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エミリアン様は私の手を取って会場を抜け出した。
応接間に連れてこられてお茶を用意してもらうと、紹介されたエミリアン様の従者だけ残して人払いをした。
「愚弟が申し訳ありません」
エミリアン様は深々と頭を下げた。
「彼が愚かなのは彼自身のせいですわ。同じように育てられたエミリアン様は失敗していませんもの」
「アリス様はだいぶ変わりましたね。見た目だけじゃなくて中身も違う。まるで別人だ。以前のアリス様ならオルデンにあんな風には言えなかった。
アリス様のそっくりさんかなと思うくらい違う。
何かがきっかけで勇気を出して己を出す者もおりますが、ここまで違うと別人としか言いようがありませんよ。
アリス様は数学が苦手だったはずなのに、1位を取るなんて。だけどいくら数学が1位でも他の教科も点が良くなければSクラスにはなれない。後妻が支配していたジオニトロ家でそんな高度な教育をしていたとは思えない。一体アリス・ジオニトロ様に何が起きたのでしょう」
いい性格してる。
「後妻の所業を知っていて放っておいたのですね。
愚弟の嫁ぎ先で何が起きていようと知ったことではないと言っているように聞こえますが?」
エミリアン様はニヤリと口角を上げた。
「やはり別人だな」
そう言って立ち上がると私の側に座り顎を掴んで顔を上に向けさせた。
「でもアリス様だ。別の魂か悪魔が乗り移ったか?」
バシッ
エミリアン様の手を弾いた。
「ここで私が女王だとでも言ったら跪くの?
仮に認めて その質問全てに答えたとして、それが本当かどうかなど君に分かるの?知って何になる」
「……」
「無意味なことをしていないで“愚弟”の調教でもして欲しいんだけど」
「……」
「テムスカリン子爵家から出て行く弟のことなどどうでもいいと思っているようだけど、出ていけたらの話だから。いくらなんでも侯爵家はゴミ捨て場じゃないんだから、黙ってないよ?
契約が消えたら愚弟は残留し、テムスカリン家は何重にも恥をかく。君が言ったように“愚弟”であるオルデンとの血の繋がりは消せないからね」
「援助が打ち切られるけど?」
「試してみるといいんじゃない?
私の記憶では、現在子爵位を有しているのは君の父親だよね。つまり君に決定権は無い。それに格上の貴族の籍に拘っている子爵と前子爵が侯爵位を諦めるとは思えないんだけど。
もし君に権限があると言うのなら、今この場で破棄してくれていいよ。だけどこちらには瑕疵は無いからペナルティを負うのはテムスカリン家だから」
エミリアン様は両手を上げて降参した。
「歳上のレディのようですね。色気がないなどと失礼なことを申しました。申し訳ございません」
「もういいでしょうか」
「最近 王家御用達のプレートを与えられた宝飾店が話題になっているのです。ハイクオリティの石を扱い最近では香り付きやとても真似できないカットを施す店に他の宝飾店はお手上げです。
テムスカリンの持つ宝飾店も影響を受けています。
アリス様はご存知ありませんか?」
「もちろん利用したことがあります。素敵な品でしたわ」
「あのプレートが付いてしまったので、嫌味も言えませんよ」
「他のお店はそれぞれ独自の強みを見つけて勝負なさればよろしいのではありませんか」
「あの店の店主が自らジオニトロ邸に時々足を運んでいるようなので、もしやと思ったのですが」
「妹のスーザンがリオネル殿下の婚約者ですから、安価で品のいい宝飾品を納めてもらっているだけです」
「それだけですか?」
「正式に婚姻すれば、店側は妃との繋がりを得たことになります。いきなり妃との縁を得ようとするより、今のスーザンと縁を持つことの方が難易度は低いですからね」
「スーザン様が王子の婚約者になっていなければ、私が貴女に求婚したかったです」
「スーザンと弟を婚姻させて侯爵家を得て、お金を援助してもらうほどの貧乏なジオニトロ家の私を子爵夫人に? しかも色気の無い私などを迎えるのですか?」
「私の失言です。女性の色気を引き出すのは男の役目。アリス様はオルデンに近寄る身持の悪い女達とは違って清い身なだけです。馬鹿なことを言いました。お許しください」
「エミリアン様はオルデン様と違いますわね。
この婚姻がどうなるのか分かりませんが有益な関係になれるといいですね」
「そうですね」
「そろそろ戻りませんか」
「またいずれ、お会いしましょう」
会場に戻るとオルデンが、束縛の強い夫のように騒ぎ出した。
