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元婚約者の姉

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アレックス・ゴートベル侯爵令息は不思議そうな顔をした。
だからユリウスは簡単に説明をした。

ユ「キューレイ家の息子とは解消したんだよ。それで先日私と婚約したんだ。そのうち発表するよ」

ゴ「本当に?だってランドール嬢は彼を好きだったはずじゃ…」 

話を濁せないのね。仕方ない。

私「彼は3人と浮気していて、今の彼女には 私との婚約は政略だと説明していたのです」

ゴ「君達は有名な恋愛婚約だったのに…」

私「恥ずかしい話ですが、そう思っていたのは私だけで彼は違ったみたいです。しかもうちではなく、お相手の子爵家に婿入りを望んでいるようなのでお譲りしました」

ゴ「そうか。ランドール嬢には可哀想だがユリウスには幸運が舞い込んだな」

ユ「エヴリンは唯一無二の最愛のレディだからね」

ゴートベル夫人となった王女が驚愕の表情をした。

夫人「お、お姉様方は?」

ユ「姉のルイーズとリリーもエヴリンにぞっこんですから大喜びです。誰がエヴリンと一緒に寝るか奪い合いですよ」

夫人「え!?…あなたもこの子と一緒に?」

ユ「ええ。今は恋人として優先権をもらいました」

ゴ「婚約したばかりで?」

ユ「嬉しくてね。でも十年以上片想いだったのだからではないな」

夫人「え?」

ゴ「まあ、ゆっくりしていってくれ」

ユ「早く二人きりになりたいから軽く挨拶回りして帰るよ」

ゴ「全く…」

ユ「とにかくおめでとう。では失礼。エヴリン、行こうか」

私「うん」


知り合いに挨拶をして回り、屋敷に戻った。



週明けの登校日、昼休みも下校支度の時もキューレイ様は現れなかった。だから油断していた。

お母様の誕生日の贈り物が仕上がる日だったので、下校途中で取りに行った。
名前とメッセージを彫ってもらっていた。

店で受け取り、外に出るとティティエ様と鉢合わせをした。

「あら、エヴリン様」

「ティティエ様」

「引き取り?」

「はい。ティティエ様も?」

「ええ。そうだわ、お茶でもしない?ティールームがあるの」

キューレイ家に関わるのは抵抗があるけどティティエ様に罪はない。

「喜んで」


近場だと思ったのに王都の中心からどんどん離れていく。

「あの、まだですか?」

「この先よ」

結局宝飾品の店から馬車で1時間。到着したのは林を抜けた先の館だった。

「ここは?」

「個室になっていて込み入った話が出来るの。周りに聞かれたくないことが多いから」

ティティエ様は私の腕に自身の腕を絡ませて館に入った。

「いらっしゃいませ」

「キューレイよ」

「ご案内いたします」

不思議な空間だ。ホテルのような空間だけど従業員はレストランの給仕のような服を着て私達を案内した。

2階の部屋に到着すると小さな個室になっていた。
テーブルに椅子が二脚。

「すぐにお茶をお持ちいたします」

そう言って案内の人は退がった。

椅子に座るとティティエ様が話し始めた。

「ここはね、没落した貴族の屋敷をオーナーが買い取って改装したのよ。部屋が小さいのには理由があるの。廊下の部屋に続くドア、内廊下、最後のドアを開けて座れたわけだけど、これで声の漏れを小さくしているの。部屋と部屋の間も分厚い壁に改装したから壁を手で叩いたくらいでは音は漏れないわ。お陰で部屋が小さくなってしまったけど秘密の話をするのにはいい場所よ」

「知りませんでした」

「エヴリン様は箱入りだもの。こんな場所は知らなくて当然よ」

どういう意味かしら。
まさか元婚約者の偽りの愛に気付かない愚かな女だと言いたいの?

お茶や軽食、デザートが次々と並べられた。
部屋中のキャンドルに火を灯し 雨戸と窓を閉めて従業員は部屋を出た。

「これは?」

「ふふっ 雰囲気出るでしょう?
秘密の商談にも使われるし、逢瀬にも使われるの。ここはお茶も食事も美味しいわよ」

「美味しいです」

本当に美味しかった。

「聞いたわ。ゼインがごめんなさいね。あの子は別に浮気相手達を愛していたわけじゃなくて、その場の雰囲気を楽しみたかっただけなのよ。性欲の解消ついでに疑似恋愛をしてみただけで 本当に好きだったわけじゃないの。

分かるでしょう?男はどうしても溜まるし、したくなるの。これは男に繁殖させようと神様が作った身体の仕組み。だから仕方ないのよ。私の婚約者も定期的に娼館に行っているわ。
女はね、傷病や月のモノ、妊娠や出産で夫の相手ができない時は女遊びくらい大目にみないと。
エヴリン様はまだ婚約中だったけど、他の女に触れて欲しくなかったのなら結婚前でも身体を許してあげれば良かったのよ。あの子はあなたを愛しているから夢中になっただろうし、他の女で発散することもなかったわ」

「私とは政略的な婚約だと言うことが?ランドール家ではなくカレス家に婿入りしたかったと言うことが?彼は疑似恋愛をしたいがために裏切った以上の言葉を使ったというのですか?」

「難しく考えすぎよ」

「さっさと私と婚約を解消して歳上か同い歳の令嬢と婚約すれば良かったじゃないですか。
彼の最初の浮気は私がまだ成人する前です。どのみちお相手はできません。
ティティエ様は私が至らないと仰っていますが、理性を保つのが人と動物の差ではありませんか?
せめて相談すべきでした」

「だから、それは困難なのよ」

「困難だと言うのなら切り落とせば良いのです」

「跡継ぎは?」

「私が求めているのは誠実さ。裏切ることのない絆。ランドール家に入れるのですから当然です。
男だとか関係ありません。ランドール家に婿入りするという立場を甘く考えていると言っているのです。
婚約したのは彼が私に親切にして愛を囁いたからだけではなく、ランドール家の品位を損なうことなく役目を果たすと思ったからです。
政略的な要素はないということは、信頼が壊れたら要らないということです。切り落としたのなら別の男に子種をもらえばいいだけです」

「それがユリウス様だというの!?」

ティティエ様の表情は険しくなっていた。

 
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