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消えた思い出
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応接間にお客様を通して、お母様と私とリオが並んで席についた。
「ソフィア。其方の口から私を紹介してくれないか。彼はイザークだ」
「サラ。私の本来の名前はソフィア・フィオルド。
センティア王国のフィオルド公爵家の娘だったの。
そして貴女の目の前にいるお方はエリオット・サラセナ・ブランパーン大公閣下。センティア現国王の弟殿下で貴女の実父よ」
え?
「お隣にいらっしゃるイザーク様は現国王のご子息で 貴女の従兄様よ」
……。
「突然ですまない。私とソフィアは恋人で、愛し合っていた。だが、私は王族でフィオルド公爵家は貴族派の筆頭だったから 私達の関係は許されなかった。当時の王家はまだ王太子が決まっていなかったことも影響した。
そして拒否していたのに父上達が私の婚約者を決めてしまった。
その後直ぐ、ソフィアは消えてしまった。
この国との国境を通過したのは分かっていたが、その後の足取りを追うには他国の人間では難しく、身分を明かせば大事になってしまう。
ソフィアが国境を渡ってしばらくして、除籍して欲しいと公爵家に手紙が届いた」
お母様が私の手を握った。
「彼の婚約発表があった日の前日に、妊娠が分かったの。まだ初期で不安定だと医師に言われたけど、エリオット様の子だと知られたら、良くて子供を取り上げられ、悪くて暗殺だと思ったの。
それで医師が逃亡の手助けをしてくださったの。
彼はこの国の伯爵家と親しくて、私を預かって欲しいとお願いしてくださったの。
当時私は16歳になったばかりで、伯爵夫妻が養女にと仰ってくださったけど身籠った養女なんてあり得ないからお断りさせていただいたわ。
サラが2歳の時にガードナー侯爵と出会ったの。
侯爵は私と婚姻を望んだけど当時は爵位を継ぐ前の子息でご両親が反対なさってね。
当然よね。孤児の平民と偽っている私を次期侯爵夫人にはできないもの。しかも未婚の母だしね。
だけどある日突然認めるとおっしゃってくださって、伯爵家の養女になってから婚姻し、サラをガードナー家の養女にしてくださったの」
「……」
「黙っていてごめんなさい」
「……」
私は沸々と怒りが込み上げていた。
「何故今になってこちらへ?」
「サラ!」
「いいんだソフィア。
この国に来たのはリオ・ガードナーとサラを確認するためだ。
最初の手紙は亡くなったガードナー殿から届いた。
死期が近いから頼みたいと。
リオから手紙が届くことが始動の要請の合図だった。王都にいる二人に会おうとしたが、サラが消えて騒ぎになっていた」
「リオも私を騙したの」
「サラ、騙したんじゃない」
「だいぶ前から知っていたのに黙ってコソコソと!
何なの!私は自分のことを知る権利は無いわけ?私の気持ちは?私には選択権すらないわけ?」
「サラっ」
「リオはいつだってそう! あの時だって!
それに大公閣下、猛反対にあっているのに、16歳に満たない恋人に何をしているんですか!
しかも避妊無しで!子ができたら最悪暗殺の可能が生じるようなことを何故できるのです!
本当に愛しているのならすべきことは他にあったでしょう!」
「サラ!」
「私は前ガードナー侯爵の娘です!失礼します」
涙が止まらず応接間を飛び出した。
追いかけてきたリオが私の腕を掴んだが、私は平手打ちをした。
パン!
「リオも嫌いよ!」
「サラ…」
振り払って部屋に駆け込み鍵をかけた。
何もかもが崩れたような気持ちになってしまった。
誰も信用できない、したくない。
母が来てもドアを開けず、返事もしなかった。
翌朝、イザーク殿下がノックした。
「サラ。朝食持ってきたよ。
僕だけだから開けてよ」
王子なので仕方なく開けた。
「ありがとう。テーブルに置くよ」
「ありがとうございます」
「僕は第二王子で君の従兄なんだ。
歳は2つ上なんだけど、僕も嫌い?」
「よく分かりません」
イザーク殿下はソファに座った。
「リオは君のことが大好きなんだよ。もう少し話を聞いてあげない?」
「殿下がご存知ないことがあるのです」
「ん~。確かにリオは君に黙っていたけど彼も両親に従っただけだ。君を守るためにね。
他のことは知らないけどさ。あの落ち込み様を見ていたら可哀想になってきちゃったよ。
もし仲違いしたままリオが死んでも後悔しないなら仕方ないけど、後悔しそうなら早く話を聞いてあげなよ。人間なんて何がきっかけで死ぬか分からないんだから。
リオの母親は出産で亡くなったし、父親は病で亡くなった。彼だって、事故死したり襲われて死ぬことだって可能性としてはある。
我々がここに行くと言わなければ彼は単騎でここに来ようとしていたらしい。それはものすごく危険なことだ。だが、それでもサラの元に駆けつけることが彼にとっては何より大事なことだったんだ」
「今は無理です」
「我々はそれほど長くは滞在できないから、君が出てこなければある程度のことは保護者のソフィア叔母上と決めてしまうからね」
「貴族の家になんか生まれてこなければよかった」
「本気?」
「大切な思い出が塗り替えられて、実父は無責任で、リオは……。
自分達がいいと思えば相手の気持ちは汲まない、自分達は良い人ですなんてフリをして結局私の未来を勝手に決めていく。
それが家族?愛?正気なの!?
良い人の皮を被るのは止めて命令したらいいのよ!」
「サラ、落ち着こう」
「落ち着こうというのは静かにしろということですか?受け入れろということですか?
前者なら口を噤みましょう。後者ならお断りします。
イザーク殿下、食事はありがとうございました。
ですがメイドに運ばせてください。次は開けないと思いますので」
ドアを全開にして退室を促した。
イザーク殿下が立ち去ると終始毛布を被ったままでいた毛布から顔を出して鏡を見た。
ずっと泣いていてパンパンに浮腫んでいた。
「ソフィア。其方の口から私を紹介してくれないか。彼はイザークだ」
「サラ。私の本来の名前はソフィア・フィオルド。
センティア王国のフィオルド公爵家の娘だったの。
そして貴女の目の前にいるお方はエリオット・サラセナ・ブランパーン大公閣下。センティア現国王の弟殿下で貴女の実父よ」
え?
「お隣にいらっしゃるイザーク様は現国王のご子息で 貴女の従兄様よ」
……。
「突然ですまない。私とソフィアは恋人で、愛し合っていた。だが、私は王族でフィオルド公爵家は貴族派の筆頭だったから 私達の関係は許されなかった。当時の王家はまだ王太子が決まっていなかったことも影響した。
そして拒否していたのに父上達が私の婚約者を決めてしまった。
その後直ぐ、ソフィアは消えてしまった。
この国との国境を通過したのは分かっていたが、その後の足取りを追うには他国の人間では難しく、身分を明かせば大事になってしまう。
ソフィアが国境を渡ってしばらくして、除籍して欲しいと公爵家に手紙が届いた」
お母様が私の手を握った。
「彼の婚約発表があった日の前日に、妊娠が分かったの。まだ初期で不安定だと医師に言われたけど、エリオット様の子だと知られたら、良くて子供を取り上げられ、悪くて暗殺だと思ったの。
それで医師が逃亡の手助けをしてくださったの。
彼はこの国の伯爵家と親しくて、私を預かって欲しいとお願いしてくださったの。
当時私は16歳になったばかりで、伯爵夫妻が養女にと仰ってくださったけど身籠った養女なんてあり得ないからお断りさせていただいたわ。
サラが2歳の時にガードナー侯爵と出会ったの。
侯爵は私と婚姻を望んだけど当時は爵位を継ぐ前の子息でご両親が反対なさってね。
当然よね。孤児の平民と偽っている私を次期侯爵夫人にはできないもの。しかも未婚の母だしね。
だけどある日突然認めるとおっしゃってくださって、伯爵家の養女になってから婚姻し、サラをガードナー家の養女にしてくださったの」
「……」
「黙っていてごめんなさい」
「……」
私は沸々と怒りが込み上げていた。
「何故今になってこちらへ?」
「サラ!」
「いいんだソフィア。
この国に来たのはリオ・ガードナーとサラを確認するためだ。
最初の手紙は亡くなったガードナー殿から届いた。
死期が近いから頼みたいと。
リオから手紙が届くことが始動の要請の合図だった。王都にいる二人に会おうとしたが、サラが消えて騒ぎになっていた」
「リオも私を騙したの」
「サラ、騙したんじゃない」
「だいぶ前から知っていたのに黙ってコソコソと!