応接間に連れてこられてお茶を用意してもらうと、紹介されたエミリアン様の従者だけ残して人払いをした。
「愚弟が申し訳ありません」
エミリアン様は深々と頭を下げた。
「彼が愚かなのは彼自身のせいですわ。同じように育てられたエミリアン様は失敗していませんもの」
「アリス様はだいぶ変わりましたね。見た目だけじゃなくて中身も違う。まるで別人だ。以前のアリス様ならオルデンにあんな風には言えなかった。
アリス様のそっくりさんかなと思うくらい違う。
何かがきっかけで勇気を出して己を出す者もおりますが、ここまで違うと別人としか言いようがありませんよ。
アリス様は数学が苦手だったはずなのに、1位を取るなんて。だけどいくら数学が1位でも他の教科も点が良くなければSクラスにはなれない。後妻が支配していたジオニトロ家でそんな高度な教育をしていたとは思えない。一体アリス・ジオニトロ様に何が起きたのでしょう」
いい性格してる。
「後妻の所業を知っていて放っておいたのですね。
愚弟の嫁ぎ先で何が起きていようと知ったことではないと言っているように聞こえますが?」
エミリアン様はニヤリと口角を上げた。
「やはり別人だな」
そう言って立ち上がると私の側に座り顎を掴んで顔を上に向けさせた。
「でもアリス様だ。別の魂か悪魔が乗り移ったか?」
バシッ
エミリアン様の手を弾いた。
「ここで私が女王だとでも言ったら跪くの?
仮に認めて その質問全てに答えたとして、それが本当かどうかなど君に分かるの?知って何になる」
「……」
「無意味なことをしていないで“愚弟”の調教でもして欲しいんだけど」
「……」
「テムスカリン子爵家から出て行く弟のことなどどうでもいいと思っているようだけど、出ていけたらの話だから。いくらなんでも侯爵家はゴミ捨て場じゃないんだから、黙ってないよ?
契約が消えたら愚弟は残留し、テムスカリン家は何重にも恥をかく。君が言ったように“愚弟”であるオルデンとの血の繋がりは消せないからね」
「援助が打ち切られるけど?」
「試してみるといいんじゃない?
私の記憶では、現在子爵位を有しているのは君の父親だよね。つまり君に決定権は無い。それに格上の貴族の籍に拘っている子爵と前子爵が侯爵位を諦めるとは思えないんだけど。
もし君に権限があると言うのなら、今この場で破棄してくれていいよ。だけどこちらには瑕疵は無いからペナルティを負うのはテムスカリン家だから」
エミリアン様は両手を上げて降参した。
「歳上のレディのようですね。色気がないなどと失礼なことを申しました。申し訳ございません」
「もういいでしょうか」
「最近 王家御用達のプレートを与えられた宝飾店が話題になっているのです。ハイクオリティの石を扱い最近では香り付きやとても真似できないカットを施す店に他の宝飾店はお手上げです。
テムスカリンの持つ宝飾店も影響を受けています。
アリス様はご存知ありませんか?」
「もちろん利用したことがあります。素敵な品でしたわ」
「あのプレートが付いてしまったので、嫌味も言えませんよ」
「他のお店はそれぞれ独自の強みを見つけて勝負なさればよろしいのではありませんか」
「あの店の店主が自らジオニトロ邸に時々足を運んでいるようなので、もしやと思ったのですが」
「妹のスーザンがリオネル殿下の婚約者ですから、安価で品のいい宝飾品を納めてもらっているだけです」
「それだけですか?」
「正式に婚姻すれば、店側は妃との繋がりを得たことになります。いきなり妃との縁を得ようとするより、今のスーザンと縁を持つことの方が難易度は低いですからね」
「スーザン様が王子の婚約者になっていなければ、私が貴女に求婚したかったです」
「スーザンと弟を婚姻させて侯爵家を得て、お金を援助してもらうほどの貧乏なジオニトロ家の私を子爵夫人に? しかも色気の無い私などを迎えるのですか?」
「私の失言です。女性の色気を引き出すのは男の役目。アリス様はオルデンに近寄る身持の悪い女達とは違って清い身なだけです。馬鹿なことを言いました。お許しください」
「エミリアン様はオルデン様と違いますわね。
この婚姻がどうなるのか分かりませんが有益な関係になれるといいですね」
「そうですね」
「そろそろ戻りませんか」
「またいずれ、お会いしましょう」
会場に戻るとオルデンが、束縛の強い夫のように騒ぎ出した。
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