【完結】貴方のために涙は流しません

ユユ

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保証がない(オルデン)

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一向にアリスと会話をすることがままならない。
クラスが違うことが問題だ。しかも教室は離れていて、会いに行っても昼は既に教室に居ないし帰りも見当たらない。
更に問題なのはとても間に割って入れない高位貴族と一緒にいることだ。
王子殿下が2人、騎士団長の息子、宰相の息子、そして貴族のトップに君臨するバンフィールド家の公子がアリスを守るように側にいる。

マチアス・バンフィールドは特に近い。何かと世話をやいているらしい。だが婚約者がいると聞いた。懸念すべき相手はシルヴェストル殿下だろう。デビュータントで息の合ったダンスを披露していたし、彼は堅物だったはずなのにアリスには恋人のような眼差しを向ける。シルヴェストル殿下は第二王子とは違って城を出なくてはいけないのにまだ婿入り先を決めていない。ジオニトロ侯爵家を狙っているのだろう。

だとしても婚約者は私だ。陛下は解消を命じてアリスと殿下を婚約させたりはしないはず。これ以上破婚に繋がることをするのはまずい。少しずつ女達と縁を切ることにした。


「は?アリスが怪我を!?」

「革鞄で側頭部を殴られて、片側の耳がほぼ聞こえず、傷もあるそうだ。2年の新学期の登校は間に合わないだろう」

「誰がそんなことを!」

「宰相の息子の婚約者 ベルココス嬢だ。クラス落ちしたらしく、それをアリスのせいだと突然襲ったようだ。妬みだと聞いている」

アリス…私以外の男と親しくするから酷い目に遭うんだ。優しくしてやろう。まさか顔に傷が付いていないだろうな。

見舞いの先触れを出しても断られるので当然訪問するも、いつも誰かが見舞いに来ている。

馬車の家紋を見るとガーネット家の日やノッティング家、バンフィールド家の日もあった。時には護衛を連れた王家のお忍び馬車が停車していた。
お陰で一度も会えなかった。

登校を再開したアリスを見てホッとした。顔に傷がない。
しかし現状は変わらない。そこで母上の誕生日として呼んでもらえたらアリスは断らないだろうと思い招待状を出してもらったら出席の返事が来た。これでアリスと話せる。


パーティにやってきたアリスと話すも拒絶感がすごい。とにかくちゃんと謝罪をしなくてはと、謝ったがそれでもアリスの態度は冷たい。

もしかして他の女達との関係を妬いていたのか?
これからはアリスをちゃんと可愛がってやる。閨を共にすれば機嫌も治るだろう。


叔母上に邪魔されてアリスと離された。暫くして大広間を探すも姿が見えない。

メイドに聞くと兄上に連れて行かれたという。

「何処にいる?何の話をしているんだ」

「お人払いをなさっていて私共には分かりかねます」
   
は?人払い!?
探しに行こうとしたところに兄上達が戻って来た。

「何でアリスが兄上と!しかも人払いなど!」

「二人きりじゃないですし、全くやましくありません」

「なら私を同席させればいいじゃないか!」

「オルデン、落ち着け」

「コソコソと私の婚約者を連れ出して!兄上に何の用があるというのです!」

「黙りなさい!」

「っ!」

アリスは今までに見たこともないような怒りを滲ませていた。

「貴方のお兄様は次期テムスカリン家当主として、貴方の兄として、貴方の行いを詫びてくださっていたのです。そんなに嫌なら尻拭いをさせるようなことをしなければいいではないですか。違いますか?」

「兄上が?」

「ジオニトロ侯爵家 侯爵代理として申し上げます。
確かに現在テムスカリン子爵家に援助をしていただいておりますが、それでもジオニトロは侯爵家。そこに婿入りしようとしているのに 招待客の皆様の前で些細なことで声を荒げるなど許されることではありません。品位を問われますわ。例え婚姻したとしても、相応しくないと判断されればいつまでも継げません。貴方に見切りを付けて親族から選ぶことだって有り得るのです」

「そんな馬鹿な」

「当然でしょう。貴族の当主の役目は愚か者に跡を継がせることではありません。当主の肩にどれほどの重責がかかると思っているのです。愚か者に任せて領地を荒らしたり罪を犯せば、爵位剥奪も有り得るのですよ?
私の父や祖父達は愚かでしたが騙された側。だから挽回の機会を与えられているのです。そしてその機会を無にしかけていたから私が代理権を持ち行使しているのです。

いいですか。私と貴方の婚姻契約書には 貴方をジオニトロ侯爵にすることを保証するなどと何処にも記載はないのです」

「っ!」

「エミリアン様。後はお任せします」

アリスは何のつもりなんだ。私の気を引きたいのならもっと違う方法を……。




パーティの翌日、父上と母上、姉上と兄上からの長い叱責が待っていた。

母「アリス様があんなに怒っていらしたとは思ってもいなかったわ」

父「どこまで知っているのだろう」

兄「まだ隠し子のことは知られていないと思いますが、アリス様は今までの内気な令嬢だと思っていると痛い目に遭いますよ」

姉「オルデン!あんたが悪いのよ!女遊びなんて 婿入りして子を成してから、分からないようにこっそりするものなの。なのに若いうちから何の役にも立っていないくせに盛るだけ盛って!猿を弟に持った覚えはないわ!」

私「猿は言い過ぎです!」

姉「私が婚約者だったら、あんたとの婚姻なんて絶対にお断りよ。どうしても婚姻しなくちゃいけないなら私も浮気三昧するわね。間違っても純潔は他の男に捧げるわ」

兄「そうだな。アリス様はまだ男を知らなさそうだが、婚姻前には誰か選んで済ますだろうな。お前は相当憎まれているからな。相手になる男は無数にいるし、オルデンが女を引っ掛けるより簡単に相手が見つかるだろう」

私「アリスは私のものです!絶対に誰にも渡しません!」

父「昨日の失態はまずい。お前の素行は知れ渡っているのに品もないと招待客に印象付けてしまった。
せめて婚約者を丁寧にエスコートして大事に扱っていると見せたかったのに」

母「お義姉様にも呆れられてしまったわ」

父「彼女はテムスカリン家を下に見ている訳でも下位貴族を差別している訳でもない。男爵家に嫁いだ姉とは親しく話をするからな。
彼女の主張は貴族として当たり前のものだ。領地を背負った当主には重責がのしかかっている。当主が愚かでは駄目なのだ。
現に彼女が侯爵代理になってからジオニトロ家は良い方へ向かっている。妹の評判も昔とは雲泥の差だ。
それに有力者達と懇意にしている」

母「隠し子のことがバレたら終わりよ」

兄「オルデン。お前が侯爵になれるほどの品位を持ち、周囲が見直すように自分を磨き、アリス様に受け入れてもらえるよう誠意を尽くさねばならない。3年次にEクラスに入れるようにしろ。Sクラスが望ましいが無理だろう」

母「高位貴族の令息を教えられるような教師が見つかるかしら」

姉「他に妊娠させてないでしょうね」

父「崖っぷちだぞ。そのことを忘れずに、何を目指しているのかよく考えて行動しろ。分かったな」

今からEクラスなんて無理だ。
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