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酔っ払いは殿下を愛でる
しおりを挟む陛下達が見てるじゃない!
「ごめん、そんなに驚くとは思ってなくて。
座ろうか」
座ると隣の席にリュシアン第二王子殿下が座り、さらに向こう側に兄様が座った、
「白い服は兄で王太子のサリフィス。私より若い子は第三王子のノエル。
陛下と王妃の間は近衛騎士団長。
陛下の右隣は騎士団長、その向こうは王都を統括している副団長、後ろに捜査部を統括する副隊長
騎士団長の後は王城内の兵士達を統括する副団長。昨日の件は彼まで報告がいったはずだ。近衛騎士団長の後はその副団長。
陛下の後は宰相。王妃の後は副宰相。王太子の後は側近。
第三王子の後、斜め後ろ、横は辺境伯だ。
もう一人いるはずだが何処かな」
重要人物をこんなに集めて……ロケット砲や連射銃があったら終わりよね。
「あの、覚えられそうにない気がします」
「いいよ、覚えなくて。王族だけ覚えておいて」
「もしかして、この席、先約があったのにどかしたのではありませんか?」
「すごいね。その通りだよ」
「困ります」
「ちゃんと他の席にいるから大丈夫。気にしないでくれ。これは牢屋に入れてしまったお詫びなのだから。君の護衛騎士は喜んでいるね。目が輝いているよ」
「感謝しております」
「こうやって見てみると確かにララの言う通りだ。ドレスで着飾った令嬢や夫人の隣は窮屈そうだ。いつも王族席にいるから気が付かなかった」
「特等席も王族席も隣との間があって邪魔にはならないですから分かりませんよね」
「ララの服は誰が選んでるの?」
「ああ、これは…」
メイドと交換したこと。ドレスやアクセサリーを売って資金にして裕福な平民向けワンピースを買ったことを話した。
「でも、婚約者候補で来たんだよね」
「ああ、私は本命の令嬢二人の生き餌なので着飾る必要はありません。
この方が楽ですし。下手にドレスだとカーラ達も大変ですから」
「行き餌!?カーラ達?」
「候補が二人だと揉めやすいから間に私を放り込んだのです。お給料払ってもらいたいです。
カーラ達は、私が転んだり、汚したり、ひっかけたりしないように気を配ることになりますから。
それにドレスだと食事が楽しめません。
今日もカフェで食べ過ぎて、ここまで歩いて来ましたから」
「美味しかった?」
「はい。でも明日からは休日以外は自由がありません」
「どうして?」
「花嫁修行なのかよくわかりませんが授業のようなものがあります。
今朝は刺繍の時間です。殿下のおかげで抜け出せました。今頃は朗読会ですね。助かりました」
「なるほど。
刺繍は何を?」
「ハンカチです。公爵令息に贈るらしいので
適当に仕上げました」
「ララ、刺繍してたのか」
「兄様にハンカチ持ってきました」
「おっ、刺繍してくれたのか」
ポーチから取り出したハンカチを殿下が取り上げた。
「凄いな。ドラゴンか」
「はい」
「令息には何の刺繍を?」
「イニシャルです」
「イニシャル!? 差が大きいな」
「だって兄様と、私をファイトキャットの生き餌にする令息ですよ?差が大きくて当然です。イニシャルで十分ですよ」
「ファイトキャット?」
「雌猫同士が雄を取り合って闘うのです」
「ハハッ、それは怖いな」
「凄いなララ。裏側も綺麗なドラゴンが出来上がってる」
兄様に渡ったハンカチの刺繍の裏側を見て驚いていた。
「本当だ、凄いな。私の分は無いのか?」
「へ?」
「ディオスの分だけだなんて悲しいよ」
「いや、だって」
「頼むよ簡単なものでいいから」
「イニシャル?」
「ララ」
私の顔に近付けて手を握りながら囁いた。
「っ! 王子殿下、揶揄わないでください!」
「赤くなって可愛いな」
「殿下、妹で遊ぶのは止めてください」
「よし、ララ。登城して刺繍をしないか?
