【完結】貴方のために涙は流しません

ユユ

文字の大きさ
上 下
66 / 72

神の後ろ盾(国王)

しおりを挟む
【 国王の視点 】


早馬が到着し、騒ぎとなった。

「陛下、グラシアン王子殿下率いる一行が襲撃に遭ったそうです。死者負傷者が出ていることと、生き残った犯人を捕らえているそうで、騎士団の助けを求めております」

「それはまずい……アリスが同行していただろう」

「到着した護衛兵士を呼びます」


直ぐに血で汚れた護衛兵士が到着した。

「国王陛下にご挨拶を申し上げます」

「挨拶などよい。分かっていることと被害状況を教えてくれ」

「襲撃の首謀者はコルシックの王妃殿下とその実子の第二王子ミカエルのようです。実行犯のリーダーはミカエル王子殿下で、彼を含む3名を生かして捕らえました。
グラシアン王子殿下、ジオニトロ嬢、テムスカリン家の長男エミリアン様はご無事です。護衛兵士の死者は6名となっております」

「直ぐに兵士を向かわせよう。其方は手当を受けよ」

「後、神の一人から警告を受けました」

「……どういうことだ」

「ジオニトロ嬢は神の一人から祝福を受けておりました。……実はジオニトロ嬢はミカエル王子の剣で胸を貫かれました。ですが意識を失った瞬間に神が降臨し、“我が愛し子の身に害をなす者は裁きを受け、時には不治の病に苦しむだろう。アリス自身は普通の人間だが 天界は彼女に償いをする為に今後も見守らせてもらう”と言うと強い光に包まれました。ジオニトロ嬢の傷は跡形も無く消え、代わりにミカエル王子の胸に剣で刺し貫かれたようなアザが出現し……奇病で覆われました」

「神!? 確かなのか!」

「白く透き通った美しい人の姿をした者は ふわふわと浮いておりました。言い終わると光と共に消えました。
何より、ジオニトロ嬢は心臓を貫かれ大量に血を流していたのです。流れ出た血も破れた服もそのまま。ただ傷が消え令嬢も元気に立ち上がりました。
人智を超えた力でしかあり得ません」

「聖女というものか」

「そうではありません。ただ、神はジオニトロ嬢の意思に反することを好まないようです。危害を加えず無理強いをせずにいれば神の怒りに触れることは無いようです」

「分かった。場所を教えてくれ」

後は騎士団長に任せて 宰相を呼んだ。

「アリスを妃に選ぶべきであった」

「それはアリスが望めば叶いますが、望まないでしょう。相応しくはありますが彼女の性に合いません。それに子が望めなかった時、もう一人娶ることにアリスが難色を示せばどうなるか」

「ミカエル王子がどうなったか確認をしてからにしよう」



2日後、貴族牢の中に居た男を見て驚愕した。
ミカエル王子はグラシアン王子殿下よりも歳下だったはずなのに、顔の皮膚だけ鱗のような皮膚で覆われ 身体は発疹で覆われ 指先は黒く変色していた。

