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ユリスの気持ち
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【 ユリス王子の視点 】
「愛してるんだ。今この瞬間も」
抑えが効かずに気持ちをぶつけてしまった。
驚いた彼女は一呼吸すると頭を下げた。
「気付かずに申し訳ございません」
「サラ…」
「確かに、友人として交流した後ならば、両家で当人を交えて、何が最善なのか話し合ったことでしょう。ですが、私達は戻れぬ未来を選んで進んで参りました。殿下は名門の令嬢を婚約者にして、婚約パーティも済ませました。
そして私は王族に嫁ぐ資格を失っております。
私は純潔ではございません」
「サラ!?」
「過去を思い出にして良き未来へ進みましょう」
サラが他の男に抱かれた?
「恋人か」
「その話はしたくありません」
「付き合ってはないということか」
「殿下」
「まさか、遊ばれたのか!」
「殿下っ」
「誰がサラを傷付けた!名を言え!」
「止めて!ユリス様!!」
そんなこと言ったって、全身が真っ黒に染まるような気分なんだ。私はまだ、もしかしたらと思っていたのだから。
それに婚約もしていなくて恋人でもないのに純潔を奪うなど……
「許せるはずがない」
「ユリス様。もし、名を口にしたらどうなさるのですか? 首を刎ねに行きますか?
そして今度は身持ちの悪い女として噂の渦中に置くおつもりですか?」
「っ!」
「卒業したらどこか別の地へ行くのもいいなと思っておりましたので、社交界から身を引く後押しにはなると思いますが、ガードナー家がまた何か言われるのは嫌です」
「言っただろう。私はサラを愛しているんだ!」
「ユリス様、互いに後戻りはできないのです」
「法を変えれば済む!」
「殿下、それは私が純潔ではないと言って回る行為ですわ」
「じゃあ、どうしたらいい!
何度も諦めようとしても出来なかった!離れていても、側にいても、好きだという気持ちは変えられない」
「過去には戻れません」
「私が嫌いだからか?」
「そうではありません。もしユリス様が私を好きなのだとしたら、もう蟠りが出来てしまったはずです。純潔の花嫁を迎えると思っていた殿下にとって、平気なわけがありません。
どうか純潔の花嫁をお迎えください」
そう言ってサラが立ち上がった。
私はサラの腕を掴み引き寄せ抱きしめた。
「お離しください」
「もっとちゃんと話し合おう」
「その手を離してくださいませんか、殿下」
そこに現れたのはリオだった。
「貴方には婚約者が居るはずです。
姉を泥棒猫と呼ばせるつもりですか」
「解消する、そして、」
「殿下。貴方の婚約者は有力貴族です。陛下も王妃殿下も敵に回すことを望まないはずです。
今回はガードナー家であっても生き残れるか分かりません。そんなにガードナー家を潰したいのですか」
「侯爵にも、其方にも悪かったと思っている」
「ならば現実を受け止めて大人しく今の婚約者を大事になさってください。
サラ、おいで」
「ユリス様、失礼致します」
「サラ!」
この胸に、この腕の中に、愛しい人がいた。
たった十秒ほど。
だがよく分かった。
裁縫部にはブラウスが仕上がり次第、ガードナー家に送るよう指示を出し、父上の元へ向かった。
サラとの話を包み隠さず話した。
「そうだったか」
父上は大きな溜息をついて背もたれに身を預けた。
「確かに、たった1分、友と友の立場で言葉を交わせば済んだ話だった。その様な簡単なことさえしなかったとはな」
「はい」
「ユリスの気持ちを知らねば政略結婚だと思われるのは当然だった。
あの時は一人息子の恋心を叶えてやりたくて浮き足立ってしまった。頻繁に呼んで交流させればよかった。その間に虫がつかないよう牽制すれば済んだのだ」
「父上。私はサラを抱きしめた十秒を一生にしたいのです」
「サラ嬢を娶りたいということか?
だが、全てサラ嬢の指摘通りだ。問題しかない」
「純潔ではないと公表しなければ良いのです。
確認するのは医師と私だけ。医師さえ口を噤んでくれたらいいのです。
もちろん他の血が混じっているかもしれないなどという疑惑が起きない様に、婚姻前に数ヶ月ほど王宮で監視の元、軟禁して妊娠していないと確定させてから婚姻すればいいのです」
「だが、相手の男は知っているのだぞ。
場所が宿なら宿の者。貴族で屋敷ならメイド。
知る者は相手の男だけではないぞ」
「父上、オフェリーの評判をご存知ですか?
