52 / 73
拾い主の気持ち
しおりを挟む
【 ノアム・アルク子爵の視点 】
ブランパーン大公……
国王陛下の実弟……
「ご主人様?」
「バート。ブランパーン大公閣下の情報を集めてくれ」
「かしこまりました」
以前調べさせたときはアンジェリーヌらしき人物の捜索願は出されておらず、手配書も無かったと報告をもらっていた。
醜聞を恐れているのか、隣国の娘で祖国内では探しているのか、命を狙われたのか。
何であっても大公家だけはハズレであって欲しい。そう祈りながら過ごした。
どんな仕草も可愛くて、笑うと心が潤って、見つめられたくて、抱きしめたくて、口付けをしたくて、膣内に挿れたくて、鳴かせたくて、何も考えられなくなるほど快楽を与えたくて、俺だけしか考えられないようにしたくて、注ぎたくて、孕ませたくて、私の一部がアンジェリーヌの身体に根付いた証拠である俺達の子を産んで欲しくて…
アンジェリーヌに“愛しています”と言って欲しくて、“貴方の子を産みたい”と懇願して欲しくて…
君が産んだ私の子なら、バカみたいに溺愛できると今からでも思う。
1日置きに娼館に足を運ぶようになった。
そうでもしないと無理矢理アンジェリーヌを抱いてしまいそうだったから。
パトリシアは荒い客が顧客になったようで、ついに私に縋った。
「ごめんなさい!私が悪かったの!許して!」
「どうでもいい。他人なのだから話しかけないでくれ」
「助けて!言うことを聞くから、連れて帰って!」
「娼婦を?」
「妻にとは言わないわ、専属の女だと思ってくれたら」
「お前に処理してもらう必要はない」
「ノアム様!」
「アルク子爵様と呼べ」
「お願いします!」
「顧客が付いて良かったな」
「そんな!」
そんな日々を送っていると、バートが人払いをして報告を上げた。
「ご主人様、調査結果を申し上げます。
一つ、アンジェリーヌ様を見つけた日と同じ時期から王室は湖から下流に大規模な動員をかけています。
川沿いの町では遺体安置所と診療所にも立ち入り調査が入りました。
今現在もここよりもっと下流へ向かって人が動員されています。
ブランパーン大公閣下が指揮をとっているようです。
一つ、そこに異国の者が一緒にいるようで、“将軍”と呼ばれる隣国の武将が加わっているようです。
一つ、大公閣下は今年、婚外子の存在を公表なさいました。大公夫人と婚姻する前に公爵令嬢と恋人になっていて、ご令嬢は隣国で出産なさっています。大公閣下が認知なさった子は17か18歳の娘です。
母親の公爵令嬢は隣国の侯爵と婚姻し、産んだ大公閣下の娘は侯爵令嬢として育てられました。
一つ、隣国の王室も騒いでいるようで、何度も使者を寄越しています。
ここから組み立ていきますと、アンジェリーヌ様は大公閣下の娘で、隣国で育ち、大公閣下に会いに来る途中で事故に遭い川に流されたと考えられます。
隣国の将軍は令嬢の護衛を務めたのか、国使だったのかは分かりませんが同行していたのでしょう。
行方不明と公表することは王族が無防備だと公言してしまいます。誘拐されたり殺されたりする危険を回避したかったからかもしれません。女性なら孕ませて王族との血縁を望めますから。
そして例え遺体でも見つかるまで捜索を止めないでしょう」
「よりにもよって大公家の娘かもしれないだなんて」
「ご主人様…」
「俺はアンジェリーヌを愛してしまったんだ。なのに大公閣下の娘なら婚姻を許してもらえない。
貧しくはないが富豪でもない田舎の子爵家に渡す訳がない」
「捜索しているのはもっと下流です。落ち着いてください」
「だが」
「アンジェリーヌ様さえ承諾してくだされば平民との婚姻として娶れるかもしれません。我々は本人が記憶喪失で服も平民用だったことから平民だと思ったと申せます。捜索の公表はされていないのですから我々には分かりません。似顔絵さえ出ていないのですから気付かなかったとしても不思議ではありません。今日からアンジェリーヌ様のお心を掴みましょう」
「アンジェリーヌは俺を異性として見ていない。俺のことは恋愛対象ではないんだ」
「ご自身が平民だと思っていれば子爵で雇い主のようなご主人様に一線を引くのは自然です。
身分差など関係ないと示さねばなりません」
最後の足掻きをしようとアンジェリーヌの扱いを少しずつ変えた。
毎朝一緒に庭を歩いて花を眺め、ゆっくり朝食を取った。
大した行き先ではないが、外に連れ出した。
牧場や遺跡、花畑。
危ないからと手を繋ぎ、外で昼食を取り、買い物をして帰る。
何日か過ごすうちにアンジェリーヌは少し甘えてくれている気がしてきた。
だが、娼館通いは続けていた。
無理矢理ことを成さないように。
ブランパーン大公……
国王陛下の実弟……
「ご主人様?」
「バート。ブランパーン大公閣下の情報を集めてくれ」
「かしこまりました」
以前調べさせたときはアンジェリーヌらしき人物の捜索願は出されておらず、手配書も無かったと報告をもらっていた。