アリスの着ていたドレスをメイドが持って来ると、確かに胸と背中に剣の幅に切れていて、多量の血が付いていた。

全員の証言も一致している。

アリスに神の償いについて聞いても、話していいか分からないので答えられないと言われた。


「テムスカリン子爵夫妻と次男を登城させよ」

涙を宝石に変えるなど神の御業。飲み物によって色を出し香りを出し、望む形にしたり自発光させたりもできる。そして神自ら致命傷を治し 害を成した者に制裁をした。

だとしたらアリスが嫌がる婚約は解消しなければならない。提出された契約書には支援金の文字があった。王家で代わりに返して支援をしようと思っていた。



数日後、子爵夫妻と次男オルデンを謁見の間に待たせていると、アリスと子爵家長男エミリアンが入室した。

「アリス!やっと会えた!」

オルデンがアリスに駆け寄ろうとするも、間に近衛兵が立ち塞がった。

兵「陛下の御前だぞ」

子爵「オルデン!こっちに来なさい!」

オ「っ!」


「其方達を呼んだのは、アリス・ジオニトロとオルデン・テムスカリンの婚約を白紙にすることを伝えるためだ」

オ「は!?」

「神託を賜った。アリスは神の庇護にある。故に意に沿わぬことはさせられぬ」

子爵「ですが、これは契約です」

「今までジオニトロ家に渡した金は王家で補填する……何かね?アリス」

ア「これまでの支援金はジオニトロ家で全額お返しいたします。もちろん今後の支援も必要はございません」

子爵「返せば良いというものではないのだよ」

ア「子爵もご存じの通り、オルデン様はずっと浮気を繰り返しております」

夫人「オルデンは改心したのよ?」

ア「それは僅かな期間でしかありません。現在は違法賭博場に入り浸り、そこで知り合った女性達と体の関係を持ち続けています」

子爵「オルデン!!」

オ「っ!」

夫人「婚姻前の多少の女遊びは目を瞑ってあげて」

オ「そ、そうだ!所詮遊びだ!他の女など性欲の吐け口でしかない!私の妻はアリスだけだ!」

私「でしたら仕方ありませんわ」

オ「アリス…分かってくれたんだね。アリスがちゃんと私と会ってくれたら他の女を相手にしないと誓おう」

私「では、貴方の子を産んだ元メイドと婚外子の男児はどうなりますか?」

オ「ど、どうしてそれを!!」

私「ずっと知っていましたがジオニトロ家の準備が整うまで貴方を泳がせていただけですわ」

「子爵、本当か」

子爵「……事実でございます」

「ならば返金の必要は無い。破棄の上、慰謝料を支払え」

私「後腐れの無いよう返金させてください、陛下」

「だが、」

ア「彼に何を言われるか分かりませんもの」

「分かった。だが、慰謝料は支払わせよう」

ア「要りません。但し、エミリアン様とは仲良くさせていただきます」

「分かった」

オ「どうして兄上が?何故さっきからアリスの側に?
まさか…やっぱり兄上とアリスはっ!」

ア「もう婚約者ではなくなりますのでアリスと呼ばず“ジオニトロ嬢”とお呼びくださいね。
それにエミリアン様は私が“お兄様”と慕うお方。下衆な考えはお止めください」

オ「兄上はテムスカリンの跡継ぎだぞ!侯爵家はどうするつもりだ!」

ア「はぁ。私が誰を選ぼうが侯爵家をどうしようがジオニトロ家の勝手です。取り返しのつかない契約違反を犯したのは貴方ですわ。それに散々私を蔑ろにしてきたではありませんか。今更どの面下げて婚約者面なさるのです?恥ずかしい真似はよしてください」

オ「に、認知はしたが婚姻したわけでは、」

ア「未来のジオニトロ侯爵家の跡継ぎに、婚約中に浮気をしたときにできた婚外子と異母兄弟になれと?」

オ「あ、あれはまだ子供の頃の過ちで、」

ア「それが今も続いているではありませんか。今の貴方は避妊薬を使うことを覚えただけのこと。違いますか?それにジオニトロ侯爵家に婿入りして次期侯爵になろうとしている方が違法賭博だなんて、我が侯爵家を何だと思っているのです。次女のスーザンは第二王子殿下の婚約者なのですよ?王子妃の実家に違法賭博をする者がいたら醜聞すぎてスーザンは肩身の狭い思いをすることになります」

「宰相。天罰を受けた貴族牢の住人を3人にみせてやってくれ。そして子爵夫妻にだけ神の警告を教えてやってくれ。もちろん沈黙を誓ってもらってくれ」

「かしこまりました」


夫妻は婚約解消に同意し署名して2人の息子を連れて帰って行った。
グラシアン王子殿下は弟王子ミカエルを連れて帰国した。

そして王妃と王子達を集めて、事情を説明し、絶対にアリスに害を成すなと警告した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花
恋愛
 公爵令嬢のカミラ・リンディ・ベネット。  彼女は階段から降ってきた誰かとぶつかってしまう。  その『誰か』とはマーセルという少女だ。  マーセルはカミラの婚約者である第一王子のマティスと、とても仲の良い男爵家の令嬢。  いつに間にか二人は入れ替わっていた!  空いている教室で互いのことを確認し合うことに。 「貴女、マーセルね?」 「はい。……では、あなたはカミラさま? これはどういうことですか? 私が憎いから……マティスさまを奪ったから、こんな嫌がらせを⁉︎」  婚約者の恋人と入れ替わった公爵令嬢、カミラの決断とは……?  そしてなぜ二人が入れ替わったのか?  公爵家の令嬢として生きていたカミラと、男爵家の令嬢として生きていたマーセルの物語。 ※いじめ描写有り

婚約者の不倫相手は妹で?

岡暁舟
恋愛
 公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

婚約破棄された私の結婚相手は殿下限定!?

satomi
恋愛
私は公爵家の末っ子です。お兄様にもお姉さまにも可愛がられて育ちました。我儘っこじゃありません! ある日、いきなり「真実の愛を見つけた」と婚約破棄されました。 憤慨したのが、お兄様とお姉さまです。 お兄様は今にも突撃しそうだったし、お姉さまは家門を潰そうと画策しているようです。 しかし、2人の議論は私の結婚相手に!お兄様はイケメンなので、イケメンを見て育った私は、かなりのメンクイです。 お姉さまはすごく賢くそのように賢い人でないと私は魅力を感じません。 婚約破棄されても痛くもかゆくもなかったのです。イケメンでもなければ、かしこくもなかったから。 そんなお兄様とお姉さまが導き出した私の結婚相手が殿下。 いきなりビックネーム過ぎませんか?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

処理中です...