9 / 15
サヴァン子爵/出会い
しおりを挟む
【 エリックの視点 】
以前ほどではないが、夜会で楽しみながら物色をしていた。
ある日 侯爵家の三女が話しかけてきた。
一時間もしないうちに休憩室へ誘われて交わった。
生娘だった。
翌日、父親と共に侯爵令嬢が屋敷に訪れて 私に責任を取れと迫った。
既成事実を作るために誘ったのだと悟った。
『侯爵。お嬢さんから誘ってきたのに責任を取れとはおかしなことです』
『娘は初めてだったんだぞ』
『純潔の乙女が初対面の私に僅か一時間でセックスに誘う事は何とも思わないのでしょうか』
『っ!』
『婚姻は信頼関係が大事です。家に他人を迎えるのですから。
自ら誘って既成事実を作って婚姻を強要するような令嬢を妻には迎えられません』
『断れば良かったじゃないか!』
『その場限りの女として抱いただけです。令嬢はそう扱われても当然と思われる振る舞いをしましたから。目撃者も数人いますが呼びましょうか?醜聞になりますが』
侯爵は悔しそうに帰っていった。
うんざりして暫く誘いに乗らなかった。
二年前、王太子夫妻の婚姻パーティに出席した。
そこには後継者となる予定の令息や婿を取る予定の令嬢が呼ばれていた。次世代の交流のためだ。
皆相手が決まっているので妻にして欲しいという声は掛けられなくて安心していた。
用を足した後、廊下の角で令嬢とぶつかり、倒れそうになった彼女を支えるように抱き寄せた。
『ごめんなさい』
『こちらこそ申し訳ありません』
『お怪我はありませんか』
『ありません。お嬢さんは?』
『ございません。失礼します』
足早に去る彼女の後ろ姿を見つめていた。
体を支えた時の手の感触が人のものではなかった。
髪は錆色なのに睫毛はプラチナブロンド。
会場に戻った後、彼女を探した。
すると王太子夫妻と仲良く会話をしていた。
近くにいた兵士に聞いてみた。
『王太子夫妻と話をなさっているご令嬢はどなたでしょう』
『王太子妃殿下のご令妹のコゼット様です』
『ありがとう』
姉の王太子妃殿下の髪と同じ色の睫毛、同じアクアマリンの瞳。そして少しぽっちゃりしているが、わざわざドレスの下に詰め物をしている。
そしてあの田舎臭いドレス。
王太子妃殿下は何も言わない。
忠告をしないほど仲が悪く見えない。
寧ろ妹を溺愛しているといった感じで愛でている。
王太子妃殿下が彼女の手を繋ぎながら話をして嬉しそうに微笑むからだ。
何か理由があるのは分かった。
その後、調査部門にコゼット嬢のことを調べさせた。
『ご報告を申し上げます。
コゼット・ブラウニー伯爵令嬢は、現在学園の二年生になったばかりです。
成績は良く、人柄も良いとの評価を得ています。
令嬢の容姿にあれこれ陰で言う者もおりますが、令嬢と幼い時に会っている貴族は、姉と同じように可愛かったと証言しております。
王太子妃殿下が溺愛する妹として知られており、妃殿下を寵妃とする王太子殿下も令嬢を可愛がっておられます。
休日は孤児に授業をしているそうです』
『婚約者がいるはずだが』
『はい。フォリー侯爵家の嫡男ダニエル殿です』
『どんな令息だ?』
『それが…他の女性達と関係を持ち、令嬢には冷たく当たっております』
『は? 王太子夫妻のお気に入りをか?』
『はい。ですが王太子夫妻やブラウニー家からフォリー家への咎めは無いようです。静観しています』
あり得ないだろう。
仲の良さは演技か?
