17 / 19
都合よくとらえる女
しおりを挟む
【 アンジェルの視点 】
数ヶ月前。
私を捨てるなんて許せない。全てはミアーナのせい。だからミアーナに手紙を送った。直ぐに返事が届いた。何が書いてあるかと緊張しながら開封すると意外な内容だった。
『お父様!お母様!』
『みっともないから騒ぐな』
『はしたないわよ』
『ミアーナが、侯爵家に迎えると手紙を寄越してきたのです!』
バシッ
『何故叩くのですか!』
『ロテュス夫人と呼びなさい。そして敬いなさい。夫人は伯爵家出身の侯爵家の嫁なのです。貴女如きが呼び捨てていい理由は一つもありません。それにこの手紙の通りなら、貴女は侯爵家の方々にお仕えする立場です』
『そうだぞ。妾は夫人とは違って、男児を産まなければ何の価値も無い存在だ』
『……』
『しかし、まずいぞ。金は使ってしまった』
『そうね』
『どういうことですか』
『お前を迎えることなく別れたから金をくれたんだ。迎えることになったのなら全額返金しなくてはならない。
もう返済に充ててしまったから返せない』
『お断りするしかないわね』
『嫌よ!絶対に嫌!』
『一先ず、先方の出方を待とう』
直ぐにディオン様が訪ねて来てくれたのに、私は部屋に閉じ込められた。
窓からロテュス家の馬車を見つめていると、30分もしないうちにディオン様が帰ってしまった。
そして直ぐ、部屋のドアが開き、お父様が近寄って来た。
『キャアっ!』
引き倒され、散々蹴られた。
『お前は、あんな手紙をロテュス夫人に送り付けていただなんて!何てことをしたんだ!ロテュス家とリスフィユ家を敵に回してしまったではないか!!』
『お…父様』
『話はついた。夫人が譲らないそうだ。だから来てもいいが居候扱いにするようだ』
『居候?』
『食事だけ提供するから、後は子爵家で用意しろとのことだ。メイドをひとり付けて料理以外のお前の全てをさせる。荷物を纏めろ』
『は…い』
『お前がロテュス邸で購入する物は全て子爵家に請求が来る。だから何も購入するな。
必要な物があればメイドを通して手紙を出せ。こっちから支給する。薬も、石鹸も、化粧品も何もかもロテュス家からは与えてもらえない。タオルやシーツ、枕も持っていけ』
『そんな、』
『金が返せない以上仕方ない。返せと言われないだけ良かった』
『……』
『いいか。夫人に逆らうな。万が一、お情けをもらえたとしても夫人に気付かれないよう気を遣え。ひっそりと息を殺す様にして滞在しろ。分かったな』
『……』
『問題を起こせば今度こそ除籍にするぞ。屋敷には絶対に入れないからそのつもりで行くように』
『…はい』
荷造りは、本当に石鹸から枕まで詰め込まれた。
見窄らしいドレスや下着ばかりだが、買ってもらえなかった。
指輪を売ればいいと言われたけど、これはあの女に対抗する大事な物だから売らなかった。
引越しの日、ロテュス邸に到着すると、使用人達の冷たさに驚いた。私は子爵家の令嬢でディオン様の恋人なのに。
ミアーナさえ出迎えに現れないまま、メイド長が挨拶もそこそこにあり得ないことを口にした。
『アンジェル様、メイドはお一人と伺いましたが』
『そうよ』
『お一人でこの量の荷物を運ばせるのは可哀想です。半分運んで差し上げてください』
『は?』
『これから彼女一人で全てお世話をするのに、体を傷めてはアンジェル様がお困りになります』
『貴女達の仕事じゃない!』
『いいえ。アンジェル様は“客人ではなく居候”だとディオン様から伺っております。そして食事の提供以外は全てアンジェル様の専属メイドとご本人がなさると』
『それでも侯爵家の使用人なの!?私は子爵令嬢なのよ!』
『我らはロテュス侯爵家で雇われております。侯爵家の意向に従いますし、あんなに優しくて素敵な若奥様を傷付ける輩には従うつもりはございません。これは使用人一同の総意となります。
ディオン様が後で紹介なさると仰っておりました。それまでにお済ませください』
メイド長は、メイドをひとり残して去った。
残された侯爵家のメイドは部屋の案内をするだけで荷物を運ばなかった。
『シーツなどもご持参いただくとのことでしたので、こちらの部屋にはカーテンと家具、灯りのみご用意しております。花瓶や桶はあちらにしまっておりますので、ご使用は自由ですが、壊すと弁償になりますのでお気を付けてください。掃除道具も入っております。
昼食の時間に食事を運ばせます。では、失礼します』
メイドは出て行ってしまった。
二十往復以上もして荷を運び入れたが、荷解きが終わる前に食事が運ばれた。
『お嬢様、この位置は侯爵令息様のお部屋から近いそうです』
『本当?』
『はい。配置図を確認しました』
チャンスね。
そしてディオン様がミアーナと使用人を集めて紹介と説明をしてくれたが、惨めな気持ちになった。
部屋自体は豪華だけど、使う物は子爵家の安い物。
ミアーナはさぞ高級品を使っているのだろう。
数ヶ月前。
