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【 王太子妃 】
朝、カルヴァロス公爵夫人と子息から緊急の相談があると手紙が届いた。
30分だけならと返事をすると、直ぐに登城してきた。
カルヴァロス夫人は母の姉だ。
「叔母様、ウィリアム様、お久しぶりです」
「ヘレン王太子妃殿下にご挨拶とお礼を申し上げます」
「ヘレン王太子妃殿下にご挨拶申し上げます」
「お茶を淹れるから、おかけになってください。
緊急の相談事とは何でしょうか」
「実は、ウィリアムの婚約者候補を選定しました。コナー公爵家のエリザベス嬢とモンティ侯爵家のミランダ嬢を候補にして当家で過ごしてもらい、どちらか選ぶことにしました」
「品定めをしたわけですね?」
「はい。
それで、二人となると真っ向から揉めると思い、少しでも矛先がずれたらと、娶るつもりのない令嬢を一人加えました」
「………」
「それがプルシア侯爵家のララ嬢です。
事前調査で学園も通わず贅沢を好む令嬢だと報告が届いていて、態と冷遇してララ嬢が不満を言ったりするようにしました」
「それはまた……すごい発想ですね。夫人も公爵も同意をなさったのですか?」
「具体的には話していませんでした。二人を候補として選びましたが、揉めやすいから三人にすると伝えました。
そして、実際のララ嬢は贅沢など好まない、しっかりした教育が成され身に付けた令嬢でした」
どんな扱いをしたのかウィリアムが説明をした。
「酷いわ」
「「申し訳ございません」」
「私に謝る必要はないわ。それで?」
「最近はその待遇を改善しようと努めました。部屋の変更やメイドの追加などは断られてしまいました」
「何故改善しようと?」
「……」
「今更 好きになったのね?」
「はい。惹かれていることに気がつきました」
「それで?」
「冷遇がプルシア侯爵令息にバレて、昨夕、抗議を受けました。そして今日、侯爵が王都に到着予定だから覚悟するようにと」
「連れ戻されるなり、破談になりそうなのね」
「はい、王太子妃殿下」
「困ったわね。プルシア侯爵令嬢は城でも評判がいいのよ。領地で雇っていた教師陣は皆様優秀な方ばかりで学園に行かずとも問題無い程だと言われているし。
今やリュシアン殿下のお気に入りと言われているわ。
令嬢嫌いと言われるようになった、あのリュシアン殿下のお気に入りよ?
それに、プルシア執務室副長はリュシアン殿下の信頼を勝ち得ていて評判もいいの。
プルシア家が王都に屋敷を構えないのは夫人が王都嫌いだからよ。侯爵は王城勤務ではないし、敢えて構えないの。領地とここは近いもの。
はぁ。親元で大事に育てられた16歳の女の子を呼び付けておいてそんなことをしたら怒るわね。私の家族がそんなことをされたら許さないわね」
「「……」」
「それに、外聞も悪いわね。
外に漏れたら無傷では済まないはずよ。
娘を持つ家門や高潔な家門は距離を取るかもしれないわ。
もうバレたならしっかり謝るしかないし、身を引く覚悟も必要よ。
そもそも候補なんて何の強制力も無いのよ?
公爵夫人になりたいとか、ウィリアム様が好きで妻になりたいと思っている相手だから成り立つことよ?」
「好きになったのです。
笑顔の可愛い子なのに、あんな待遇をして…愚かでした。
一緒に平民向けの服の店に行って買い物をしたり、朝、王立公園に行ってピクニックをしたり、馬や庭の池の鯉に一緒に餌をあげたりして、名前で呼んでもらえるようにもなって。
楽しくて、嬉しくて、胸が締め付けられるのです」
「誠実が一番よ。嘘偽りを述べず、しっかり謝って、今の気持ちを伝えるしかないわ。
チャンスをくださいと懇願するのね。
令嬢はどう考えているのか午後に聞いて手紙を届けさせるわ。
リュシアン殿下の後ろ盾を得ていたら、そのくらいしか出来ないの」
「ありがとうございます」
午後になり、ララ・プルシア嬢が登城したと聞いて呼んでもらった。
「初めまして、プルシア侯爵令嬢」
「お初にお目にかかります。ララ・プルシアと申します」
確かに可愛い子ね。
「ララ様の本心が聞きたいの。よろしいかしら」
「質問によりますが、出来るだけお答えいたします」
気が強いのね。
「貴女はカルヴァロス公爵家のウィリアム様の婚約者候補だと聞いたのだけど、リュシアン殿下とも親しいとか。どちらが本命なのかしら」
「まず、リュシアン殿下には親切にしていただいておりますが、兄の影響ですわ。
素敵な方だと思いますが私のような者には尊すぎます。
そして確かにカルヴァロス家ウィリアム様の婚約者候補という名目で呼ばれましたが、実際は候補にさえなっておりません。私は他の候補2名のために用意されたネズミです。
行く前に辞退を希望しましたが両親が、今回の期間だけでもと言って送り出されました。
選定期間が終わればクビですから、それでお終いです」
「選ばれたら?」
「まさか。そんなことはあり得ません。
公爵令息は私に費やす時間は、数合わせで呼んだだけだから無駄だと仰いました」
え!?
