【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ

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揺さぶられるケイン

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【 ケインの視点 】


一つ歳上のはずのペーズリーがソワソワしながら馬車窓にへばり付き、サラは私とペーズリーそれぞれに気を遣いながら話をしている。

白壁の街並みで有名な町は 王都から片道二時間かかる。

水の湧く泉で花弁を浮かべたが、2人の花弁は流されてしまった。
だが、私はこの2人が幸せになれるよう祈ったからいいだろう。

ペーズリーがサラに結婚について質問をしたが王族は無理だし高貴も難しいという。そして…

『……純潔ではないからです』

私もペーズリーも驚いた。

何故なら婚約者も恋人もいないといっていたから。

改めて聞いても恋人もいないと言う。

彼女が自ら一晩限りの関係を結ぶとも思えず、他の可能性をきいてみた。

『何か被害に遭ったということではないよな』

『…はい』

サラは嘘が下手だった。

『相手は知り合いか』

『はい』

つまり、知り合い以上の男に無理強いをされたということだ。

胸がムカムカし、脳は漆黒の靄に包まれたかのように怒りが込み上げる。
サラやペーズリーに気付かれないよう会話を続けるがペーズリーには勘付かれてしまったようだ。

大したものではないが2人に土産を買うと、ペーズリーはサラとお揃いが嬉しい様だし、サラは申し訳なさそうに受け取った。


屋敷に着くとすぐに食事をした。
食後のデザートを食べお茶を飲んでいるとサラが私の方へ来て小さな包みを差し出した。

いつの間に買ったのだろう。私への土産だと言った。

騎士になってからはあまり使っていなかったピアスの穴に気付くほど見られていたのかと思うと照れくさかった。

つい、着けてくれとお願いしてしまった。

髪が触れ、息がかり、サラの香りが鼻腔をくすぐる。こんなに緊張する様な事が今まであっただろうか。

指が耳朶を掴みピアスが装着された。
やっとサラの方に顔を向けると改めて距離の近さに思考が止まりかける。

何とか言葉を絞り出した。

「ペーズリー、どうだ」

「すご~く似合っているわ、お兄様」

「ありがとう、サラ」

「良かったです」


その後もペーズリーを中心に話をしているとサラが眠ってしまった。

「疲れたのね」

「気を許してる証拠かもな」

抱き上げて部屋に運びベッドに寝かせた。
ワンピースで寝苦しくは無さそうだからこのままにしよう。

「軽いな。もっと食べさせないとな」

頭を撫でて部屋を出た。


 
リビングに戻るとペーズリーが待っていた。

「起きなかった?」

「ああ、良く寝てるよ」

「お兄様はサラ様のことはどう思う?」

「どうとは」

「お兄様だって一生結婚する気がないわけじゃないでしょう?
サラ様はすごくいいと思うの」

「ユリス殿下の想い人だぞ」

「ユリス殿下は娶れないでしょう。
もしかしてお兄様もお嫁さんに純潔を望むの?」

「……」

気持ちが揺れている。

条件で妻を選ぶか、気持ちで妻を選ぶか。
今まで気持ちが入っていないから妻にしたいとは思わなかったし、条件が良くてもペーズリーに弾かれる。

サラには何を望む?

「自分だって純潔じゃないくせに」

確かに。

「私にとってサラは身分が高過ぎる。
サットン家の跡継ぎだったらギリギリ有りだったかもしれない。
私に自由が与えられているのは継ぐものがないからだ。
サットン家という生家の後ろ盾がある騎士。それだけだ。

センティア王の弟、ブランパーン大公と公爵令嬢との子で、籍はガードナー侯爵家。
辞退はしたが、ユリス王子殿下の伴侶に選ばれ次期王妃を望まれた令嬢。今でもユリス殿下は彼女を想っている。
とても爵位のない騎士に娶れる存在ではない」

「ん~。サラは気にしないと思うけど。
贅沢だって望んでいないじゃない。
サットン家所有の小さめの屋敷に住んで、使用人はサットン家から回して貰えばいいと思うわ。
絶対お祖父様が後押ししてくださるわ」

「お祖父様は他の男を当てがおうとなさっておられたぞ?」

「お兄様が欲しいと言わないからよ」

「サラはお前の友人として見ていたし、妹みたいな感じだ。
そもそもお前が欲しいんだろう?」

「そりゃそうよ。他家に嫁がれたらなかなか会えないけど、サットン家の身内になってくれたらいつでも会えるもの。

妹みたいな感じぃ~? そうかなぁ~。
男の嫉妬丸出しだった気がするけどなぁ~。

まあ、後悔しないようにね」


簡単なことの様に言って自室に戻るペーズリーを少し腹立たしく思えた。

騎士は騎士でも王族の専属護衛騎士。普通の騎士より給金はいいが、サットン家からの援助がなければサラの様な令嬢を望めない。

そこには兄上と兄嫁という壁がある。
これ以上無駄なことは考えたくない。
明日も2人を街に連れていくから早く休むことにした。


翌日はペーズリーに連れ回されて、サラもぐったりしていた。

「フッ」

「うわっ、止めてくれよ」

「何が」

「思い出し笑いしただろう。そんなに女とのデートが良かったのか?」

「妹達だ」

「あれ?ピアスつけてる」

「……」

「そっか。プレゼントだな?
良かったな、上手くいっているようで安心したよ」

「そうじゃない」

「分かった、分かった」

そんな話をしながら授業を終えるユリス殿下を待っていた。


王城へ戻ると、陛下の執務室にユリス殿下が入室した。人払いをされて扉の外にウィリアムと立っていた。

“で、医師は抱き込めそうですか”

“次男に何かしらの職を与えることで合意した。
お前の方はどうだ”

“条件は気にせず嫁いで欲しいと告げるつもりです。
ただ何度か誘ってはいるのですがなかなか個人的に話すような時間をもらえません”

“もうすぐ剣闘大会だろう。優勝できればその場で跪け。サラ嬢も断り辛いだろう”

「(ケイン?)」

ウィリアムが私を見ているのも、声をかけているのも分かったが、それどころではなかった。
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