、そこが固定席になる。一度決めたら変えられない。その代わり君に一番に選ばせてやろう”と言ってみてください。殿下はそこが自分の席のように資料か何かをテーブルに乗せてください」
「騙すのだな?」
「騙すとまでは。だって殿下はそこが自分の席とは言っていませんから。聞かれたら“私はもう決めているのが分からないのか?”とでも言えば。
よく見たら遠くの椅子から荷物が見えていればいいのです。どうしてその席に座っていたのかと聞かれたら、“資料が置いてあったから、見るために一時的に座った”と仰れば。
それに、“一番”ですよ?一番に決めさせてやると言うことは、二番目の殿下が他の席を選ぶのは自由です」
「騒ぎそうだがやってみるよ」
「彼女をクビにしても園芸係には寄越さないでくださいね」
数日後、シャルロットは引っかかって騒いだらしいが、一番という優遇を貰いながら文句を言うのなら出て行けと言われて渋々従い、彼女の周りは下位貴族で固められた。
既に決められたことに異議を唱える場合は代案を述べ、関連して影響する決まりごとにも代案を考えて9割の賛同を得ることが条件となったため、シャルロットは静かになった。
シャルロットからの私的な誘いも、はっきり断ったらしい。
“私には婚約者がいるし、いなくても君は好みではない。しかも愚かで礼儀知らずだ。絶対に好きにならないから、二度と私的に声を掛けないでくれ”
シャルロットは泣いて可哀想感を出して、学園だからとか身分は適用されないとか言っていたが、
“私が君を大嫌いなんだ。もう隠したくないくらい大嫌いで迷惑だ。しつこすぎて殺意しか湧かない”とまで言うと引き下がり、翌日からは高位貴族の令息にだけ付き纏うようになった。
シャルロットの精神力が無敵だと思う。
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