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想定外(マチアス)
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【 マチアスの視点 】
ボコボコと煮えたぎるような怒りが込み上げてくる。
「アリス。離れろ」
男はエミリアン・テムスカリン。アリスの婚約者の兄だった。
理由を聞くと、
「グラシアン王子殿下の相手をエミリアン様に手伝って貰おうと呼びました」
何故 私を頼らないんだ。
「で、何で抱きついていた」
「殿下が夏の長期休暇中、この屋敷に滞在するというので、どうしようかと考えた結果、テムスカリン子爵家の領地がいいとお願いをしていたところです」
「抱きついて?」
「嫌がって帰ろうとしたので」
エミリアンはアリスにその気は無いらしい。
エミリアンが帰った後、アリスを抱きしめた。
「他の男に抱き付かないで欲しい」
「でも やましくは、」
「頼む」
頼むから“はい”と言ってくれ。君を傷付けたくない!
「はい」
「オルデンとは別れるんだよな」
「はい」
「アリス。キスしたい」
「え!?」
「キスがしたい」
「でも…」
「私とはしたくない?」
「誰ともしてない…唇には」
「誰に何処にした」
「……」
「アリス」
「エミリアン様の頬に」
「理由は」
話を聞くと悪戯だった。だけど…
「ん!」
許可を待たずにキスをした。
ぎこちないキスで恥ずかしいが、他の女とする気にはなれない。だからアリスを相手に上手くなるしかない。
唇を離しアリスを抱きしめた。
「私にはアリスだけなんだ。エミリアンやグラシアン王子殿下に靡かないでくれ」
「エミリアンは兄のような友人のような存在になりつつありますし、殿下は論外です」
「ならいい」
早くアリスの気持ちを手に入れたい。
グラシアン王子殿下を追いかけて城へ行き、彼との面会を待っていた。2時間待たされてようやく現れた。
「やあ、公子」
「グラシアン王子殿下にご挨拶を申し上げます」
「無事に婚約は済んだが何か」
「アリスに近付かないでいただきたい」
「婚約者でもない公子に言われることではない」
「そうなる予定です」
「さあ、どうだろう。アリスは君を愛していて妻にして欲しいと言ったのかな?」
「いいえ」
「それなら私がどうしようと関係ない」
「殿下ではアリスを幸せにできない」
「何が幸せかはアリスが決めることだし、誰を選ぶかもアリスが決めることだ。
それにあの子は公子よりも私に気さくに接する。私の方がアリスにとっては良さそうだと思ったのだがな」
「私を敵に回すおつもりですか」
「公子も私を敵に回さない方がいい。黒い部分を曝け出してもアリスは公子の側にいるかな?」
「殿下は妃を迎えているではありませんか」
「嫌々娶った女がな。だが、バンフィールド家のお陰で縁を切れそうだ。もしそのまま残したとしても離宮に移せばいい」
「アリスは気にするでしょう」
「気にする余裕を与えなければいい」
「このまま王宮に滞在してください。ジオニトロ邸に滞在など常識的に考えられません」
「妹の件も常識的には考えられない。私に常識や善悪を説くな」
「国王陛下はお許しになったのですか」
「父上か? 見初めた女がいたら娶っていいと許可を貰っている」
「……」
「それだけか」
「アリスは渡しません!」
「遠慮はしないよ」
そう言い残して殿下は退室した。
思ったより強かな男だったようだ。それに彼は妃に迎えたいほどアリスを気に入っている。
グラシアン王子殿下にも縛りを付けるべきだった。
ジオニトロ邸に戻ると王宮の伝令とすれ違った。
屋敷に入りアリスの元へ。
「アリス」
「陛下からグラシアン王子殿下をよろしくと…」
手紙を奪うようにして取り 読むと、“グラシアン王子殿下の滞在や旅中に何が起きても首謀者共犯者でもない限りジオニトロ家を罪に問うことはない” “可能ならグラシアン王子殿下の望む場所へ連れて行って欲しい”などと書いてあった。
一体陛下はどういうおつもりなのか。
「こんなもの…」
「マチアス様はお帰りください」
「そんなことはできない」
「マチアス様が一緒にいるための公的な理由が無いのです」
婚約者でないことがこんなに不便だなんて
「私一人ではなくなるようにしましたし、殿下は悪い人ではないと思いますので大丈夫です。我儘な弟だとでも思って面倒をみます」
あいつはアリスに気があるから気を付けろなんて言っても、逆に意識をさせてきっかけを作りたくない。だが言わずにはいられない。
「私は不貞行為は嫌だ。私もしない。婚約は叶ってはないが、しているつもりでいて欲しい」
「……殿下とのことを心配し過ぎです。それよりも、今の段階では私は別の人と婚約しています。例え相手がクズだとしても、私が異性とどうこうなることは許されません。マチアス様も浮気相手などと呼ばれかねない行動は謹んでもらえますか」
「っ!……分かった。すまない」
まさかそんなことを言われるとは思ってもいなかった。アリスと私では思ったよりも温度差がある。
私はアリスを自分のものだと誇示したいし守りたい。キスがしたいし、それ以上のこともしたい。
彼女を抱いたときにしか見ることの出来ない顔が見たい。それを見るのも私だけであって欲しい。
バンフィールド邸に戻り父上に報告した。
ボコボコと煮えたぎるような怒りが込み上げてくる。
「アリス。離れろ」
男はエミリアン・テムスカリン。アリスの婚約者の兄だった。
理由を聞くと、
「グラシアン王子殿下の相手をエミリアン様に手伝って貰おうと呼びました」
何故 私を頼らないんだ。
「で、何で抱きついていた」
「殿下が夏の長期休暇中、この屋敷に滞在するというので、どうしようかと考えた結果、テムスカリン子爵家の領地がいいとお願いをしていたところです」
「抱きついて?」
「嫌がって帰ろうとしたので」
エミリアンはアリスにその気は無いらしい。
エミリアンが帰った後、アリスを抱きしめた。
「他の男に抱き付かないで欲しい」
「でも やましくは、」
「頼む」
頼むから“はい”と言ってくれ。君を傷付けたくない!
