27 / 73
揺さぶられるケイン
しおりを挟む
【 ケインの視点 】
一つ歳上のはずのペーズリーがソワソワしながら馬車窓にへばり付き、サラは私とペーズリーそれぞれに気を遣いながら話をしている。
白壁の街並みで有名な町は 王都から片道二時間かかる。
水の湧く泉で花弁を浮かべたが、2人の花弁は流されてしまった。
だが、私はこの2人が幸せになれるよう祈ったからいいだろう。
ペーズリーがサラに結婚について質問をしたが王族は無理だし高貴も難しいという。そして…
『……純潔ではないからです』
私もペーズリーも驚いた。
何故なら婚約者も恋人もいないといっていたから。
改めて聞いても恋人もいないと言う。
彼女が自ら一晩限りの関係を結ぶとも思えず、他の可能性をきいてみた。
『何か被害に遭ったということではないよな』
『…はい』
サラは嘘が下手だった。
『相手は知り合いか』
『はい』
つまり、知り合い以上の男に無理強いをされたということだ。
胸がムカムカし、脳は漆黒の靄に包まれたかのように怒りが込み上げる。
サラやペーズリーに気付かれないよう会話を続けるがペーズリーには勘付かれてしまったようだ。
大したものではないが2人に土産を買うと、ペーズリーはサラとお揃いが嬉しい様だし、サラは申し訳なさそうに受け取った。
屋敷に着くとすぐに食事をした。
食後のデザートを食べお茶を飲んでいるとサラが私の方へ来て小さな包みを差し出した。
いつの間に買ったのだろう。私への土産だと言った。
騎士になってからはあまり使っていなかったピアスの穴に気付くほど見られていたのかと思うと照れくさかった。
つい、着けてくれとお願いしてしまった。
髪が触れ、息がかり、サラの香りが鼻腔をくすぐる。こんなに緊張する様な事が今まであっただろうか。
指が耳朶を掴みピアスが装着された。
やっとサラの方に顔を向けると改めて距離の近さに思考が止まりかける。
何とか言葉を絞り出した。
「ペーズリー、どうだ」
「すご~く似合っているわ、お兄様」
「ありがとう、サラ」
「良かったです」
その後もペーズリーを中心に話をしているとサラが眠ってしまった。
「疲れたのね」
「気を許してる証拠かもな」
抱き上げて部屋に運びベッドに寝かせた。
ワンピースで寝苦しくは無さそうだからこのままにしよう。
「軽いな。もっと食べさせないとな」
頭を撫でて部屋を出た。
リビングに戻るとペーズリーが待っていた。
「起きなかった?」
「ああ、良く寝てるよ」
「お兄様はサラ様のことはどう思う?」
「どうとは」
「お兄様だって一生結婚する気がないわけじゃないでしょう?
サラ様はすごくいいと思うの」
「ユリス殿下の想い人だぞ」
「ユリス殿下は娶れないでしょう。
もしかしてお兄様もお嫁さんに純潔を望むの?」
「……」
気持ちが揺れている。
条件で妻を選ぶか、気持ちで妻を選ぶか。
今まで気持ちが入っていないから妻にしたいとは思わなかったし、条件が良くてもペーズリーに弾かれる。
サラには何を望む?
「自分だって純潔じゃないくせに」
確かに。
「私にとってサラは身分が高過ぎる。
サットン家の跡継ぎだったらギリギリ有りだったかもしれない。
私に自由が与えられているのは継ぐものがないからだ。
サットン家という生家の後ろ盾がある騎士。それだけだ。
センティア王の弟、ブランパーン大公と公爵令嬢との子で、籍はガードナー侯爵家。
辞退はしたが、ユリス王子殿下の伴侶に選ばれ次期王妃を望まれた令嬢。今でもユリス殿下は彼女を想っている。
とても爵位のない騎士に娶れる存在ではない」
「ん~。サラは気にしないと思うけど。
贅沢だって望んでいないじゃない。
サットン家所有の小さめの屋敷に住んで、使用人はサットン家から回して貰えばいいと思うわ。
絶対お祖父様が後押ししてくださるわ」
「お祖父様は他の男を当てがおうとなさっておられたぞ?」
「お兄様が欲しいと言わないからよ」
「サラは妹の友人として見ていたし、妹みたいな感じだ。
そもそもお前が欲しいんだろう?」
「そりゃそうよ。他家に嫁がれたらなかなか会えないけど、サットン家の身内になってくれたらいつでも会えるもの。
妹みたいな感じぃ~? そうかなぁ~。
男の嫉妬丸出しだった気がするけどなぁ~。
まあ、後悔しないようにね」
簡単なことの様に言って自室に戻るペーズリーを少し腹立たしく思えた。
騎士は騎士でも王族の専属護衛騎士。普通の騎士より給金はいいが、サットン家からの援助がなければサラの様な令嬢を望めない。
そこには兄上と兄嫁という壁がある。
これ以上無駄なことは考えたくない。
明日も2人を街に連れていくから早く休むことにした。
翌日はペーズリーに連れ回されて、サラもぐったりしていた。
「フッ」
「うわっ、止めてくれよ」
「何が」
「思い出し笑いしただろう。そんなに女とのデートが良かったのか?」
「妹達だ」
「あれ?ピアスつけてる」
「……」
「そっか。プレゼントだな?
良かったな、上手くいっているようで安心したよ」
「そうじゃない」
「分かった、分かった」
そんな話をしながら授業を終えるユリス殿下を待っていた。
王城へ戻ると、陛下の執務室にユリス殿下が入室した。人払いをされて扉の外にウィリアムと立っていた。
“で、医師は抱き込めそうですか”
“次男に何かしらの職を与えることで合意した。
お前の方はどうだ”
“条件は気にせず嫁いで欲しいと告げるつもりです。
ただ何度か誘ってはいるのですがなかなか個人的に話すような時間をもらえません”
“もうすぐ剣闘大会だろう。優勝できればその場で跪け。サラ嬢も断り辛いだろう”
「(ケイン?)」
ウィリアムが私を見ているのも、声をかけているのも分かったが、それどころではなかった。
一つ歳上のはずのペーズリーがソワソワしながら馬車窓にへばり付き、サラは私とペーズリーそれぞれに気を遣いながら話をしている。
白壁の街並みで有名な町は 王都から片道二時間かかる。
水の湧く泉で花弁を浮かべたが、2人の花弁は流されてしまった。
だが、私はこの2人が幸せになれるよう祈ったからいいだろう。
ペーズリーがサラに結婚について質問をしたが王族は無理だし高貴も難しいという。そして…
『……純潔ではないからです』
私もペーズリーも驚いた。
何故なら婚約者も恋人もいないといっていたから。
改めて聞いても恋人もいないと言う。
彼女が自ら一晩限りの関係を結ぶとも思えず、他の可能性をきいてみた。
『何か被害に遭ったということではないよな』
『…はい』
サラは嘘が下手だった。
『相手は知り合いか』
『はい』
つまり、知り合い以上の男に無理強いをされたということだ。
胸がムカムカし、脳は漆黒の靄に包まれたかのように怒りが込み上げる。
サラやペーズリーに気付かれないよう会話を続けるがペーズリーには勘付かれてしまったようだ。
大したものではないが2人に土産を買うと、ペーズリーはサラとお揃いが嬉しい様だし、サラは申し訳なさそうに受け取った。
屋敷に着くとすぐに食事をした。
食後のデザートを食べお茶を飲んでいるとサラが私の方へ来て小さな包みを差し出した。
いつの間に買ったのだろう。私への土産だと言った。
騎士になってからはあまり使っていなかったピアスの穴に気付くほど見られていたのかと思うと照れくさかった。
つい、着けてくれとお願いしてしまった。
髪が触れ、息がかり、サラの香りが鼻腔をくすぐる。こんなに緊張する様な事が今まであっただろうか。
指が耳朶を掴みピアスが装着された。
やっとサラの方に顔を向けると改めて距離の近さに思考が止まりかける。
何とか言葉を絞り出した。
「ペーズリー、どうだ」
「すご~く似合っているわ、お兄様」
「ありがとう、サラ」
「良かったです」
その後もペーズリーを中心に話をしているとサラが眠ってしまった。
「疲れたのね」
「気を許してる証拠かもな」
抱き上げて部屋に運びベッドに寝かせた。
ワンピースで寝苦しくは無さそうだからこのままにしよう。
「軽いな。もっと食べさせないとな」
頭を撫でて部屋を出た。
リビングに戻るとペーズリーが待っていた。
「起きなかった?」
「ああ、良く寝てるよ」
「お兄様はサラ様のことはどう思う?」
「どうとは」
「お兄様だって一生結婚する気がないわけじゃないでしょう?
サラ様はすごくいいと思うの」
「ユリス殿下の想い人だぞ」
「ユリス殿下は娶れないでしょう。
もしかしてお兄様もお嫁さんに純潔を望むの?」
「……」
気持ちが揺れている。
条件で妻を選ぶか、気持ちで妻を選ぶか。
今まで気持ちが入っていないから妻にしたいとは思わなかったし、条件が良くてもペーズリーに弾かれる。
サラには何を望む?
「自分だって純潔じゃないくせに」
確かに。
「私にとってサラは身分が高過ぎる。
サットン家の跡継ぎだったらギリギリ有りだったかもしれない。
私に自由が与えられているのは継ぐものがないからだ。
サットン家という生家の後ろ盾がある騎士。それだけだ。
センティア王の弟、ブランパーン大公と公爵令嬢との子で、籍はガードナー侯爵家。
辞退はしたが、ユリス王子殿下の伴侶に選ばれ次期王妃を望まれた令嬢。今でもユリス殿下は彼女を想っている。
とても爵位のない騎士に娶れる存在ではない」
「ん~。サラは気にしないと思うけど。
贅沢だって望んでいないじゃない。
サットン家所有の小さめの屋敷に住んで、使用人はサットン家から回して貰えばいいと思うわ。
絶対お祖父様が後押ししてくださるわ」
「お祖父様は他の男を当てがおうとなさっておられたぞ?」
「お兄様が欲しいと言わないからよ」
「サラは妹の友人として見ていたし、妹みたいな感じだ。
そもそもお前が欲しいんだろう?」
「そりゃそうよ。他家に嫁がれたらなかなか会えないけど、サットン家の身内になってくれたらいつでも会えるもの。
妹みたいな感じぃ~? そうかなぁ~。
男の嫉妬丸出しだった気がするけどなぁ~。
まあ、後悔しないようにね」
簡単なことの様に言って自室に戻るペーズリーを少し腹立たしく思えた。
騎士は騎士でも王族の専属護衛騎士。普通の騎士より給金はいいが、サットン家からの援助がなければサラの様な令嬢を望めない。
そこには兄上と兄嫁という壁がある。
これ以上無駄なことは考えたくない。
明日も2人を街に連れていくから早く休むことにした。
翌日はペーズリーに連れ回されて、サラもぐったりしていた。
「フッ」
「うわっ、止めてくれよ」
「何が」
「思い出し笑いしただろう。そんなに女とのデートが良かったのか?」
「妹達だ」
「あれ?ピアスつけてる」
「……」
「そっか。プレゼントだな?
良かったな、上手くいっているようで安心したよ」
「そうじゃない」
「分かった、分かった」
そんな話をしながら授業を終えるユリス殿下を待っていた。
王城へ戻ると、陛下の執務室にユリス殿下が入室した。人払いをされて扉の外にウィリアムと立っていた。
“で、医師は抱き込めそうですか”
“次男に何かしらの職を与えることで合意した。
お前の方はどうだ”
“条件は気にせず嫁いで欲しいと告げるつもりです。
ただ何度か誘ってはいるのですがなかなか個人的に話すような時間をもらえません”
“もうすぐ剣闘大会だろう。優勝できればその場で跪け。サラ嬢も断り辛いだろう”
「(ケイン?)」
ウィリアムが私を見ているのも、声をかけているのも分かったが、それどころではなかった。
786
お気に入りに追加
1,633
あなたにおすすめの小説

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で夫と愛人の罠から抜け出したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる