【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ

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要らない献上品

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周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国は資源が豊富で実り豊かな土地だ。
強靭な肉体に優れた戦闘能力、肌は薄い褐色で髪の色は黒、瞳の色は黒か焦茶色で稀に赤茶や琥珀色の者が産まれる。
帝国から離れるごとに褐色は更に薄れた人種で占める。遠く離れた者とエテルネル人が子を成してもエテルネルの特徴の子が産まれる。

エテルネル帝国では、より良い頭脳を求めて他国から優秀な者を招き入れた。逆に従属国は少しでも安泰と優遇を求めて王女や令嬢を妻にと輿入れさせてきた。
それがいつの間にか皇帝の後宮ができ、献上品として住み、皇帝の寵愛を求め争うようになった。

子を産んだとしても安泰ではない。
私達献上品は身分が高いだけで 謂わば皇帝の専属娼婦と同じだ。皇帝がムラムラしたら後宮に足を運び、その日の女を選んで身体を使うだけ。

皇后、側妃は別の宮に住むのだが、新皇帝は誰も選んでいない。だから国内外から縁談が殺到し、後宮内も寵愛争奪戦となる。

「ベルベナ荷解きは終わったし、召使いが世話をしてくれるから、一緒にゴロゴロしていましょう。今日は部屋から出てはいけないのだからいいでしょう?こっちに来て」

その日はベルベナとベッドでゴロゴロして過ごした。


翌日、10時から後宮の説明が始まった。
構図は二階建ての葉脈状の建物。私の部屋は一番遠いが二階建てで内階段で二階に上がれるようになっていた。

皇帝のお渡りに使う渡り廊下が二階にあるため、一番近い部屋と、二階の広い部屋、二階の部屋、階段近くの一階の部屋の順に人気があり埋まっていく。

私の部屋は増築部屋のために完全にくっついておらず、お渡りするなら一度一階におりて、一番遠くまで歩き、更に渡り廊下を通らなければならなかった。

「前もってのお渡りの知らせがあることもありますが、突然前触れ無しに皇帝がいらっしゃることもあります。それは早朝でも日中でも夜中でも食事中でも、皇帝に尽くさねばなりません」

つまりムラムラしたらいつでも直ぐに応じろという意味だ。

「他の方の部屋には勝手に入ることはできません。身分とか召使いだとかは関係ございません」

「はい」

「もし、皇帝のご意向で本殿へ足を踏み入れることがある場合いは、必ず兵士と侍女が付き添います」

「はい」

「こちらのお部屋だけ小さな浴室が付いております。当時増設した時の諸事情によるものです。
ご利用いただけます。他の女性は共同浴場です。場所はこの見取り図の斜線が書いてある二箇所。もちろんユピルピア様も使うことができます」

やった!この部屋は当たりね!

19の従属国からの献上品19人と自国の希望者2名が住んでいるらしい。

様々な説明の後、サイモン後宮長が交代して別の説明をした。

「この後宮からは基本的に出ることは叶いません。
罪を犯した時、病や怪我で役目を果たせない時、死んだ時、皇帝が交代した時、妃となった時、皇帝が望んだ時だけ出ることができます。
この国の法律とこの後宮の規則に従ってもらいます。ここに住む女性に上下関係はありません。王女でも貴族令嬢でも同じです。
そして妃にならなければ何の権利も発生しません。
子を産んでも同じです。産んだ子に対しても権利はありません。皇帝の子であって 貴女方は産むだけです。エテルネル帝国の国籍もありません」

「つまり私はプロプル国籍のままということですか?」

「はい。身分は維持しているか存じ上げませんが、国籍はそのままです」

「分かりました」

「ユピルピア様は皇帝のお相手を希望なさいますか」

「はい?」

「後宮に住まう女性が多いため、ユピルピア様には希望を聞くようにと皇帝からのご命令です」

「つまり、私の意思で閨に上がるかどうか決められるということですか」

「はい」

夜伽相手が沢山いて面倒なのね。だから離れみたいなこの部屋に通したのだわ。

「待遇は変わりませんね?」

「はい。どの女性へも平等に召使いがお世話します」

「無しでお願いします」

「……本当によろしいのですか?」

「白い献上品ということで、お世話になります」

「分かりました。そのように報告します」

「月に一度、予算内での買い物ができます。商人を呼び付けますので必要な品のリストは書き留めておいてください」

「花や薬草も購入できますか?」

「はい」

「分かりました」

「以上です。こちらは規則を文書化した冊子です。熟読願います。
こちらは後宮の女性に専属で仕えているという証の腕章です。侍女ベルベナでしたね?彼女につけさせてください」

「はい」



【 後宮長サイモンの視点 】

まさか、皇帝のお相手を拒否する王女がいるとは。

皇帝の執務室に報告を上げに行った。

「どうだった」

「プロプル王国の王女ユピルピア様は最奥の離れの部屋をお使いです。侍女一名だけ連れてきております。それと…閨事は遠慮なさるそうです」

「そうか」

「よろしいのですか?お会いして決めなくても」

「女なら腐るほどいるだろう。煩くてかなわん」

「それとこちらを」

「何だ」

「言った言わないと揉めたくないからと、閨事に関する契約書を取り交わしたいと申し出がございました」

「ハッ、娼婦のくせに生意気だな」

「申し訳ございません」

「“性交渉の免除”…いいだろう」

「やっぱりお会いしてから、」

「ほら、署名したぞ。渡しておけ。
待遇は最低限でいい」

「それでは規則が、」

「役に立とうとしない居候なのだから構わないだろう。その内 臣下に下げ渡せばいい」

「プロプルの王女ですが問題になるのでは?」

「従属国だぞ?俺が要らないと言えば済む話だ」

「かしこまりました」

「それと、ユピルピア様の連れてきた侍女ですが、」

「侍女のことなど報告しなくていい。頭痛がするんだ。退がってくれ」

「失礼いたします」

本当にいいのだろうか。ユピルピア様にお会いしたら気が変わるのでは…それにあの侍女、よく似ている。


ユピルピア様に契約書を届けに行くと額縁に入れて飾って欲しいと言われた。

「汚れないようにガラス付きでね。
部屋のドアを開けたらすぐ目につく壁に飾ってくださるかしら」

「…ご用意します」


翌朝、後宮の全員を集めてユピルピア様を紹介した。

「閨事を免除されたユピルピアと申します。よろしくお願いします」

それだけ言って私に目線を送った。

「以上です。解散」

国名も王女だとも言わない。王女は必ず牽制のために身分を明かすのに。

「サイモン後宮長、私はこれで失礼します」

ユピルピア様は声をかけて去っていった。


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