「はい」
「オルデンとは別れるんだよな」
「はい」
「アリス。キスしたい」
「え!?」
「キスがしたい」
「でも…」
「私とはしたくない?」
「誰ともしてない…唇には」
「誰に何処にした」
「……」
「アリス」
「エミリアン様の頬に」
「理由は」
話を聞くと悪戯だった。だけど…
「ん!」
許可を待たずにキスをした。
ぎこちないキスで恥ずかしいが、他の女とする気にはなれない。だからアリスを相手に上手くなるしかない。
唇を離しアリスを抱きしめた。
「私にはアリスだけなんだ。エミリアンやグラシアン王子殿下に靡かないでくれ」
「エミリアンは兄のような友人のような存在になりつつありますし、殿下は論外です」
「ならいい」
早くアリスの気持ちを手に入れたい。
グラシアン王子殿下を追いかけて城へ行き、彼との面会を待っていた。2時間待たされてようやく現れた。
「やあ、公子」
「グラシアン王子殿下にご挨拶を申し上げます」
「無事に婚約は済んだが何か」
「アリスに近付かないでいただきたい」
「婚約者でもない公子に言われることではない」
「そうなる予定です」
「さあ、どうだろう。アリスは君を愛していて妻にして欲しいと言ったのかな?」
「いいえ」
「それなら私がどうしようと関係ない」
「殿下ではアリスを幸せにできない」
「何が幸せかはアリスが決めることだし、誰を選ぶかもアリスが決めることだ。
それにあの子は公子よりも私に気さくに接する。私の方がアリスにとっては良さそうだと思ったのだがな」
「私を敵に回すおつもりですか」
「公子も私を敵に回さない方がいい。黒い部分を曝け出してもアリスは公子の側にいるかな?」
「殿下は妃を迎えているではありませんか」
「嫌々娶った女がな。だが、バンフィールド家のお陰で縁を切れそうだ。もしそのまま残したとしても離宮に移せばいい」
「アリスは気にするでしょう」
「気にする余裕を与えなければいい」
「このまま王宮に滞在してください。ジオニトロ邸に滞在など常識的に考えられません」
「妹の件も常識的には考えられない。私に常識や善悪を説くな」
「国王陛下はお許しになったのですか」
「父上か? 見初めた女がいたら娶っていいと許可を貰っている」
「……」
「それだけか」
「アリスは渡しません!」
「遠慮はしないよ」
そう言い残して殿下は退室した。
思ったより強かな男だったようだ。それに彼は妃に迎えたいほどアリスを気に入っている。
グラシアン王子殿下にも縛りを付けるべきだった。
ジオニトロ邸に戻ると王宮の伝令とすれ違った。
屋敷に入りアリスの元へ。
「アリス」
「陛下からグラシアン王子殿下をよろしくと…」
手紙を奪うようにして取り 読むと、“グラシアン王子殿下の滞在や旅中に何が起きても首謀者共犯者でもない限りジオニトロ家を罪に問うことはない” “可能ならグラシアン王子殿下の望む場所へ連れて行って欲しい”などと書いてあった。
一体陛下はどういうおつもりなのか。
「こんなもの…」
「マチアス様はお帰りください」
「そんなことはできない」
「マチアス様が一緒にいるための公的な理由が無いのです」
婚約者でないことがこんなに不便だなんて
「私一人ではなくなるようにしましたし、殿下は悪い人ではないと思いますので大丈夫です。我儘な弟だとでも思って面倒をみます」
あいつはアリスに気があるから気を付けろなんて言っても、逆に意識をさせてきっかけを作りたくない。だが言わずにはいられない。
「私は不貞行為は嫌だ。私もしない。婚約は叶ってはないが、しているつもりでいて欲しい」
「……殿下とのことを心配し過ぎです。それよりも、今の段階では私は別の人と婚約しています。例え相手がクズだとしても、私が異性とどうこうなることは許されません。マチアス様も浮気相手などと呼ばれかねない行動は謹んでもらえますか」
「っ!……分かった。すまない」
まさかそんなことを言われるとは思ってもいなかった。アリスと私では思ったよりも温度差がある。
私はアリスを自分のものだと誇示したいし守りたい。キスがしたいし、それ以上のこともしたい。
彼女を抱いたときにしか見ることの出来ない顔が見たい。それを見るのも私だけであって欲しい。
バンフィールド邸に戻り父上に報告した。
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