【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ

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まるで…

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リオから手紙が届いた。

お母様が気落ちしているから、そろそろ仲直りしろと書いてある。

まだ蟠りはあるけど少しは落ち着いた。
当時のお母様は今の私より歳下で自由は無かったと思う。そこで歳上の王子様が初心な母に手を付けたのだ。

妊娠すれば反対しないだろうと甘い考えの王子様と、最悪殺されると腹の中の私を守った母。

母宛に返事を書いた。
“守ってくれてありがとうございました。
でも未来のことは自分で決めますので、私を蚊帳の外に追い出して決めるのは止めてください。”

そしてリオが不在の間、少しガードナー邸に戻ることにした。

荷物を半分積んでサットン邸を出た。
ペーズリー様達は衝撃の顔をしていた。
だけど、家の者が長く誰もいないのも良くないと言うと黙った。

涙目のシメオン様は自分のせいかと縋っていたが、うちは当主が若いから、他所より気を付けないとならないと説明したら納得してくれた。


久しぶりのガードナー邸の自室が落ち着く様な懐かしいような不思議な気分になる。

一通り、屋敷内の報告を聞いた後、執事が手紙を持ってきた。

「お嬢様、お手紙が届いております。
上3つは直ぐに目をお通しください」

手紙を見るとバルチノ公爵家の夜会のお誘い、ユリス殿下からのお茶のお誘い、最後はブランパーン大公からの手紙だった。

バルチノ公爵家は行くとして、ユリス殿下はどうしよう。エレノアが一緒ならいいかな。
ユリス殿下にはエレノアが一緒ならと返事を出した。 

夕食後に実父の手紙を読もうとしているとメイドが慌てて声を掛けた。

「お、お嬢様っ、サットン伯爵令息がいらっしゃいました」

「? 今 行くわ」

エントランスに行くと、ケイン様が騎士服のまま立っていた。

「サラ!」

私に駆け寄るとギュッと抱きしめた。

「ええっ? ケイン様!?」

「私が強く言い過ぎたのだな、すまない。
アレでも優しく言ったつもりだったんだ。
私が悪かった。家出なんか止めて帰ってきてくれ」

「ぐるじい…」

ケイン様の背中をバシバシ叩くと腕を解いてくれた。

ケイン様の手を掴み外に出て扉を閉めた。

「いいですか。
ガードナー侯爵家の当主はリオで、私よりも歳下です。実質運営しているのは母と側近達ですが、当主が若くて不在だと緩みが出ます。
だから私達姉弟は父が生きていた頃から王都と領地を往復していました。

今は学園がありますから此処が拠点になっています。
そしてリオが領地に向かったので、今のうちに屋敷内で不足などがないか聞き取りをして解決しているのです」

「じゃあ、家出ではないのだな?」

寧ろサットン邸にいる方が家出ですからね?

「違います。中でお茶でも飲みましょう」


応接間ではなく居間に通してお茶を出させた。

「サラ。ユリス殿下と、バルチノ公爵家と…センティア王国?」

流石王族専属騎士。封筒だけで分かるのね。

「はい。ユリス殿下からはお茶のお誘い、バルチノ公爵家からは夜会のお誘い、もう一つはブランパーン大公からですがまだ読んでいません」

「返事は出したのか?」

「ユリス殿下にはエレノア…、サルヴィア公爵令嬢が一緒ならと返事を出しました。

バルチノ公爵家は私が夜会に出ないのを知っていらして 今まで招待されていませんでしたが、昨日シメオン様と夜会に出たことを聞きつけて急遽送ってくださいました。明後日ですけど。
リオがお世話になりましたし、昨日のことがバレているので断り辛く、出席の返事を出しました。

最後の手紙を読むのは勢いがないと…」

ケイン様は私の隣に座り直すと手紙を奪い、背もたれに身を預けながら読み始めた。

ケイン様、どうしちゃったのかしら。

「センティアに来ないかと書いてある。異母弟達が会いたがっているようだ」

「会わなくてもいいのに」

「後悔するとしても会っておいたらどうかな」

「後悔するとしてもですか?」

「行って嫌な弟達なら今後関わらない決心に繋がるし、そう大公閣下に伝えればいい。
会っておけば良かったという後悔はさせたくない。
センティア王国がどんな国かも知ることができるし、お父上と蟠りがあっても一度くらいはチャンスをあげないと。

亡くなったガードナー侯爵だってサラを残してどれだけ心残りだったか。
血が繋がっていなくとも、サラが実父を拒絶するほど愛してくれた人だ。ずっと手元に置いておきたかっただろうし悔しかっただろう。
父娘で様々なことをしたかったはずだ。
ドレスを新調する度に成長を喜び、美術品の鑑賞や観劇も連れて行ったり、旅行にも連れて行ったり。
夜は寝顔を見て、昼は笑い声を聞いて。そんな時間を病に蝕まれながら奪われていったんだ。
その愛おしい娘が後悔しないためならガードナー侯爵は何でもしたと思う」

ポロポロと涙が溢れだした。

「もっとガードナー侯爵お父様と一緒にいたかった。生きていて欲しかったの」

ケイン様は肩に腕を回して抱き寄せた。

「会いに行こう。まだ長期休暇が4分の3残ってるだろう? 長くは滞在できないから丁度いい。
もっと一緒に過ごしたいと思えたら次の約束をすればいい。そうでなければ日程に余裕がなかったことを幸運に思うだろう」

「はい」


どのくらい経ったのか、気が付くとケイン様の騎士服の胸元は私の涙で濡れていた。
鼻水も付いた気がする。

「ご、ごめんなさいっ、私ったら」

ずっとしがみついて騎士服を汚すだなんて

「お嬢様、お顔を洗いに参りましょう」

メイド長に促されて顔を洗い 身なりを整えて戻るとケイン様が立ち上がった。

「ブランパーン大公閣下にはサットン家から返事を出す。全て任せておいてくれたらいい。
バルチノ公爵家の夜会は明後日だな?迎えに来る。

殿下のお誘いはサルヴィア公爵令嬢と片時も離れないように。花摘みでも、何かのアクシデントで着替えが必要でも、必ず一緒に行動すること」

「…はい」



湯浴みをして、目元が腫れないようにマッサージしてもらった。

それにしても、喧嘩して愛する妻に逃げられた夫か、目の中に入れても痛くない妹に避けられた兄の様だった。

ケイン様、一体どうしてしまわれたのだろう。

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