いや、親しげに話せばいいだけで、手を握ったり頭を撫でたり抱きしめたり、額に口付けたりする必要はない。
では理由があるのだな。
『孤児に授業とは?』
『女児専用孤児院へ出向き、実用的なことを教えているそうです。
屋敷のメイドを一人か二人連れて、買い物の仕方、平民の雇用主や貴族への立ち振る舞い、ダンスやテーブルマナーなども教えております』
『読み書き計算じゃなくて?』
『メイドには別途手当を出して、子供達の講師をさせているそうです。
読み書き計算は孤児院で教えているので、孤児院を出てからのことを教えようとしているようです』
『テーブルマナーはともかく、ダンスは?』
『ある程度の年齢になるとメイドを目指したいという少女が多いようです。
せめて雇ってもらえる要素を増やそうと、教えているようです。
雇用先の屋敷で子が産まれたら、ダンスの練習相手をするかもしれませんし、テーブルマナーが身に付いていれば、セッティングや、食事中に必要なものを追加で用意する機転をきかせられます。
外出先で同席を求められた場合に雇用側に恥をかかせることもありません。
優秀な少女には一緒に出かけて外の世界を見せるそうです。
強いイメージを与えてもらった少女は寄付してもらった書籍を積極的に読み、勉強するそうです』
『ダニエル・フォリーについて調査してくれ』
『かしこまりました』
以前ほどではないが、夜会で楽しみながら物色をしていた。
ある日 侯爵家の三女が話しかけてきた。
一時間もしないうちに休憩室へ誘われて交わった。
生娘だった。
翌日、父親と共に侯爵令嬢が屋敷に訪れて 私に責任を取れと迫った。
既成事実を作るために誘ったのだと悟った。
『侯爵。お嬢さんから誘ってきたのに責任を取れとはおかしなことです』
『娘は初めてだったんだぞ』
『純潔の乙女が初対面の私に僅か一時間でセックスに誘う事は何とも思わないのでしょうか』
『っ!』
『婚姻は信頼関係が大事です。家に他人を迎えるのですから。
自ら誘って既成事実を作って婚姻を強要するような令嬢を妻には迎えられません』
『断れば良かったじゃないか!』
『その場限りの女として抱いただけです。令嬢はそう扱われても当然と思われる振る舞いをしましたから。目撃者も数人いますが呼びましょうか?醜聞になりますが』
侯爵は悔しそうに帰っていった。
うんざりして暫く誘いに乗らなかった。
二年前、王太子夫妻の婚姻パーティに出席した。
そこには後継者となる予定の令息や婿を取る予定の令嬢が呼ばれていた。次世代の交流のためだ。
皆相手が決まっているので妻にして欲しいという声は掛けられなくて安心していた。
用を足した後、廊下の角で令嬢とぶつかり、倒れそうになった彼女を支えるように抱き寄せた。
『ごめんなさい』
『こちらこそ申し訳ありません』
『お怪我はありませんか』
『ありません。お嬢さんは?』
『ございません。失礼します』
足早に去る彼女の後ろ姿を見つめていた。
体を支えた時の手の感触が人のものではなかった。
髪は錆色なのに睫毛はプラチナブロンド。
会場に戻った後、彼女を探した。
すると王太子夫妻と仲良く会話をしていた。
近くにいた兵士に聞いてみた。
『王太子夫妻と話をなさっているご令嬢はどなたでしょう』
『王太子妃殿下のご令妹のコゼット様です』
『ありがとう』
姉の王太子妃殿下の髪と同じ色の睫毛、同じアクアマリンの瞳。そして少しぽっちゃりしているが、わざわざドレスの下に詰め物をしている。
そしてあの田舎臭いドレス。
王太子妃殿下は何も言わない。
忠告をしないほど仲が悪く見えない。
寧ろ妹を溺愛しているといった感じで愛でている。
王太子妃殿下が彼女の手を繋ぎながら話をして嬉しそうに微笑むからだ。
何か理由があるのは分かった。
その後、調査部門にコゼット嬢のことを調べさせた。
『ご報告を申し上げます。
コゼット・ブラウニー伯爵令嬢は、現在学園の二年生になったばかりです。
成績は良く、人柄も良いとの評価を得ています。
令嬢の容姿にあれこれ陰で言う者もおりますが、令嬢と幼い時に会っている貴族は、姉と同じように可愛かったと証言しております。
王太子妃殿下が溺愛する妹として知られており、妃殿下を寵妃とする王太子殿下も令嬢を可愛がっておられます。
休日は孤児に授業をしているそうです』
『婚約者がいるはずだが』
『はい。フォリー侯爵家の嫡男ダニエル殿です』
『どんな令息だ?』
『それが…他の女性達と関係を持ち、令嬢には冷たく当たっております』
『は? 王太子夫妻のお気に入りをか?』
『はい。ですが王太子夫妻やブラウニー家からフォリー家への咎めは無いようです。静観しています』
あり得ないだろう。
仲の良さは演技か?