「直接聞いたのかしら」
「はい。この耳で聴きました。
王太子妃様はご親戚にあたるので心配なさっておられるのですね。
ご安心ください。公爵夫人になろうとか、公爵令息の寵愛を手に入れようとか、そんなことは微塵も思っておりませんわ。
公爵令息は本命の令嬢方とは違った、ネズミ役の私に相応しいおもてなしをしてくださいました。
私はそれに応えております。
私の連れてきた使用人達にも服を買って家ださったので、それが対価だと思って全うしたらご縁を切らせていただくことになります」
「……ありがとう。もう、戻っていいわ」
「失礼いたします」
【 カルヴァロス家 】
王太子妃殿下から手紙が届いた。
夫人、ウィリアムが執事から手紙を渡された。
“カルヴァロス公爵夫人
対象者を手に入れるのは困難です。
ご令息自ら、対象者に費やす時間は、数合わせで呼んだだけだから無駄と言ってしまっては。
ネズミ役を全うして縁を切るそうです。
残念です”
夫人はメッセージカードを握りつぶした。
「ウィリアム、貴方、ララ嬢に、数合わせで呼んだだけだから彼女に時間を使うのは無駄と言ったらしいわね。そんなことを言ったらお終いじゃないの!」
「言っておりません。言うわけないじゃないですか!」
「ララ嬢がウィリアムにそう言われたと王太子妃殿下に話したそうよ。
“ネズミ役”という言葉が出てくると言うことは、どういう目的で縁談を申し入れて呼び付けたのか知っているのよ」
「そんな馬鹿な…言うわけがありません!」
「ぼっちゃま。もしかして、早朝に庭で我々の会話を聞いてしまったのではありませんか。ララ様の到着なさった翌朝、夜が明けてまだそれほど時間が経っていない時間帯に池の近くで話をしたではありませんか。
到着したララ様にご挨拶はしなくていいのですかとお伺いしたところ、ぼっちゃまは、必要無い、事前調査で贅沢三昧の我儘令嬢で、他の二人のために呼んだだけでララ様を選ぶことはない、ドレスを買い与えるのは無駄だから断れと仰いました。
それを聞いていたとしたら……」
「ウィリアム!何で令嬢の部屋の近くでそんな話をしたの!」
「聞かれていた……」
「王太子妃殿下にお詫びの手紙を書かなくては」
朝、カルヴァロス公爵夫人と子息から緊急の相談があると手紙が届いた。
30分だけならと返事をすると、直ぐに登城してきた。
カルヴァロス夫人は母の姉だ。
「叔母様、ウィリアム様、お久しぶりです」
「ヘレン王太子妃殿下にご挨拶とお礼を申し上げます」
「ヘレン王太子妃殿下にご挨拶申し上げます」
「お茶を淹れるから、おかけになってください。
緊急の相談事とは何でしょうか」
「実は、ウィリアムの婚約者候補を選定しました。コナー公爵家のエリザベス嬢とモンティ侯爵家のミランダ嬢を候補にして当家で過ごしてもらい、どちらか選ぶことにしました」
「品定めをしたわけですね?」
「はい。
それで、二人となると真っ向から揉めると思い、少しでも矛先がずれたらと、娶るつもりのない令嬢を一人加えました」
「………」
「それがプルシア侯爵家のララ嬢です。
事前調査で学園も通わず贅沢を好む令嬢だと報告が届いていて、態と冷遇してララ嬢が不満を言ったりするようにしました」
「それはまた……すごい発想ですね。夫人も公爵も同意をなさったのですか?」
「具体的には話していませんでした。二人を候補として選びましたが、揉めやすいから三人にすると伝えました。
そして、実際のララ嬢は贅沢など好まない、しっかりした教育が成され身に付けた令嬢でした」
どんな扱いをしたのかウィリアムが説明をした。
「酷いわ」
「「申し訳ございません」」
「私に謝る必要はないわ。それで?」
「最近はその待遇を改善しようと努めました。部屋の変更やメイドの追加などは断られてしまいました」
「何故改善しようと?」
「……」
「今更 好きになったのね?」
「はい。惹かれていることに気がつきました」
「それで?」
「冷遇がプルシア侯爵令息にバレて、昨夕、抗議を受けました。そして今日、侯爵が王都に到着予定だから覚悟するようにと」
「連れ戻されるなり、破談になりそうなのね」
「はい、王太子妃殿下」
「困ったわね。プルシア侯爵令嬢は城でも評判がいいのよ。領地で雇っていた教師陣は皆様優秀な方ばかりで学園に行かずとも問題無い程だと言われているし。
今やリュシアン殿下のお気に入りと言われているわ。
令嬢嫌いと言われるようになった、あのリュシアン殿下のお気に入りよ?
