上 下
61 / 72
解れた心

グローリー邸の朝

しおりを挟む
翌朝……というか、使用人も僅かにしか起きていない程の早朝。


「おはようございます。ノアはどこですか」

「……おはよう。まだ寝てる」

「部屋を教えてください」

「まだ寝てる」

応対したのは起こされたマクセルだ。

「それは聞きました。部屋を教えてください」

「女の寝所に乗り込むつもりか」

「女って、俺達は家族みたいなものです。ガブリエルなんか同室でしたし、俺も何回か一緒に寝てますから」

「は!?」

「主人の顔を見ないと落ち着かないんです。
宰相と一緒にしないでください」

宰相にこんな口をきいているのは城出をされたロイクだ。昨夜のうちにマクセルが城に三通手紙を出していた。

国王と宰相補佐と南の塔宛だ。
南の塔には服や靴を届けるように書いた。
その荷物を持ってきたのがロイクだった。
確かに“明日の朝 届けろ”と書いた。時間までは書かなかった。
だが、朝にも限度があるだろうと思っていた。


メイドに案内されたロイクは荷物を下ろし、装備を外し、靴を脱ぎ、ぐっすり眠るノアの隣に横になった。

「勝手に何処かに行くな、馬鹿」

騎士仲間と夜に酒を飲んで帰城して騎士団の部屋に戻ろうとしたらノアが城出したと聞いて酔いが覚めた。
南の塔を隅々まで探したが居なかった。
直ぐ、宰相の屋敷で保護されていると追加の知らせが来て安堵はしたが眠れなかった。

何のつもりでいなくなったのか、原因が分からなくて苛立ちと不安で一杯だった。

横向きで眠るノアを背後から抱き込んだ。

「ん……ロイク?」

「まだ早いから寝てろ」
 
しっかり抱き込まれて身動きが取れないし、まだ薄暗いから再度寝ることにした。

ノアの髪の匂いを嗅いでいるうちにロイクも寝てしまった。




完全に陽が昇り、メイドがおこしに来た。

「ノア様、おはようございます」

「ん……ロイク」

「起きてます」

「ロイク様、朝のお支度をしますので」

「俺もここで支度するからよろしくお願いします」

「え?」

「すみません。戦地ではこんな感じで共同生活でしたので追い出さなくて大丈夫です」

「かしこまりました」


「寝てたと思っていたのに」

「人が入ってきたら起きるものなんですよ」

「すごい……考えてみたら私も宿で仕事してる時は気を張って寝ていたわ」

「何で城出したんですか」

「やることが無くて退屈だったから」

「それだけですか?」

「うん 」

「どこまで行こうとしたのですか」

「前に働いていた宿は駄目だって言われたから、王都とちょっと郊外の範囲でウロウロしようかなと」

「はあ。心配させないでください」

「ふふっ」

笑い事じゃないと思いながらノアのお腹を優しくトントンし始めた。

「また寝かし付けようとしてる?」

「その方が安心だから」

「ひどい」


食堂に降りて行くとマクセルとクリスがいた。

「息子のクリストファーだ」

「ノアの隊にいるロイクです。ご子息にご挨拶申し上げます」

「!! 」

礼儀正しく挨拶をするロイクにノアが感動すると、

「どんな風に過ごして来たらこの程度でノアがこんなに感激するんだ?ロイク」

「ノア、おかしな顔をしていないで座ってください」

「ロイク卿、かっこいいですね。何だかモテそうですね」

「流石、宰相閣下のご子息。わかりますか?」

「はい、父上と違うようで似たところがある気がします」

「私とロイクがか?」

「説明が難しいのですが目からでてる?」

「目?」

「女性がうっとりします」

「あ~、分かりました。マクセルもロイクも自在に出せる色気がありますからね。


「父上、モテますからね」

「やっぱりそうですよね」

「ノア、」

「クリス、今日のお忍びはどの辺に行くか考えた?」

「はい。ノアさんが王都散策したことがないと聞きましたので今日は小物を扱うお店が多い場所に行こうと思います」

「クリスは行ったことがあるの?」

「無いです」

「俺にとって王都は庭のようなものですから安心してください。案内できますので」

「ロイクも来るの?」

「目を離すと駄目だということが分かりました」

「大丈夫だから帰って。休暇中じゃない」

「じゃあ、城で大人しくしてくれますか?」

「………」

「昼間遊ばせたら夜は疲れて寝るでしょう」

「子供扱いして」

「城出なんて子供のすることですよ!」




食後は外の広い場所でロイクの訓練に付き合うことにした。

“ちょっと木を焦がしたらすみせん”と言ったら、グローリー家の氷魔法の騎士とバケツに水を用意された。
そしてマクセルが監視している。

「じゃあ、球だすから」

「一つからお願いします。氷  剣アイスソード!」

炎  球ファイアーボール

拳より少し小さめの炎の球がロイクに向かうが、ロイクの氷剣で蒸発してしまった。

「少し速度上げるよ~」

「お願いします」

先ほどより速度の上がった炎の球がロイクに向かうが氷剣で蒸発した。

「ずらして二つ~」

「お願いします」

ボッ、 ボッ 

ジュッ、 ジュッ

1秒あけて二つ目の炎の球を出したが氷剣で蒸発した。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

『完結』人見知りするけど 異世界で 何 しようかな?

カヨワイさつき
恋愛
51歳の 桜 こころ。人見知りが 激しい為 、独身。 ボランティアの清掃中、車にひかれそうな女の子を 助けようとして、事故死。 その女の子は、神様だったらしく、お詫びに異世界を選べるとの事だけど、どーしよう。 魔法の世界で、色々と不器用な方達のお話。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

処理中です...