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戸惑うオフェリー
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【 オフェリーの視点 】
貴族牢ではなく、一般牢に入れられた。
鉄格子で丸見え。間仕切りはなく ベッドとは言い難い木の台にトイレと言い難いバケツ。
全て丸見えだ。
向かいの牢の男はニヤニヤしながらずっとこちらを見ているし、排泄する時は凝視して鼻をスンスンと音を立てる。汚らわしく気持ち悪い。
“サラは私の娘だ”
ソフィアは孤児ではなく亡命した公爵令嬢で、当時の第二王子の恋人でサラは二人の娘。
信じられない……
時間がとても長く感じ 不安が募る中、騎士が呼びにきた。
「謁見だ。身なりを整えろ」
「メイドは?」
「夢でも見ているのか?自分で整えろ」
「鏡を」
「整え終わったと言うことだな?」
騎士は鉄格子の扉を開けて私の腕を掴み引っ張り出した。
「放しなさい!私はシヴィル公爵令嬢なのよ!」
「だからどうした」
「その女は王族より身分が高いらしいぞ」
「そうだった。神の眷属様、どうぞこちらへ」
馬鹿にされているのが分かる!必ず思い知らせてやるわ!
謁見の間の扉が開くと跪くお父様とお母様とお兄様がいらした。
助けに来てくださったのね!
「お父様!!」
お父様の元へ駆け寄ろうとしたら騎士に捕まえられた。
「なるほど。確かに未来の王妃にするのは難しいな」
は? 陛下!?
「オフェリー!跪くんだ!!」
お父様に怒鳴られ、戸惑いつつ膝をついた。
「オフェリー・シヴィル。其方は大公閣下とそのご令嬢のサラ嬢に対して“卑しい” “穢れてる” “不浄の血”と申したとか?
“人のものを盗る卑しい猫” “売女の子は売女” “雑種” “道端の石” 様々に罵ってくれたものだ」
「し、知らなくて……夫人は孤児だって……」
「あのような気品あふれる平民の孤児がいるか!
訳アリに決まっているだろう!」
「お、お母様」
お母様を見ると睨まれてしまった。
「で、王族であるユリスを“未熟”だとか、“お年頃”という下半身に節操がないという意味合いの言葉を口にしたのだな?」
「っ!」
「急に話ができなくなったのか。ならば縫い付けてやろう。
誰か。針と糸を」
「い、言いました!」
「公爵夫人が卑しい血筋について娘に教育していたそうだな」
「誤解です、私はただ…」
「ただ何だ」
「存じ上げずに誤解をしてしまったのです」
「夫人の頭の中で作り上げだ誤解であろう。
シヴィル公爵家の嫡男としてこの場をどうおさめる? ダニエル」
「母は領地の別棟に軟禁し、1年以内に公爵から爵位を引き継ぎます。
オフェリーは婚約を辞退させ、分家の一番貧しく身分の低い貴族に嫁がせます」
「具体的には?」
「領地の僻地を管理するバレー男爵がおります」
「バレー男爵か……確か夫人がいただろう」
「はい。男爵と同様に剣も弓も長けた夫人です。
平民から召し上げましたが、気性の荒いバレー男爵と気が合うようです。
しかし、子が一人しか産まれておりません」
「男爵位は第二夫人は許されていないぞ?」
「妾として嫁がせます。
屋敷に住んではおりますが古く小さな邸宅で、僻地の管理収入で維持しております。肉は狩りで、野菜は自給自足、夫人も普段はドレスなど着ておりません。男物の服を着て働いております。
使用人も少なく外へ行くには乗馬ができないと滅多に出られません。
馬車はありますが荷馬車です。
社交免除ですから不要だと申しておりました」
「見所のある子息がいて命拾いをしたな、シヴィル公爵、夫人。
陛下。ブランパーン大公家はダニエル殿を支持します。
実行されるのならば、これ以上の制裁は望みません」
ブランパーン大公閣下が続けた。
