【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ

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ブランパーン大公邸

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とてつもなく広い建物は宮殿のような作りで敷地は高い塀で囲まれている。
私は別棟のお屋敷に案内されると聞いた。

実父だというブランパーン大公閣下と馬車の中で話し合ったことがある。
というか、一方的に我儘を言った。

「サラという名前なんだ。そう呼んでいいか?」

「はい」

「兄上達が会いたがっている。捜索にも大分力を借りた」

「感謝しておりますが、今の私は難しいです。
閣下のお兄様は国王陛下ですよね?」

「……屋敷には妻と腹違いの弟がいる。
下の弟はそこにいて、上の弟は王都の学園に通っている」

「ご挨拶させていただきます。
ですが交流はまだ無理です。
場合によっては挨拶して、旅支度ができたらサットン伯爵家の方達と国に帰ります」

「別棟があるから、そこでゆっくり療養するといい。挨拶だけして当面交流はさせない」

「感謝します」

「一つ頼まれてくれないか」

「何でしょう」

「君の母と弟、サットン家、ユリス王子宛に手紙を書いて欲しい。記憶を無くしたが体は元気だと書いてくれたらいい」

「かしこまりました。
ユリス王子殿下とは?」

「サラの学友で以前求婚されたことがある。
彼は唯一の実子の王子だから国外に出ることは許されない。
捜索に加わると騒いで大変だった。

君の弟リオも侯爵で跡継ぎがいないから夫人が探しに来るのを許さなかった」

「そうなのですね」

「それと、私達は父娘だ。もっと気楽に話して欲しい」

「分かりました」



…ということで、一先ずこの別棟に案内された。

私一人に使用人が多すぎる。

小さな部屋で良かったのに。


サットン将軍とサットン卿が夕食を一緒に食べに来た。“お祖父様” “ケイン様” と呼ばないと悲しそうな顔をするからそう呼ぶことにした。

そして着いて早々、私が湖に転落した後、何をしたか聞かされた。
お祖父様を沈む馬車から助け出して岸まで連れて行き、手綱に絡まった御者の騎士を助けに戻り、潜って騎士のナイフで手綱を切って岸まで運んだらしい。
お祖父様からは命の恩人だと、深々と頭を下げてお礼を言われた。

私、そんなことをしたのね。今の私にはできそうにないわ。
しかも沈む準備をして、窓を開けて鍵を開けて、靴を脱いだらしい。お祖父様の上着も脱がせたとか。すぐ落石が直撃したと聞いた。
よく生きていたわね。

落石、転落、浸水、二人救って、流木が激突、意識を失い流され、岩に引っかかり、ノアム様に助けてもらった。

打ち身と、流木で負った頭部の擦り傷程度で生還。
奇跡だわ。


使用人は皆“姫様”と呼ぶ。

違うと言いたいけど面倒だから受け入れた。

明日は顔合わせ。

2人だけだよね。



翌日。

……何で?

偉そう…じゃなくて高貴そうな方々が勢揃い。
そして何?この戦争が始まりそうな軍隊は。

大公閣下が紹介していく。

「陛下。彼女が私の愛娘。サラ・ガードナー。
ジューネス王国の侯爵家の令嬢です。
現在、記憶を無くしておりますので挨拶だけという約束になっております。

サラ、順に紹介する。
まず、私の兄のジョフロワ国王陛下。
サラの従兄のレノー王太子殿下。
従兄のイザーク第二王子殿下。殿下とは会っている。

大公夫人のロクサンヌ。
長男でサラの異母弟のアルヴィア。
次男のサシャ。

ゾルト騎士団長。
デニス・ヴェスタリオス隊長。彼はサラを此処まで護衛する隊の隊長だった。
カムール法務大臣。
次男のルイゾン・カムール。彼はサラが湖で助けた御者をしていた騎士だ。

陛下、こちらはサットン将軍。
地位はそのままで新兵の剣の指南をなさっていて、騎士団は引退なさっています。
彼は孫のケイン・サットン。王族専属の騎士で伯爵家の次男です。

サットン家は、私がサラの実父だと名乗り出た時に、困惑したサラを受け入れ預かってくださった家門です」

「サットン将軍、サットン卿、サラを守ってくれたのだな。心から感謝する」

「私には記憶がありません。サラ・ガードナーだそうです。皆様にご挨拶を申し上げます。
また、長い間、捜索をしてくださりありがとうございました」

皆が手をあげ始めた。

「どうぞ陛下」

「サラ、王宮に遊びに来てくれるね?」

断れるわけないじゃない…

「あ、…はい。レノー王太子殿下」

「レノ兄様って呼んで」

「レ、レノ兄様」

「妹だ!妹だ!!」

王女は居ないの?

「カムール卿」

「私は、どんどん湖の底に引き込まれて、もがいて もがいて、その後気を失ったようで、つまりは溺死の最中だったはずです。
次に感じたのは眩しさでした。風が頬を触り、水の音がして、苦しくて水を吐き出して…つまり、湖の底まで潜り、私の腰からナイフを抜き、絡んだ手綱を切って浮上させてくださったということです。

私を背後からつかまえて、泳いで岸に押し上げてくださいました。

なのに、姫様に流木が当たって流されて。私は姫様のように助けに飛び込むことができない情けない臆病者です。申し訳ございませんでした!」

「私は泳ぎが得意だったのですね。
得意な者に任せるといいでしょう」

「……は、はい」

覚えてないからね。

「カムール家は姫様を未来永劫支持いたします」

カムール大臣が深々と頭を下げた。

重いわ。

「大公閣下と喧嘩して家出したら匿ってください」

「ハハッ。その時は私の知恵と人脈を使って隠し通して差し上げます」

「止めてくれ、大臣」

私は手を挙げた。

「…サラ?」

「あの、なぜこのような大事に?」

「実は王城からここまで3時間くらいなんだ」

「それで?」

「何で記憶を無くしても怖いんだ?」

「…失礼いたしました」

「違うよサラ、もう少し優しく言って欲しいだけなんだ。約束を早速破ったのは私だから仕方ないけど」

「閣下、そろそろ皆様を外で立たせておくのは…」

大公夫人がそう囁くと、大公閣下が建物の中へと促した。

歩き出したが、騎士達が気になった。

「閣下。騎士の皆様は?」

「近衛以外は外で待つことになる」

「は?」

「……考える」

「じゃあ、私は」

後ろを向くと首根っこを掴まれた。

「どこに行く」

「別棟に」

「頼む!」

会うのは少人数そして簡単な挨拶だけと約束したのに…

「貸しですよ」

「望むところだ」

大公閣下は嬉しそうに腕を差し出しエスコートしてくれた。
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