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未練

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翌週はじめの登校日。
今日から停学が明けてあの2人が登校を再開する。
婚約は解消したので もう教室には来ないはずだ、そう思っていた。

昼休みにローゼに婚約の報告をしたら、詳しく聞きたいからうちに来ると言い出した。

今日の授業が終わり、帰り支度をしていた。

「エヴリン」

何で来るのよ。

仕方なく出入口に近寄るとゼイン様…じゃなくてキューレイ様が上着の内ポケットから細長い封筒を取り出した。

「歌劇のチケットがあるんだ。一緒に見に行かないか」

「キューレイ様、困ります」

「今まで通りゼインと呼んでくれ。
すれ違いはあったけど、俺たちは相思相愛なんだ。やり直せる。また最初からやり直そう」

すれ違い?裏切りがすれ違い?

「キューレイ様。
私とあなたの関係は終わりました。
よりを戻そうなんて微塵も思いません。
あなたはカレス嬢に、私達は恋愛婚約ではなく政略での婚約だと説明したのですよね?単なる身体だけの相手にそんな嘘をつく必要はありませんもの。カレス嬢を愛しているのですよね?カレス家に婿入りしたいのですよね?」 

「彼女は誤解をしたんだ」

「カレス嬢にどんな言葉をかければそんな誤解が生まれるのですか?」

「……」

「結局 私が恋愛婚約だと勘違いをしてしまったということなのですね?」

「エヴリン…」

「解消した今、私達は縁のない他人です。
もう私のことは家名でお呼びください。
何かに誘ったり、教室まで来たりしないでください。話しかけてほしくもありません」

「悪かった。君を傷付けてしまった。だが愛しているのは本当なんだ。もう二度とこんなことが無いようにするから」

「私、もう婚約しているのです」

「は!?」

「ユリウスと婚約しました」

「跡継ぎ同士だろう!」

「そうですよ。ですが公爵様と父とユリウスが話し合って決めました。つまり問題はありません」

「エヴリンの希望じゃないんだろう?そんなの無効にしてしまおう」

「するわけないじゃないですか。
私もキューレイ様を見習って魔をさすことにしようと思いましたが、あなたみたいに誰でもいいわけではないことに気が付きました。
先日ユリウスと一夜を過ごしてみてよく分かりました」

「嘘だろう?」

「いえ。あの痛みも圧迫感も体温も 体の怠さもキスのし過ぎで唇が荒れたのも現実です」

「やっぱりユリウス様とデキていたんだな」

「あなたと一緒にしないでください。
私はずっとユリウスを兄か母か乳母だと思っていました。あなたとの婚約を解消した後の展開です」

「何でだよ…女遊びくらい男なら誰でもするものじゃないか。妊娠させたわけでもないしエヴリンを蔑ろにしたこともない。毎日気を遣って愛を囁きに来ただろう」

「……“気を遣って”?」

「あ、違っ」

「それはそれは。わざわざ侯爵家のご令息に気を遣っていただいていたのですね。頼んでいませんが ありがとうございました。
しかしながら そのような心の無い気遣いは私には不要でしたわ。お手間をかけさせていたとは知らずバカみたいに言葉そのまま受け取っておりました。
騙したのではなく 慈悲かお情けだったのですね。
でしたら言葉足らずですわ。“愛していると言いに来てやったぞ”と仰っていただければ誤解などしませんでしたわ」

「エヴリンっ」

「もう一度言いますね。家名でお呼びください。
意味分かります?ランドール嬢と呼んでくださいと言ったのです。血の繋がらない異性が“エヴリン”と呼んでいいのはユリウスとセロー公爵だけです。
もう私とあなたは他人です。
私はユリウス・セロー公爵令息の婚約者。次からはセロー公爵家からも抗議の手紙を出すことになります」

「っ!!」

「カレス嬢とお幸せに」

席に戻り荷物を持ってローゼと別の出入口から廊下に出て下校した。


ランドール邸でお母様を交えてローゼとティータイムになった。

「私、恐怖を感じました。
キューレイ様があんなにズレた思い込みの激しい方だったなんて…今までキューレイ様が毎日教室に来て笑顔を向けて愛を囁いているのを見て羨ましく思っていました。今となっては恐怖に変わりました」

「近付くなと言ったのに、困ったわね。
学園にも相談してみようかしら。
彼の卒業は半年先だものね」

「アレクセイ様はまともな方なのに」

「やっぱり長男と第四子の弟では躾の厳しさが違うのよ」



翌日の昼休み

「うちのクラスの前に警備兵が立つようになったのね。もしかして?」

ローゼは小声で尋ねた。

「多分ね」

キューレイ侯爵には、セロー公爵から“息子の婚約者に近付くな”と抗議文が送られ、父からは警告文を送った。
学園にはランドール伯爵家から寄付金を。そして学園長にセロー公爵が直々に対策の依頼を出しに訪れていた。
登校時に面会を終えて帰る公爵と鉢合わせをして 何しに来ていたのか聞いて知った。

今日の授業が終わって帰り支度をしていると廊下で揉める声が。近寄って扉越しに立ち聞きした。

〈ここは四年生のフロアではありません〉

〈婚約者に会いに来ただけです〉

〈あなたのお名前は?〉

〈ゼイン・キューレイ〉

〈このクラスにキューレイ様の婚約者はおりません〉

〈ちょっと誤解があっただけで、今は冷却期間なんです〉

〈授業が終わったのなら速やかに下校してください〉

〈だから 婚約者に話があるんだ〉

〈最後の警告です。立ち去りなさい〉

足音が聞こえたから立ち去ったのね。

荷物を持って廊下に出ると警備兵が私を見たのでお礼を伝えた。

「ありがとうございました」

「ランドール様ですね?」

「はい、エヴリン・ランドールです」

「念のため、馬車まで付き添います」

「よろしいのですか?」

「あの感じでは登下校も昼休みも警戒しないといけません」

「お願いします」

馬車乗り場に行くとキューレイ様が待っていた。

「エヴリン」

「キューレイ様、ランドール様に近付かないように」

「エヴリン!」

「ランドール様、退がってください」

「退いてくれ!」

「では校則違反の現認しましたので拘束させていただきます」

私を背中に隠してキューレイ様と対峙していた警備兵は、押し退けようと触れたキューレイ様の手を掴み後ろに捻ると 校舎の中に入って行った。


翌日、掲示板にキューレイ様の3日間の停学処分の通知が貼り出されていた。

「ねえ。まずいんじゃない?」

「何が?」

「うちの校則は、停学の三回累積で四件目の問題行動は軽度のものでも留年よ。会いに来るだけでまた停学をもらっていたら 留年処分はあっという間よ。在学期間が一年増えちゃうわよ」

「そうだったわ」

「留年なんて普通の貴族は嫌がるけど、エヴリンに接触したくて彼なら喜んで留年しそうよ?
退学になるまでのことはしていないし、違う方法を考えないと」

「そうね。ローゼ、ありがとう」
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