私を捨てるなんて許せない。全てはミアーナのせい。だからミアーナに手紙を送った。直ぐに返事が届いた。何が書いてあるかと緊張しながら開封すると意外な内容だった。
『お父様!お母様!』
『みっともないから騒ぐな』
『はしたないわよ』
『ミアーナが、侯爵家に迎えると手紙を寄越してきたのです!』
バシッ
『何故叩くのですか!』
『ロテュス夫人と呼びなさい。そして敬いなさい。夫人は伯爵家出身の侯爵家の嫁なのです。貴女如きが呼び捨てていい理由は一つもありません。それにこの手紙の通りなら、貴女は侯爵家の方々にお仕えする立場です』
『そうだぞ。妾は夫人とは違って、男児を産まなければ何の価値も無い存在だ』
『……』
『しかし、まずいぞ。金は使ってしまった』
『そうね』
『どういうことですか』
『お前を迎えることなく別れたから金をくれたんだ。迎えることになったのなら全額返金しなくてはならない。
もう返済に充ててしまったから返せない』
『お断りするしかないわね』
『嫌よ!絶対に嫌!』
『一先ず、先方の出方を待とう』
直ぐにディオン様が訪ねて来てくれたのに、私は部屋に閉じ込められた。
窓からロテュス家の馬車を見つめていると、30分もしないうちにディオン様が帰ってしまった。
そして直ぐ、部屋のドアが開き、お父様が近寄って来た。
『キャアっ!』
引き倒され、散々蹴られた。
『お前は、あんな手紙をロテュス夫人に送り付けていただなんて!何てことをしたんだ!ロテュス家とリスフィユ家を敵に回してしまったではないか!!』
『お…父様』
『話はついた。夫人が譲らないそうだ。だから来てもいいが居候扱いにするようだ』
『居候?』
『食事だけ提供するから、後は子爵家で用意しろとのことだ。メイドをひとり付けて料理以外のお前の全てをさせる。荷物を纏めろ』
『は…い』
『お前がロテュス邸で購入する物は全て子爵家に請求が来る。だから何も購入するな。
必要な物があればメイドを通して手紙を出せ。こっちから支給する。薬も、石鹸も、化粧品も何もかもロテュス家からは与えてもらえない。タオルやシーツ、枕も持っていけ』
『そんな、』
『金が返せない以上仕方ない。返せと言われないだけ良かった』
『……』
『いいか。夫人に逆らうな。万が一、お情けをもらえたとしても夫人に気付かれないよう気を遣え。ひっそりと息を殺す様にして滞在しろ。分かったな』
『……』
『問題を起こせば今度こそ除籍にするぞ。屋敷には絶対に入れないからそのつもりで行くように』
『…はい』
荷造りは、本当に石鹸から枕まで詰め込まれた。
見窄らしいドレスや下着ばかりだが、買ってもらえなかった。
指輪を売ればいいと言われたけど、これはあの女に対抗する大事な物だから売らなかった。
引越しの日、ロテュス邸に到着すると、使用人達の冷たさに驚いた。私は子爵家の令嬢でディオン様の恋人なのに。
ミアーナさえ出迎えに現れないまま、メイド長が挨拶もそこそこにあり得ないことを口にした。
『アンジェル様、メイドはお一人と伺いましたが』
『そうよ』
『お一人でこの量の荷物を運ばせるのは可哀想です。半分運んで差し上げてください』
『は?』
『これから彼女一人で全てお世話をするのに、体を傷めてはアンジェル様がお困りになります』
『貴女達の仕事じゃない!』
『いいえ。アンジェル様は“客人ではなく居候”だとディオン様から伺っております。そして食事の提供以外は全てアンジェル様の専属メイドとご本人がなさると』
『それでも侯爵家の使用人なの!?私は子爵令嬢なのよ!』
『我らはロテュス侯爵家で雇われております。侯爵家の意向に従いますし、あんなに優しくて素敵な若奥様を傷付ける輩には従うつもりはございません。これは使用人一同の総意となります。
ディオン様が後で紹介なさると仰っておりました。それまでにお済ませください』
メイド長は、メイドをひとり残して去った。
残された侯爵家のメイドは部屋の案内をするだけで荷物を運ばなかった。
『シーツなどもご持参いただくとのことでしたので、こちらの部屋にはカーテンと家具、灯りのみご用意しております。花瓶や桶はあちらにしまっておりますので、ご使用は自由ですが、壊すと弁償になりますのでお気を付けてください。掃除道具も入っております。
昼食の時間に食事を運ばせます。では、失礼します』
メイドは出て行ってしまった。
二十往復以上もして荷を運び入れたが、荷解きが終わる前に食事が運ばれた。
『お嬢様、この位置は侯爵令息様のお部屋から近いそうです』
『本当?』
『はい。配置図を確認しました』
チャンスね。
そしてディオン様がミアーナと使用人を集めて紹介と説明をしてくれたが、惨めな気持ちになった。
部屋自体は豪華だけど、使う物は子爵家の安い物。
ミアーナはさぞ高級品を使っているのだろう。
1,822
お気に入りに追加
2,276
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる