【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ

文字の大きさ
上 下
63 / 73

甦る記憶

しおりを挟む
既に胸焼けしています。
レノ従兄様は早朝から“早く起きろ”と起こしに来たので起きるフリをしてパパの部屋に逃げ込み追い払ってもらった。

朝食時には 私の隣に座り直し、あれも食べろこれも食べろと煩いし。
その後は私の外出着を選びにくる始末。

今日はパパは用事があるとかで同行しない。だからイザーク従兄様に何度もしつこく“サラを頼んだぞ”“レノーの手綱は任せたからな”と言っていた。

興奮気味のレノ従兄様と、留守番したくなってしまったイザーク従兄様と私で大所帯の護衛を引き連れて外出した。

王都で一番人気のドレス店から始まり、カフェ、靴、宝飾品店。
翌日は 美容品、小物、カフェ、茶葉、菓子店。
さらに次の日は周遊し、途中で大きな教会に寄った。

「サラ、裏に回ろう」

裏に回り少し歩くと木々の向こうに泉があった。

「これ、湧水なんだ。飲むと体に良いと言われているんだ」

透明で湧いているのが見える。そして落ち葉がゆっくり流れていった。

ドクン

知っている。

「サラ?」

“願いをかけながら花弁を浮かべるんだ。
何の抵抗もなく川へ流れてしまえば叶わない。
泉にとどまったり変則的な動きをすると叶うと聞いたけど、当てにせず浮かべてごらん”

「サラ!?」

“川への流れに乗せるか乗せないかの話だが、目を瞑ればいいだろう”

「私…」

「大丈夫か!?」

「サラ!」

“お兄様、夢を壊す説明は止めて”

「サラ!!」

どんどん生々しく頭の中に甦る。
水の中、落石、サットン家の皆、ガードナー領、お母様、剣闘会のリオとユリス殿下…

だけど視界がぐるぐる回りその後の記憶は無い。



気が付いたらベッドの上だった。

「ん…」

「サラ?」

「パパ?」

閣下パパが灯りを大きくして私の顔を確認するように見た。

「顔色は悪くない…熱も無い。吐き気や痛みはあるか?」

「無いです」

「何があったか覚えているか?」

「え?」

「従兄弟のレノーとイザーク達と周遊して、教会裏の湧水を見たところで倒れたんだ」

そうだ 私…

「全部 思い出しました」

「本当か!」

「はい。以前サットン兄妹と似た場所に行ったことがあって、それが刺激になったみたいです。
記憶が次々と押し寄せて目が回ってしまいました」

パパは呼び鈴を鳴らしてホットミルクを持って来させた。

「ゆっくり飲みなさい」

半分ほど飲み終わると、

「食事を用意するか?」

「今は、倒れた日の夜ですか?」

「夜の10時だ」

「よければ寝ようと思います」

「分かった」

「付き添ってくださったのですね。ありがとうございます。私は大丈夫ですので休んでください」

「眠るのを見届けたらな」

そう言いながら私の手を握った。


結局 朝起きるとパパはソファで寝ていた。
パパの側に行き寝顔を見ていた。

「サラ?」

「おはようございます」

「大丈夫か?」

「はい」

起きて体を伸ばすパパの隣に座った。

「パパは今でもお母様のことを愛しているのですか?」

「もちろんだ。ずっとソフィアに恋に落ちたままだ」

「上手くいかないものですね」

「ソフィアとサラを連れて駆け落ちしたいくらいだよ」

「“大公閣下の愛の逃避行”っていう見出しの号外が出ちゃいますよ」

「記念に10部くらい貰いたいな」

「額縁に入れて飾りそうですね」

「3人の肖像画も欲しい」

「ガードナー領でしか描けそうにないですね」

「フィオルド公爵夫妻もガードナー領に行ったら描くだろうか」

「提案してみます」

「私も行けるように調整しよう」

「ガードナー領に来たり 王都に来たり、捜索したり こうやって私に時間をとっていたらお仕事が山積みなのではありませんか?」

「側近が優秀だから大丈夫だよ。どうしてもという案件は兄上にお願いしたみたいだから。
私はサラが見つかるまで探し続けるつもりだった。大公を退いたとしても」

「パパ」

「この身体が朽ち果てるまで探し続けたに決まっている。この世で一番大切な存在なのだから。もちろんソフィアも同じくらい大切だ」

ギュッと抱きしめると 抱きしめ返してくれた。

「あちこちに手紙を書かないといけませんね。
もう留年確定ですね」

「センティアから交渉してもらおう」

「流石にそれはちょっと」

「将軍の命を救ったら勲章モノだろう」

「大袈裟ですよ」

「もし留年なら新学年が始まるまで一緒に過ごそう。
半月前にガードナー領に入ればいい」

「でも、そんなに滞在したら迷惑になってしまいます」

「ロクサンヌのことが気になるのだな?」

「……」

「滞在先なら城でもフィオルド公爵邸でもいいし、私とホテルに泊まってもいい。サラ名義の屋敷を買ったっていいんだ」

「……そういえば、落石のあった道はどうなったのでしょう」

「通れるようになっているよ」

「あの時、真上に落ちてきていたら きっと馬車ごと潰されていましたね。側面からで良かったです。
他の道は無いのですか?」

「かなり遠回りになるんだ」

「そうですか」

「怖い思いをさせて悪かった」

「パパのせいじゃありません」

「私も泳ぎを覚えようかな」

「泳ぎを?」

「今のままでは、サラを助けようと飛び込んだら逆に救助される側になってしまうからな」

「ふふっ せめて兵士達のような人を守る職に就いている方は泳げないと話になりませんね」

「そうだな」



食堂に入るとレノ従兄様が駆け付けて 抱きしめられた。

「何で倒れるんだ!具合が悪いならそう言え!」

「く、くるしぃ」

「兄上、サラが倒れますよ」

イザーク従兄様のおかげで息が出来るようになった。

「熱は」

頬を両手で挟み額を私の額に付け、

「ちょっと」

「これじゃ 分からないな」

接触面積が少ないと言い頬を私の頬にくっつけ、

「私より熱いか?」

「やり過ぎだ!サラを放しなさい」

パパが引き剥がしてようやく解放された。

国王夫妻は唖然としてるし、レノ従兄様の正妃も固まったし、使用人達も凝視したり目が泳いでいた。

「従兄妹とはいえ 近過ぎです。私は幼子じゃないのですよ!?」

「幼子ではないのは見えているから分かってる。
近過ぎ?可愛がって何が悪い」

「とにかく近いので止めてください」

そう言うと不機嫌になった。

構わずパパの隣に座ったが、レノ従兄様は正面に座りじっと見てくる。
こうなったら早く食べて逃げよう。

「兄上、明日帰ろうと思います」

「もうか。サラは来たばかりだろう」

「サラの記憶が戻ったのでサットン将軍達と会わせようかと」

「おお、記憶が戻ったのか!それは良かった!」

「ありがとうございます」

「ならば、将軍達をこちらへ呼び寄せればいい。馬車で3時間の距離は直ぐだ。今から呼びに行けば男の支度だから夕食には間に合うはずだ」

「どうする?」

フィオルド公爵夫妻にも会いたいし。

「無理には呼ばないでください」

「分かった。“良ければ来ないか”と手紙を持たせよう」

「お願いします」

 
食事を終えると逃げるように食堂から出たけれど、王妃殿下の遣いから、昼食は王妃殿下のサロンでと誘いの伝言をメイドが告げに来てしまった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で夫と愛人の罠から抜け出したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...