何なの!私は自分のことを知る権利は無いわけ?私の気持ちは?私には選択権すらないわけ?」
「サラっ」
「リオはいつだってそう! あの時だって!
それに大公閣下、猛反対にあっているのに、16歳に満たない恋人に何をしているんですか!
しかも避妊無しで!子ができたら最悪暗殺の可能が生じるようなことを何故できるのです!
本当に愛しているのならすべきことは他にあったでしょう!」
「サラ!」
「私は前ガードナー侯爵の娘です!失礼します」
涙が止まらず応接間を飛び出した。
追いかけてきたリオが私の腕を掴んだが、私は平手打ちをした。
パン!
「リオも嫌いよ!」
「サラ…」
振り払って部屋に駆け込み鍵をかけた。
何もかもが崩れたような気持ちになってしまった。
誰も信用できない、したくない。
母が来てもドアを開けず、返事もしなかった。
翌朝、イザーク殿下がノックした。
「サラ。朝食持ってきたよ。
僕だけだから開けてよ」
王子なので仕方なく開けた。
「ありがとう。テーブルに置くよ」
「ありがとうございます」
「僕は第二王子で君の従兄なんだ。
歳は2つ上なんだけど、僕も嫌い?」
「よく分かりません」
イザーク殿下はソファに座った。
「リオは君のことが大好きなんだよ。もう少し話を聞いてあげない?」
「殿下がご存知ないことがあるのです」
「ん~。確かにリオは君に黙っていたけど彼も両親に従っただけだ。君を守るためにね。
他のことは知らないけどさ。あの落ち込み様を見ていたら可哀想になってきちゃったよ。
もし仲違いしたままリオが死んでも後悔しないなら仕方ないけど、後悔しそうなら早く話を聞いてあげなよ。人間なんて何がきっかけで死ぬか分からないんだから。
リオの母親は出産で亡くなったし、父親は病で亡くなった。彼だって、事故死したり襲われて死ぬことだって可能性としてはある。
我々がここに行くと言わなければ彼は単騎でここに来ようとしていたらしい。それはものすごく危険なことだ。だが、それでもサラの元に駆けつけることが彼にとっては何より大事なことだったんだ」
「今は無理です」
「我々はそれほど長くは滞在できないから、君が出てこなければある程度のことは保護者のソフィア叔母上と決めてしまうからね」
「貴族の家になんか生まれてこなければよかった」
「本気?」
「大切な思い出が塗り替えられて、実父は無責任で、リオは……。
自分達がいいと思えば相手の気持ちは汲まない、自分達は良い人ですなんてフリをして結局私の未来を勝手に決めていく。
それが家族?愛?正気なの!?
良い人の皮を被るのは止めて命令したらいいのよ!」
「サラ、落ち着こう」
「落ち着こうというのは静かにしろということですか?受け入れろということですか?
前者なら口を噤みましょう。後者ならお断りします。
イザーク殿下、食事はありがとうございました。
ですがメイドに運ばせてください。次は開けないと思いますので」
ドアを全開にして退室を促した。
イザーク殿下が立ち去ると終始毛布を被ったままでいた毛布から顔を出して鏡を見た。
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