「しかし、この出来損ないを押し付けるのはバレー男爵家が不憫です。まるで役にたたないでしょう。
そうだ。ブランパーン大公家から結婚祝いを出そう」
そう言うと、大公閣下のお付きの男が袋を出した。
そこから金貨5枚を取り出し、お兄様に渡した。
「金貨1枚で10年分の妾の食費や雑費が賄えるだろう。この先50年生きると見込んで5枚渡すので、バレー男爵に渡して欲しい。
後で夫妻には別に贈り物をしよう」
「感謝いたします。シヴィル家はブランパーン大公家とセンティア王国の王家からいただいたお慈悲を忘れることなく次代へ継いで参ります」
「ふむ。何故ダニエル殿のような素晴らしい子息がいる一方で、コレが仕上がるのだ?奇妙な現象だ。
其方ならばリオとも気が合うだろう。
我が娘を守ろうと必死の男だが、まだ学園生だし、前侯爵が病死されたのも子供の頃だ。至らぬところがあれば導いてやって欲しい。
無理にとは言わないが懇意にしてやってくれ」
「是非に」
「お兄様…王子妃は…」
「バレー男爵の妾にすると言っているだろう!まだ王子妃になれると思っているのか!」
「そんな!」
「ダニエル、其奴にバレー男爵について説明してやれ。分家を把握していないようだからな」
「はい、陛下。
バレー男爵と会わせなかったにしても知っておくべき事です。何を教育されてきたのやら。
オフェリー。
バレー男爵はかなり保守的だ。
言い換えれば男尊女卑。そして田舎で荒々しく育った男だ。口答えをすれば躊躇うことなく殴られるぞ。毎日剣や弓を握り、鍬や斧を握り、賊を始末する剛腕だ。従う方が身のためだ。
そして唯一男爵が認めて拝み倒して娶った女性が奥方だ。平民出身でも男爵の寵愛を得る女性で正妻。お前は公爵家出身でも妾で平民となる。
敬意を払わないと奴隷のような扱いを受けるぞ」
「平民!?」
「公爵令嬢のまま妾に出せないからな。
今日付で除籍だ」
「お兄様!」
「言っただろう。王子妃はお気楽な職業ではない、全ての言動に責任を問われる職だと。
オフェリー。乳母は付かないからな。
おしめを取り替えるのも、夜泣きもお前の仕事になる。男児を産めばいいが、女児なら認めてもらえないぞ」
そんなの無理よ!
貴族牢ではなく、一般牢に入れられた。
鉄格子で丸見え。間仕切りはなく ベッドとは言い難い木の台にトイレと言い難いバケツ。
全て丸見えだ。
向かいの牢の男はニヤニヤしながらずっとこちらを見ているし、排泄する時は凝視して鼻をスンスンと音を立てる。汚らわしく気持ち悪い。
“サラは私の娘だ”
ソフィアは孤児ではなく亡命した公爵令嬢で、当時の第二王子の恋人でサラは二人の娘。
信じられない……
時間がとても長く感じ 不安が募る中、騎士が呼びにきた。
「謁見だ。身なりを整えろ」
「メイドは?」
「夢でも見ているのか?自分で整えろ」
「鏡を」
「整え終わったと言うことだな?」
騎士は鉄格子の扉を開けて私の腕を掴み引っ張り出した。
「放しなさい!私はシヴィル公爵令嬢なのよ!」
「だからどうした」
「その女は王族より身分が高いらしいぞ」
「そうだった。神の眷属様、どうぞこちらへ」
馬鹿にされているのが分かる!必ず思い知らせてやるわ!
謁見の間の扉が開くと跪くお父様とお母様とお兄様がいらした。
助けに来てくださったのね!
「お父様!!」
お父様の元へ駆け寄ろうとしたら騎士に捕まえられた。
「なるほど。確かに未来の王妃にするのは難しいな」
は? 陛下!?
「オフェリー!跪くんだ!!」
お父様に怒鳴られ、戸惑いつつ膝をついた。
「オフェリー・シヴィル。其方は大公閣下とそのご令嬢のサラ嬢に対して“卑しい” “穢れてる” “不浄の血”と申したとか?
“人のものを盗る卑しい猫” “売女の子は売女” “雑種” “道端の石” 様々に罵ってくれたものだ」
「し、知らなくて……夫人は孤児だって……」
「あのような気品あふれる平民の孤児がいるか!
訳アリに決まっているだろう!」
「お、お母様」
お母様を見ると睨まれてしまった。
「で、王族であるユリスを“未熟”だとか、“お年頃”という下半身に節操がないという意味合いの言葉を口にしたのだな?」
「っ!」
「急に話ができなくなったのか。ならば縫い付けてやろう。
誰か。針と糸を」
「い、言いました!」
「公爵夫人が卑しい血筋について娘に教育していたそうだな」
「誤解です、私はただ…」
「ただ何だ」
「存じ上げずに誤解をしてしまったのです」
「夫人の頭の中で作り上げだ誤解であろう。
シヴィル公爵家の嫡男としてこの場をどうおさめる? ダニエル」
「母は領地の別棟に軟禁し、1年以内に公爵から爵位を引き継ぎます。
オフェリーは婚約を辞退させ、分家の一番貧しく身分の低い貴族に嫁がせます」
「具体的には?」
「領地の僻地を管理するバレー男爵がおります」
「バレー男爵か……確か夫人がいただろう」
「はい。男爵と同様に剣も弓も長けた夫人です。
平民から召し上げましたが、気性の荒いバレー男爵と気が合うようです。
しかし、子が一人しか産まれておりません」
「男爵位は第二夫人は許されていないぞ?」
「妾として嫁がせます。
屋敷に住んではおりますが古く小さな邸宅で、僻地の管理収入で維持しております。肉は狩りで、野菜は自給自足、夫人も普段はドレスなど着ておりません。男物の服を着て働いております。
使用人も少なく外へ行くには乗馬ができないと滅多に出られません。
馬車はありますが荷馬車です。
社交免除ですから不要だと申しておりました」
「見所のある子息がいて命拾いをしたな、シヴィル公爵、夫人。
陛下。ブランパーン大公家はダニエル殿を支持します。
実行されるのならば、これ以上の制裁は望みません」
ブランパーン大公閣下が続けた。
「しかし、この出来損ないを押し付けるのはバレー男爵家が不憫です。まるで役にたたないでしょう。
そうだ。ブランパーン大公家から結婚祝いを出そう」
そう言うと、大公閣下のお付きの男が袋を出した。
そこから金貨5枚を取り出し、お兄様に渡した。
「金貨1枚で10年分の妾の食費や雑費が賄えるだろう。この先50年生きると見込んで5枚渡すので、バレー男爵に渡して欲しい。
後で夫妻には別に贈り物をしよう」
「感謝いたします。シヴィル家はブランパーン大公家とセンティア王国の王家からいただいたお慈悲を忘れることなく次代へ継いで参ります」
「ふむ。何故ダニエル殿のような素晴らしい子息がいる一方で、コレが仕上がるのだ?奇妙な現象だ。
其方ならばリオとも気が合うだろう。
我が娘を守ろうと必死の男だが、まだ学園生だし、前侯爵が病死されたのも子供の頃だ。至らぬところがあれば導いてやって欲しい。
無理にとは言わないが懇意にしてやってくれ」
「是非に」
「お兄様…王子妃は…」
「バレー男爵の妾にすると言っているだろう!まだ王子妃になれると思っているのか!」
「そんな!」
「ダニエル、其奴にバレー男爵について説明してやれ。分家を把握していないようだからな」
「はい、陛下。
バレー男爵と会わせなかったにしても知っておくべき事です。何を教育されてきたのやら。
オフェリー。
バレー男爵はかなり保守的だ。
言い換えれば男尊女卑。そして田舎で荒々しく育った男だ。口答えをすれば躊躇うことなく殴られるぞ。毎日剣や弓を握り、鍬や斧を握り、賊を始末する剛腕だ。従う方が身のためだ。
そして唯一男爵が認めて拝み倒して娶った女性が奥方だ。平民出身でも男爵の寵愛を得る女性で正妻。お前は公爵家出身でも妾で平民となる。
敬意を払わないと奴隷のような扱いを受けるぞ」
「平民!?」
「公爵令嬢のまま妾に出せないからな。
今日付で除籍だ」
「お兄様!」
「言っただろう。王子妃はお気楽な職業ではない、全ての言動に責任を問われる職だと。
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