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私こそが辺境伯夫人に

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【 女兵士 サビーヌ 】


私は男爵家の四女。

顔は平民ならいい方だけど貴族令嬢としては並以下。

正妻と、妾一人。子は男二人、女五人。
実家の男爵家は収入が豊かではなく、貴族生活を維持するには人数が多かった。

何故こんな人数になったのか。男児が産まれるまで産んだ正妻と、未だ男児が産まれなくて娶った妾に産ませたから。

偶然、正妻と妾が同時期に男児を産んだ。
それで子作りは終わったが、男児は学園に通わせるのは必須。

学費と寮費、その他の経費が二人分。
しかも学年が同じだからお下がりという手も使えない。全ての費用が2倍だった。

デビュータントは貴族籍に入っていれば必要で、姉のお下がりが回ってきても骨格が違うので中古のドレスを買い与えられた。

新品を買ってもらえるのは下着と靴だけだった。
靴もギリギリまではいた。多少の傷みはスカートの裾で隠れるからと簡単には買ってもらえなかった。

父は、お金を支援してくれるところに娘を嫁がせたかったが、学園卒ではないし、家庭教師もついておらず、父と母が合間に教えた程度では七人の子への教育は追いつかなかった。
年齢が違えば勉強の進度も、理解力も違う。父と母
の二人(主に母一人)でそれぞれに教えていたら進みが悪いのは当然だったし、テーブルマナーやカーテシーなども母では不十分だった。

母は元平民で、作法はお祖母様から教わっていた。
母も本来は合格ラインにいない。

子供の私達も基本的な教育が行き届かず、令嬢としては所作も不合格だった。


お見合いをすると断られた。
テーブルマナーなどが合格ラインに及ばないのだろう。理由は言われなかったが、食事の時の夫人と令息の顔を見たら明らかだった。

後妻も断られた。

どんどん歳を取っていくので、仕方なく、長女は商家の妾。次女は裕福な平民の家の次男の嫁に行った。持参金のない長女と次女は肩身の狭い思いをしているのだろう。


三女を嫁がせる時こそ、お金を得たいと一生懸命だったが、今まで打診したことのある家門は、門前払いだった。

ある日、三女が嫁に行ったと言われた。
平民の家だけど、結納金を貰えたらしい。

食卓が少し豊かになり、父と母は服や靴を新調した。


夜、喉が渇いて一階へ降りると話し声が聞こえた。 

『一人分の学費はなんとかできたけど、残りを急がないと来年よ』

『若い方が高く売れるし、サビーヌは近々売り払おう』

『同じ店にするの?』

『国境の店にしよう。あそこはいつも女を募集しているらしい』


そっと部屋に戻って泣いた。

三女は娼館に売られていた。
デビューしている私も直ぐに働かせることができる。

余裕がないなら男児ができるまで産ませるのではなく、養子を取るか婿養子を迎えればよかったのよ!


私はあるだけのお金を集めて、着替えなどをカバンに詰めた。大荷物になれば気付かれる。

朝に家を抜け出し、町まで歩き、馬車に乗って隣町へ。また乗り換えて別の町へ。

そしてやっと、目的地に着いた。
虐待された女性を匿ってくれる教会だった。


骨格の良さから、剣術を習い、辺境伯家の女兵士に志願した。

レイダー家は、女兵士に過度の実力を求めていない。夫人や令嬢のお世話や、お花摘みなどに着いて行くための要員だ。もちろんメイドとは違うから襲われたら剣で対抗しなくてはならない。
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