【完結】貴方のために涙は流しません

ユユ

文字の大きさ
上 下
44 / 72

曲者

しおりを挟む
エミリアン様は私の手を取って会場を抜け出した。
応接間に連れてこられてお茶を用意してもらうと、紹介されたエミリアン様の従者だけ残して人払いをした。

「愚弟が申し訳ありません」

エミリアン様は深々と頭を下げた。

「彼が愚かなのは彼自身のせいですわ。同じように育てられたエミリアン様は失敗していませんもの」

「アリス様はだいぶ変わりましたね。見た目だけじゃなくて中身も違う。まるで別人だ。以前のアリス様ならオルデンにあんな風には言えなかった。
アリス様のそっくりさんかなと思うくらい違う。
何かがきっかけで勇気を出して己を出す者もおりますが、ここまで違うと別人としか言いようがありませんよ。

アリス様は数学が苦手だったはずなのに、1位を取るなんて。だけどいくら数学が1位でも他の教科も点が良くなければSクラスにはなれない。後妻が支配していたジオニトロ家でそんな高度な教育をしていたとは思えない。一体アリス・ジオニトロ様に何が起きたのでしょう」

いい性格してる。

「後妻の所業を知っていて放っておいたのですね。
愚弟の嫁ぎ先で何が起きていようと知ったことではないと言っているように聞こえますが?」

エミリアン様はニヤリと口角を上げた。

「やはり別人だな」

そう言って立ち上がると私の側に座り顎を掴んで顔を上に向けさせた。

「でもアリス様だ。別の魂か悪魔が乗り移ったか?」

バシッ

エミリアン様の手を弾いた。

「ここで私が女王だとでも言ったら跪くの?
仮に認めて その質問全てに答えたとして、それが本当かどうかなど君に分かるの?知って何になる」

「……」

「無意味なことをしていないで“愚弟”の調教でもして欲しいんだけど」

「……」

「テムスカリン子爵家から出て行く弟のことなどどうでもいいと思っているようだけど、の話だから。いくらなんでも侯爵家うちはゴミ捨て場じゃないんだから、黙ってないよ?
契約が消えたら愚弟は残留し、テムスカリン家は何重にも恥をかく。君が言ったように“愚”であるオルデンとの血の繋がりは消せないからね」

「援助が打ち切られるけど?」

「試してみるといいんじゃない?
私の記憶では、現在子爵位を有しているのは君の父親だよね。つまり君に決定権は無い。それに格上の貴族の籍に拘っている子爵と前子爵が侯爵位を諦めるとは思えないんだけど。
もし君に権限があると言うのなら、今この場で破棄してくれていいよ。だけどこちらには瑕疵は無いからペナルティを負うのはテムスカリン家だから」

エミリアン様は両手を上げて降参した。

「歳上のレディのようですね。色気がないなどと失礼なことを申しました。申し訳ございません」

「もういいでしょうか」

「最近 王家御用達のプレートを与えられた宝飾店が話題になっているのです。ハイクオリティの石を扱い最近では香り付きやとても真似できないカットを施す店に他の宝飾店はお手上げです。
テムスカリンの持つ宝飾店も影響を受けています。
アリス様はご存知ありませんか?」

「もちろん利用したことがあります。素敵な品でしたわ」

「あのプレートが付いてしまったので、嫌味も言えませんよ」

「他のお店はそれぞれ独自の強みを見つけて勝負なさればよろしいのではありませんか」

「あの店の店主が自らジオニトロ邸に時々足を運んでいるようなので、もしやと思ったのですが」

「妹のスーザンがリオネル殿下の婚約者ですから、安価で品のいい宝飾品を納めてもらっているだけです」

「それだけですか?」

「正式に婚姻すれば、店側は妃との繋がりを得たことになります。いきなり妃との縁を得ようとするより、今のスーザンと縁を持つことの方が難易度は低いですからね」

「スーザン様が王子の婚約者になっていなければ、私が貴女に求婚したかったです」

「スーザンと弟を婚姻させて侯爵家を得て、お金を援助してもらうほどの貧乏なジオニトロ家の私を子爵夫人に? しかも色気の無い私などを迎えるのですか?」

「私の失言です。女性の色気を引き出すのは男の役目。アリス様はオルデンに近寄る身持の悪い女達とは違って清い身なだけです。馬鹿なことを言いました。お許しください」

「エミリアン様はオルデン様と違いますわね。
この婚姻がどうなるのか分かりませんが有益な関係になれるといいですね」

「そうですね」

「そろそろ戻りませんか」

「またいずれ、お会いしましょう」


会場に戻るとオルデンが、束縛の強い夫のように騒ぎ出した。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恨んではいませんけど、助ける義理もありませんので

白草まる
恋愛
ユーディトはヒュベルトゥスに負い目があるため、最低限の扱いを受けようとも文句が言えない。 婚約しているのに満たされない関係であり、幸せな未来が待っているとは思えない関係。 我慢を続けたユーディトだが、ある日、ヒュベルトゥスが他の女性と親密そうな場面に出くわしてしまい、しかもその場でヒュベルトゥスから婚約破棄されてしまう。 詳しい事情を知らない人たちにとってはユーディトの親に非がある婚約破棄のため、悪者扱いされるのはユーディトのほうだった。

(完結)だったら、そちらと結婚したらいいでしょう?

青空一夏
恋愛
エレノアは美しく気高い公爵令嬢。彼女が婚約者に選んだのは、誰もが驚く相手――冴えない平民のデラノだった。太っていて吹き出物だらけ、クラスメイトにバカにされるような彼だったが、エレノアはそんなデラノに同情し、彼を変えようと決意する。 エレノアの尽力により、デラノは見違えるほど格好良く変身し、学園の女子たちから憧れの存在となる。彼女の用意した特別な食事や、励ましの言葉に支えられ、自信をつけたデラノ。しかし、彼の心は次第に傲慢に変わっていく・・・・・・ エレノアの献身を忘れ、身分の差にあぐらをかきはじめるデラノ。そんな彼に待っていたのは・・・・・・ ※異世界、ゆるふわ設定。

【完結】無能に何か用ですか?

凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」 とある日のパーティーにて…… セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。 隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。 だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。 ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ…… 主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語── ※ご感想・ご意見につきましては、近況ボードをご覧いただければ幸いです。 《皆様のご愛読、誠に感謝致しますm(*_ _)m》

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる 婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。 それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。 グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。 将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。 しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。 婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。 一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。 一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。 「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】

佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。 異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。 幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。 その事実を1番隣でいつも見ていた。 一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。 25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。 これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。 何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは… 完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

処理中です...