醜聞を恐れているのか、隣国の娘で祖国内では探しているのか、命を狙われたのか。
何であっても大公家だけはハズレであって欲しい。そう祈りながら過ごした。
どんな仕草も可愛くて、笑うと心が潤って、見つめられたくて、抱きしめたくて、口付けをしたくて、膣内に挿れたくて、鳴かせたくて、何も考えられなくなるほど快楽を与えたくて、俺だけしか考えられないようにしたくて、注ぎたくて、孕ませたくて、私の一部がアンジェリーヌの身体に根付いた証拠である俺達の子を産んで欲しくて…
アンジェリーヌに“愛しています”と言って欲しくて、“貴方の子を産みたい”と懇願して欲しくて…
君が産んだ私の子なら、バカみたいに溺愛できると今からでも思う。
1日置きに娼館に足を運ぶようになった。
そうでもしないと無理矢理アンジェリーヌを抱いてしまいそうだったから。
パトリシアは荒い客が顧客になったようで、ついに私に縋った。
「ごめんなさい!私が悪かったの!許して!」
「どうでもいい。他人なのだから話しかけないでくれ」
「助けて!言うことを聞くから、連れて帰って!」
「娼婦を?」
「妻にとは言わないわ、専属の女だと思ってくれたら」
「お前に処理してもらう必要はない」
「ノアム様!」
「アルク子爵様と呼べ」
「お願いします!」
「顧客が付いて良かったな」
「そんな!」
そんな日々を送っていると、バートが人払いをして報告を上げた。
「ご主人様、調査結果を申し上げます。
一つ、アンジェリーヌ様を見つけた日と同じ時期から王室は湖から下流に大規模な動員をかけています。
川沿いの町では遺体安置所と診療所にも立ち入り調査が入りました。
今現在もここよりもっと下流へ向かって人が動員されています。
ブランパーン大公閣下が指揮をとっているようです。
一つ、そこに異国の者が一緒にいるようで、“将軍”と呼ばれる隣国の武将が加わっているようです。
一つ、大公閣下は今年、婚外子の存在を公表なさいました。大公夫人と婚姻する前に公爵令嬢と恋人になっていて、ご令嬢は隣国で出産なさっています。大公閣下が認知なさった子は17か18歳の娘です。
母親の公爵令嬢は隣国の侯爵と婚姻し、産んだ大公閣下の娘は侯爵令嬢として育てられました。
一つ、隣国の王室も騒いでいるようで、何度も使者を寄越しています。
ここから組み立ていきますと、アンジェリーヌ様は大公閣下の娘で、隣国で育ち、大公閣下に会いに来る途中で事故に遭い川に流されたと考えられます。
隣国の将軍は令嬢の護衛を務めたのか、国使だったのかは分かりませんが同行していたのでしょう。
行方不明と公表することは王族が無防備だと公言してしまいます。誘拐されたり殺されたりする危険を回避したかったからかもしれません。女性なら孕ませて王族との血縁を望めますから。
そして例え遺体でも見つかるまで捜索を止めないでしょう」
「よりにもよって大公家の娘かもしれないだなんて」
「ご主人様…」
「俺はアンジェリーヌを愛してしまったんだ。なのに大公閣下の娘なら婚姻を許してもらえない。
貧しくはないが富豪でもない田舎の子爵家に渡す訳がない」
「捜索しているのはもっと下流です。落ち着いてください」
「だが」
「アンジェリーヌ様さえ承諾してくだされば平民との婚姻として娶れるかもしれません。我々は本人が記憶喪失で服も平民用だったことから平民だと思ったと申せます。捜索の公表はされていないのですから我々には分かりません。似顔絵さえ出ていないのですから気付かなかったとしても不思議ではありません。今日からアンジェリーヌ様のお心を掴みましょう」
「アンジェリーヌは俺を異性として見ていない。俺のことは恋愛対象ではないんだ」
「ご自身が平民だと思っていれば子爵で雇い主のようなご主人様に一線を引くのは自然です。
身分差など関係ないと示さねばなりません」
最後の足掻きをしようとアンジェリーヌの扱いを少しずつ変えた。
毎朝一緒に庭を歩いて花を眺め、ゆっくり朝食を取った。
大した行き先ではないが、外に連れ出した。
牧場や遺跡、花畑。
危ないからと手を繋ぎ、外で昼食を取り、買い物をして帰る。
何日か過ごすうちにアンジェリーヌは少し甘えてくれている気がしてきた。
だが、娼館通いは続けていた。
無理矢理ことを成さないように。
592
お気に入りに追加
1,633
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
【完結】見返りは、当然求めますわ
楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。
伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかし、正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる