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知らぬ間に
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【 リュシアンの視点 】
午後はララの顔を見ることから始まる。
「ララ、休みは無事だった?」
「おはようございます、リュシアン殿下。
もちろんです。お買い物に行ったり、レストランに行ったり、馬におやつあげたり」
「今日の服がそう?」
「はい、ウィリアム様に買っていただきました」
は!?
「カルヴァロス公爵令息がそれを買ってくれたのか?」
「はい。カーラ達の分も一緒にたくさん買ってくださいました。ご自身も買っておられました」
「平民向けの店だよね。令息も一緒に行ったのか」
「はい。他のご令嬢方は要らないらしくて」
「芝生が付いてる」
「今朝、王立公園にみんなでピクニックに行ったのです」
「それも令息が?」
「はい。どうしちゃったのでしょうか、とても親切になりました」
「ララ、おはよう。
誘ったのはララ?」
「おはようございます、兄様。
ウィリアム様が誘ってくださいました」
「ふ~ん」
「それで、少しお城に来る頻度を減らしたいのですが」
「何で?」
「城みたいに、やることができてしまって」
「令息に頼まれたのか」
「はい。他の人にも頼まれてしまったので」
「そうか。では、週4回来てくれ。
3日のうち、1日は完全休日を作りなさい。
体を壊してしまうからね」
「はい、兄様。それでは裁縫部に行って来ます」
「カーラは残ってくれ」
ララが部屋を出て、ディオスに引き留められたカーラは緊張していた。
「ララと令息の距離が縮まったように感じるのだが、カーラはどう思う」
「ララ様は最初は釣書の姿絵を見て直ぐに承諾なさいました。
ですが、王都へ発つ前日に意識を失われて。
側にいた者が、お嬢様の心臓も息も止まってると叫んだので大騒ぎでした。
駆けつけた者が脈をみると、少し弱々しくはありましたが心音も聞こえましたし呼吸もありました。
翌朝起きると縁談を拒絶なさって。
お告げがあったとか?
それからは人が変わったように感じました。ですがララお嬢様です。
旦那様や奥様に命じられて王都に来ましたが、カルヴァロス公爵令息に選ばれるのは他のご令嬢二人のうちのどちらかだと心底思っていらっしゃいます。
私もそう思いました。
まるで冷遇だったからです」
「「冷遇!?」」
「はい、到着時は出迎えが執事、侍女長、メイド長だけで、挨拶は翌々日の夜でした。
部屋は一階で目の前に人工池があり、鯉が飼われているせいか少し臭います。内装もかなり質素で、侯爵令嬢に割り振る部屋ではありません。
ましてや婚約者候補に住まわせる部屋ではありません。
メイドも一人、部屋食も質素に感じました。
他のご令嬢の部屋は一階ではありませんし、メイドも二人です。
3日目の夕食は末席です。
最近、部屋を変えないかとか、メイドを増やさないかと提案されましたが、ララ様が拒否なさいました。
急にご令息が優しくなりました。
私達にまで。
ララ様は私達にまで優しくしてくださることが良い評価になったのか、頑なに公爵令息とお呼びしていたのにウィリアム様とお呼びするようになりました」
「そんな扱いを受けているとは知らなかった。
直ぐに訪問すべきだったな」
「私もディオス様にご報告するか悩みましたが、ララ様が不満に思っておられないので控えさせていただきました。
鯉をお気に召されて餌をあげておられます」
「カーラ、令息の気持ちはどう読み取る?」
「ララ様の仰る通り、生き餌だったのかもしれません。
ですが、公爵令息のお気持ちに変化が生じたのではないでしょうか」
「分かった。ありがとう」
「待ってくれ」
「はい、王子殿下」
「恥ずかしいことを聞くが、ララの男の好みを確認したい」
「王子殿下にお会いする前から、黒髪に黒い瞳のがっしりとした体格の方だと仰っておりました」
「がっしり?どの程度だ?」
「ララ様が仰るには、確か“細マッチョじゃない、ゴリは嫌” とのことです」
「どういう意味だ?」
「私にもわかりません。聞きませんでした」
「それとなく聞いておいてくれないか」
「聞いてから判断いたします。
もし、恥ずかしい内容なら私は口を閉ざします。
そろそろ失礼いたします」
カーラが出て行くと、ソファにもたれ掛かり、天井に顔を向けたまま、
「ディオス、確かにララはキャットファイトの生き餌だと言っていた。
それに、公爵家から縁談の申し入れをした相手、しかも侯爵令嬢に与える待遇ではない。
娶る気もなく、二人の令嬢の間に立たせて矛先を向けさせる役目だから、敢えての待遇なのだろう。
もし、ララが不満を言ったり問題を起こせばそれを理由に候補から外すつもりだった。
だが会って過ごしてみて好きになったのかもしれない」
「確かに何故ララに申し込んだのか謎でした。ララは可愛い子ですが公爵夫人に据えるには適さないと私でも思います。
事前調査はしているはずですので、弾かれないのはおかしいなと思ったのです。
しかし、いくらカルヴァロス公爵家とはいえ、プルシア侯爵家相手に舐めたことをしてくれる」
「ディオス、侯爵に現状を報告して、代理権をもらえ。領地に帰したくないから任せて欲しいとお願いしてくれ。
侯爵が来てしまったらそのまま連れ帰ってしまう」
「リュシアン様はララをどうするおつもりですか? お気に召したのは分かります。
ですが、私は領地に帰そうかと思っています」
「私はララを娶りたい。だが、公爵夫人も嫌なら王子妃なんてもっと嫌がらないか?」
「……確かに」
「だからララに好きになってもらいたい。
その嫌な王子妃でも受け入れようと思うくらい」
「では、王宮の早馬を使わせてください」
午後はララの顔を見ることから始まる。
「ララ、休みは無事だった?」
「おはようございます、リュシアン殿下。
もちろんです。お買い物に行ったり、レストランに行ったり、馬におやつあげたり」
「今日の服がそう?」
「はい、ウィリアム様に買っていただきました」
は!?
「カルヴァロス公爵令息がそれを買ってくれたのか?」
「はい。カーラ達の分も一緒にたくさん買ってくださいました。ご自身も買っておられました」
「平民向けの店だよね。令息も一緒に行ったのか」
「はい。他のご令嬢方は要らないらしくて」
「芝生が付いてる」
「今朝、王立公園にみんなでピクニックに行ったのです」
「それも令息が?」
「はい。どうしちゃったのでしょうか、とても親切になりました」
「ララ、おはよう。
誘ったのはララ?」
「おはようございます、兄様。
ウィリアム様が誘ってくださいました」
「ふ~ん」
「それで、少しお城に来る頻度を減らしたいのですが」
「何で?」
「城みたいに、やることができてしまって」
「令息に頼まれたのか」
「はい。他の人にも頼まれてしまったので」
「そうか。では、週4回来てくれ。
3日のうち、1日は完全休日を作りなさい。
体を壊してしまうからね」
「はい、兄様。それでは裁縫部に行って来ます」
「カーラは残ってくれ」
ララが部屋を出て、ディオスに引き留められたカーラは緊張していた。
「ララと令息の距離が縮まったように感じるのだが、カーラはどう思う」
「ララ様は最初は釣書の姿絵を見て直ぐに承諾なさいました。
ですが、王都へ発つ前日に意識を失われて。
側にいた者が、お嬢様の心臓も息も止まってると叫んだので大騒ぎでした。
駆けつけた者が脈をみると、少し弱々しくはありましたが心音も聞こえましたし呼吸もありました。
翌朝起きると縁談を拒絶なさって。
お告げがあったとか?
それからは人が変わったように感じました。ですがララお嬢様です。
旦那様や奥様に命じられて王都に来ましたが、カルヴァロス公爵令息に選ばれるのは他のご令嬢二人のうちのどちらかだと心底思っていらっしゃいます。
私もそう思いました。
まるで冷遇だったからです」
「「冷遇!?」」
「はい、到着時は出迎えが執事、侍女長、メイド長だけで、挨拶は翌々日の夜でした。
部屋は一階で目の前に人工池があり、鯉が飼われているせいか少し臭います。内装もかなり質素で、侯爵令嬢に割り振る部屋ではありません。
ましてや婚約者候補に住まわせる部屋ではありません。
メイドも一人、部屋食も質素に感じました。
他のご令嬢の部屋は一階ではありませんし、メイドも二人です。
3日目の夕食は末席です。
最近、部屋を変えないかとか、メイドを増やさないかと提案されましたが、ララ様が拒否なさいました。
急にご令息が優しくなりました。
私達にまで。
ララ様は私達にまで優しくしてくださることが良い評価になったのか、頑なに公爵令息とお呼びしていたのにウィリアム様とお呼びするようになりました」
「そんな扱いを受けているとは知らなかった。
直ぐに訪問すべきだったな」
「私もディオス様にご報告するか悩みましたが、ララ様が不満に思っておられないので控えさせていただきました。
鯉をお気に召されて餌をあげておられます」
「カーラ、令息の気持ちはどう読み取る?」
「ララ様の仰る通り、生き餌だったのかもしれません。
ですが、公爵令息のお気持ちに変化が生じたのではないでしょうか」
「分かった。ありがとう」
「待ってくれ」
「はい、王子殿下」
「恥ずかしいことを聞くが、ララの男の好みを確認したい」
「王子殿下にお会いする前から、黒髪に黒い瞳のがっしりとした体格の方だと仰っておりました」
「がっしり?どの程度だ?」
「ララ様が仰るには、確か“細マッチョじゃない、ゴリは嫌” とのことです」
「どういう意味だ?」
「私にもわかりません。聞きませんでした」
「それとなく聞いておいてくれないか」
「聞いてから判断いたします。
もし、恥ずかしい内容なら私は口を閉ざします。
そろそろ失礼いたします」
カーラが出て行くと、ソファにもたれ掛かり、天井に顔を向けたまま、
「ディオス、確かにララはキャットファイトの生き餌だと言っていた。
それに、公爵家から縁談の申し入れをした相手、しかも侯爵令嬢に与える待遇ではない。
娶る気もなく、二人の令嬢の間に立たせて矛先を向けさせる役目だから、敢えての待遇なのだろう。
もし、ララが不満を言ったり問題を起こせばそれを理由に候補から外すつもりだった。
だが会って過ごしてみて好きになったのかもしれない」
「確かに何故ララに申し込んだのか謎でした。ララは可愛い子ですが公爵夫人に据えるには適さないと私でも思います。
事前調査はしているはずですので、弾かれないのはおかしいなと思ったのです。
しかし、いくらカルヴァロス公爵家とはいえ、プルシア侯爵家相手に舐めたことをしてくれる」
「ディオス、侯爵に現状を報告して、代理権をもらえ。領地に帰したくないから任せて欲しいとお願いしてくれ。
侯爵が来てしまったらそのまま連れ帰ってしまう」
「リュシアン様はララをどうするおつもりですか? お気に召したのは分かります。
ですが、私は領地に帰そうかと思っています」
「私はララを娶りたい。だが、公爵夫人も嫌なら王子妃なんてもっと嫌がらないか?」
「……確かに」
「だからララに好きになってもらいたい。
その嫌な王子妃でも受け入れようと思うくらい」
「では、王宮の早馬を使わせてください」
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