【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ

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お渡りは無しじゃ?

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ノックに応対したベルベナが入室させたのは、多分…

「「皇帝陛下にご挨拶を申し上げます」」

モアナ様とシャンティ様が頭を下げた。
やっぱり…会ったことはないけど、この方なのね。

「皇帝陛下?にご挨拶を申し上げます」

「……」


ま、まだですか?まだ頭を下げていなくちゃいけませんか?

「(陛下…陛下!)」

小声でサイモン後宮長が、その先を促す。

「顔を上げて座ってくれ」

「「「失礼いたします」」」

皇帝陛下も椅子に座り、じっと私を見つめた。

気まずいのでベルベナにアイコンタクトを送り、お湯とティーセットを持って来てもらった。

お茶を淹れようとすると、

「其方が淹れるのか」

「はい。薬草茶ですので」

「薬草茶?」

「はい。皇帝陛下には普通の茶葉でお淹れします」

「いや、薬草茶を淹れてくれ」

「かしこまりました」

温めたジュースと薬草茶をブレンドさせた。

「少しクセがあるかも知れませんが、薬湯を飲んでると思えば可愛いものです。熱いので気を付けてください」

皇帝陛下やモアナ様達はゆっくり口に入れた。

「甘いな」

「でも落ち着きますわ」

「林檎ね」

「はい。りんごジュースと薬草茶のブレンドです」

「何の効果があるんだ」

「あの、気に障りましたら申し訳ございません」

「怒らないから答えてくれ」

「リラックス効果の他に、消炎と胃腸痛や女性の内臓の痛みへの効果や、お小水を促す効果があります」

「どの効果を狙っているんだ?」

「実は、お食事の味付けが少し濃いので塩分を排出させようかと」

「濃いか」

「はい」

「では、ジュースを除いてもう一杯淹れてくれ」

「少し飲み辛くなる可能性もありますが」

「構わない」

「ユピルピア様、私も」

「私もいただきたいですわ」

「3人は随分と親しくなったのだな」

「それは…」

モアナ様とシャンティ様は少し罰が悪そうだった。

「モアナ様とシャンティ様は遠い小国から後宮入りした私を心配して遊びに来てくださいましたの。
お茶を飲みながらお話し相手になって下さり、夕食もご一緒して下さいました。
優しくて魅力的な帝国のご令嬢にお会いできて光栄ですわ。
ありがとうございます、モアナ様、シャンティ様」

「「ユピルピア様…」」

「あの、皇帝陛下は何故ここへいらしたのですか?」

「ユピルピア。実は其方に謝りたかった」

「私にですか?」

「其方の予算を間違えてサイモンに告げて、サイモンは金額がおかしいと教えてくれようとしたのだが、忙しくて話を聞かなかった。
それで今日の昼に規則に違反するので撤回して欲しいと言いに来て発覚した。

すまない。君の予算を一桁間違えていた。他の皆と同じ額になるよう指示を出し直した。許して欲しい」

「では、財政難では…」

「そんな事実は無い。寧ろ潤沢だ」

「良かったです。どうしたらいいのか悩んでおりました。民が飢えては恥ずかしくて表に顔を出せなくなりますから」

「王女に相応しい心遣いだ。ありがとう」

「モアナ様もシャンティ様も真剣に考えてくださって、素敵でしたわ」

「私、ユピルピア様に最初は意地悪を申し上げました。どうか許してください」

「私も、帝国を合わせた20ヶ国の中で1番美しい白い肌を持つユピルピア様が羨ましくて、意地悪を申し上げました。申し訳ございません」

「いいえ、あのようなことは大したことではありません。それに羨ましいのはこちらの方ですわ。引き締まってスラリと伸びた身体はまさに肉体美。私なんてプヨプヨです。白い肌なんてすぐ動揺が分かってしまいますし血管が透けて見えるようで怖いです」

「ふふっ。本当に柔らかいですね」

「癖になりそうですわ」

2人は私の二の腕をぷにぷにと触り始めた。
何故か皇帝が目を逸らした。

「そう言えば共同浴場でお会いしませんわね」

「このお部屋は浴室付きなので」

「「えっ!?」」

「私1人ならゆったり入れる広さです」

「「……」」

「今度入りにいらっしゃいますか?」

「本当ですか!?」

「お泊りですわぁ」

「馬鹿ね、そこまでは仰っていないわ」

「この部屋でよろしければお泊まりしてください」

「きゃ~!いつにしましょう」

「俺はそろそろ失礼する。ユピルピア、悪かったな。2人とも、もうすぐ20時だから部屋に戻るように。寝支度があるだろう?
薬草茶、ありがとう」

皇帝はサイモン後宮長達を引き連れて退室した。

「モアナ様、シャンティ様。あの方が皇帝陛下であってますよね?」

「初めてお会いしたのですか!?」

「挨拶さえさせてもらえていませんでした」

「酷いですわ!遥々来てくださったのに!」

「そうなのです。ですからモアナ様、シャンティ様、今日みたいにこれからも仲良くしてくださいませ」

「もちろんですわ」

「こちらこそ宜しくお願いしますわ」




【 後宮長サイモンの視点 】

「はぁ」

「申し訳ございません」

「いや、いいんだ」

あれ以来、皇帝陛下は毎日ユピルピア様の報告を聞きたがるようになってしまった。

だが、ユピルピア様の専属はユピルピア様の連れて来た侍女ベルベナしかいない。
彼女はユピルピア様の個人的なことを漏らさない。
“いつもの時間に起きて寝ました。3食召し上がり、不調も怪我もありません。以上です”
いつもそう答える。

最初に皇帝に会わせてこちらで雇った侍女を付けていれば、皇帝は毎日溜息を吐くことは無かったはずた。

ユピルピア様の部屋へ行く口実を探しているように見えるが用事が無い。あの契約書がある限り夜伽を理由にできない。

ユピルピア様が皇帝陛下に心を寄せてくれたら、簡単に解決できるのに。


「今夜、どなたかのお部屋をお訪ねになりますか?」

「……アイリーンを」

「かしこまりました」


だが、

「陛下?」

「戻る」

15分も経たないうちに部屋から出てこられた。
後のメイドの報告では、閨事はあったとの事だった。

「入室するなり、軽く解して直ぐにアイリーン様と…」

「何かあったのか?」

「いえ。直ぐに終えてガウンを羽織り退室なさいました」

楽しんだというよりは、だな。

「アイリーン様の様子は?」

「陛下が退室なさった後、少し元気が無いように見えました」

「分かった」

アイリーン様はユピルピア様の次に小柄な方だ。それで選んだのかも知れないが、あまり気乗りしていなかったのだろう。

モアナ様達がユピルピア様の二の腕を触っていた時、皇帝陛下は少し顔を赤くして目線をずらし少しソワソワなさっていた。ユピルピア様に欲情なさったのだろう。

何とかユピルピア様が気持ちを変えてくれたらいいのだが。
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