いや、親しげに話せばいいだけで、手を握ったり頭を撫でたり抱きしめたり、額に口付けたりする必要はない。
では理由があるのだな。
『孤児に授業とは?』
『女児専用孤児院へ出向き、実用的なことを教えているそうです。
屋敷のメイドを一人か二人連れて、買い物の仕方、平民の雇用主や貴族への立ち振る舞い、ダンスやテーブルマナーなども教えております』
『読み書き計算じゃなくて?』
『メイドには別途手当を出して、子供達の講師をさせているそうです。
読み書き計算は孤児院で教えているので、孤児院を出てからのことを教えようとしているようです』
『テーブルマナーはともかく、ダンスは?』
『ある程度の年齢になるとメイドを目指したいという少女が多いようです。
せめて雇ってもらえる要素を増やそうと、教えているようです。
雇用先の屋敷で子が産まれたら、ダンスの練習相手をするかもしれませんし、テーブルマナーが身に付いていれば、セッティングや、食事中に必要なものを追加で用意する機転をきかせられます。
外出先で同席を求められた場合に雇用側に恥をかかせることもありません。
優秀な少女には一緒に出かけて外の世界を見せるそうです。
強いイメージを与えてもらった少女は寄付してもらった書籍を積極的に読み、勉強するそうです』
『ダニエル・フォリーについて調査してくれ』
『かしこまりました』
267
お気に入りに追加
3,025
あなたにおすすめの小説
どう見ても貴方はもう一人の幼馴染が好きなので別れてください
ルイス
恋愛
レレイとアルカは伯爵令嬢であり幼馴染だった。同じく伯爵令息のクローヴィスも幼馴染だ。
やがてレレイとクローヴィスが婚約し幸せを手に入れるはずだったが……
クローヴィスは理想の婚約者に憧れを抱いており、何かともう一人の幼馴染のアルカと、婚約者になったはずのレレイを比べるのだった。
さらにはアルカの方を優先していくなど、明らかにおかしな事態になっていく。
どう見てもクローヴィスはアルカの方が好きになっている……そう感じたレレイは、彼との婚約解消を申し出た。
婚約解消は無事に果たされ悲しみを持ちながらもレレイは前へ進んでいくことを決心した。
その後、国一番の美男子で性格、剣術も最高とされる公爵令息に求婚されることになり……彼女は別の幸せの一歩を刻んでいく。
しかし、クローヴィスが急にレレイを溺愛してくるのだった。アルカとの仲も上手く行かなかったようで、真実の愛とか言っているけれど……怪しさ満点だ。ひたすらに女々しいクローヴィス……レレイは冷たい視線を送るのだった。
「あなたとはもう終わったんですよ? いつまでも、キスが出来ると思っていませんか?」
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!
たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」
「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」
「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」
「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」
なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ?
この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて
「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。
頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。
★軽い感じのお話です
そして、殿下がひたすら残念です
広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います
妹しか興味がない両親と欲しがりな妹は、我が家が没落することを知らないようです
香木あかり
恋愛
伯爵令嬢のサラは、妹ティナにしか興味がない両親と欲しがりな妹に嫌気がさしていた。
ある日、ティナがサラの婚約者を奪おうとしていることを知り、我慢の限界に達する。
ようやくこの家を出られると思っていましたのに……。またティナに奪われるのかしら?
……なんてね、奪われるのも計画通りなんですけれど。
財産も婚約者も全てティナに差し上げます。
もうすぐこの家は没落するのだから。
※複数サイトで掲載中です
【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。
白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。
ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。
ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。
それは大人になった今でも変わらなかった。
そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。
そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。
彼の子を宿してーー
【完結】唯一の味方だと思っていた婚約者に裏切られました
紫崎 藍華
恋愛
両親に愛されないサンドラは婚約者ができたことで救われた。
ところが妹のリザが婚約者を譲るよう言ってきたのだ。
困ったサンドラは両親に相談するが、両親はリザの味方だった。
頼れる人は婚約者しかいない。
しかし婚約者は意外な提案をしてきた。
【完結】私は関係ないので関わらないでください
紫崎 藍華
恋愛
リンウッドはエルシーとの婚約を破棄し、マーニーとの未来に向かって一歩を踏み出そうと決意した。
それが破滅への第一歩だとは夢にも思わない。
非のない相手へ婚約破棄した結果、周囲がどう思うのか、全く考えていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる