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淡い桃色の花(マチアス)
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【 マチアスの視点 】
『おやすみ、アリス』
パタン
湯上がりのアリスを見て、香りを嗅いで、日中に抱きしめた感触を思い出して欲情しないわけがない。細くて折れそうなのに柔らかくて無抵抗で、アリスの全てを自由にできそうなほど無防備で。
バンフィールド邸から出したくない。他の場所であんな風に倒れたらと思うと気が気ではない。
他の男の側で倒れたらアリスは穢されてしまうのではないかと不安で眠れない。
医師からアリスが死んだと言われたとき、身体に衝撃を受けた。お祖父様が亡くなったときも、従兄弟が亡くなったときも、悲しいとは思ったがそれだけだ。アリスの時は全身が凍結されたかのように動かない感覚に襲われた。ただ鼓動と否定の言葉が空洞になった頭の中で響いていた。
『マチアス様、少しお酒を垂らしたお茶をお持ちしましょうか』
『要らない。アリスに何かあったときに影響させたくない。1日くらい寝なくても別に何ともないさ』
これで分かった。私はアリスを友人としてではなく、女として好きになってしまった。彼女の死が私の身体に異変をもたらす程に心がアリスに囚われている。
優しく髪を撫でる感覚に目が覚めた。いつの間にか眠っていたようだ。
瞼を開けるとアリスが私を撫でていた。
その眼差しも優しい。まるでたくさん花びらを付けた白に近い淡い桃色の花が咲き乱れているように見えた。
「おはよう。マチアス様」
「っ!」
「えっ!?」
たまらずアリスを引き寄せて抱きしめた。
「生きてる」
「はい」
アリスは私を幼子のように背中を摩った。
「大丈夫ですよ。女神がそう簡単に私のことを死なせませんから、多分大丈夫ですよ」
どこが大丈夫なものか!
「ずっとウチで暮らせばいい」
「流石に無理ですよ」
「ずっと守ってやる。私が誰よりもアリスを守ってやれる」
バンフィールド公爵の力を使って全力で守る!
「マチアス様は友情に厚いのですね」
「……」
「ありがとう、マチアス様」
アリスがエリアーナ姉上に捕まっている間に父上に庭園に呼ばれた。
「父上」
「マチアス。お前には婚約者がいる」
「はい」
叱責を受けると覚悟したが、
「アリスをバンフィールドに迎えよう」
「え?」
「お前にもエリアーナにもアリスは不可欠な存在になってしまった。トリシア王女には別の男との縁談を充てがおう」
トリシアとは2つ先の国の王女だ。歳はひとつ下で絶世の美女と言われている。幼い頃に打診された縁談で、バンフィールド家には大した恩恵はない。
王女とはいえ小国で隣接していないし、豊かでもない。血と容姿だけが取り柄だ。
「陛下が何と仰るか」
「バンフィールド家は王家にも負けないさ」
「……アリスは侯爵家の血を残す者です」
「その程度のことで諦め切れるなら構わないが、アリスが他の男と婚姻した後では取り返しがつかないぞ?テムスカリン子爵家は手を引かざるを得ないだろうが、シルヴェストル王子殿下は違う。正妃の子ではなくとも陛下の子には違いない。今有力なのはシルヴェストル殿下だろう。エスコートの様子からすると、アリスも殿下に好感を持っている。恋や愛だと自覚してからでは難儀になるぞ」
「スーザン嬢はリオネル殿下の婚約者で順調です」
「従兄弟や遠縁でも血が繋がっていればいい。血筋で優秀な男がいないか探させる。その前にお前の正直な気持ちを知りたい」
「…アリス程、私に影響を与える女はいないでしょう。彼女の死亡宣告に私の全ては凍てつきました。
他の男にも触らせたくありません。側で守ってやりたい、バンフィールド邸から出したくない…でもアリスに嫌われたり避けられたりするくらいなら友人のままの方がいい気がします。気持ちに気付いたばかりで判断ができません」
「バンフィールド公爵家は貴族の頂点に立つ家門だ。そんな次期バンフィールド公爵のお前が弱気になるな。欲しいものは手に入れろ。それが価値あるものなら尚更だ。
手に入れてからも充分に愛でればいい。女は愛され大事にされると絆される。だが、最愛の男と引き離されたら恨まれる。シルヴェストル殿下とそうなる前に手に入れよう」
「父上」
「ティアナもエリアーナも同じ意見だ」
「母上も?」
「ティアナは お前がアリスを呼ぶ悲痛な声に愛を感じ取ったようだ」
「……お願いします」
「テムスカリンと王女の調査を入れよう。弱みを握る調査だ。マチアスはとにかくアリスとの距離を縮めろ。ノッティング家の次男は現在婚約者がいない。
あそこは侯爵夫妻もジェイド殿もアリスを気に入っているし、エリアーナは義理の妹にできるなら協力を惜しまないだろう。だが、義理の妹になってもジオニトロ邸にいるアリスには先触れが必要だが、うちは実家だから必要ない。自由に会いに来れるバンフィールドの方が都合がいいんだ。
ブレイル殿が婚約者の起こした事件のことで、アリスに負目を感じて足踏みしている今、出し抜く機会だからな」
「ありがとうございます、父上」
その後、学園でも誰もアリスが頼らなくていいように勉強を教え、世話を焼き、理由を付けてバンフィールド邸に連れ帰った。
『おやすみ、アリス』
パタン
湯上がりのアリスを見て、香りを嗅いで、日中に抱きしめた感触を思い出して欲情しないわけがない。細くて折れそうなのに柔らかくて無抵抗で、アリスの全てを自由にできそうなほど無防備で。
バンフィールド邸から出したくない。他の場所であんな風に倒れたらと思うと気が気ではない。
他の男の側で倒れたらアリスは穢されてしまうのではないかと不安で眠れない。
医師からアリスが死んだと言われたとき、身体に衝撃を受けた。お祖父様が亡くなったときも、従兄弟が亡くなったときも、悲しいとは思ったがそれだけだ。アリスの時は全身が凍結されたかのように動かない感覚に襲われた。ただ鼓動と否定の言葉が空洞になった頭の中で響いていた。
『マチアス様、少しお酒を垂らしたお茶をお持ちしましょうか』
『要らない。アリスに何かあったときに影響させたくない。1日くらい寝なくても別に何ともないさ』
これで分かった。私はアリスを友人としてではなく、女として好きになってしまった。彼女の死が私の身体に異変をもたらす程に心がアリスに囚われている。
優しく髪を撫でる感覚に目が覚めた。いつの間にか眠っていたようだ。
瞼を開けるとアリスが私を撫でていた。
その眼差しも優しい。まるでたくさん花びらを付けた白に近い淡い桃色の花が咲き乱れているように見えた。
「おはよう。マチアス様」
「っ!」
「えっ!?」
たまらずアリスを引き寄せて抱きしめた。
「生きてる」
「はい」
アリスは私を幼子のように背中を摩った。
「大丈夫ですよ。女神がそう簡単に私のことを死なせませんから、多分大丈夫ですよ」
どこが大丈夫なものか!
「ずっとウチで暮らせばいい」
「流石に無理ですよ」
「ずっと守ってやる。私が誰よりもアリスを守ってやれる」
バンフィールド公爵の力を使って全力で守る!
「マチアス様は友情に厚いのですね」
「……」
「ありがとう、マチアス様」
アリスがエリアーナ姉上に捕まっている間に父上に庭園に呼ばれた。
「父上」
「マチアス。お前には婚約者がいる」
「はい」
叱責を受けると覚悟したが、
「アリスをバンフィールドに迎えよう」
「え?」
「お前にもエリアーナにもアリスは不可欠な存在になってしまった。トリシア王女には別の男との縁談を充てがおう」
トリシアとは2つ先の国の王女だ。歳はひとつ下で絶世の美女と言われている。幼い頃に打診された縁談で、バンフィールド家には大した恩恵はない。
王女とはいえ小国で隣接していないし、豊かでもない。血と容姿だけが取り柄だ。
「陛下が何と仰るか」
「バンフィールド家は王家にも負けないさ」
「……アリスは侯爵家の血を残す者です」
「その程度のことで諦め切れるなら構わないが、アリスが他の男と婚姻した後では取り返しがつかないぞ?テムスカリン子爵家は手を引かざるを得ないだろうが、シルヴェストル王子殿下は違う。正妃の子ではなくとも陛下の子には違いない。今有力なのはシルヴェストル殿下だろう。エスコートの様子からすると、アリスも殿下に好感を持っている。恋や愛だと自覚してからでは難儀になるぞ」
「スーザン嬢はリオネル殿下の婚約者で順調です」
「従兄弟や遠縁でも血が繋がっていればいい。血筋で優秀な男がいないか探させる。その前にお前の正直な気持ちを知りたい」
「…アリス程、私に影響を与える女はいないでしょう。彼女の死亡宣告に私の全ては凍てつきました。
他の男にも触らせたくありません。側で守ってやりたい、バンフィールド邸から出したくない…でもアリスに嫌われたり避けられたりするくらいなら友人のままの方がいい気がします。気持ちに気付いたばかりで判断ができません」
「バンフィールド公爵家は貴族の頂点に立つ家門だ。そんな次期バンフィールド公爵のお前が弱気になるな。欲しいものは手に入れろ。それが価値あるものなら尚更だ。
手に入れてからも充分に愛でればいい。女は愛され大事にされると絆される。だが、最愛の男と引き離されたら恨まれる。シルヴェストル殿下とそうなる前に手に入れよう」
「父上」
「ティアナもエリアーナも同じ意見だ」
「母上も?」
「ティアナは お前がアリスを呼ぶ悲痛な声に愛を感じ取ったようだ」
「……お願いします」
「テムスカリンと王女の調査を入れよう。弱みを握る調査だ。マチアスはとにかくアリスとの距離を縮めろ。ノッティング家の次男は現在婚約者がいない。
あそこは侯爵夫妻もジェイド殿もアリスを気に入っているし、エリアーナは義理の妹にできるなら協力を惜しまないだろう。だが、義理の妹になってもジオニトロ邸にいるアリスには先触れが必要だが、うちは実家だから必要ない。自由に会いに来れるバンフィールドの方が都合がいいんだ。
ブレイル殿が婚約者の起こした事件のことで、アリスに負目を感じて足踏みしている今、出し抜く機会だからな」
「ありがとうございます、父上」
その後、学園でも誰もアリスが頼らなくていいように勉強を教え、世話を焼き、理由を付けてバンフィールド邸に連れ帰った。
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