【完結】貴方のために涙は流しません

ユユ

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半期テスト後の事件

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半期テストが終わり、結果が発表された。
各科目、上位10名の名が載っている。
それとは別にクラス変更の掲示だった。
Sクラスからは2名の脱落者が出た。Eクラスに移動になる。そのうちの一人はイリアナ・ベルココスだった。

今日は答案用紙を返してもらい、発表を見聞きして帰るだけ。
それらを終えて解散になった後、イリアナさんは机の中を片付けていた。

「マチアス様。ありがとうございました。
外国語、何とかなりました」

「アリスちゃんの実力だよ。今日はこのまま帰るの?」

「スーザンは妃教育を受けにリオネル殿下と先に登城したから、私もシルヴェストル様とお茶をしようかと」

「引き続き、外国語を教えるからまた日程を合わせようか」

「お願いします」


「あんたのせいよ」

急にベルココス公女が話しかけてきた。

「あんたが目障りで、集中できなかったから、Eクラスなんかに」

「目障りって…私より前の席ですよね」

「気配とか!声とか!逆撫でするのよ!」

「言いがかりはよせよ」

「マチアスさんは関係ないじゃないですか」

「おい、ブレイル!」

教室の端にいたブレイル様を呼ぶためにマチアス様が視線を外した瞬間に革鞄で頭部側面を殴られた。

ドカッ!

「うっ!!」

そのまま後ろの木製の棚にぶつかり、床に倒れた。

「アリス!!」

「アリスちゃん!!」

シルヴェストル様とマチアス様の声が聞こえた後は覚えていない。





酷い頭痛と耳の痛さで目が覚めた。

「お姉様!」

「スーザン嬢、静かに。
君、医師を呼んでくれ」

「かしこまりました」

カーテンが半分閉められて半分薄暗くなった部屋のベッドに寝かされているようだ。

耳の聞こえ方がおかしい。
触れると耳には分厚いガーゼのようなもの。そして頭部に包帯で巻かれ固定されているようだった。

そっか。イリアナの革鞄が当たったんだっけ。
意識を失うほどなら耳は大怪我なのかもしれない。


医師が文字を書いて問診する。
私は指の数でイエスorノーを言う。

何が起きたか覚えてるか…イエス
耳は聞こえるか…イエス
視界は正常か…イエス
頭痛はあるか…イエス
吐き気はあるか…ノー
食欲はあるか…ノー

シルヴェストル様が怪我をした耳の方に近寄った。

1分程経つと、シルヴェストル様が私の正面に立った。

「先生。アリスは左耳が聞こえていません」

「どのくらいかは外傷が治ってからでないと何とも言えません。今は安静になさってください。
煎じ薬を調合して参ります」


どうしよう。スーザンは声を押し殺して泣いてるし、シルヴェストル様はおっそろしい顔をしてるし。
自分の声で頭痛が増すので、紙に書いた。

“スーザン。家に帰っていつも通りの生活を送りなさい”

「でもっ」

“先に進んでしまう授業をちゃんと聞いておいて。
侯爵邸を私の代わりに見張って。
お父様達には知らせないこと”

「……はい」

“シルヴェストル様も、お戻りください。ここは王城ですね?動けるようになれば屋敷に戻ります。
それまでお世話になりますとお伝えください”

「陛下と王妃殿下からは、此処で療養するように指示が出ている。何も気にせずゆっくり休んでくれ。
痛みや不快感、違和感は誤魔化すことなく伝えるように」

“はい。ありがとうございます”

よく見ると、シルヴェストル様の袖には血が付いていた。


その後は、王妃殿下がお見舞いに来てくださって、面白いほど大騒ぎになっているけど任せておきなさいと苦笑いなさっていた。


翌日の朝、消毒と交換のために包帯が解かれた。
鏡を見せてもらうと、腫れた紫餃子が出来上がっていた。
その時に気が付いたが、右の額は後ろの木材の棚にぶつかった時に切れたらしい。少し血が滲んでいた。


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