それに、プルシア執務室副長はリュシアン殿下の信頼を勝ち得ていて評判もいいの。
プルシア家が王都に屋敷を構えないのは夫人が王都嫌いだからよ。侯爵は王城勤務ではないし、敢えて構えないの。領地とここは近いもの。
はぁ。親元で大事に育てられた16歳の女の子を呼び付けておいてそんなことをしたら怒るわね。私の家族がそんなことをされたら許さないわね」
「「……」」
「それに、外聞も悪いわね。
外に漏れたら無傷では済まないはずよ。
娘を持つ家門や高潔な家門は距離を取るかもしれないわ。
もうバレたならしっかり謝るしかないし、身を引く覚悟も必要よ。
そもそも候補なんて何の強制力も無いのよ?
公爵夫人になりたいとか、ウィリアム様が好きで妻になりたいと思っている相手だから成り立つことよ?」
「好きになったのです。
笑顔の可愛い子なのに、あんな待遇をして…愚かでした。
一緒に平民向けの服の店に行って買い物をしたり、朝、王立公園に行ってピクニックをしたり、馬や庭の池の鯉に一緒に餌をあげたりして、名前で呼んでもらえるようにもなって。
楽しくて、嬉しくて、胸が締め付けられるのです」
「誠実が一番よ。嘘偽りを述べず、しっかり謝って、今の気持ちを伝えるしかないわ。
チャンスをくださいと懇願するのね。
令嬢はどう考えているのか午後に聞いて手紙を届けさせるわ。
リュシアン殿下の後ろ盾を得ていたら、そのくらいしか出来ないの」
「ありがとうございます」
午後になり、ララ・プルシア嬢が登城したと聞いて呼んでもらった。
「初めまして、プルシア侯爵令嬢」
「お初にお目にかかります。ララ・プルシアと申します」
確かに可愛い子ね。
「ララ様の本心が聞きたいの。よろしいかしら」
「質問によりますが、出来るだけお答えいたします」
気が強いのね。
「貴女はカルヴァロス公爵家のウィリアム様の婚約者候補だと聞いたのだけど、リュシアン殿下とも親しいとか。どちらが本命なのかしら」
「まず、リュシアン殿下には親切にしていただいておりますが、兄の影響ですわ。
素敵な方だと思いますが私のような者には尊すぎます。
そして確かにカルヴァロス家ウィリアム様の婚約者候補という名目で呼ばれましたが、実際は候補にさえなっておりません。私は他の候補2名のために用意されたネズミです。
行く前に辞退を希望しましたが両親が、今回の期間だけでもと言って送り出されました。
選定期間が終わればクビですから、それでお終いです」
「選ばれたら?」
「まさか。そんなことはあり得ません。
公爵令息は私に費やす時間は、数合わせで呼んだだけだから無駄だと仰いました」
え!?
「直接聞いたのかしら」
「はい。この耳で聴きました。
王太子妃様はご親戚にあたるので心配なさっておられるのですね。
ご安心ください。公爵夫人になろうとか、公爵令息の寵愛を手に入れようとか、そんなことは微塵も思っておりませんわ。
公爵令息は本命の令嬢方とは違った、ネズミ役の私に相応しいおもてなしをしてくださいました。
私はそれに応えております。
私の連れてきた使用人達にも服を買って家ださったので、それが対価だと思って全うしたらご縁を切らせていただくことになります」
「……ありがとう。もう、戻っていいわ」
「失礼いたします」
【 カルヴァロス家 】
王太子妃殿下から手紙が届いた。
夫人、ウィリアムが執事から手紙を渡された。
“カルヴァロス公爵夫人
対象者を手に入れるのは困難です。
ご令息自ら、対象者に費やす時間は、数合わせで呼んだだけだから無駄と言ってしまっては。
ネズミ役を全うして縁を切るそうです。
残念です”
夫人はメッセージカードを握りつぶした。
「ウィリアム、貴方、ララ嬢に、数合わせで呼んだだけだから彼女に時間を使うのは無駄と言ったらしいわね。そんなことを言ったらお終いじゃないの!」
「言っておりません。言うわけないじゃないですか!」
「ララ嬢がウィリアムにそう言われたと王太子妃殿下に話したそうよ。
“ネズミ役”という言葉が出てくると言うことは、どういう目的で縁談を申し入れて呼び付けたのか知っているのよ」
「そんな馬鹿な…言うわけがありません!」
「ぼっちゃま。もしかして、早朝に庭で我々の会話を聞いてしまったのではありませんか。ララ様の到着なさった翌朝、夜が明けてまだそれほど時間が経っていない時間帯に池の近くで話をしたではありませんか。
到着したララ様にご挨拶はしなくていいのですかとお伺いしたところ、ぼっちゃまは、必要無い、事前調査で贅沢三昧の我儘令嬢で、他の二人のために呼んだだけでララ様を選ぶことはない、ドレスを買い与えるのは無駄だから断れと仰いました。
それを聞いていたとしたら……」
「ウィリアム!何で令嬢の部屋の近くでそんな話をしたの!」
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