【完結】貴方のために涙は流しません

ユユ

文字の大きさ
上 下
60 / 72

助っ人

しおりを挟む
「で、何で毎度呼ぶんだよ」

「ビジネスチャンスですよ」

「間に合ってるよ」

居間にいるグラシアン王子殿下の姿を庭から見せて、相手をしろと 呼び付けたエミリアン様に勧めていた。

「この間、先行投資したじゃないですか」

「何のことだ」

「キス」

「バカっ あの後大変だったんだぞ!」

「しーっ」

「しー じゃないよ」

「大丈夫です。今回殿下はお宝を持って来ていますから」

「何だよお宝って」

「コルシックの王妃殿下の装飾品を鷲掴みにしてポケットに入れて持って来ていて、売っていいと言っていました」

「それ、本気にして売ったら重罪犯で頭と首が切り離されちゃうやつだからな」

「エミリアン様なら大丈夫ですよ」

「大丈夫な訳があるかっ」

「ほら、行って来ていいですよ」

「だから何で私を当てがうんだよ」

「オルデンだと即死だから」

「うちの兄弟を駆り出すな」

「水臭いこと言わないの。うちに泊まるかもしれませんよ。エミリアン様も泊まっていってください」

「餌にするなっ。それにバレたらまたオルデンに追い回される」

「鎖で柱に繋いでおかないからですよ」

「じゃあな」

「どこに行くんですか」

「帰るんだよ」

「お兄様…」

「……」



エミリアン様は正面から屋敷に入り、居間へ行くと、殿下に挨拶をした。

エ「またお会いできて光栄です。グラシアン王子殿下」

グ「おお!エミリアン。久しぶり」

エ「覚えていただけて光栄でございます」

グ「だよな?普通こうだよな。なのにアリスは私を椅子にして30分も上に座ったり、耳に爪を突き刺して虐めるんだぞ」

エ「アリス…何やってるんだ」

私「だって、あいつが胸の谷間に顔を突っ込んで貧乳だってバカにするんです」

エミリアンが私の胸を見た。

エ「殿下は豊満な方がお好みですか?アリスは貧乳ではありません。控えめなだけです。
豊満な女は若い時だけが旬です。大抵は垂れ下がったり萎みます。だからアリスくらいの方が長く考えるといいのです」

