上 下
12 / 69

契約は変えません

しおりを挟む
湯浴み後の髪を乾かしてもらっていた。

「え? では、馬車に乗っただけだったのですね」

「そうなるわね。

だけど今度 カトリス家のお茶会に招待してくださって、カトリス家の知人の夜会に連れて行ってくださるの」

「夜会!? どちらのですか」

「ピオニー伯爵家だったしら」

「違います。ポートナー伯爵家です、アイリーン様」

「さすがロザリーナ」

「これで“さすが”を使われると後が詰まります」

「語彙を増やさないと。賞賛系のものをね」

「アイリーン様、同伴者は決まっているのですか」

「お茶会は一人でいいし、夜会はクリストファー様が付き添ってくださるから大丈夫よ」

「全然大丈夫じゃないですよ!」

「ピア?」

「令息となんて危険です!
旦那様に依頼しましょう!」

「彼は紳士よ、公爵の方が大丈夫じゃないわ。
まあ、私は対象外らしいけど。
とにかくトリシア様に誤解をされたくないから公爵という選択肢は無いわ」



翌日。

「旦那様がお話があるそうです」

「応接間に向かうわ」


応接間で待つとすぐに公爵が入室した。

「アイリーン。今週末 母上が領地から出てくる。
その間は妻として公爵夫人として生活して欲しい。
多分 母上は茶会などに行くはずだ。俺達のことも連れて行くと思う」

「無理です」

「え?」

「そういう役目はトリシア様に命じてください」

「でも」

「契約違反です」

「……母上が何ておっしゃるか」

「契約違反になるから無理だと伝えるだけです」

「そ、それは困る」

「譲りません」

その後 数十分の攻防は平行線だった。

「公爵。時間の浪費です。
これは公爵の希望で成された契約ですよ?
都合に合わせてコロコロ変えられては困ります。

それに愛するトリシア様が可哀想ではありませんか。
当初の公爵のご希望通り、私は何も致しません」

「アイリーン…」

「では失礼しますね」

席を立ち、部屋に戻った。


エリスがお茶と手紙を持ってきた。

「お手紙です」

「ありがとう」

全て招待状だった。
 
「ピア。この4通は公爵同伴らしいから断ってちょうだい」

「…かしこまりました」

「エリス。こっちの1通は出席の返事を出すわ。
来週末の夜会ね。
日数からすると、カトリス夫人が出れそうな夜会を当たってくださったのね」

「ペンと便箋を用意します」



そして数日後。

「お疲れ様でございます、お義母様」

「アイリーン 不便は無いかしら」

「はい。ございません」

「茶会やパーティのお呼ばれに二人も同伴して欲しいのだけど、その前に。
不思議な噂が耳に入ったのよ。公爵夫人が宿暮らしとか恋人を探しているとか。

婚姻式あの時、提出された契約書を確認しておくべきだったわ。

ハロルド。どういうことなの?」

「は、母上…あれは」

「私はアイリーンを正妻として迎え 大事にしなさいと言ったはずよ!」

「っ!」

「アイリーン、契約書は撤回させるから恋人探しは止めてちょうだい」

「それは離縁ということでよろしいでしょうか」

「え?」

「契約書の撤回はいたしません。公爵には忠実に守っていただきます。反故になさるなら離縁ということになります」

「そんな…」

「縁談をいただいた時は望まれた婚姻なのかと思っておりました。
ですが式の前日の朝に彼が突然現れて、妻にはするけど何もするな 口出しするな、ご自分には愛する女性がいるいて 彼女に跡継ぎを産んでもらうと仰ったのですよ?
申し訳ないという感じではなく、仕方なく私を娶るみたいな言動でした。

いくら何でも全て公爵の希望のみというのはベロノワ家を侮辱する行為ですから、こちらも希望を加えましたの」

「ハロルドを再教育するから、」

「式前日の朝8時あたりに先触れもなく突然現れて高圧的に仰ったのですよ?
きっと私を使用人かなにかのおつもりだったのでしょう。

何もするなと仰ったのでベロノワ家の繋がりも不要と解釈しました。

そして式当日は愛人をお連れになり、式後は屋敷に入れて貰えず王都の外れの旅宿に滞在することになりました。

屋敷に入れてもらえなかったのは元メイド長の独断だと伺いましたが、婚姻式に新郎が愛人と出向けば そう思っても仕方がないかと。

ぜひトリシア様への愛を貫いていただきたいですわ。身分差を超えた純愛を心より応援いたします。

ということで、社交もいたしません。
何もするな、トリシア様をパートナーにするという条件ですので、トリシア様を連れて行ってください」

「だけど、貴女が公爵夫人なのよ!?」

「肩書だけです。
それに私がパートナーになればトリシア様が可哀想ですわ。愛する殿方が他の女性をエスコートしてパーティや茶会に出席するなど、気分を害してしまわれます。私はその様なことは出来かねます。

王太子殿下のパーティに一度だけ彼と出席します。
婚姻後の挨拶が目的ということですので。

トリシア様は跡継ぎを産み、次期公爵の母となる方です。私よりトリシア様を呼んで家族で団欒なさってください。

では失礼いたします。
誰か、トリシア様を呼んで差し上げて」










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です

青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。 目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。 私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。 ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。 あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。 (お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)  途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。 ※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

処理中です...