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王子との縁談の打診まで
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採寸を終えると3人は退出し、殿下が入れ替わるように戻ってきた。
「殿下、申し訳ございません」
「謝る必要はないが、そのブラウスは駄目だ。
反省はしてくれ」
「すみません」
「ガードナー家のメイドは何も言わなかったのか?」
「作り直すと言われたのですが、一年も着ないから、ちょっときついくらい構わないと却下したのです。メイドは上着を脱がないのであればと引き下がりました。
今日は失念しておりました。結果的にこんなにご迷惑をおかけするなんて」
「脱いだのが他の場所で別の者達の前でなかったことが不幸中の幸いだ。
少し時間がかかる。散歩でもしよう。その後食事をすれば仕上がるだろう」
「そこまでご迷惑をお掛けするわけには、」
「友好を深めるのにちょうどいいだろう?」
「…感謝致します」
「サラ。私達は友人なのに“殿下”としか呼んでもらえないのは悲しよ。
しかも私を名前で呼べる者は少ないんだ。
サラにそのうちの一人としていてくれと頼んでは駄目なのだろうか」
「エレノアだって殿下とお呼びしていますわ」
「エレノアは普段は呼び捨てだぞ」
「え!?」
殿下とエレノアは幼馴染だ。エレノアの父は騎士団長で、幼い頃から城に連れて来ていたらしい。
「サラ、頼むよ」
「わ、分かりましたから」
出会った当初とは印象が変わりつつある。
最初にお会いしたのは12歳。
ユリス殿下に近い歳の子を集めた茶会だった。
私はほとんど領地にいたから友人がいなかった。
共に参加したリオは弟であり遊び相手だ。だから寂しいと思ったことはない。
だけどこの会場の雰囲気にのまれ早々にギブアップしてしまった。
子供が多かったこともあるけど、不躾な視線や方々で繰り広げられる嫌味や下級貴族への威圧。
貴族がこんなものだとは知らずにがっかりしてしまった。
話はしていないが王族に挨拶はしたので父は娘の具合が悪いと退席の許可をとり、そのまま帰った。
次は、縁談の打診がくる1ヶ月前。
父の体調が悪いので私とリオだけ王都に来て、ユリス王子殿下の誕生日に参席した。
いつもは理由をつけて不参加にしていた。
だが、国王陛下直筆の招待状に断るという選択肢がなかった。
今回は珍しく侯爵家以上しか招待していないらしい。そうなると前のような空気の悪くなることはほぼ起きない。人が少ない分 見通しもいいし、そんなことをすれば直ぐバレる。
最初に国王夫妻と王子殿下にお祝いを述べていく。
私達の順番になって国王陛下が質問をなさった。
『気分は悪くないか?』
『はい、陛下。今回は大丈夫そうです』
『何処で覚えてくるのだろうな。子供なのに悪意や嫉みが多い。人を少なくするくらいしか出来なかった。すまないな』
私のために?
『きっと親や周囲の大人が悪い手本を見せているのです。あれだけ意地悪をすることに手慣れていたのですから間違いなくお手本があったはずです。つまり陛下のせいではございません』
『そんな大人を見つけたらどうしたら良いか』
『そんなことをすればこうなると子供達に見せるのも方法かも知れません。子供の前でと思うかもしれませんが既に子供の前でやってしまっているのは大人です。
虐めたり貶めたりする方法を見せておいて叱られる姿を見せたくないなど我儘です』
『ハハッ 確かにな。来てもらえて良かった。
大人になれば周囲の貴族達と関わりを避けられない。今のうちに少しずつ慣らすといい』
『感謝いたします』
そしてこの日に、エレノアとマジェス様とユリス殿下と話す機会があった。既に3人は幼馴染で仲が良く、私もリオも緊張したのを覚えている。
学園に通い出したら仲良くしてもらえたらいいなくらいにしか思っていなかった。
だけど1ヶ月後、縁談の打診が来てしまった。
その時は、何故私に来たのか分からなかったし、てっきりエレノアが婚約者になる、もしくは内定済みだと思っていた。
『姉様、断るんだよね?』
『王族からの縁談を侯爵家がお断りできるのかしら』
『王子妃になりたいの?』
『そんなことは思っていないわ。
だけど貴族はそういうものだと聞いたから』
『大丈夫。任せて』
そして私は純潔では無くなった。
「殿下、申し訳ございません」
「謝る必要はないが、そのブラウスは駄目だ。
反省はしてくれ」
「すみません」
「ガードナー家のメイドは何も言わなかったのか?」
「作り直すと言われたのですが、一年も着ないから、ちょっときついくらい構わないと却下したのです。メイドは上着を脱がないのであればと引き下がりました。
今日は失念しておりました。結果的にこんなにご迷惑をおかけするなんて」
「脱いだのが他の場所で別の者達の前でなかったことが不幸中の幸いだ。
少し時間がかかる。散歩でもしよう。その後食事をすれば仕上がるだろう」
「そこまでご迷惑をお掛けするわけには、」
「友好を深めるのにちょうどいいだろう?」
「…感謝致します」
「サラ。私達は友人なのに“殿下”としか呼んでもらえないのは悲しよ。
しかも私を名前で呼べる者は少ないんだ。
サラにそのうちの一人としていてくれと頼んでは駄目なのだろうか」
「エレノアだって殿下とお呼びしていますわ」
「エレノアは普段は呼び捨てだぞ」
「え!?」
殿下とエレノアは幼馴染だ。エレノアの父は騎士団長で、幼い頃から城に連れて来ていたらしい。
「サラ、頼むよ」
「わ、分かりましたから」
出会った当初とは印象が変わりつつある。
最初にお会いしたのは12歳。
ユリス殿下に近い歳の子を集めた茶会だった。
私はほとんど領地にいたから友人がいなかった。
共に参加したリオは弟であり遊び相手だ。だから寂しいと思ったことはない。
だけどこの会場の雰囲気にのまれ早々にギブアップしてしまった。
子供が多かったこともあるけど、不躾な視線や方々で繰り広げられる嫌味や下級貴族への威圧。
貴族がこんなものだとは知らずにがっかりしてしまった。
話はしていないが王族に挨拶はしたので父は娘の具合が悪いと退席の許可をとり、そのまま帰った。
次は、縁談の打診がくる1ヶ月前。
父の体調が悪いので私とリオだけ王都に来て、ユリス王子殿下の誕生日に参席した。
いつもは理由をつけて不参加にしていた。
だが、国王陛下直筆の招待状に断るという選択肢がなかった。
今回は珍しく侯爵家以上しか招待していないらしい。そうなると前のような空気の悪くなることはほぼ起きない。人が少ない分 見通しもいいし、そんなことをすれば直ぐバレる。
最初に国王夫妻と王子殿下にお祝いを述べていく。
私達の順番になって国王陛下が質問をなさった。
『気分は悪くないか?』
『はい、陛下。今回は大丈夫そうです』
『何処で覚えてくるのだろうな。子供なのに悪意や嫉みが多い。人を少なくするくらいしか出来なかった。すまないな』
私のために?
『きっと親や周囲の大人が悪い手本を見せているのです。あれだけ意地悪をすることに手慣れていたのですから間違いなくお手本があったはずです。つまり陛下のせいではございません』
『そんな大人を見つけたらどうしたら良いか』
『そんなことをすればこうなると子供達に見せるのも方法かも知れません。子供の前でと思うかもしれませんが既に子供の前でやってしまっているのは大人です。
虐めたり貶めたりする方法を見せておいて叱られる姿を見せたくないなど我儘です』
『ハハッ 確かにな。来てもらえて良かった。
大人になれば周囲の貴族達と関わりを避けられない。今のうちに少しずつ慣らすといい』
『感謝いたします』
そしてこの日に、エレノアとマジェス様とユリス殿下と話す機会があった。既に3人は幼馴染で仲が良く、私もリオも緊張したのを覚えている。
学園に通い出したら仲良くしてもらえたらいいなくらいにしか思っていなかった。
だけど1ヶ月後、縁談の打診が来てしまった。
その時は、何故私に来たのか分からなかったし、てっきりエレノアが婚約者になる、もしくは内定済みだと思っていた。
『姉様、断るんだよね?』
『王族からの縁談を侯爵家がお断りできるのかしら』
『王子妃になりたいの?』
『そんなことは思っていないわ。
だけど貴族はそういうものだと聞いたから』
『大丈夫。任せて』
そして私は純潔では無くなった。
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