【完結】魔がさした? 私も魔をさしますのでよろしく。

ユユ

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キャットファイト

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そのまま話を続けた。

「彼、“女達に気持ちはない。性欲の解消だったんだ、愛しているのは君だけだ”とか言いながら繕ってくるの」

カレス嬢がスプーンを力強く握りしめているのが分かる。

「だから浮気相手の家に婿入りしたらって勧めたけど、必死にやり直そうって懇願するの。
確か、彼の言う性欲処理に使っている可哀想な令嬢は子爵家だったはずだけど、令嬢だけじゃなくて家門にも然程魅力は無いのね」

カレス嬢は顔を下に向けて肩を震わせている。
向かいの令嬢は顔色が悪い。

「この間は馬車の中で娼婦に奉仕させていたわ。
娼婦の使い古した男なんて汚くて嫌よ。病気をうつされたかもしれないし。もうやり直せるはずないのに、昨日も“お願いだ”ってしつこくて。
はぁ~誰か引き取ってくれないかしら」

バシャーン

カレス嬢がコップの水を私に勢いよくかけた。

「ちょっと!エヴリンに何するのよ!!」

私はローゼに待ってと合図を送った。

「マリー!何やってるの!」

カレス嬢の逆隣の令嬢が立ち上がって私にハンカチを渡そうとして気が付いたらしい。向かいの令嬢と同じ顔色になった。

「侯爵家と繋がりたいから婿に選んだだけでしょう」

怒りに震える声で聞いてきた。

「うちは、キューレイ侯爵家と繋がって利を得たいという家門ではないの。求婚は一度お断りしたのよ。だけど彼が私との結婚を諦めなかったの。会えば何度も“好きだ 愛してる”と囁いていたわ。子供の頃からずっとよ。

だけど、もう彼に触れられるのは嫌だし、ランドール家の一員にするつもりはないから、どうぞ引き取って」

ピチャピチャピチャ…

カレス嬢の頭の上からゆっくりコップを傾けて水をかけた。

「冷たいっ!」

「これで水をかけられたことは無かったことにしてあげる。
もう図々しく私の隣の席に座ってわざと気持ち悪い話を聞かせてマウントを取ろうとしないでね。
私、本当にキューレイ侯爵家令息は要らないの。解消して欲しいの。向こうが同意しなかったら破棄の申し立てをするわ。そのときはあなたの名前が公表される。いつ何をしたのか赤裸々にね。是非、あなたからも彼を説得してもらいたいわ。できるでしょう?彼はあなたに夢中だって言っていたじゃない。頼んだわよ」

カレス嬢は走って何処かへ行ってしまった。
私はハンカチで軽く拭った後、食事の続きを始めた。

「エヴリン…」

「今日はスペシャルランチなのよ?」

「ふふっ そうね」

「でもお陰で彼が彼女に私達は政略結婚だと説明していたようだと知ることができたわ」

「本当に最低よね」

「食べ終わったら4年生のフロアを覗きに行くわ。面白い劇が楽しめそうだから」

だけど行っても何もなかった。カレス嬢が見当たらなかったのだ。お昼休みが終わってしまったので教室に戻った。



放課後に再挑戦した。

4年生のフロアに来たけど2人の姿は無かった。

「あの、カレス嬢は?」

「鞄があるから何処かにいると思うよ」

「ありがとうございます」

ということは、人目のつかない場所にいるのね。

廊下の端まで行くと揉めている声が聞こえてきた。
外階段に繋がる扉の向こうからだった。
そっと開けて覗くと、階段の下の角で揉めていた。

「何でエヴリンに近付いたんだ!」

「だって、あなたが機嫌悪そうだったから…週末の予定もキャンセルしたし。きっと彼女に振り回されていると思って…」

「最悪だ!」

「浮気がバレているなんて思わなかったのよ!
しかもあんなに気が強いだなんて!」

「君は子爵家で 彼女は富豪の伯爵家だぞ!敬意を払うのは君の方だろう!なのに水をかけた!?正気か!」

「政略結婚だって言っていたじゃないっ」

「はぁ…どうしてくれるんだ」

「うちに婿入りすればいいじゃない」

「君は婚約者がいるだろう!」

「男爵家よ?解消すればいいわ」

「エヴリンと別れるつもりはない!」

「っ!」

階段の上から大きな声でゼイン様に声を掛けた。

「私は別れるから!」

「!! エヴリン!!」

「私とは政略結婚なんですって?」

「ち、違うんだっ」

「まだ別れていないみたいですね。
また浮気現場を目撃できて嬉しいですわ」

「違う!違うよ、エヴリン!」

彼が階段を登り始めた。

「ゼイン・でいいじゃないですか。とてもお似合いですよ。さようなら」

「待って!」

急いで建物の中に入り扉を閉めて鍵をかけた。

ドンドンドン!

「エヴリン!開けてくれ!」

ドンドンドン!

騒ぎに気付いた4年生達がこちらを見ていた。

私は紐を引いて警備を呼ぶベルを鳴らした。

「どうしましたか!」

「校則を破って外で逢引きしている生徒がいます。
鍵をかけたのでまだ外に」

「分かりました。我々が引き取ります」

「では失礼します」

許可なく生徒が外階段を使うことを禁じている。
特に男女の場合は罰則が厳しい。風紀の乱れを防ぐためと安全のためだ。鍵を開けて出入りしていたら、侵入者も隙をみて入ってしまう。鍵を掛け忘れることも有り得る。ここは貴族の子を預かる学園なので警備は重要課題なのだ。


そのまま帰ろうと馬車乗り場に到着すると、迎えに来ていたのはユリウスだった。

「ユリウス?…おかえり」

一泊のお出掛けから帰ってきていたのね。でも何でここに?

「迎えに来たよ」

「ルイーズ様達は?」

「セロー邸にいるよ」

「私も屋敷に帰らないと」

「伯爵には許可をとっているから大丈夫」

「…怒っています?」

「そう思う?」

ユリウスは私の手を引き馬車に乗せた。
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