【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ

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北の塔の王妃

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【 王妃の視点 】


「許されないのはお前だ。
サラ・ガードナーはセンティア国王の姪で、お前は侯爵家の娘だった。元の身分はサラ嬢が上だ。
こちらが招いたのに追い出すような真似をしおって」

「あの娘は、ユリスを拒否したのですよ!?
いつまでも付き纏うからいけないのです!
今日登城した令嬢達の方が初々しくて可愛いではありませんか!」

「サラ嬢が拒否したのは私のせいだと説明しただろう」

「母上、貴女は契約上の王族。サラは血肉からの王族。無礼は許されません。

付き纏っているのは私です。求婚を2度断られても諦められなくて必死だったのに」

「2度!?」

「初々しい?その方が王族に充てがうのに相応しいと?
ならば父上にも初々しい妾を紹介しましょう」

「まさか…」

「3ヶ月後に母上の居場所はありますかね?
3ヶ月経っても塔から出られない可能性もありますけどね」

「公務があるわ」

「側妃がやってくれるそうです。王女を2人産んだメリンダ様に貴女の残りの予算の9割を渡し、社交や公務に必要なドレスを仕立てるよう命じました。

こんなになくても公務はできると苦笑いしていましたよ。余ったら姉達に何か買ってあげてくれと言ったら喜んでいたから、頑張るでしょう。

それにメリンダ様は弁えることを知っている。父上が妾や愛人を迎えようと意地悪などしません」

メリンダが王妃の公務をして、新しい女を迎えたら、隔離された私は…

「陛下……お願いします、撤回してください」

「今日の振る舞いは王妃として有るまじき行為だった。サラ嬢がいる以上 外交と同じ意味を持つ。

お前は私がガードナー家に謝罪をしたのに無にしようとした。
私の友情に泥を塗り、息子の恋を邪魔するなど、気でも狂ったとしか思えん」

「陛下も政略結婚だったではありませんか!」

「好きな女が嫁いでしまったからな」

「え?」

「サラ嬢は良い子だ。欲がない。誠実だから求婚を断った。ユリスを嫌いだからとか軽視したわけではない。
継承者の弟もサラ自身も子供だったから、死へ向かう父親と侯爵家のことで精一杯だっただけだ。

しかもサラは、ユリスがサラを好きだと知らなかった。

私は誤解してガードナー侯爵に…友人の病に追い討ちをかけた愚か者だ。

私もユリスも泥濘んだ地面をなんとかしようとしてきた。

お前の失言のせいで、サラ嬢から別れの手紙が届いたぞ。友人でさえ辞退するそうだ。

下級貴族や平民を好きになったのではない。センティア国王の姪だぞ?一番相応しい結婚相手だったのに何故邪魔をしたのだ。それでも母親か!」

「陛下…ユリス…」

「時間はたっぷりあります。本は差し入れますので、語学や歴史、法律を学びなおしては?
3カ国語が話せるようになったら再考しましょう。

あと、王妃教育の講師を頼んでおきますよ。
母上がクビにしたバレリー子爵夫人です。

夫人は礼儀作法の先生ですからね。ちゃんと挨拶をして敬ってください。
合格は塔から出る条件の一つですからね」

「ユリス、彼女だけは」

「お前が熱い茶をかけて火傷を負わせ、パーティで笑い者にした夫人だ。社交界から身を引いていたが喜んで引き受けてくれるだろう。

熱い茶をお前にかけても一切咎めないと契約書に盛り込もう」

「陛下!お慈悲を!
ユリス!お願いよ!許してちょうだい!」

「時を戻せたら許してあげますよ。茶会に割り込む前なら軟禁は撤回します。

サラへの最初の王子妃の打診前に戻してくれるなら元通りどころか私の代でも母上を大切にしましょう」

「そんなの無理よ」

「つまり私も無理ですよ、母上。塔にいる間は食事のメニューが質素になりますから、この夕食をよく味わってくださいね」


知らなかった。我が息子の本性を。
婚約の打診を断られて引きこもるような優しくて繊細な子だと思っていたのに、実の母でさえ冷遇し罰を与えるほど冷酷な子だったなんて…。



食後、連れて行かれたのは本当に北の塔の上階だった。

石造りの塔にある窓は鉄格子があるだけ。
つまり嫌でも自然を感じて過ごすことができる。

冬は凍えてしまうほど寒いと言われる場所だ。暖炉もない。冷たい風が全てを冷やす。
今が夏で助かったが虫が入り込む。

出入口は鉄柵のドアで丸見えだ。

室内は壁も床も石。飾りも何もない。

ランプは室内灯が二つに卓上灯が一つ。
粗末な小さなベッドに一人用のテーブルと椅子。

棚には布や着替えがあり、洗面室はあるが、穴が空いていて排水させるための水場と、椅子に穴が空き下にバケツが置いてあるだけのトイレ。
櫛と石鹸と手拭きタオル。

棚の引き出しには保湿クリームと傷用のクリーム。
入れ物からすると使用人が使っているものだろう。

そしてもう一つの引き出しには聖書。

ベッドの真上の天井には十字架が付けられていた。



メイドは何かをしてくれるわけではない。ただ運ぶだけ。

毎日水で濡らしたタオルで体を拭き、週に一度、浴場で洗髪できるが水だ。夏でも井戸水で冷たい。

食事は質素。平民の暮らしからすれば贅沢なのだとか。

与えられた語学の本は遥か遠い砂漠の国の言語。
文字の見分けがつかない。単語も発音もまるで違う。

そしてバレリー子爵夫人は毎度、熱湯をポットに入れて一階の部屋に用意させて講義を始める。
夫人は茶を飲み、私は本を何冊も頭の上に乗せて歩いたりカーテシーをさせられる。

「王妃と名乗るには不出来なカーテシーね」

「っ!!」





 その後の王妃***


いつからか、バレリー子爵夫人は陛下の新しい女について話すようになった。 

侍女をお召しになって、陛下はお喜びよ”

“生娘だったらしく、妾として迎えられたわ。貴族らしいから安心してね”

“毎夜陛下が彼女の部屋を訪れて朝に戻るそうよ”



ユリスが様子を見に来て、

「3カ国目の言語が覚えられないと ここから離れられませんよ,,

バレリー夫人の講義も合格をもらえていないらしいですね。

そんなに北の塔ここが気に入ったのですか」

「ユリス…私が悪かったわ。許して」

「サラは母上が促した通り、王宮に誘っても断ってきますよ。
どうしたらこの怒りを消せるのか教えてください」

「私がサラ嬢に謝って、機嫌を直してもらうわ」

「きっとサラは顔も見たくないでしょう。

そうだ。サラが私の妃になるまで此処にいてもらいましょう。
もし、他の男と婚姻したら最北の離宮で幽閉も良いですね」

「私は王妃なの!貴方の母なのよ!」

「あ、侍女から妾に昇進した女性は避妊薬の使用を止めさせました。子を産めば側妃に格上げです」

「側妃……」

「メリンダ様とも仲がいいですよ」

「ユリス……許してください」

「サラが私の妃になったら検討してあげましょう」



まさか、息子ユリスがこんなにあの娘に傾倒していただなんて。



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