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弟王子の婚約解消と恋
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【 サリフィスの視点 】
リュシアンも卒業後に直ぐ婚約した。
その令嬢は狡猾だった。事前調査では問題なかったのに、婚約が決まり環境が変わると豹変した。
影で私や王太子妃の噂を流したり、リュシアンが国王に相応しいと印象操作しようとしていた。
リュシアンは国王夫妻、私、婚約者とその家族を呼び、3枚の書類を用意していた。
『ダナ・リドガー。其方は何故私と結婚しようと思ったのか教えてくれ』
『リュシアン様をお慕いしているからですわ』
『王妃になりたいからでは?』
『王妃に興味はございません』
『純粋に慕っていると?』
『はい。きっかけは王家からの打診でございました。ですが交流を重ねるうちにリュシアン様を好きになりました。
身分や地位は関係ございません』
そこで書類を置いた。
『良かった。
王位継承権の放棄書と除籍願いと婚姻届だ。
実は変な噂が流れていてな。
兄上夫婦に関する悪意ある噂と、私が次期国王になると望んでいるという噂だ。
どちらも事実無根ではあるが、放っておけるものではない。周りを巻き込んで死人が出てしまう。
そこで禍根を断つことにした。
継承権を放棄し王族を抜けて其方と結婚しようと思う』
『なっ!』
『婚姻届に署名してくれ。
平民になってしまうが多少資産はある。贅沢をしなければ生きていける。
もし貴族に拘るならリドガー侯爵が持っている男爵位を譲ってもらおう』
侍従が婚姻届とペンを令嬢の前に置いた。
リュシアンは王位継承権の放棄書に署名し、次は除籍願いに署名しようとした。
『信じられない!この私に平民か男爵夫人になれと言うの!
冗談じゃないわ!何のために異国の色をしたあんたと婚約したと思っているのよ!
破棄するわ!』
『慕っているというのは?』
『そんな訳ないじゃない!
折角あんたが国王になれるようお膳立てをしてやったのに!』
令嬢はビリビリと婚姻届を破り捨てた。
『じゃあ、婚約解消でいいね?』
『もちろんよ!』
リュシアンが合図をすると侍従が書類を差し出した。婚約を解消するための同意書だ。
令嬢はすぐ署名した。続いてリュシアンも署名して国王に渡した。
『お父様、お母様、帰りましょう!』
ダナは立ち上がって出入口へ向かって歩き出した。
ビリビリ ビリビリ
紙を破く音に令嬢達が振り向いた。
『帰っていいぞ。解消の同意書は提出したから。縁も何もない他人だ』
『ソレは?』
『継承権放棄書と除籍願いだ』
『何で破いてるの?』
『提出しないからだよ』
『署名したんだから平民でしょう?』
『署名しただけでは効力はないよ。しかも私だけの署名じゃ。
国王陛下に提出して、国王陛下と王妃もしくは宰相の署名が無いと効力はない』
『は?』
『継承や藉は私と国の問題で、婚約は私と君の問題だ。王命で成された婚約ではないから当人同士が署名したらそこで成立になる』
『騙したのね!』
『試したと言ってくれないか。
こんなことはしたくなかったが、王族を混乱に導こうとした噂の根源が君だったから、仕方なく試させてもらった。
君が平民でも男爵でもかまわないと言ってくれたら厳重注意で終わらすつもりだった。
でも君は本性を表して、罪も認めてくれたから。国王になれるようにお膳立てしてくれたんだよな?』
『っ!!』
『部屋を出たら地下牢に案内してやる。
反逆罪だ』
『そんな!リュシアン様!』
『ついさっきまで“あんた”って呼んでいたじゃないか。名前なんて呼ばなくていい。
異国の色をした私と夫婦になるのは嫌なんだろう?
