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ユリスの知らないあの時
しおりを挟む【 ユリス王子の視点 】
サラを連れて王族のプライベートガーデンに来ていた。
夢のようだ。
愛してやまない女性が私の腕に手を添えて歩いている。
「今度4人で歌劇でも見に行かないか」
「……」
「サラ?」
「は、はい」
「聞いていた?」
「…申し訳ございません」
「何か悩み事?」
「いえ。ちょっと思い出しておりました」
「何を?」
「……昔のことです。それより私は何を聞き逃してしまったのでしょう」
もしかして
「サラ。もしかしてお父上のことか」
「……はい」
「聞かせてくれないか」
メイドに合図を送りガゼボに向かう。
「そんな、ちょっと懐かしんだだけですから」
「サラ、教えて欲しいんだ。私だけ馬鹿みたいに蚊帳の外にいたんだ。何があったのか知りたい!頼む!!」
頭を下げると慌てて承諾してくれた。
「いつかガードナーのために他の家門と縁を繋がなくてはならないことは理解していました。
だけどやはり戸惑いました。まさか王子妃の打診をいただくとは思わなかったのです。
私が物心ついた時には既に父は体が弱く、風邪でも命取りになりかねないと周囲の者全てが気を張っていました。
王都にいては貴族の来客も招待状も多いだろうと母と領地におりました。
しかし、王都の屋敷を不在にし過ぎるのも良くないと、私とリオだけで王都と領地を行ったり来たりしておりました。
打診を受けた頃には、父や側近の指示のもと、母が侯爵のすべき采配をしておりました。
対外的な部分は父が何とか頑張りました。
王宮主催のパーティなども、王族の誕生日か建国記念日にできる限り出席しておりましたが、領地から王都まで移動するのに場合によっては3倍の日数をかけねばなりませんでした。
到着すると数日寝込むほど、移動は父の体には危険なものだったのです。
ですが、参加したパーティで父はそのような姿を微塵も見せませんでした。
だから誤解されたのでしょう。
父は死期が近いことを感じ取っていました。様々なことを側近や母、リオに引き継いでいきました。
そしてその中で、私が婚姻する時には自分はこの世にいないだろうと悟っておりました。
普通の貴族への嫁入りならまだ良かったのですが、母子家庭の王子妃は難しいと判断しました。
私と殿下は恋愛しているわけでもありません。私は最終確認に対し、希望しないと返事をしました。
そして父から陛下へ正式に辞退のお返事をさせていただきました。
ですがその後……」
侯爵の病気を信じずに陛下がガードナー侯爵にしてしまったこと。
それを見て、全てではないが貴族達がガードナー侯爵家と距離を置き、攻撃を仕掛けた者までいたという。
中でもヘイツ子爵の小麦事件はみせしめになり、その後、攻撃してくる貴族はいなくなった…、そんなこと知らなかった。
「大勝利ではありましたし、私も勉強になりましたし、リオに関しては父と作戦を練るほどの策士だと分かり、父が最後に残してくださった教えとなりました。
ですがやはり心労から、益々ベッドに伏せることが多くなり、結局心臓が保たずに天に召されました。
そこでやっと、陛下に 父が心臓の病を患っていることを信じてもらえたのです」
父が領地まで行って葬儀に出たことは知っていた。異例のことだったし、私も行きたいとお願いしたが、父はケジメの参列になるだろうから連れて行けないと却下したのを覚えている。
まさか父が葬儀の場で謝罪の言葉を発していたとは。
その内容は父の後悔の塊だった。
「私達親子がガードナー侯爵の死期を早めてしまったのだな」
「違うと言えたらいいのですが、正直 無関係とは言えないでしょう。互いが友人だと認識していたのに、何故話し合わなかったのでしょう。
王城で何度か会った時に、王と当主ではなく、友と友として1分でも言葉を交わせば……そう思うと無念だと思います。父も陛下も家族も」
「私のせいだ。
私は縁談を断られてショックで、何に対しても気が乗らず引きこもってしまった。父が不憫に思ったのだろう。
私はどう償えばいいのか」
「当時、私達は子供でした。仕方がなかったのです。政略結婚とはいえ、相手から辞退があれば不快ですわ」
「違う。違うんだ。
サラ。政略結婚なんかじゃない。
私はサラが好きで、父上にお願いしたんだ。
サラ・ガードナーをお嫁さんにしたいと」
「え?」
サラが心底驚いた顔をした。何も伝わっていなかったのだな。
「初めてサラに会った時、貴族達の独特な空気にのまれて早々と帰ってしまったサラのことが気になった。可愛かったということもある。
次はもう少し招待客を絞れば、サラも居やすくなるのではと思って侯爵家以上に招待状を送った。
話をすることができて、この子だと思った。
そして誰にも取られたくなくて、父上にお願いしたんだ」
「そうでしたか」
サラは人として穢れていなかった。他の令嬢達のように貶めあったり妬んだりしない。意見を率直に述べ裏表がない。そんな君を好きになった。
「だけど早過ぎた。
サラとの交流をして友人になりたいと父上に話せば良かったんだ。
そして、ちゃんと仲良くなってから想いを告げて 改めて求婚するべきだった。
そうしたら、サラのお父上が病に伏していても寵妃として地位を確立できたし、宮廷医を領地へ派遣することも可能だった。
ただ欲しいとお強請りした結果がこれだ。そしてその後に起こったことも誰からも教えてもらえずに、何事もなかったかのように生きてきた。
リオが私を見る目が気になっていたが、敵意があって当然だ。私よりひとつ歳下の彼は病床の父を支え、家族を守り、領民のために行動していたのだから。
すまない。サラ。
私は…愛しているんだ。ずっと、あの時からずっと。
そんな資格などなかったのに…愛してるんだ」
「殿下…」
いろいろな気持ちが溢れ出て、押さえていた言葉を止めることはできなかった。
「今この瞬間も」
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