上 下
58 / 72

別れ

しおりを挟む
グラシアン王子殿下とトリシア王女殿下が婚約を整えるために予定よりも早く帰国した。

“アリス!コルシックに来いよ”

“嫌です。お気を付けて。下着履いてくださいね。皆様によろしく”

“お前が見に来い!”

これが別れの言葉だった。



刺繍の話を絵で描いて教えたらエミリアン様は、“え?商品化した方がいいの?”と困惑した。

オルデンはクラス1つしか上がらず投げ出して荒れているらしい。

「頑張ってなんとかしてくださいよ、お兄様」

「アレは無理だよ」

「だってエミリアン様は主席で卒業したのに、なんでアレだけ?次男で外に出すから放置したのですね。困りますよ。うちは生ゴミ回収業なんてやってません」

「生ゴミって…」

「生きてるし身がついてますから生ゴミです。
骨だけになれば燃えないゴミ?なんだろう」

「いたら何かの役に立つかもしれないじゃないか」

「具体的にどうぞ」

「う~ん…精神の鍛錬?」

「要らん」

「手のかかる野良猫?」

「もう野良になっちゃってるじゃないですか!ちゃんと躾けてくださいよ」

「同じ教師つけたんだぞ?突然変異だから諦めろ」

「だから、何でそんなものを侯爵家ウチに寄越すんですか」

「あ、バレたらしい」

廊下からオルデンの騒ぎ声が聞こえてきた。
私が来ていることがバレたらしい。

「じゃあ、帰りますね」

テラスから帰ろうとした。

「待ってくれ。そっちから出て行ったら私が弟の婚約者と密会していたみたいになるじゃないか」

ニタァ

「な、なんだその不吉な笑みは!」

手招きしてエミリアン様を呼ぶと、彼の頬と襟に唇を付けた。口紅がしっかり残ったのを確認した。

「なっ!!」

「お大事に~」

「え?」

テラスから出てしばらくすると、叫び声が聞こえて来た。

「ち!違う!オルデン!」

「証拠が残ってるだろう!!私のアリスに不埒な真似を!!」

「だから違うって!!」


……ふふっ。


表に回って馬車に乗り、ホッジンズ店長の元へ行った後、リヴウェル伯爵家のシルビア様に会いに行った。

「シルヴェストル殿下が求婚されたと聞いたわ」

「とても美しい方でした」

「仲良くしていたから寂しくなるわね」

「はい」

シルビア様は私の隣に座り直して抱きしめてくれた。

「幸せになって欲しいです」

「そうね」


1ヶ月後、シルヴェストル様とトリシア王女殿下の婚約が発表された。
彼は学園の休みの日にはコルシックの言葉や文化の授業を受けているという。

3年生が始まり、相変わらず私の隣はマチアス様が座っている。1年生や2年生の時とは違い、マチアス様は私に微笑み熱を帯びた眼差しを向ける。
授業中も手を伸ばし髪に触れる。

そんなことをしていても学年トップの成績だった。
屋敷で相当頑張っているのかと聞いたら、“なんとなくやっていた勉強に本気を出しただけだよ”と笑っていた。私もそんなチートが欲しい!
せめて数学では負けたくないと頑張った。


「シルヴェストル殿下が夏季休暇からコルシックへ行って残りの学業は向こうに留学になるそうです」

「え?」

「卒業したらそのまま式を挙げると聞きました」

「そう」

「お姉様…」

ペイジが何も言ってこないということは これが正解なんだと自分に言い聞かせて笑顔を作った。

「お祝いの品を用意しないとね。スーザンはリオネル殿下と贈るでしょう?」

「お姉様、今からでも、」

「私にはまだ婚約者がいるし、侯爵家うちよりコルシックの王家の方がいいはずよ。
それに王族同士の縁談は国同士の縁談ということだもの。余計なことは言ってはいけないわ」

「……」

「そんな顔をしないで。シルヴェストル様が幸せになれるなら私は本望よ。
それにあんな美人に愛されて毎日一緒に過ごせるのよ?王女に比べたら私は霞んでしまうわ」

「霞まない!」

「スーザン?」

「私のお姉様は世界一のお姉様で、世界一の女性です!!」

涙をこぼしながら叫ぶスーザンを抱きしめると、幼子のように泣き出した。

「スーザンは優しくて可愛い世界一の妹よ」



もうすぐ夏季休暇。

オルデンは最近 違法賭博場に出入りし 賭け事を終えると、そこで女性を引っ掛けて体の関係を持っているらしい。
エミリアン様から“荒れている”と聞いたので尾行調査をさせてみた。破棄の理由を作ってくれる素晴らしい男だと感心した。

シャルロットは相変わらず、リオネル殿下やリヴウェル様やブレイル様を狙っている。

図書室で勉強していると同じテーブルに座ってきて“教えて”と甘えたり、登校時を狙って纏わりついている。

3年生になると、係を選んでやらなくてはならない。提出物などを集めたり配布物を配ったり、準備を手伝う助手係。どんな卒業パーティをするか考えて実行に移す卒業パーティ係。美化係。園芸係。最下位クラスの生徒に週に1度90分勉強を教える教育係のいずれかを受け持たなければならない。

第三希望まで書いて発表された。
スーザンは助手係。リヴウェル様は教育係。シルヴェストル様は美化係。私とマチアス様は園芸係。
リオネル殿下とブレイル様は卒業パーティ係で、なんとシャルロットも卒業パーティ係だった。

クラス単位で係の人数が決まっているので 選考も担任が行った。発表後に殿下の係にシャルロットもいて教師は真っ青。
卒業パーティは何度も集まって案を出していき計画を練るのでシャルロットにはご馳走だろう。

その後、同じ係だから拒絶ができず2人は消耗していたが、靡くことは無さそうなのでもう放置。


そしてついにシルヴェストル様との別れの日がやってきた。出発の前日にパーティが行われ、お祝いの品を贈った。
大勢の招待客で一言しか言葉が交わせなかった。
“おめでとうございます”“ありがとう”

翌朝、馬車に乗り込むシルヴェストル様を見つめていた。ドアが閉まりもう出発するというときに、彼は窓を開けて私を呼んだ。

「アリス!」

「はい」

「アリス、本当は、」

彼は何か言いかけたけど、マチアス様が後ろから私の肩に腕を回して引き寄せると、彼は顔を歪めた後に“元気で”と言って窓を閉めた。

走り出す馬車を見つめていると、マチアス様が耳元で囁く。

「殿下の幸せを祈って後腐れのないようにしないと。もう帰ろう」

「はい」


さようなら、シルヴェストル様




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

処理中です...