グ「なるほどな」

私「なんか貶されてる感が消えないんですけど」

エ「今回はどのくらい滞在なさるのですか」

グ「アリスの休みが終わるまで此処にいるつもりだ」

私「ゲッ」

エ「アリス。下品な音を出さない」

私「だって、まだ休暇は始まったばかりなのに」

エ「毎日うちの店で何か買わせればいいだろう」

私「そんなに物欲無いから」

グ「会話がおかしいぞ」

私「そっちに預けます」

エ「意味がわからん」

私「グラちゃんを子爵邸に泊まらせます」

エ「言い直せという意味じゃない。却下と言ったんだ。グラちゃんってまさか?」

私「グラシアン王子殿下のことです。長いから短くしていいって言われました」

グ「ちょっと違うがな」

エ「じゃあ、アリスがうちに泊まればいいじゃないか」

私「獣がいるじゃないですか」

エ「オルデンは友人の領地に遊びに出てるからいない」

私「でも私がそちらに行ったら子爵に変な勘違いされちゃいます」

グ「何でアリスが他の屋敷に泊まりに行くんだよ」

私「いいから早くお城に行って来てください」

レ「殿下、用事を先に済ませてしまいましょう」

私「夕飯も食べて来てくださいね。ついでにそのまま城に滞在してください」

レ「さあ、殿下。行きましょう」


笑顔で手を振り馬車を見送った。

「お兄様。あいつが入ってこれないようにできませんか?1時間で要塞にする職人とか抱えていませんか」

「いるわけないだろう。そんな職人がいたら国か国境を持つ領主のお抱えになってるよ」

「やっぱりお兄様のお屋敷にいこうかしら。漏れなくあの一行もついてくると思いますけど」

「それは嫌だな。アリス。頑張れ。この先残りの人生を考えれば夏の長期休暇などあっという間だ」

「酷い!可愛い妹が困ってるのに!」

「まあ…そうだな」

「その覇気のない相槌はなんですか?」

「よしよし、可愛いぞ」

「そう言いながら帰り支度をしているのは何故?」

「ん?用事は済んだだろう」

「寧ろこれからですよ」

「食事して酒飲んで戻って来て寝るだけだろう。追い討ちにまた酒を飲ませて寝かし付けろ」

「明日は?」

「殿下の行きたい所とか見てない土地はないのか」

「テムスカリン子爵家の領地?」

「恐ろしい呪文を唱えるな」

「屋敷もうちなんかより広いですよね」

「忘れた」

「使用人も多いですよね」

「数えてない」

とぼけるエミリアンの後ろに回り込んで背中に抱きついた。

「お兄様ぁ~。アリス、お兄様と領地に行きたいですぅ」

「おいっ」

「お兄様ぁ~」

「分かった!分かったから放せ」

「アリス?」

呼ばれて振り向くと、開いていたドアの前に立っていたのはメイドとマチアス様だった。
いかにも怒っていますという顔のマチアスは、低い声で命じた。

「アリス。離れろ」

パッと放して2歩下がった。

「私はこれで…」

「待て。2人とも座ってくれ」

「(アリスのせいだぞ!)」

「(予定に無かったもん!)」

「普段何しているのか分かったものじゃないな」

「「 !! 」」

「確か君はテムスカリン家の長男だったね」

「はい。エミリアンと申します」

「此処へは?」

「呼ばれて参りました」

「アリス?」

「グラシアン王子殿下の相手をエミリアン様に手伝って貰おうと呼びました」

「で?殿下は?」

「書簡を持っているらしく、城へ行くよう促しました。10分と経っていません」

「で、何で抱きついていた」

「殿下が夏の長期休暇中、この屋敷に滞在するというので、どうしようかと考えた結果、テムスカリン子爵家の領地がいいとお願いをしていたところです」

「抱きついて?」

「嫌がって帰ろうとしたので」

「……オルデンがついてくるぞ」

「友人の領地に行っているので不在だそうです」

「はぁ。エミリアン殿。迷惑をかけた」

「では、失礼いたします」

「明日早めに来てください。待ってます」

エミリアンは急いで帰ってしまった。
まだマチアス様が怖いんですけど。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花
恋愛
 公爵令嬢のカミラ・リンディ・ベネット。  彼女は階段から降ってきた誰かとぶつかってしまう。  その『誰か』とはマーセルという少女だ。  マーセルはカミラの婚約者である第一王子のマティスと、とても仲の良い男爵家の令嬢。  いつに間にか二人は入れ替わっていた!  空いている教室で互いのことを確認し合うことに。 「貴女、マーセルね?」 「はい。……では、あなたはカミラさま? これはどういうことですか? 私が憎いから……マティスさまを奪ったから、こんな嫌がらせを⁉︎」  婚約者の恋人と入れ替わった公爵令嬢、カミラの決断とは……?  そしてなぜ二人が入れ替わったのか?  公爵家の令嬢として生きていたカミラと、男爵家の令嬢として生きていたマーセルの物語。 ※いじめ描写有り

婚約者の不倫相手は妹で?

岡暁舟
恋愛
 公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

婚約破棄された私の結婚相手は殿下限定!?

satomi
恋愛
私は公爵家の末っ子です。お兄様にもお姉さまにも可愛がられて育ちました。我儘っこじゃありません! ある日、いきなり「真実の愛を見つけた」と婚約破棄されました。 憤慨したのが、お兄様とお姉さまです。 お兄様は今にも突撃しそうだったし、お姉さまは家門を潰そうと画策しているようです。 しかし、2人の議論は私の結婚相手に!お兄様はイケメンなので、イケメンを見て育った私は、かなりのメンクイです。 お姉さまはすごく賢くそのように賢い人でないと私は魅力を感じません。 婚約破棄されても痛くもかゆくもなかったのです。イケメンでもなければ、かしこくもなかったから。 そんなお兄様とお姉さまが導き出した私の結婚相手が殿下。 いきなりビックネーム過ぎませんか?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

処理中です...