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ケインと騎士団の仲間達
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【 ケイン・サットンの視点 】
団長室に向かう途中で誰かが肩に腕を回してきた。
「珍しいな。休暇願いか」
彼は同僚のウィリアム。彼も貴族で騎士だ。
副団長の承認印が捺された休暇届をじっくりと覗き見ている。
「明日からですか。本当珍しいっすね」
後輩のフィリップ。彼は平民だ。
「別に普通だろう」
「ケインは珍しいだろう。誰かの結婚式にでも参列するのか?」
「妹達を遊びに連れて行かないといけないんだ」
「妹っていったら学園を卒業してるだろう」
「そうだが?」
「てっきり女ができたんだと思ってました」
「私もだ。女ができたと思ったのに妹か」
「女? いないよ」
「そうかぁ?最近時間が来たらさっさと帰るし、朝なんかニヤニヤしてるし、夜番のときは機嫌悪いから、てっきりできたと思ったのに」
「で、本当はいるんですよね?紹介してくださいよ」
「いないと言ったろう」
「難攻不落のケインがなぁ。
令嬢や夫人方が色目を使っても相手にしてこなかったケインを射止めたのはどんな女なのか知りたいなぁ」
「だから違うって」
「ケイン先輩、休暇とってどこに行くんですか」
「さあ。ペーズリーが決めたところに連れて行くだけだからよく分からないな」
「私も一緒に行こうかな」
「来なくていい」
「やっぱり女じゃないか」
「妹達に虫を付けたくないだけだ」
「私はレディに優しい紳士じゃないか」
「俺だって紳士になりますよ」
「絶対嫌だ」
「じゃあ、うちの夜会の招待状を妹ちゃん宛に送ろうかなぁ。友人と来てくださいって」
「寄越すな。欠席させるからな」
「やっぱり女だ」
「しつこい」
その後、訓練も終わり業務を終える頃、ユリス殿下に呼び出された。
「サラがサットン邸で暮らしているのは本当か」
「本当です」
「何故そうなった」
「妹のペーズリーがサラ嬢の友人で、成り行きです。詳しくはサラ嬢にお尋ねください」
「話してくれないのか」
「サットン家にとってもサラ嬢にとっても個人的なことですのでお話しできません」
「……問題なく元気で過ごしているのだろうか」
「はい。ペーズリーと気が合うらしく毎日話に花を咲かせております」
「分かった。ありがとう」
茶会の時から分かってはいた。
殿下の片想いは続行中だった。
先日、シヴィル公爵令嬢との婚約が解消になったし、サラ嬢に婚約者はいない。そしてセンティア国王の姪。再度求婚する可能性は高いだろう。
そしてもう1人、サラ嬢に想いを寄せる者がいた。
弟であり、若きガードナー侯爵だ。茶会のとき、独占欲と嫉妬をみせていた。姉に執着した弟だと思っていたのに血の繋がりが無かった。
ガードナー侯爵はサラ嬢を家族の立ち位置を利用してずっと独占してきたのだろう。
サラ嬢は今、その2人から距離を置きたがっている。
街でのサラ嬢は思い悩んでいていた。
放っておけなかった。
愛馬に乗せたサラ嬢はとても華奢な女の子だった。
ペーズリーが心を許す相手。
ペーズリーは人の悪意に敏感だ。
だから親しい友人がいない。
婚約者候補達は会ってすぐ拒絶した。
私の婚約者候補達もペーズリーが弾いた。詳しく素行調査をしてみると、他の男にも擦り寄っていたり傲慢だったり。
女など皆そんなものだろうと思うが、両親からは、兄に跡を継がせるから自由にしていいと言われた。
ある日、学園で友人ができたとペーズリーが興奮していた。だが、
『ペーズリー。いい子なのは分かったが相手は侯爵令嬢だし、王子妃を辞退した令嬢で、そのために一悶着あった家門だ。ガードナー家が悪いわけではないが単純な家門ではなさそうだ。慎重にせねば』
そう忠告したのはお祖父様だ。
お祖父様はまだ王城で剣の指南や戦略の指南をする将軍だ。
だが、サラ嬢が滞在して2日目。私が帰宅すると先に学園から帰ってきたサラと遊んでいた。
お祖父様の腕にぶら下がったり、剣の重さを体感したり、鎧のヘルメットをかぶったりと楽しそうにしていた。
夜、サラが湯浴みをしに席を外すとお祖父様が仰った。
『幸せになれるといいのだがな。ペーズリーもサラも、もっと狡賢く生きられたらと思うが無理そうだな。守ってくれるようないい男と出会えるか……心残りで成仏できん。
よし!城で探してみるか』
慌てて止めたがやりそうだ。
お祖父様があっという間に陥落されていた。
“女ができたと思った”
そう言われたが、そんなつもりはなかった。
確かに早く帰ろうと効率よくすることを心がけたりはした。
最初の朝に、慌てて見送りに起きてきたサラ嬢は寝巻きにガウン、髪は寝癖が付いていた。
“いってらっしゃいませ”
可愛くて、つい頭を撫でてしまった。
レディに対して子供のような扱いは嫌がるかもとハッとしたが、嬉しそうに見えた。
それが頭から離れなくて、何故か早く帰らねばと思ってしまった。
3日もすればすっかり屋敷に馴染み、元々サットン邸で暮らしていたかのように皆が受け入れていた。
『お兄様ぁ。お出かけしたいなぁ』
『どこに』
『まだ決めてないけど、サラの気分転換になればいいなって』
『買い物にでも行くのか?』
『少し遠くまで行ってみようかな~』
『分かった分かった。休めるか申請をしてみるから』
団長室に向かう途中で誰かが肩に腕を回してきた。
「珍しいな。休暇願いか」
彼は同僚のウィリアム。彼も貴族で騎士だ。
副団長の承認印が捺された休暇届をじっくりと覗き見ている。
「明日からですか。本当珍しいっすね」
後輩のフィリップ。彼は平民だ。
「別に普通だろう」
「ケインは珍しいだろう。誰かの結婚式にでも参列するのか?」
「妹達を遊びに連れて行かないといけないんだ」
「妹っていったら学園を卒業してるだろう」
「そうだが?」
「てっきり女ができたんだと思ってました」
「私もだ。女ができたと思ったのに妹か」
「女? いないよ」
「そうかぁ?最近時間が来たらさっさと帰るし、朝なんかニヤニヤしてるし、夜番のときは機嫌悪いから、てっきりできたと思ったのに」
「で、本当はいるんですよね?紹介してくださいよ」
「いないと言ったろう」
「難攻不落のケインがなぁ。
令嬢や夫人方が色目を使っても相手にしてこなかったケインを射止めたのはどんな女なのか知りたいなぁ」
「だから違うって」
「ケイン先輩、休暇とってどこに行くんですか」
「さあ。ペーズリーが決めたところに連れて行くだけだからよく分からないな」
「私も一緒に行こうかな」
「来なくていい」
「やっぱり女じゃないか」
「妹達に虫を付けたくないだけだ」
「私はレディに優しい紳士じゃないか」
「俺だって紳士になりますよ」
「絶対嫌だ」
「じゃあ、うちの夜会の招待状を妹ちゃん宛に送ろうかなぁ。友人と来てくださいって」
「寄越すな。欠席させるからな」
「やっぱり女だ」
「しつこい」
その後、訓練も終わり業務を終える頃、ユリス殿下に呼び出された。
「サラがサットン邸で暮らしているのは本当か」
「本当です」
「何故そうなった」
「妹のペーズリーがサラ嬢の友人で、成り行きです。詳しくはサラ嬢にお尋ねください」
「話してくれないのか」
「サットン家にとってもサラ嬢にとっても個人的なことですのでお話しできません」
「……問題なく元気で過ごしているのだろうか」
「はい。ペーズリーと気が合うらしく毎日話に花を咲かせております」
「分かった。ありがとう」
茶会の時から分かってはいた。
殿下の片想いは続行中だった。
先日、シヴィル公爵令嬢との婚約が解消になったし、サラ嬢に婚約者はいない。そしてセンティア国王の姪。再度求婚する可能性は高いだろう。
そしてもう1人、サラ嬢に想いを寄せる者がいた。
弟であり、若きガードナー侯爵だ。茶会のとき、独占欲と嫉妬をみせていた。姉に執着した弟だと思っていたのに血の繋がりが無かった。
ガードナー侯爵はサラ嬢を家族の立ち位置を利用してずっと独占してきたのだろう。
サラ嬢は今、その2人から距離を置きたがっている。
街でのサラ嬢は思い悩んでいていた。
放っておけなかった。
愛馬に乗せたサラ嬢はとても華奢な女の子だった。
ペーズリーが心を許す相手。
ペーズリーは人の悪意に敏感だ。
だから親しい友人がいない。
婚約者候補達は会ってすぐ拒絶した。
私の婚約者候補達もペーズリーが弾いた。詳しく素行調査をしてみると、他の男にも擦り寄っていたり傲慢だったり。
女など皆そんなものだろうと思うが、両親からは、兄に跡を継がせるから自由にしていいと言われた。
ある日、学園で友人ができたとペーズリーが興奮していた。だが、
『ペーズリー。いい子なのは分かったが相手は侯爵令嬢だし、王子妃を辞退した令嬢で、そのために一悶着あった家門だ。ガードナー家が悪いわけではないが単純な家門ではなさそうだ。慎重にせねば』
そう忠告したのはお祖父様だ。
お祖父様はまだ王城で剣の指南や戦略の指南をする将軍だ。
だが、サラ嬢が滞在して2日目。私が帰宅すると先に学園から帰ってきたサラと遊んでいた。
お祖父様の腕にぶら下がったり、剣の重さを体感したり、鎧のヘルメットをかぶったりと楽しそうにしていた。
夜、サラが湯浴みをしに席を外すとお祖父様が仰った。
『幸せになれるといいのだがな。ペーズリーもサラも、もっと狡賢く生きられたらと思うが無理そうだな。守ってくれるようないい男と出会えるか……心残りで成仏できん。
よし!城で探してみるか』
慌てて止めたがやりそうだ。
お祖父様があっという間に陥落されていた。
“女ができたと思った”
そう言われたが、そんなつもりはなかった。
確かに早く帰ろうと効率よくすることを心がけたりはした。
最初の朝に、慌てて見送りに起きてきたサラ嬢は寝巻きにガウン、髪は寝癖が付いていた。
“いってらっしゃいませ”
可愛くて、つい頭を撫でてしまった。
レディに対して子供のような扱いは嫌がるかもとハッとしたが、嬉しそうに見えた。
それが頭から離れなくて、何故か早く帰らねばと思ってしまった。
3日もすればすっかり屋敷に馴染み、元々サットン邸で暮らしていたかのように皆が受け入れていた。
『お兄様ぁ。お出かけしたいなぁ』
『どこに』
『まだ決めてないけど、サラの気分転換になればいいなって』
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