昼前に公爵家を出て、昼を好きな所で食べて、城に来て刺繍をしたりして時間を潰して帰る。どうだ。
食事代は出すし、城で食べてもいいんだぞ」
「……」
「王宮図書館を利用してもいい。
5人でおいで。ララが承諾すれば公爵宛に手紙を出す」
「兄様」
「広めの客間を用意させよう。そこで自由にしていていい。昼寝をしたければそうすればいい」
「来ます。お願いします」
「決まりだ」
兄様が手を挙げるとヒギンス様が側に来て、指示を受けた後居なくなってしまった。
ラッパの音がして、前に向き直った。
《これより、準決勝を行います。
4名は前に出てクジを引き、棒の先の色が同じもの同士で対戦します》
「カルヴァロスの婚約者候補の名前は?」
「コナー公爵家のご息女とモンティ侯爵家のご息女です」
「コナー家は名家で厳格な家門だ。
兄のレナードが令嬢より3歳上で、あそこにいるよ」
指差す方を見ると、銀髪の騎士が闘技場の端で準備をしていた。
「昨夜は貧しいと思われたのか、コナー家の屋敷から学園に通わせてあげたのにといったことを言われてしまいました」
「馬鹿だな」
「生き餌ですから」
「……モンティ家は交易で成功していて裕福な家門だ」
「あら。裕福なのに私のメイドや護衛の為の今日の招待券を譲れと言ったのですね」
「……」
「あ、大丈夫です。私、肉食の生き餌ですから」
「肉食?」
「はい。食べられそうになると逆に鋭い歯で噛みつきます」
「……フハハッ」
「お二人とも私に噛まれて血が滲んでおられました」
「凶暴なのだな?」
「殿下の笑顔は柔らかいですね」
「……」
《準決勝、第一戦。
レナード・コナー対 ガエル・ジェファーソン!
両者前へ!》
「ララ、飴持ってる?」
「あります」
ポーチの中を探りながら
「オレンジ味とミント味とコーヒー味があります」
「コーヒー味をもらっていいかな?」
「はいどうぞ」
《勝者、レナード・コナー!》
会場の歓声に競技場の中央を見ると、一人がうずくまっていた。
「あっ…」
飴を渡している間に勝敗が決まってしまった。
「何飲んでるの」
「ジュースです」
「酒はまだ早いか?」
「飲んだことがありません」
「リュシアン様、妹に酒は早過ぎますから飲ませないでください」
「身内がいる中で飲ませてみた方がいいぞ。酔っ払い初体験が社交の場で大失敗なんてことにならないように」
「確かにそうですね」
殿下が給仕を呼んで、グラスを手に取った。
「ジュースのような酒だ。試してみるといい」
「あ、ありがとうございます」
せっかくなのでと飲んでみると美味しくてゴクゴクと飲んだ。
「美味しいです」
「おかわりもあるからね」
そして決勝戦が始まる頃には。
「リューちゃん、ほんっとーにカッコイイ!
照れた顔も可愛い!」
「こら。ララ、殿下に不敬だぞ」
「ディオス、私が飲ませたんだ。不敬などと言わないよ。
だが、これは気を付けないと煽てられた男が勘違いをしてしまう」
「私はリューちゃん以外に言いませんよ~
他の人達は私の好みじゃないんですぅ~」
そう言いながらララの指はリュシアンの頬をツンツンしていた。満面の笑みである。
リュシアンは真っ赤になって顔を覆ってしまった。
「こら、ララ。殿下を突くな」
「ウフフ、チューしたい」
「「はあ!?」」
「可愛くてカッコイイ、リューちゃんのほっぺは美味しそう!きゃはっ」
「はぁ、酔っ払いめ……。リュシアン様、ララを退場させますので失礼します」
「いや、ディオスはララの連れに付き添ってくれ。私が保護しよう。試してみて良かったよ。他所では禁酒だな」
そう言うとリュシアンはララを抱き上げた。
マックスとリックが立ち上がる。
「マックス、リック。カーラも座ってくれ」
「ディオス様。私達はララ様の護衛です」
「リックは残れ。マックスだけ着いて行っていい」
リックは不満そうに座った。
マックスはリュシアンの護衛に続いてララに付き添った。
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