【完結】貴方のために涙は流しません

ユユ

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子爵領

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コルシック王国第一王子グラシアン殿下率いる一行と、私を含むテムスカリン子爵家嫡男エミリアン率いる一行が王都を出発してテムスカリン子爵家の領地へ向かう。観光がしたいという殿下に応えて最短距離ではなく遠回りしながら。

だが、あまりの美貌が迷惑なのでブサイクメイクを施しカツラを被せた。

『その無駄な美貌が迷惑なので変装してもらいます』

『せめて“グラシアン様が美しすぎて民が失神しそうだから”とか言えないのか』

『ああ。私も失神して留守番にします』

『よろしく頼む』

少し浅黒くしてデキモノを所々に描いた。
眉を抜こうとしたら抵抗されたので眉墨で眉毛を汚した。

『私はアリスが怖いよ』

と、エミリアン様は容赦なく殿下をブサイクにしていく私に感心していた。



最初の観光地に到着すると

『私の馬車ならもう少し疲れずに移動できるのに』

『あんな豪華な馬車じゃ襲ってくださいと言っているようなものです。これでさえ狙われますからね』

ジオニトロ家の馬車を使って移動していた。

『変装していない私が馬車を降りれば賊も神が降臨したと思って平伏するだろう』

『顔を拭いて一人で歩いてテムスカリンの領地まで辿り着いたら認めましょう』

ハンカチを差し出すと

『いい馬車だ。歴史を感じる』

『そこまで古くありません』

『お! あの屋台の肉が食べたい』

『食べ過ぎて酔わないでくださいよ』

『子供扱いするな』

1時間、無邪気に食べ、休憩を入れて出発後

『オエエエエエッ』

停車して、草むらでリバースし、側近のレイ様が私達に誤っていた。



グロッキーな殿下のために速度を上げた。

『ふ、普通はゆっくり走るだろう』

『そうすると宿が変わって明日が大変になります。
さっさと到着して部屋で大人しくさせます』

『あ、悪魔っ』

『言うことを聞かないとどうなるか初日に身をもってご理解いただけそうで嬉しいです』

レイ様以外は引いていたが、実行した。

次の宿では翌朝まで大人しくなり、レイ様とエミリアン様と3人で楽しく町の食事処で食事と会話を楽しんだ。  

『婚約者の兄君とお伺いしましたが、おふたりは仲がよろしいですね』

『はい。お兄様は妹思いの頼り甲斐のある方です』

『もはや呪いに感じるけどな』

『でも、エミリアン様は嫌々そうな言葉を発しますが、アリス様に頼られて嬉しそうに見えますよ』

『ご冗談を』

そして、少しお酒を飲み過ぎた私を背負うのはエミリアン様だ。

『へへぇ~。お兄様のおんぶぅ~』

『まったく!』

『私、お兄様が欲しかったんですぅ』

『……』

『やっぱり嬉しそうじゃないですか、エミリアン様』

『妹はこんなに人を振り回して 手のかかるものなのか…レイ様には妹君がいらっしゃるのですか?』

『おります。私の妹は気が強いので甘えてくることはありませんね。アリス様のような妹がいたら楽しかったでしょうね』

『レイ様も私をおんぶしますかぁ?』

『いえ。主人が怖いので遠慮いたします』

『お兄様ぁ』

『なんだ』

『迷惑かけてごめんね』

『妹がそんなことを気にするな。文句は言っても拒絶するつもりはない』

『王命書を書かせてごめんね』

『おかしいと思ったんだよ。陛下が私にアリスと一緒に殿下を持て成せだなんて』

『頼りにしてます』

『はぁ。光栄ですよ お姫様』

そして翌日は仲間外れにされたと知り 拗ねる殿下の前に餌を吊るしてテムスカリンの領地へ向かう。



4日後に到着した先は宮殿ですか?と言いたくなる屋敷だった。ハワード城の様な屋敷に手入れの行き届いた敷地、門から建物まで凄く離れている。

「お兄様。いざとなったら2LDKバストイレ付きの可愛いお屋敷を建てて私を囲ってください」

「2LDK?なんだそれ…意味わかって言ってるのか?……はぁ。行き遅れたらな」

「犬も飼ってもいいですか」

「世話しろよ」

「時々遊んでくださいね」

エミリアン様は私の頭を撫でた。抱き付きたかったがマチアス様が怒るのでやめておいた。


正面玄関に到着すると子爵夫妻が出迎えてくれた。
挨拶を済ませると、客室に案内されて荷解きをした。

疲れた体を休めて夕食となった。

殿下は子爵達と会話をしながら食事をし、私はレイ様と話をした。殿下がもっと空気読めない人かと思ったけど、ちゃんと子爵夫妻と交流してくれていた。

「レイ様。グラちゃんは意外と社交出来たんですね」

「アリス様?」

「何失礼な事を言っているんだ?アリス」

「私にも同じ様に接してもらいたいと話していただけです」

「つまらんことを言うな」

「聞きました?お兄様」

「こっちに振るなよ」

「まあ、エミリアン。アリス様とすっかり仲良くなったのね」

「まあ、そうですね」

「お兄様はとても頼もしいのです。つい甘えてしまって」

「エミリアンはアリス様と仲良く出来ているのに、こんな絶好の機会にオルデンは…まったく」

「あ、ソレは結構です」

「……」

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