【完結】貴方のために涙は流しません

ユユ

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鞭には鞭を

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【 第二王子 リオネルの視点 】


左右20回、腿裏を鞭打ちされたところで

「次は腕ね」

「ううっ…お許しください」

「スーザンには許しは無かったのに?
ほら、泣いてないで早くしてくれる?」

袖を捲ると腕を打ち始めた。




どういうことだ?
彼女は洗練されていない気弱な令嬢だったはず。
顔色を変えずに鞭を振るっている。




違和感は最近始まった。
馬鹿みたいに着飾っていたスーザンの装いが変わった日だ。
清楚な雰囲気で良く似合っていた。アクセサリーも小ぶりの品のあるデザインで、こんな装いができるなら最初からやって欲しかったと思いながら褒めた。

『実は、ドレスもアクセサリーも姉が選んでくださったのです』

あの令嬢が!?



そして昨日、手紙を預かった。

『明日私の授業を見学したいというお願いのお手紙です』

その場で開けてみると、だと直ぐに分かった。しかも礼儀作法の教師に問題がありそうだ。

『分かった。いつもとは違う部屋に通すけど、いつも通り登城してくれ』

『はい、ありがとうございます』



宰相執務室を訪ねて、宰相のノッティング侯爵に手紙を見せた。

『お、アリスが動いたか』

『え? アリス? 見せてください』

宰相とその長男ジェイド補佐官がニコニコしながら手紙を覗く。

『あ~、怒らせたな』

『自分の子狐に手を出すのは駄目なのですね』

『リオネル殿下、私も覗きたいです』

『私も参ります。観察部屋を用意しましょう』

『スーザン嬢の姉とお知り合いですか』

『ジェイドの妻のエリアーナの友人ですよ』

『もう親友兼妹です。“お姉様と呼べ”と強要してますから』

え?あの貴族で一番力を持つバンフィールド公爵家の長女だった気難しいエリアーナ夫人!?

『そんなに仲が良いのですか』

『知り合ったばかりですが、手練れの猛獣遣いで、エリアーナがすっかり腹を見せていますよ』

『私の妻は猛獣ではありません!ちょっと人見知りのある子猫ですよ』

『こ、子猫!?』

『アリスに変身させられたエリアーナを見たら驚きますよ』

『そうだ、アリスはガーネット家とも懇意にしていますよ』

『団長!?』

明日の話をつけた後、団長室へ向かった。


『あ~、あんなに優しい子を怒らせるなんて、何をしたのでしょうね、ロー夫人は』

騎士団長のガーネット伯爵は顔を顰めた。

ノッティング家とガーネット家では印象が違うのか?

『団長、スーザン嬢の姉と面識が?』

『ええ。詳しくは話せませんがガーネット家の恩人で、ガーネット家がアリスの後ろ盾になりました』

『後ろ盾って……』

『妻が親友か娘のように可愛がり、長男ブライアンが妹として愛でていますよ。
明日、私も見に行っていいですか?』

『宰相達もいますが構いませんか?』

『もちろんです』


そして侍女長にも声をかけた。

『気付かれないようにしたいから絶対口外しないでくれ』

『かしこまりました』

『侍女長は妃達を支える要だ。何が起きているのか一緒に確認してもらいたい。明日頼むよ』

『光栄でございます。同伴させていただきます』





結局、私、第一王子シリル兄上、宰相、宰相補佐官、団長、団長の長男、侍女長、そして王妃母上が揃ってしまった。

侍女長は“話を漏らしたのは私ではない”と
首を振る。

誰経由で話が広まったのか。
ロー夫人にバレていないといいが。

そんな気持ちで覗いていたのに……。



令嬢がロー夫人に鞭打ちを止めて訪ねた。

「ねえ、ロー夫人。鞭打ちこれの何が楽しかったの?疲れるだけなんだけど」

「も、申し訳ございません」

「貴女のやったことは弱い者虐めだし、未成年への虐待なのよ。
鞭の痕は皮膚の下で出血を起こしたという証拠なの。血がタラリと出ていないからといって安易に思ったのね。それを常習的にやっていたそうね。
令嬢の体に傷が付けはどうなると思う?
一般的に傷モノと呼ばれるのよね。
貴女は未来の王子妃を傷モノにしようとしているの」

「ですが皮膚は裂けては、」

「あのね、皮膚が裂けなくても薄い痣のように残る場合もあるのよ。白い肌だもの。目立つわね」

「お許しください!お許しください!」

「お姉様、もういいわ。ありがとう」

「もう? スーザンがいいというなら仕方ないわね」

「お姉様、帰りにカフェに寄らない?」

「違うお菓子を食べたいのね?」

「いいでしょう、お姉様」

事前調査では仲の悪い姉妹と聞いたのに。


「スーザン、アリス。お茶をしに行こう」

「は、はいっ」

「ありがとうございます、リオネル王子殿下」

「ロー夫人。君は解雇クビだ。王城への立ち入り禁止と、二度と人に教えないように、
家族には自身が何をしたのか正直に話すといい。
嘘の噂が流れたら夫人は生きている間に陽の光は浴びることはないだろう」

涙でぐちゃぐちゃになったロー夫人が不服そうな顔を止めて青ざめた。

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