悪かったね。無理強いした婚約じゃなかったけど、嫌な思いをさせたようだ。
二度と君と婚約することはないから安心して処刑されてくれ』
『処刑?』
『侯爵夫妻はこれから取り調べて決めるけど君は確定だ。反逆罪なんだから当然だろう』
『違う!違うの!』
自白付きだったので令嬢は翌日処刑され、侯爵は無罪、侯爵夫人は有罪で処刑された。
リドガー家は子爵位まで落ちた。
それから婚約者は要らないと言っていたリュシアンが剣術大会で王族席ではなく、すぐ下の特等席にいた。
様子を見ていると気があるのだと分かった。
何かと話しかけ、ハンカチを見て、そのうちイチャつきだした。耳も首も赤い。多分顔は真っ赤なのだろう。
そして女の子を抱き上げて退がってしまった。
後で聞いたら侯爵令嬢で酒を飲ませたら酔ったらしい。
平民の服を着た侯爵令嬢は、リュシアンの側近ディオス・プルシアの妹で、カルヴァロス公爵家の嫡男の婚約者候補として王都の公爵邸に滞在しているらしい。
その後、度々登城させて刺繍の指導をさせたりメニューの考案をしているようだ。
それがとても美味かった。
『リュシアン、どうするつもりだ?』
『カルヴァロスが縁談申し込みをして呼び付けたのに冷遇しているようです。
明日、侯爵が王都に着きます』
申し込んでおいて冷遇!?
何故そんな無駄なことを。敵しか作らないだろう。それに家出を手伝い王宮騎士団の尋問に口を割らなかった男の妹だぞ!?
そこは知らないんだろうが。
プルシア侯爵が到着して、初めて一緒に食事をした。
可愛い子だ。初めてドレス姿を見た。
リュシアンにブドウを食べさせてもらって嬉しそうだ。私も食べさせてみたいな。
王妃には難しいだろうが側妃ならと想像をしてしまった。もちろんそんなことはしない。
リュシアンが諦めなければ。
しかし、王太子妃の様子がおかしいな。
……そうか、カルヴァロスと繋がるのか。
翌朝、王太子妃に忠告した。
『ヘレン。
ダナ・リドガーのようになりたくなければカルヴァロス家とは適切な距離をとれ』
『私には人としての助言しかできませんわ』
接触があったのだな。
『当面会ったり連絡を取るのは止めておいたほうがいい。板挟みになるぞ』
『そうですわね』
リュシアンも卒業後に直ぐ婚約した。
その令嬢は狡猾だった。事前調査では問題なかったのに、婚約が決まり環境が変わると豹変した。
影で私や王太子妃の噂を流したり、リュシアンが国王に相応しいと印象操作しようとしていた。
リュシアンは国王夫妻、私、婚約者とその家族を呼び、3枚の書類を用意していた。
『ダナ・リドガー。其方は何故私と結婚しようと思ったのか教えてくれ』
『リュシアン様をお慕いしているからですわ』
『王妃になりたいからでは?』
『王妃に興味はございません』
『純粋に慕っていると?』
『はい。きっかけは王家からの打診でございました。ですが交流を重ねるうちにリュシアン様を好きになりました。
身分や地位は関係ございません』
そこで書類を置いた。
『良かった。
王位継承権の放棄書と除籍願いと婚姻届だ。
実は変な噂が流れていてな。
兄上夫婦に関する悪意ある噂と、私が次期国王になると望んでいるという噂だ。
どちらも事実無根ではあるが、放っておけるものではない。周りを巻き込んで死人が出てしまう。
そこで禍根を断つことにした。
継承権を放棄し王族を抜けて其方と結婚しようと思う』
『なっ!』
『婚姻届に署名してくれ。
平民になってしまうが多少資産はある。贅沢をしなければ生きていける。
もし貴族に拘るならリドガー侯爵が持っている男爵位を譲ってもらおう』
侍従が婚姻届とペンを令嬢の前に置いた。
リュシアンは王位継承権の放棄書に署名し、次は除籍願いに署名しようとした。
『信じられない!この私に平民か男爵夫人になれと言うの!
冗談じゃないわ!何のために異国の色をしたあんたと婚約したと思っているのよ!
破棄するわ!』
『慕っているというのは?』
『そんな訳ないじゃない!
折角あんたが国王になれるようお膳立てをしてやったのに!』
令嬢はビリビリと婚姻届を破り捨てた。
『じゃあ、婚約解消でいいね?』
『もちろんよ!』
リュシアンが合図をすると侍従が書類を差し出した。婚約を解消するための同意書だ。
令嬢はすぐ署名した。続いてリュシアンも署名して国王に渡した。
『お父様、お母様、帰りましょう!』
ダナは立ち上がって出入口へ向かって歩き出した。
ビリビリ ビリビリ
紙を破く音に令嬢達が振り向いた。
『帰っていいぞ。解消の同意書は提出したから。縁も何もない他人だ』
『ソレは?』
『継承権放棄書と除籍願いだ』
『何で破いてるの?』
『提出しないからだよ』
『署名したんだから平民でしょう?』
『署名しただけでは効力はないよ。しかも私だけの署名じゃ。
国王陛下に提出して、国王陛下と王妃もしくは宰相の署名が無いと効力はない』
『は?』
『継承や藉は私と国の問題で、婚約は私と君の問題だ。王命で成された婚約ではないから当人同士が署名したらそこで成立になる』
『騙したのね!』
『試したと言ってくれないか。
こんなことはしたくなかったが、王族を混乱に導こうとした噂の根源が君だったから、仕方なく試させてもらった。
君が平民でも男爵でもかまわないと言ってくれたら厳重注意で終わらすつもりだった。
でも君は本性を表して、罪も認めてくれたから。国王になれるようにお膳立てしてくれたんだよな?』
『っ!!』
『部屋を出たら地下牢に案内してやる。
反逆罪だ』
『そんな!リュシアン様!』
『ついさっきまで“あんた”って呼んでいたじゃないか。名前なんて呼ばなくていい。
異国の色をした私と夫婦になるのは嫌なんだろう?
悪かったね。無理強いした婚約じゃなかったけど、嫌な思いをさせたようだ。
二度と君と婚約することはないから安心して処刑されてくれ』
『処刑?』
『侯爵夫妻はこれから取り調べて決めるけど君は確定だ。反逆罪なんだから当然だろう』
『違う!違うの!』
自白付きだったので令嬢は翌日処刑され、侯爵は無罪、侯爵夫人は有罪で処刑された。
リドガー家は子爵位まで落ちた。
それから婚約者は要らないと言っていたリュシアンが剣術大会で王族席ではなく、すぐ下の特等席にいた。
様子を見ていると気があるのだと分かった。
何かと話しかけ、ハンカチを見て、そのうちイチャつきだした。耳も首も赤い。多分顔は真っ赤なのだろう。
そして女の子を抱き上げて退がってしまった。
後で聞いたら侯爵令嬢で酒を飲ませたら酔ったらしい。
平民の服を着た侯爵令嬢は、リュシアンの側近ディオス・プルシアの妹で、カルヴァロス公爵家の嫡男の婚約者候補として王都の公爵邸に滞在しているらしい。
その後、度々登城させて刺繍の指導をさせたりメニューの考案をしているようだ。
それがとても美味かった。
『リュシアン、どうするつもりだ?』
『カルヴァロスが縁談申し込みをして呼び付けたのに冷遇しているようです。
明日、侯爵が王都に着きます』
申し込んでおいて冷遇!?
何故そんな無駄なことを。敵しか作らないだろう。それに家出を手伝い王宮騎士団の尋問に口を割らなかった男の妹だぞ!?
そこは知らないんだろうが。
プルシア侯爵が到着して、初めて一緒に食事をした。
可愛い子だ。初めてドレス姿を見た。
リュシアンにブドウを食べさせてもらって嬉しそうだ。私も食べさせてみたいな。
王妃には難しいだろうが側妃ならと想像をしてしまった。もちろんそんなことはしない。
リュシアンが諦めなければ。
しかし、王太子妃の様子がおかしいな。
……そうか、カルヴァロスと繋がるのか。
翌朝、王太子妃に忠告した。
『ヘレン。
ダナ・リドガーのようになりたくなければカルヴァロス家とは適切な距離をとれ』
『私には人としての助言しかできませんわ』
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