9 / 20
キャットファイト
しおりを挟む
そのまま話を続けた。
「彼、“女達に気持ちはない。性欲の解消だったんだ、愛しているのは君だけだ”とか言いながら繕ってくるの」
カレス嬢がスプーンを力強く握りしめているのが分かる。
「だから浮気相手の家に婿入りしたらって勧めたけど、必死にやり直そうって懇願するの。
確か、彼の言う性欲処理に使っている可哀想な令嬢は子爵家だったはずだけど、令嬢だけじゃなくて家門にも然程魅力は無いのね」
カレス嬢は顔を下に向けて肩を震わせている。
向かいの令嬢は顔色が悪い。
「この間は馬車の中で娼婦に奉仕させていたわ。
娼婦の使い古した男なんて汚くて嫌よ。病気をうつされたかもしれないし。もうやり直せるはずないのに、昨日も“お願いだ”ってしつこくて。
はぁ~誰か引き取ってくれないかしら」
バシャーン
カレス嬢がコップの水を私に勢いよくかけた。
「ちょっと!エヴリンに何するのよ!!」
私はローゼに待ってと合図を送った。
「マリー!何やってるの!」
カレス嬢の逆隣の令嬢が立ち上がって私にハンカチを渡そうとして気が付いたらしい。向かいの令嬢と同じ顔色になった。
「侯爵家と繋がりたいから婿に選んだだけでしょう」
怒りに震える声で聞いてきた。
「うちは、キューレイ侯爵家と繋がって利を得たいという家門ではないの。求婚は一度お断りしたのよ。だけど彼が私との結婚を諦めなかったの。会えば何度も“好きだ 愛してる”と囁いていたわ。子供の頃からずっとよ。
だけど、もう彼に触れられるのは嫌だし、ランドール家の一員にするつもりはないから、どうぞ引き取って」
ピチャピチャピチャ…
カレス嬢の頭の上からゆっくりコップを傾けて水をかけた。
「冷たいっ!」
「これで水をかけられたことは無かったことにしてあげる。
もう図々しく私の隣の席に座ってわざと気持ち悪い話を聞かせてマウントを取ろうとしないでね。
私、本当にキューレイ侯爵家令息は要らないの。解消して欲しいの。向こうが同意しなかったら破棄の申し立てをするわ。そのときはあなたの名前が公表される。いつ何をしたのか赤裸々にね。是非、あなたからも彼を説得してもらいたいわ。できるでしょう?彼はあなたに夢中だって言っていたじゃない。頼んだわよ」
カレス嬢は走って何処かへ行ってしまった。
私はハンカチで軽く拭った後、食事の続きを始めた。
「エヴリン…」
「今日はスペシャルランチなのよ?」
「ふふっ そうね」
「でもお陰で彼が彼女に私達は政略結婚だと説明していたようだと知ることができたわ」
「本当に最低よね」
「食べ終わったら4年生のフロアを覗きに行くわ。面白い劇が楽しめそうだから」
だけど行っても何もなかった。カレス嬢が見当たらなかったのだ。お昼休みが終わってしまったので教室に戻った。
放課後に再挑戦した。
4年生のフロアに来たけど2人の姿は無かった。
「あの、カレス嬢は?」
「鞄があるから何処かにいると思うよ」
「ありがとうございます」
ということは、人目のつかない場所にいるのね。
廊下の端まで行くと揉めている声が聞こえてきた。
外階段に繋がる扉の向こうからだった。
そっと開けて覗くと、階段の下の角で揉めていた。
「何でエヴリンに近付いたんだ!」
「だって、あなたが機嫌悪そうだったから…週末の予定もキャンセルしたし。きっと彼女に振り回されていると思って…」
「最悪だ!」
「浮気がバレているなんて思わなかったのよ!
しかもあんなに気が強いだなんて!」
「君は子爵家で 彼女は富豪の伯爵家だぞ!敬意を払うのは君の方だろう!なのに水をかけた!?正気か!」
「政略結婚だって言っていたじゃないっ」
「はぁ…どうしてくれるんだ」
「うちに婿入りすればいいじゃない」
「君は婚約者がいるだろう!」
「男爵家よ?解消すればいいわ」
「エヴリンと別れるつもりはない!」
「っ!」
階段の上から大きな声でゼイン様に声を掛けた。
「私は別れるから!」
「!! エヴリン!!」
「私とは政略結婚なんですって?」
「ち、違うんだっ」
「まだ別れていないみたいですね。
また浮気現場を目撃できて嬉しいですわ」
「違う!違うよ、エヴリン!」
彼が階段を登り始めた。
「ゼイン・カレスでいいじゃないですか。とてもお似合いですよ。さようなら」
「待って!」
急いで建物の中に入り扉を閉めて鍵をかけた。
ドンドンドン!
「エヴリン!開けてくれ!」
ドンドンドン!
騒ぎに気付いた4年生達がこちらを見ていた。
私は紐を引いて警備を呼ぶベルを鳴らした。
「どうしましたか!」
「校則を破って外で逢引きしている生徒がいます。
鍵をかけたのでまだ外に」
「分かりました。我々が引き取ります」
「では失礼します」
許可なく生徒が外階段を使うことを禁じている。
特に男女の場合は罰則が厳しい。風紀の乱れを防ぐためと安全のためだ。鍵を開けて出入りしていたら、侵入者も隙をみて入ってしまう。鍵を掛け忘れることも有り得る。ここは貴族の子を預かる学園なので警備は重要課題なのだ。
そのまま帰ろうと馬車乗り場に到着すると、迎えに来ていたのはユリウスだった。
「ユリウス?…おかえり」
一泊のお出掛けから帰ってきていたのね。でも何でここに?
「迎えに来たよ」
「ルイーズ様達は?」
「セロー邸にいるよ」
「私も屋敷に帰らないと」
「伯爵には許可をとっているから大丈夫」
「…怒っています?」
「そう思う?」
ユリウスは私の手を引き馬車に乗せた。
「彼、“女達に気持ちはない。性欲の解消だったんだ、愛しているのは君だけだ”とか言いながら繕ってくるの」
カレス嬢がスプーンを力強く握りしめているのが分かる。
「だから浮気相手の家に婿入りしたらって勧めたけど、必死にやり直そうって懇願するの。
確か、彼の言う性欲処理に使っている可哀想な令嬢は子爵家だったはずだけど、令嬢だけじゃなくて家門にも然程魅力は無いのね」
カレス嬢は顔を下に向けて肩を震わせている。
向かいの令嬢は顔色が悪い。
「この間は馬車の中で娼婦に奉仕させていたわ。
娼婦の使い古した男なんて汚くて嫌よ。病気をうつされたかもしれないし。もうやり直せるはずないのに、昨日も“お願いだ”ってしつこくて。
はぁ~誰か引き取ってくれないかしら」
バシャーン
カレス嬢がコップの水を私に勢いよくかけた。
「ちょっと!エヴリンに何するのよ!!」
私はローゼに待ってと合図を送った。
「マリー!何やってるの!」
カレス嬢の逆隣の令嬢が立ち上がって私にハンカチを渡そうとして気が付いたらしい。向かいの令嬢と同じ顔色になった。
「侯爵家と繋がりたいから婿に選んだだけでしょう」
怒りに震える声で聞いてきた。
「うちは、キューレイ侯爵家と繋がって利を得たいという家門ではないの。求婚は一度お断りしたのよ。だけど彼が私との結婚を諦めなかったの。会えば何度も“好きだ 愛してる”と囁いていたわ。子供の頃からずっとよ。
だけど、もう彼に触れられるのは嫌だし、ランドール家の一員にするつもりはないから、どうぞ引き取って」
ピチャピチャピチャ…
カレス嬢の頭の上からゆっくりコップを傾けて水をかけた。
「冷たいっ!」
「これで水をかけられたことは無かったことにしてあげる。
もう図々しく私の隣の席に座ってわざと気持ち悪い話を聞かせてマウントを取ろうとしないでね。
私、本当にキューレイ侯爵家令息は要らないの。解消して欲しいの。向こうが同意しなかったら破棄の申し立てをするわ。そのときはあなたの名前が公表される。いつ何をしたのか赤裸々にね。是非、あなたからも彼を説得してもらいたいわ。できるでしょう?彼はあなたに夢中だって言っていたじゃない。頼んだわよ」
カレス嬢は走って何処かへ行ってしまった。
私はハンカチで軽く拭った後、食事の続きを始めた。
「エヴリン…」
「今日はスペシャルランチなのよ?」
「ふふっ そうね」
「でもお陰で彼が彼女に私達は政略結婚だと説明していたようだと知ることができたわ」
「本当に最低よね」
「食べ終わったら4年生のフロアを覗きに行くわ。面白い劇が楽しめそうだから」
だけど行っても何もなかった。カレス嬢が見当たらなかったのだ。お昼休みが終わってしまったので教室に戻った。
放課後に再挑戦した。
4年生のフロアに来たけど2人の姿は無かった。
「あの、カレス嬢は?」
「鞄があるから何処かにいると思うよ」
「ありがとうございます」
ということは、人目のつかない場所にいるのね。
廊下の端まで行くと揉めている声が聞こえてきた。
外階段に繋がる扉の向こうからだった。
そっと開けて覗くと、階段の下の角で揉めていた。
「何でエヴリンに近付いたんだ!」
「だって、あなたが機嫌悪そうだったから…週末の予定もキャンセルしたし。きっと彼女に振り回されていると思って…」
「最悪だ!」
「浮気がバレているなんて思わなかったのよ!
しかもあんなに気が強いだなんて!」
「君は子爵家で 彼女は富豪の伯爵家だぞ!敬意を払うのは君の方だろう!なのに水をかけた!?正気か!」
「政略結婚だって言っていたじゃないっ」
「はぁ…どうしてくれるんだ」
「うちに婿入りすればいいじゃない」
「君は婚約者がいるだろう!」
「男爵家よ?解消すればいいわ」
「エヴリンと別れるつもりはない!」
「っ!」
階段の上から大きな声でゼイン様に声を掛けた。
「私は別れるから!」
「!! エヴリン!!」
「私とは政略結婚なんですって?」
「ち、違うんだっ」
「まだ別れていないみたいですね。
また浮気現場を目撃できて嬉しいですわ」
「違う!違うよ、エヴリン!」
彼が階段を登り始めた。
「ゼイン・カレスでいいじゃないですか。とてもお似合いですよ。さようなら」
「待って!」
急いで建物の中に入り扉を閉めて鍵をかけた。
ドンドンドン!
「エヴリン!開けてくれ!」
ドンドンドン!
騒ぎに気付いた4年生達がこちらを見ていた。
私は紐を引いて警備を呼ぶベルを鳴らした。
「どうしましたか!」
「校則を破って外で逢引きしている生徒がいます。
鍵をかけたのでまだ外に」
「分かりました。我々が引き取ります」
「では失礼します」
許可なく生徒が外階段を使うことを禁じている。
特に男女の場合は罰則が厳しい。風紀の乱れを防ぐためと安全のためだ。鍵を開けて出入りしていたら、侵入者も隙をみて入ってしまう。鍵を掛け忘れることも有り得る。ここは貴族の子を預かる学園なので警備は重要課題なのだ。
そのまま帰ろうと馬車乗り場に到着すると、迎えに来ていたのはユリウスだった。
「ユリウス?…おかえり」
一泊のお出掛けから帰ってきていたのね。でも何でここに?
「迎えに来たよ」
「ルイーズ様達は?」
「セロー邸にいるよ」
「私も屋敷に帰らないと」
「伯爵には許可をとっているから大丈夫」
「…怒っています?」
「そう思う?」
ユリウスは私の手を引き馬車に乗せた。
3,253
お気に入りに追加
3,315
あなたにおすすめの小説

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
メカ喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

【完結】私の婚約者は、親友の婚約者に恋してる。
山葵
恋愛
私の婚約者のグリード様には好きな人がいる。
その方は、グリード様の親友、ギルス様の婚約者のナリーシャ様。
2人を見詰め辛そうな顔をするグリード様を私は見ていた。

【完結】初恋の人も婚約者も妹に奪われました
紫崎 藍華
恋愛
ジュリアナは婚約者のマーキースから妹のマリアンことが好きだと打ち明けられた。
幼い頃、初恋の相手を妹に奪われ、そして今、婚約者まで奪われたのだ。
ジュリアナはマーキースからの婚約破棄を受け入れた。
奪うほうも奪われるほうも幸せになれるはずがないと考えれば未練なんてあるはずもなかった。

【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました
迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」
大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。
毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。
幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。
そして、ある日突然、私は全てを奪われた。
幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?
サクッと終わる短編を目指しました。
内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる