37 / 72
厄介者
しおりを挟む
【 イリアナ・ベルココスの視点 】
「イリアナ。お前が太刀打ちできる相手ではない。
将来的にお前は伯爵夫人。アリス嬢は侯爵夫人。
今だって、公爵家三女のお前と侯爵代理のアリス嬢では社会的にアリス嬢の方が格上と言える。
公爵である私が出ればもちろんアリス嬢の方が格下だが、アリス嬢はお前に何もしていない。
名前で呼ぶのもアリス嬢の意思ではない。寧ろお前のような者が出てくるから嫌だと拒否していたくらいらしい。それを それぞれの当主や夫人が頼み込み親しく呼び合っているんだ。
エリアーナ様をお姉様と呼ばせているのはエリアーナ様自身だ。
何故アリス嬢に言ったんだ?
お前が口出しできるとしたらブレイル殿に対してだけだ。アリス嬢にではなく、ブレイル殿に“その呼び方は適切ではない”というべきだった。
アリス嬢は受け身の立場なのだから」
「ノッティング夫人から、貴族令嬢の教育を受け直して欲しいと紹介状までいただいたわ。
バンフィールド家でも採用した教師らしくて、費用はノッティング家でもつからと書いてあるわ。
来週末から受けなさい」
「イリアナ。Sクラスなら小テストがあっただろう。出しなさい」
お兄様に促されて出すと、お父様の顔付きが変わった。
「成績も振るわないのに些細なことに首を突っ込んで王家の不評を買うなど、何を考えているんだ!」
「そうだぞ、イリアナ。
リオネル殿下からも注意を受けたらしいな。
ジェシカの友人の妹が同じSクラスで、全部は聞いていなかったようだが、リオネル殿下がお前を嗜めている場面は聞いていたそうだ。
くだらないことで偉そうに。お前は何様なんだ。
こんな小テストごときで躓いているくせに恥ずかしくないのか?お前が兄妹の中で一番時間があったのに、一番不出来だなんてあり得ないぞ」
「イリアナ。自分の立ち位置を間違えるな」
「そうよ。当主代理として立派に妹であるスーザン嬢を守ったし、ジオニトロ家に力を付けさせているのもアリス嬢よ。
社交で発言力を持つガーネット夫人やあのエリアーナ様をも味方に付ける社交力があるのよ」
「しかも第二王子と第三王子が共通に友人関係を築いているのは初めてのこと。それは王妃殿下公認だから許されたことだ。第一王子までも好意的らしい。頼むからこれ以上馬鹿なことはするなよ」
私はベルココス家のお荷物から厄介者になったのだと感じた。
すぐに家庭教師がつき、休みの日は貴族令嬢教育を再度受けることになった。今までの教師が聖母に思えるくらい厳しい教師だった。
自然学と生物学の先生は説明をしながらこう言う。
「ひたすら暗記しかありません」
外国語の先生も同じことを言う。
「ちょっと始めるのが遅かったようですね。
半期テストには間に合わないと思います。
2年生と3年生では違う外国語をやりますので、本来ならこの時期にそれをやるものなのです。
1年生で習う隣国のシェンダル語は文法は同じです。アルファベットが一部違うのと発音が少し違います。ですからひたすら覚えるだけ。
2年生からのエルダノ語は文法も少し異なります。
授業で習うことは授業中に覚えてください。それができれば半期テストで80点以上とれます。期末テストは応用が出ますが、授業で習うことが8割のはずです。学校の授業は集中して、そのまま覚えてください」
そして貴族令嬢教育の先生は、お父様達から何があったか聞いたようで最初から溜息を吐かれた。
「一般的な貴族のお話をします。
当主夫妻は跡継ぎ以外は家名に泥を塗るような子に対して排除の動きを見せます。除籍や追放、修道院行きや領地での監禁です。稀ではありますが、子息ならば男娼として 夫人や未亡人へ。子女ならば正妻や年齢に拘らない縁談、娼館への売却も有り得ます。
ただ貴族に生まれれば安泰というわけではありません。イリアナ様は公爵夫妻の庇護を受けております。それは公爵家の役に立たせるためです。勿論 親としての務めはありますが、それだけなら今の環境ではなく必要最低限でも構わないのです。
イリアナ様が暮らしている豪華な住まい、洗練された高級な装い、修練を積んだ料理人による美味しい食事、躾の行き届いた使用人、教育を受けたいと言えば学園に通う他に教師を雇ってもらえる環境。これは無償ではありません。与えられた以上の恩恵を領地・領民に還元するという義務を果たす必要があるのです」
「貴族は選ばれた者ではありませんか」
「勿論その通りです。選ばれた者にはそれに相応しい義務があると申しております。義務を果たせない子は、実子だとしても罰を与えたり排除しなければ、領主側が命を狙われる可能性もあるのです。
最近の例で言えば北のパクル男爵の没落ですね。
一人娘の横暴や贅沢を許して領民を完全に敵にまわしてしまいました。
ベルココス家とは違うと?
少なくともノッティング家では今のイリアナ様では問題だと判断なさったから私がここにいるのです。
不要とあらば今すぐにでもお暇いたします」
家ではこれ。
学園ではアリスが気に触るし、隣は王子殿下。集中なんてできない。
「イリアナ。お前が太刀打ちできる相手ではない。
将来的にお前は伯爵夫人。アリス嬢は侯爵夫人。
今だって、公爵家三女のお前と侯爵代理のアリス嬢では社会的にアリス嬢の方が格上と言える。
公爵である私が出ればもちろんアリス嬢の方が格下だが、アリス嬢はお前に何もしていない。
名前で呼ぶのもアリス嬢の意思ではない。寧ろお前のような者が出てくるから嫌だと拒否していたくらいらしい。それを それぞれの当主や夫人が頼み込み親しく呼び合っているんだ。
エリアーナ様をお姉様と呼ばせているのはエリアーナ様自身だ。
何故アリス嬢に言ったんだ?
お前が口出しできるとしたらブレイル殿に対してだけだ。アリス嬢にではなく、ブレイル殿に“その呼び方は適切ではない”というべきだった。
アリス嬢は受け身の立場なのだから」
「ノッティング夫人から、貴族令嬢の教育を受け直して欲しいと紹介状までいただいたわ。
バンフィールド家でも採用した教師らしくて、費用はノッティング家でもつからと書いてあるわ。
来週末から受けなさい」
「イリアナ。Sクラスなら小テストがあっただろう。出しなさい」
お兄様に促されて出すと、お父様の顔付きが変わった。
「成績も振るわないのに些細なことに首を突っ込んで王家の不評を買うなど、何を考えているんだ!」
「そうだぞ、イリアナ。
リオネル殿下からも注意を受けたらしいな。
ジェシカの友人の妹が同じSクラスで、全部は聞いていなかったようだが、リオネル殿下がお前を嗜めている場面は聞いていたそうだ。
くだらないことで偉そうに。お前は何様なんだ。
こんな小テストごときで躓いているくせに恥ずかしくないのか?お前が兄妹の中で一番時間があったのに、一番不出来だなんてあり得ないぞ」
「イリアナ。自分の立ち位置を間違えるな」
「そうよ。当主代理として立派に妹であるスーザン嬢を守ったし、ジオニトロ家に力を付けさせているのもアリス嬢よ。
社交で発言力を持つガーネット夫人やあのエリアーナ様をも味方に付ける社交力があるのよ」
「しかも第二王子と第三王子が共通に友人関係を築いているのは初めてのこと。それは王妃殿下公認だから許されたことだ。第一王子までも好意的らしい。頼むからこれ以上馬鹿なことはするなよ」
私はベルココス家のお荷物から厄介者になったのだと感じた。
すぐに家庭教師がつき、休みの日は貴族令嬢教育を再度受けることになった。今までの教師が聖母に思えるくらい厳しい教師だった。
自然学と生物学の先生は説明をしながらこう言う。
「ひたすら暗記しかありません」
外国語の先生も同じことを言う。
「ちょっと始めるのが遅かったようですね。
半期テストには間に合わないと思います。
2年生と3年生では違う外国語をやりますので、本来ならこの時期にそれをやるものなのです。
1年生で習う隣国のシェンダル語は文法は同じです。アルファベットが一部違うのと発音が少し違います。ですからひたすら覚えるだけ。
2年生からのエルダノ語は文法も少し異なります。
授業で習うことは授業中に覚えてください。それができれば半期テストで80点以上とれます。期末テストは応用が出ますが、授業で習うことが8割のはずです。学校の授業は集中して、そのまま覚えてください」
そして貴族令嬢教育の先生は、お父様達から何があったか聞いたようで最初から溜息を吐かれた。
「一般的な貴族のお話をします。
当主夫妻は跡継ぎ以外は家名に泥を塗るような子に対して排除の動きを見せます。除籍や追放、修道院行きや領地での監禁です。稀ではありますが、子息ならば男娼として 夫人や未亡人へ。子女ならば正妻や年齢に拘らない縁談、娼館への売却も有り得ます。
ただ貴族に生まれれば安泰というわけではありません。イリアナ様は公爵夫妻の庇護を受けております。それは公爵家の役に立たせるためです。勿論 親としての務めはありますが、それだけなら今の環境ではなく必要最低限でも構わないのです。
イリアナ様が暮らしている豪華な住まい、洗練された高級な装い、修練を積んだ料理人による美味しい食事、躾の行き届いた使用人、教育を受けたいと言えば学園に通う他に教師を雇ってもらえる環境。これは無償ではありません。与えられた以上の恩恵を領地・領民に還元するという義務を果たす必要があるのです」
「貴族は選ばれた者ではありませんか」
「勿論その通りです。選ばれた者にはそれに相応しい義務があると申しております。義務を果たせない子は、実子だとしても罰を与えたり排除しなければ、領主側が命を狙われる可能性もあるのです。
最近の例で言えば北のパクル男爵の没落ですね。
一人娘の横暴や贅沢を許して領民を完全に敵にまわしてしまいました。
ベルココス家とは違うと?
少なくともノッティング家では今のイリアナ様では問題だと判断なさったから私がここにいるのです。
不要とあらば今すぐにでもお暇いたします」
家ではこれ。
学園ではアリスが気に触るし、隣は王子殿下。集中なんてできない。
1,876
お気に入りに追加
2,672
あなたにおすすめの小説
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる