【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ

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追放されるエロイズ

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【 エロイズの視点 】



 惨事の翌朝、体がだるい。

「10時から謁見です。食事は出せません」

「出せない?」

「はい。腸の動きを抑える薬を投与しましたが、摂取した下剤が強力な上に多量ですので、食べたことによって腸が刺激されて謁見中に漏らしてしまうかもしれません」

「分かりました」

昨日の昼に小さなパイを食べたのが最後。散々排泄してお腹が空いていた。


時間になり謁見の間に連れて来られた。
そこにはお義祖父様とお義父様と悪魔がいた。

「跪け」

「はい?」

「罪人だろう!跪け!」

「キャッ」

兵士に無理矢理跪かされて膝が痛い。

陛「始めよう」

執「執行官のホスキンスが担当いたします。

一昨日、サットン邸にあった下剤を無断で持ち出し、昨日の昼食で下剤を仕込んだパイをサラ・ガードナー侯爵令嬢とペーズリー・サットン伯爵令嬢に自ら取り分けて食べさせようとしたが、気付かれて二つとも自分で食べることになり、王城の紳士用トイレで脱糞しました。

罪状は、目的であった、令嬢達に恥をかかせようと企てた事に対するものなのですが、命に関わる危険な量だったこと。
対象の令嬢のうちの1人がセンティア王国の王弟殿下であるブランパーン大公閣下の実子ということ。

この二点から傷害未遂と不敬罪の適用を提案いたします」

陛「エロイズ・サットン。申開きはあるか」

私「へ、陛下っ、下剤だと分かっていて私に食べろと強要したのはガードナー侯爵ですわ!
それに他国の王族の血が流れているからって、この国で不敬罪を問うのはおかしいです!」

陛「其方は何も混入させていないと主張した。それを証明させるために侯爵は食べろと言ったのだ。
認めていれば食べさせる必要はなかった。
そして、不敬罪については、ここで適用するのがおかしいと申すならばセンティアへ引き渡そう。
向こうでは、ガードナー侯爵の不問という言葉も無意味だ。
つまり極刑だろうな」

私「!!」

陛「ホスキンス卿。センティアへ引き渡しを、」

私「待ってください!この国で裁きをお願いします!」

陛「二言は無いな?」

私「はい」

そもそも未遂だし、苦しんだのは私なのよ!

陛「何故2人を狙ったのだ」

私「ペーズリーは貴族令嬢の務めを果たそうとせず王都の屋敷に暮らし続けるつもりでした。
ガードナー侯爵令嬢も居候をしていました。
私は領地に追いやられ社交などほとんど無い生活。
挙句、お義祖父様もお義母様も宝石をペーズリーと他人のガードナー侯爵令嬢にだけあげて私には与えないのです。
だから少しだけ懲らしめようと思いましたの」

陛「くだらない。…将軍、どうなのだ?」

将「宝飾品については未婚の令嬢向けの品でした。メリーナからは独身時代の物を。私からは姉の遺品を。

何故エロイズを領地から出さないか。それは今回証明されました。この女は社交に出ては弱き者、気に入らない者に害を成す。それを防ぐために領地に置いたのです。
ドレスも宝飾品も領地で過ごすだけにしては十分な物を与えております。今 着用しているドレスや宝飾品も困窮した家門には買えない品です。
サットン家は寧ろ慈悲を与えておりました。

そしてもう一つ。ガードナー侯爵令嬢を居候などと申しておりますが、サットン家にて預かっていると サラの母君に伝わった途端にエロイズの持参金の2倍以上の生活費を渡されました。
いずれ彼女が去る時に全額お返しすることにしておりますが、その金があってもほとんど手を付けなくていいほど物欲がありません。

そしてサットン家の心を掴み屋敷を明るく灯す彼女に優しくするのは当然のこと。
陛下もそう思われませんか?」

陛「尤もだな。

エロイズ・サットン。
ペーズリー・サットン伯爵令嬢への傷害未遂で離縁を言い渡す。
そしてサラ・ガードナー侯爵令嬢への傷害未遂と不敬罪で除籍の上、国外追放とする」

私「国外追放?」

陛「置いていても害にしかならん。
将軍、侯爵、ご苦労であった」

陛下が立ち上がると執行官が“閉廷”と告げ、私は連れ出されて牢屋に入れられた。


一週間程、粗食と薬を与えられ粗末で服とも言えないものを着ろと言われ 背負い鞄を渡された。

この私が持つの!?

「分かってないな?
国外追放はどうなる?国境で解放だ。国境はどんな所にある?町だけは栄えているが、他は大抵は道と自然だ。
追放となるのは誰だ?お前だけだ。お前だけということは?荷物を持つのはお前だ。食事も睡眠も自衛も水浴びも全てお前次第だ。怪我をしても病気になってもお前次第だ。
山賊に遭わなくても毒を持つ虫や植物や蛇、命を狙ってくる獣に気を付けろよ。崖や落石や泥濘みも気を付けろよ。
その荷物は当面の命綱だ。狙われるぞ。
そしてどこかで雇ってもらうか 身を売らないと食っていけないぞ。荷物の中に巾着袋があって、底辺生活の数ヶ月分の金があるからな。宿に泊まれば1ヶ月もたないぞ」

え?

国外追放って、国境を跨いですぐお父様が用意した馬車に乗って、少ない使用人と小さなお屋敷で慎ましくはあっても楽しく暮らすものでしょう?
小説で読んだもの。

そこで身分は低くても素敵な男性が愛してくれるはずでは?


そして刑は執行された。

何日経ったのか。
粗末な馬車で身体中が痛む中、やっと解放された。

「エロイズ。国に戻れば見つかった瞬間に処刑されるからな」

兵士達は私が国境を跨ぐのを見守った。



隣の国の国境の町で食糧を買って、お店でお茶を飲みながら待っていたが、一向に迎えの馬車が来なかった。

日が落ち始めたので宿をとろうとしたら、所持金の1割が無くなってしまった。

次の日も来なかったので雇ってもらえるところを探したが何処も断られた。

2泊したところで諦めて別の町に移動し始めた。
歩いても歩いても景色が変わらず、そのうち真っ暗になった。

「あっ!」

目を開けたら夜明けだった。
どうやら崖から落ちて数時間 気を失っていたらしい。起きようとすると激痛が走った。

「いっ!!」

よく見ると左脚は脛から折れた骨が出ていて、右脚はあらぬ方向へ捻じ曲がっていた。左腕も曲がっていた。

痛みと格闘しながら助けを待った。きっと素敵な男性との出会いのためのハプニングなのだと自分に言い聞かせたのに、一番最初に駆け付けたのは動物だった。

大型犬に見えたソレは一匹が近付くと脚の臭いを嗅ぎ始めた。ペロっと舐めるとゾロゾロと茂みから仲間が出てきた。

バリッ バリッ

「ギャアアアアッ!!痛い!!痛い!!」

脛から剥き出しになっていた骨に噛み付き砕き、肉に歯を立てると左右に振って肉を食いちぎる。
他の犬らしきソレも腕、頬、脚と喰らいついていく。その内 服を破り腹を食べ始めた。腸が引き摺り出されて、奥へと鼻先を突っ込まれ探られている。

薄れゆく意識の中で悟った。

“小説に出てきた狼だ”



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