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認めざるを得ない

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【 皇帝アレクサンドルの視点 】

しばらくして戻ってきた侍従が報告した。

「ユピルピア様と元婚約は恋愛関係にありません。
政略です。
ナルプナ領の生産する器具を気に入って、選んだそうです」

「器具?」

「薬草などから薬を作るための器具です」

そうだったな。

「ユピルピアにとって?」

「ナルプナ伯爵令息はユピルピア様をお慕いしていたようで、最後までユピルピア様の後宮入りを阻止しようと抵抗していたそうです」

振り切って俺の元へ来たわけか。

「明日の朝食は本宮殿の小広間で後宮の女達ととる。
席順は俺が決めるからサイモンに知らせてくれ」

「かしこまりました」


翌朝、最後に入室したユピルピアは俯いていた。
顔が赤い。

まだ昨日のことが恥ずかしくて仕方がないのだな。
可愛い奴め。

…日頃何を食っているんだ?飢えた子ウサギみたいじゃないか。ブドウジュースを飲み干し、もう一杯注がせた。

デザートの頃になるとユピルピアが揺れていた。
モアナが心配そうに小声でユピルピアを呼んでいる。

カクン カクン

シャンティも気付いて唖然としている。

ククッ
腹一杯になったから 座りながら寝るなど、幼子のようだな。

ついに眠りに落ちたようで、モアナが腕を振るわせながら左腕で彼女の傾いた身体を支えていた。

「……私が連れて行こう」

抱き上げると ユピルピアの体温を感じる。

「デザートを食べ終えたら後宮に戻ってくれ。
モアナとシャンティは残れ。
無理に食べなくても残せばいい。こんな風になるぞ」

小広間を出て廊下を歩くと胸元から声が聞こえた。

「…大好き」

「……ユピルピア」

起きているのか?
 
「お父様…お兄様…」

「……」

俺のことじゃなかった。


未来の皇妃が使う部屋に行き、ユピルピアをベッドに降ろした。

「ペルペナ」

「はい、陛下」

「ユピルピアはちゃんと食事をしているのか?あれでは飢えた子ウサギじゃないか」

「…倹約のために質素な食事をお望みです。
それと、今朝は緊張なさったのだと思います」

「もっとちゃんとした食事を与えろ。皇帝命令だ」

「かしこまりました」

「で、いつもこうなのか?」

「……」

「具合が悪い訳じゃないのだろう?」

「昨夜の失態を気に病み、ユピルピア様は一睡も出来ず朝を迎えました」

「腹一杯になって眠気が倍になってしまったのだな。
このまま寝かせてやれ。其方も食事を摂るように」

「ありがとうございます」

ベッドに腰を掛けてユピルピアの頭を撫でた。

「ユピルピアに仕えるのは楽しいか」

「ユピルピア様は私の命の恩人です。ユピルピア様のような心優しい王女様に出会えて幸せです。
無邪気で笑顔の素敵な私のご主人様です」

「…ペルペナの両親は?」

「私は捨て子だそうです。プロプルは治安の良い国ですが、それでも貧民街はございます。そこの道端に捨てられて、孤児院に引き取られました。
成長するにつれて肌の色の違いを理由に虐めに遭っていたところをユピルピア様が拾い上げてくださったのです。
ついうっかり反撃してしまい、歳上のいじめっ子達の嗜虐心に火を付けてしまいました。
殴られ蹴られ、怪我が酷くて、天使が迎えに来たのかと思いました」

「ペルペナ、左の脇の下に痣があるだろう」

「!!」

「なるほど」

コンコンコンコン

「モアナ様とシャンティ様がいらっしゃいました」

「入れ」

入室した2人は俺に目もくれずユピルピアに駆け寄り、顔に触れて熱を確かめたり胸に耳を当てて心音を聞いて無事を確認した。

「モアナ様とシャンティ様が就寝なさった後も、ユピルピア様はショックのあまり、眠ることができず一睡もなさっておりません」

「びっくりしたわ。寝ているだけなのね」

「心配させて」

帝国の貴族 モアナ・ゼンブルとシャンティ・シトールは従属国を見下していた。
自分達は皇妃に昇格し、従属国の女達は後宮という娼館で働く女で、その内 女としての旬が過ぎて国に返されるだろうと思っていた2人だ。
他の女達の前ではっきりそう言っていたと報告が上がっていた。

だが、ユピルピアが来てから2人はガラッと変わった。誤解で帝国が財政難だと思ったユピルピアの行動に2人が涙したのだ。2人を庇うユピルピアに対し、最初は意地悪をしていたのだと白状して謝罪した。
その後も3人で仲良くし、他の女達に呼び出しを受けたユピルピアを心配して、彼女の元へ駆け付けて加勢したという。

座る席の位置も俺のことも全く気にせず、ユピルピアの動向を注視し、彼女がウトウトし出すとモアナは慌て シャンティは唖然としていた。
眠りに落ちて身体を傾けるユピルピアをモアナが片腕で懸命に支え、シャンティは席を立ってユピルピアの元に駆けつけようとナプキンを置こうとした。

いいな、この雰囲気。

「モアナ、シャンティ。ユピルピアを本宮殿に移そうと思う」

2人は顔を曇らせた。

「何だ?何か不満か」

「申し上げてもよろしいでしょうか」

「許す」

「ユピルピア様は皇妃や皇后の座を望んでおりませんし、閨事の免除の証を飾るくらいです。
今のユピルピア様は嫌がるでしょう。
妃候補として献上されたのは承知しております。
ですがユピルピア様にだけは他の女性達と同じように扱って欲しくありません。
ユピルピア様を妃にする理由は何でしょう。
ユピルピア様を愛していないのなら、純潔のまま国に帰して差し上げることは出来ませんか」

モアナの言葉に正直に答えた。

「ユピルピアが好きだと思う。徐々に自覚してきた。お前達だって好きだろう」

「でしたら、今の後宮に置いたままユピルピア様と健全にお過ごしになり、射止めてくださいませ。
私達はユピルピア様の綺麗な内面も好きなのです。
笑顔でいて欲しいと思っております。
ユピルピア様が陛下をお慕いして受け入れるならば未来の皇后様としてお支えいたします」

シャンティは真っ直ぐ俺を見て言った。

「分かった。ユピルピアに好いてもらえるようにする。ユピルピアが妃になる時はお前達2人も一緒に妃にするつもりだ。お前達無しにユピルピアは安心できないだろう?」

2人は頷いた。

「目が覚めるまで付き添ってくれ。俺だけいたら嫌がるかもしれないからな」

「「かしこまりました」」

だが、なかなか起きないユピルピアをペルペナが起こした。

「夜、眠れなくなりますので起こします。

ユピルピア様、朝ですよ……ユピルピア様」

「スーっ スーっ」

「可愛い可愛いユピルピア様、起きてくださらないとペルペナは悲しくなります」

パチっ

「……」

「おはようございます、お水をどうぞ」

「ゴクッ ゴクッ」

「ユピルピア様、朝というよりお昼です」

「え?」

ユピルピアは俺の顔を見た後、周囲を見渡してベッドに潜り込んだ。
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