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聖女様vs聖女様

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【 国王エドワードの視点 】

姉の末息子イヴォンがティファニーとともにエミ殿を追い出して5ヶ月が経った。

「それで、どうなった」

「エミ様が去って数日後に枯れだした城内の泉の周りに咲いた花は、枯れたままでしたので処分しました。新たに咲く気配はございません。
泉の効果が薄れ、特に予言の泉はほとんど反応しません。慈悲の泉も軽傷しか治らなくなりました。豊穣の泉の水は普通の水よりまし程度になり、覚醒の泉は覚醒率が下がっております。
ほとんどの時間を聖女様に祈っていただいておりますが、エミ様の齎した効果は堕ちる一方です」

「ティファニー嬢が聖女なのは間違いないのか」

「はい。ですのでに差があって それが雲泥の差なのかと」

これまでの聖女の記録ではエミ殿ほどの結果を残した聖女はいない。そしてティファニー嬢ほど力の弱い聖女も初めてだ。

“呪い”

召喚したばかりの聖女は違う呪いがかかるのではと脅した。

「民の反応は」

「イヴォン殿下とティファニー嬢を引き渡せと騒いでおります。2人の首を捧げればエミ様が戻ってきてくださると思っているようです。
城の者達は職務は果たしますが、お二人に関しては必要最低限という態度を崩しません。
ティファニー嬢の実家は大変です。外壁の周りにゴミを捨てに来たり動物の死骸を置いたり。夜中に火炎瓶を投げ込まれたりと嫌がらせの域を越えてきているので外出もままなりません。

領地もタウンハウスもということで私兵が足りず、傭兵に依頼を出したようですが、どこも断られたそうです」

「そうか」

「もう一つご報告がございます。
アドニスから魔法使いが戻ってきました。書簡によると効果があったので当面は派遣は保留にして、またいずれ力を借りたいとのことです」

「……」

「おそらく…」

「エミ殿がいるのだな」

「どうしましょうか」

「イヴォンを処罰するしかない。姉上に手紙を書こう」

我らは呪いなどという言葉に逃げてはいけない。


姉上にティファニーの実家を訪ねてみろと手紙を送った数日後に謁見の申し入れがあり、現れた姉上夫妻の顔色は悪かった。

「異世界から無理矢理連れてきた聖女様は歴代でも群を抜いて優秀だった。その聖女様を勝手にイヴォンが追い出してしまった。ティファニー嬢の能力は過去最低のもので、このままだと反乱が起きてしまうだろう。聖女様の追放は大罪だ。分かるな?」

「はい、陛下……せめてあまり苦しまないようお願いします」


緊急会議を開き、イヴォンのしたことと現状を説明した。

「シャルルは婚約破棄、イヴォンは勝手な国外追放。次の跡継ぎ指名をどうするか悩んだが、スルス王国がこだわるのは聖女様だ。また血筋を重視して王子にして失敗したくない。だから宰相、其方の家門から出してはくれぬか」

「うちの息子を王子にですか」

「そうだ。次期国王だ」

「王子妃は、」

「聖女様を娶ることもない。相手もそのままでいい。
どちらかより適性のある方を指名したい。引き受けてくれるか」

「少しお時間をいただけますか」

「もちろんだ。調整が必要であろう」



後日、宰相の長男アデラールが王家に入り、その妻リーゼも連れ添った。

イヴォンは公開処刑。麻薬を与え幻想の中にいる最中に首を刎ねた。

ティファニーは監視付きの監禁。祈りの時にだけ城内の泉に出す。一度馬車から下さずに実家を見に行かせた。それ以降は本人も部屋から出ようとしない。



「陛下」

「どうした アデラール」

「アドニスに行かせてください」

「行ってどうするのだ」

「先ずは聖女に謝罪をします。そして国外追放がイヴォンの独断だったことの説明と、その後のこと報告させていただきます」

「会えるだろうか」

「さあ、どうでしょう。ですが悪いことをしたら謝る。当たり前のことをするだけです」

「よろしく頼む」

「お任せください」



【 ティファニーの視点 】

イヴォンとは同じ歳で学園のクラスも一緒だった。
本当は彼が嫌いだ。性格が悪い。女は美しくないと価値なしという考えの持ち主だった。
ニキビが多くなってきたから婚約解消、少し太ったから婚約解消、そんなことを数度繰り返している男だった。

それが通るのも彼の母が国王陛下の姉だから。
しかも婚姻契約書には“常に美しくいること”と記載があるらしい。馬鹿みたい。
夜会などで誘われるが断り続けてきた。婚約していて良かった。

聖女様が現れてもうすぐ5年が経とうとしていた。
妹が覚醒の泉に入りたいと言うので付き添うと、怖いから一緒に入ってとせがまれた。妹と同じ年頃に入って覚醒無しと知っていた。

先に泉に入ると天から薄い光が差し込み私を包んだ。

“聖女様よ!”

“2人目の聖女様だ!”

そして城に連れてこられ、泉に祈りを捧げたあと、婚約は解消となった。聖女は乙女でなくてはならない。

その後に告げられたのは王子になったイヴォンとの婚約だった。私とは白い結婚、イヴォンは嬉々と美しい令嬢が現れると娶るのだろう。

だけど平凡な家門出身の私には夢のような生活だった。やることは祈るだけ。妃教育は受けなくていいらしい。値の張るドレスを仕立て、美しい宝石を身に付け、使うもの全てが高級品、傅く者達。私は傲慢になってしまった。

イヴォンは美しいと褒めてくれる。だけど嫌いなイヴォンと寝なくてすむ。最高だった。

だけど一つ私とイヴォンには気になることがあった。人々の心を掴んでいたのは異世界からの聖女だったこと。

イヴォンが会うと言い出し、会ってみると初めてみる顔立ちに戸惑った。興味なさそうな顔をしているが、平民と聞いたのにまるで私達に怯む様子は無い。

イヴォンは嫌悪感をそのままぶつけて追放してしまった。私も彼女がいなければ完璧な聖女になれると思っていた。


陛下からはキツく叱られ、監禁された。

数日後、

聖女あなた様が咲かせたと主張していた 泉に咲く花は枯れました」

「え?」

「花を咲かせたのはエミちゃんだと証明できました」

それだけ言って食事を置いてメイドが退がった。

ゾッとした。


とにかく泉に祈ったが他の泉の効果も衰退していく。

ある時、馬車に乗せられると実家の前で止まった。

「何これ!酷いわ!」

「民意というものです。これはまだ過程に過ぎないでしょう。これから毒味役を募りますが、高給を提示しても引き受ける者がいないかもしれません。その時は動物か死刑囚に与えます。外出には鎧を身に付けていただきます」

「…はい」

馬車は城へ引き返した。


その日からカーテンも開けられず食事も怖くて仕方ない。メイドも警備の兵士も怖くて仕方ない。


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