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縁談辞退後のガードナー
しおりを挟むその後、王家と仲が悪くなってしまった。
祝い事に招待するくせに挨拶に行くとほぼ無視だ。
嫌味を言われることもあった。
お父様は出発まで少しふらついていたのに、祝いの席ではそんなことを微塵も感じさせなかった。
『仮病まで使って断りたかったとはな。
次の者を通してくれ』
そして他領からの仕入品の値上げもあったりしたが、大きな嫌がらせは小麦の供給拒否だった。
ガードナー侯爵領は小麦の自給生産は6割。残りは得意としている近くの領地と契約を交わして購入していた。その代わり別の物を育てていたのだ。
突然、雨不足による不作につき1割も納められないと手紙が届いた。
だけど父は想定していた。
祝いのパーティで陛下の態度を見た後に、小麦の供給先のヘイツ子爵の態度がおかしかったようだ。
いつもなら媚び諂う子爵が堂々と話をしたからだ。
もし、小麦をストップされたら領民が困ってしまう。だから父はヘイツ領の小麦について調査をしていた。
一度だけ警告代わりの手紙を送った。
“契約書に基づき納入せよ”
契約では天災や疫病による不作以外の未納は、ヘイツ以外の領地から仕入れる代わりに、かかった費用を全てヘイツ子爵に請求するという内容だった。
だが子爵は雨が降らなかったということで賠償金無しで困らせようとした。
子爵は故意の未納はかなりの賠償金を支払わなくてはならないことを微塵も不安視していなかった。
不作か故意かわからないだろうと思っていたからだ。
期日に未納を確認し、翌日提訴した。
この時は母と側近と弁護士が手続きをして、私とリオには社会勉強だと一部始終に立ち合わせた。
雨が降らなかったら育たなかったであろう他の作物が例年通り収穫できていること。
小麦も貯蔵庫にしっかりと蓄えてあったこと、寧ろ過少申告の疑いがあると訴状提出と同じ日に、虚偽申告の告発をした。
子爵は訴状を受け取り驚きはしたが、暫くは書類や聴取のやり取りで数ヶ月過ぎるだろうと思っていた。
だが、訴状を受け取った翌日に国から調査隊がやってきて倉庫や帳簿を調べ、農地も確認し、農民や使用人も取り調べをした。
結果、不正が見つかった。
そして天候不順による不作というのは虚偽だと立証された。
判決は即決。ヘイツ子爵の敗訴だった。
そして賠償金が膨れ上がっていた。
父とリオは普通に制裁してはつまらないと言い出して、高額になるよう仕向けた。
もし、告発が無視されたらガードナー家に返ってくる可能性もあったけど、3人は乗り気だった。
まず、小麦を納めてくれるところを探した。
来季は分からないが、今回は単発で注文したいと打診した。
打診の8割は断られたが、二家が応じてくれた。
近くの領地から2.5割、遠くの領地から1.5割。
その小麦を納めさせるのではなく取りに行くとした。
近くの領地から 多少身体にハンデがあってもやりたい者を含めて臨時で雇い何往復もさせた。
遠くの領地へ引き取りに向かう人員は、納品や運搬の経験者で定期雇用のない者を募り、3往復させた。
そして最後の運搬の際には側近が付き添って、リオが契約書の差し替えをしに一緒に向かった。
最初、子供を寄越したことで不快感を表したが、どちらも差し替える契約書と箱を渡されると笑顔に変わった。
今季の臨時の小麦代は交わした契約書の5倍の支払いをする契約書に数字が書き換えられていた。
『古い契約書を回収し、新しい契約書に署名していただければこの箱を置いていきます』
そう言ってリオが箱を開けると、5倍にした時の小麦代が金貨で入っていたからだ。
『これは今回限りの特価です』
『お買い上げありがとうございました』
こうして、ヘイツ子爵が納めなかった分の小麦を他領から仕入れた。
ヘイツ子爵は期日までに一袋も納めていなかった。
高額で4割を他領から仕入れた時の契約書と領収書、そして人件費が異常だった。
かなり大勢の領民を動員したのだ。
近い領地へは子供も年寄りも集まり、何かのパレードかと言わんばかりの行列をつくり、貸し荷馬車の数も普通より多かった。
一人当たりの人件費も高額にして契約書にしていた。だから人数が増える程ヘイツ子爵への請求額が上がった。
『小麦を取りに出向くのは未経験でな。
途中、重みで馬車が壊れたり馬が脚を痛めても困る。そして何かあった時は荷を人の手でどうにかしなくてはならない。だから大勢雇った。濡れたら小麦は廃棄せねばならないからな。安全策をしっかりととらせてもらった。
契約通りに納めてもらえたら素人の我々が不慣れなことをしなくても済んだのだ』
と理由を述べた。
高額な人件費と貸し荷馬車代、宿代、食事代。
勿論、宿も食事もかなりいいランクのものだった。
さらに契約書には、慰謝料は掛かった費用の100倍と書いてあった。
ヘイツ子爵も当初は故意による未納などしないと思っていたから署名した。
そして今回、立証出来るはずがないから泣き寝入りするだろうと油断していたのだ。
とても払える金額ではなかった。
子爵家の帳簿と裏帳簿は何と60年以上も続いていて、証拠があるので国も遠慮なく遡って差額と懲罰金。請求した。
どちらも合わせると破産だった。
まず、国は待ってくれない。
ガードナー家との契約も即金となっており猶予がない。
そこでガードナー家にヘイツ子爵がやってきた。
リオと母と側近が応対し、私は立ち合った。
子爵はなんとか言いくるめようと頑張ったが、リオは揺らがなかった。
『分家にミューヘル男爵がいますね?
ヘイツ家は全てを開け渡して男爵に継がせてください。爵位も財産も何もかもです』
『そんな馬鹿なことを!』
『馬鹿なことをして当主不適格の烙印を自らおさせたのは貴方でしょう?ヘイツ子爵。
条件がのめなければガードナー家が全て奪いますよ。だって払えないのでしょう?』
『くっ!』
結局、開け渡して、ミューヘル男爵が子爵となり、ヘイツ一家は追放された。
領地にいても殺されかねないからだ。
嘘を吐き、欺き、領地を窮地に陥れたから。
領地を出て庶民として二ヶ月生きていける金銭は渡したらしい。
それからはガードナー家に仕掛ける者はいなくなった。
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