良く言えば典型的な貴族令嬢。悪く言えば実家の後ろ盾がある、気位が高いだけの女です。
会った時には普通の令嬢だったのに、今や未来の王妃として頂点に立ったつもりでいます」
「話を聞くと、ガードナー家がいいのは分かるが、シヴィル公爵家を敵に回すことはできない」
「ならば、オフェリーが懐妊しなければ良いのです」
「サラ嬢を何年待たせるつもりだ。無理に決まっているだろう。
それに、そもそも昔とは違う。
今、サラ嬢を待たせるには、彼女の愛を勝ち得なくてはならない。
それにシヴィル家からも守らなくてはならないのだぞ?」
「これ以上後悔するのは嫌です。サラを手に入れる努力をします」
「愛してるんだ。今この瞬間も」
抑えが効かずに気持ちをぶつけてしまった。
驚いた彼女は一呼吸すると頭を下げた。
「気付かずに申し訳ございません」
「サラ…」
「確かに、友人として交流した後ならば、両家で当人を交えて、何が最善なのか話し合ったことでしょう。ですが、私達は戻れぬ未来を選んで進んで参りました。殿下は名門の令嬢を婚約者にして、婚約パーティも済ませました。
そして私は王族に嫁ぐ資格を失っております。
私は純潔ではございません」
「サラ!?」
「過去を思い出にして良き未来へ進みましょう」
サラが他の男に抱かれた?
「恋人か」
「その話はしたくありません」
「付き合ってはないということか」
「殿下」
「まさか、遊ばれたのか!」
「殿下っ」
「誰がサラを傷付けた!名を言え!」
「止めて!ユリス様!!」
そんなこと言ったって、全身が真っ黒に染まるような気分なんだ。私はまだ、もしかしたらと思っていたのだから。
それに婚約もしていなくて恋人でもないのに純潔を奪うなど……
「許せるはずがない」
「ユリス様。もし、名を口にしたらどうなさるのですか? 首を刎ねに行きますか?
そして今度は身持ちの悪い女として噂の渦中に置くおつもりですか?」
「っ!」
「卒業したらどこか別の地へ行くのもいいなと思っておりましたので、社交界から身を引く後押しにはなると思いますが、ガードナー家がまた何か言われるのは嫌です」
「言っただろう。私はサラを愛しているんだ!」
「ユリス様、互いに後戻りはできないのです」
「法を変えれば済む!」
「殿下、それは私が純潔ではないと言って回る行為ですわ」
「じゃあ、どうしたらいい!
何度も諦めようとしても出来なかった!離れていても、側にいても、好きだという気持ちは変えられない」
「過去には戻れません」
「私が嫌いだからか?」
「そうではありません。もしユリス様が私を好きなのだとしたら、もう蟠りが出来てしまったはずです。純潔の花嫁を迎えると思っていた殿下にとって、平気なわけがありません。
どうか純潔の花嫁をお迎えください」
そう言ってサラが立ち上がった。
私はサラの腕を掴み引き寄せ抱きしめた。
「お離しください」
「もっとちゃんと話し合おう」
「その手を離してくださいませんか、殿下」
そこに現れたのはリオだった。
「貴方には婚約者が居るはずです。
姉を泥棒猫と呼ばせるつもりですか」
「解消する、そして、」
「殿下。貴方の婚約者は有力貴族です。陛下も王妃殿下も敵に回すことを望まないはずです。
今回はガードナー家であっても生き残れるか分かりません。そんなにガードナー家を潰したいのですか」
「侯爵にも、其方にも悪かったと思っている」
「ならば現実を受け止めて大人しく今の婚約者を大事になさってください。
サラ、おいで」
「ユリス様、失礼致します」
「サラ!」
この胸に、この腕の中に、愛しい人がいた。
たった十秒ほど。
だがよく分かった。
裁縫部にはブラウスが仕上がり次第、ガードナー家に送るよう指示を出し、父上の元へ向かった。
サラとの話を包み隠さず話した。
「そうだったか」
父上は大きな溜息をついて背もたれに身を預けた。
「確かに、たった1分、友と友の立場で言葉を交わせば済んだ話だった。その様な簡単なことさえしなかったとはな」
「はい」
「ユリスの気持ちを知らねば政略結婚だと思われるのは当然だった。
あの時は一人息子の恋心を叶えてやりたくて浮き足立ってしまった。頻繁に呼んで交流させればよかった。その間に虫がつかないよう牽制すれば済んだのだ」
「父上。私はサラを抱きしめた十秒を一生にしたいのです」
「サラ嬢を娶りたいということか?
だが、全てサラ嬢の指摘通りだ。問題しかない」
「純潔ではないと公表しなければ良いのです。
確認するのは医師と私だけ。医師さえ口を噤んでくれたらいいのです。
もちろん他の血が混じっているかもしれないなどという疑惑が起きない様に、婚姻前に数ヶ月ほど王宮で監視の元、軟禁して妊娠していないと確定させてから婚姻すればいいのです」
「だが、相手の男は知っているのだぞ。
場所が宿なら宿の者。貴族で屋敷ならメイド。
知る者は相手の男だけではないぞ」
「父上、オフェリーの評判をご存知ですか?
良く言えば典型的な貴族令嬢。悪く言えば実家の後ろ盾がある、気位が高いだけの女です。
会った時には普通の令嬢だったのに、今や未来の王妃として頂点に立ったつもりでいます」
「話を聞くと、ガードナー家がいいのは分かるが、シヴィル公爵家を敵に回すことはできない」
「ならば、オフェリーが懐妊しなければ良いのです」
「サラ嬢を何年待たせるつもりだ。無理に決まっているだろう。
それに、そもそも昔とは違う。
今、サラ嬢を待たせるには、彼女の愛を勝ち得なくてはならない。
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