84 / 84
閑話 最終話
しおりを挟む【 フェリシアンの視点 】
初夜のやり直しをして シェイナを抱き潰した後、アリオンに婚姻契約書を作ってこいと命じ、宰相閣下に面談を求めた。
「シェイナは?」
「寝てます」
「まだ17歳になったばかりだ。無理を強いらないでくれないか」
「1年間我慢しました」
「……で?何かな?」
「20歳の誕生日に婚姻します。その半年前に辺境に連れて行きます」
「退職日の相談かな?」
「はい」
「シェイナ抜きで?」
「何だかんだ言ってもシェイナは女です」
「シェイナを支配する気か」
「ちゃんと甘やかしますよ」
「……」
「それまでは甲斐甲斐しく王都とヴェリテ領に通って愛を育みます」
「シェイナを大事にしてくれよ」
「当然です。愛していますから。
それにノワールが見張ってるので気を抜けませんよ。
抜きませんけどね」
夜にはシェイナとヴェリテ邸に戻り、婚約を交わした。
その後、シェイナが辺境に引っ越すまで、シェイナの元に通った。
その度にシェイナを抱いて愛を囁いた。
可愛いシェイナは俺が会いに行くと準備が整うようになっていた。
既にヌルヌルで、少し解すだけで充分だが、そんなやり方では昔の女達と変わらない。
執拗に愛撫を繰り返し、懇願させる。
そして侵入すると歓喜の震えで迎えてくれる。
俺だけのシェイナ。
「ちょっと、フェリシアン! 触らないで!
罰として1ヶ月間しないって言ったじゃない!」
「だから、あれは誤解だって」
「廊下で密会していたくせに!」
「密会じゃないよ、偶然だよ」
「“そろそろ飽きたでしょ”なんて言わせて!」
「俺のせいじゃない」
「ううっ…」
「悪かった!俺が悪かった!泣かないでくれ!
変な女が寄って来るのはシェイナへの愛情の掛け方が生ぬるいんだろう。
よし!任せろ!徹底的に見せつけてやろう!」
シェイナの身体中にキスマークを付けたら怒られた。
「五分五分ですね」
アリオンが鼻で笑う。
シェイナを支配したい俺と、俺を翻弄させるシェイナと引き分けていると言いたいらしい。
だけど、シェイナを手に入れたのは俺だ。
「隙を見せると盗られますよ」
「うるさい」
【 セヴリアンの視点 】
婚約者のツェリーがシェイナに殺気を向けたことを報告した。
ローエン様が紹介した女だった。
「ツェリー・キートンとの婚約は忘れていい。こちらで片付ける。
別の女を探すから、もう会わなくていい」
「よろしくお願いします」
ふと見ると、既にツェリーの暗殺指示書が机の上にあり、担当はキースだった。
翌日に、ツェリーが遺書を残して死んだと連絡が入った。
葬儀に参列した時、ツェリーの友人らしき夫人達の立ち話が聞こえてきた。
「夜会を開催したキートン夫人の実家で大騒ぎだったそうよ。
ツェリー嬢がキートン夫人の弟と裸で眠っているところを、夫人に見つかったらしいの。
合意にしか見えない状況だったらしいわ」
「致命的ね。
ツェリー嬢は美男子のデュケット子爵令息と婚約して喜んでいたじゃない」
「叔父と寝て騒ぎになったら婚約なんて破棄されて貰い手なんかなくなるものね。死にたくもなるわ」
葬儀の後にキートン伯爵夫妻から謝罪を貰った。
「恥をかかせて申し訳ありません」
「終わったことです。忘れましょう」
「ありがとうございます」
夫妻の顔色は悪かった。
屋敷に戻るとまた別の釣書が届いていた。
酒を飲みながら馬鹿な考えが頭をよぎる。
シェイナを妻に娶れば良かったと。
ミラと一緒にいたい。
シェイナは美しいし、いい匂いがした。
あいつといるとつい感情的になってしまう。
だけど一緒に寝ると熟睡できた。
妹のように見ていたが 妹ではない。
妻に迎えて抱いていたら 妹から女に変わった?
そうすれば辺境などにやらなくて済む。
だが、ローエン様の手間、それも難しい。
やっぱり俺に家庭など向いていない。
任務として割り切って、釣書を手に取り次の婚約者を選んだ。
【 クリスの視点 】
愛するシェイナがバロウ伯爵の求婚を受けてしまった。
こんなに愛しているのに従兄妹だからと結ばれることはなかった。
シェイナは私の最愛。それを知らない人間はシェイナ本人くらいだと思う。
虫が怖いと抱き付くシェイナをきつく抱きしめ返した。
地下道の向こうに待つノワール公爵に渡すのでは無く、私の寝室に連れて行き シェイナと一つになりたかった。
私の寵妃として囲い 愛ていたい。
“クリス 愛しています” と毎日言ってもらいたい。
相手は節操の無い男だ。
そう遠くない未来に 他の女に手を出すだろう。
その時は私が傷付いたシェイナを私の宮に閉じ込めて全力で愛を注ごう。
シェイナは私のことだけを考えて楽しく生きればいい。
出産はリスクが伴うから、シェイナを失うくらいなら子は要らない。だが、シェイナが子を望んでくれたら 二人までなら産ませよう。
今は王太子の身だが、いずれ国王となる。
そのときは……。
そこでノワール家に依頼をだした。
「公爵が直々に依頼を受けに来てくれたのですね」
「王太子殿下の依頼ですから」
「ある男を見張って欲しい」
「……バロウ伯爵ですか」
「はい」
「残念ながらお受けできません」
「何故です?」
「既にうちの者を張らせているからです」
「ではその報告をくれたらいいではないですか」
「考えていることは同じでしょう。
あの男がシェイナを裏切った時は、シェイナを隠す」
「……」
「シェイナはノワール公爵家で保護します」
公爵は未だに恋敵だと分かった。
影の力を持つ恋敵。
ならば王家の権力で争わなければ。
【 ローエンの視点 】
領地の妾達が次々と男児を産み始めた。
それを“吉兆だ”と側近が喜ぶ。
そうかもしれないが、私にとっては仕事だ。
早くシェイナの気が変わるよう祈りながら準備はしている。
あの男のことだ。きっとシェイナを裏切って他の女に手を出すだろう。
その時はシェイナがどう考えようと遠慮はしない。
鍵付きの引き出しを開け、箱を手にした。
中には桃色の液の入った小瓶と 黒い液の入った小瓶が入っている。
黒い液は記憶を欠落させる薬。
これでシェイナの記憶もミラの記憶も無くなり、私を兄だと思わなくなるし辺境伯のことも忘れるだろう。
桃色の液は思考を奪う薬。
私を受け入れられなかったときはコレを使おう。
もう外へは出さない。
私はだいぶ歳上だからその分早く死ぬ。
子を産ませて母親のことを引き継がなければ。
決して屋敷の外には出さず 大切にして守れと。
【 トビの視点 】
ト「今 何て?」
キ「父上!?」
デュケット子爵に呼ばれて応接間に行くと、ローエン様とセヴリアン様とキース様がいた。
デュケット子爵が口に出した言葉にキース様は驚いているがローエン様とセヴリアン様は驚いていない。
キ「ミラと会いたいかって…死ねという話ですか」
え?俺ミスった!?
ロ「そんなはずがあるか」
子「ミラは死んだ後、その魂のまま生まれ変わった。記憶を取り戻したのは一年前だ」
キ「まさか…あの子ですか」
え?誰!?そんなことが本当に?
子「会いたいか?会いたいなら教える」
キ「会いたいです」
「冗談とかじゃないですよね……場合によってはミラ様の棺を掘り返して 抱えて消えますよ」
セ「間違いない」
子「すぐに気が付いたぞ。
気配の消し方がミラそのものだ。
本人が消していることに気が付いていないところもな」
気配……あの子も時々気配が無かった。
「シェイナ嬢ですか」
子「私の最愛の娘だ」
え?だって…ローエン様はシェイナ嬢のことを求婚するくらい好きだったはず…
キ「会いたいです」
「お願いします」
後日、シヴァと現れたシェイナ様は苦笑いをしていた。
シ「蘇っちゃった…わっ!」
キース様がシェイナ様を抱きしめていた。
キ「ミラ!ミラ!」
視界が滲む。
次から次へと靴や床に雫が落ちていく。
キ「記憶が戻った時に直ぐ言えよ」
シ「だって、頭おかしい人だって思われそうだったから」
キース様がミラ様に手を差し出した。
手の握り方が……。
昔キース様が中指を怪我してから、幼いミラ様は兄であるキース様と手を繋ぐときは小指と薬指を握っていた。
そのままだ。
本当にミラ様だ……
シ「トビ。心配かけてごめんね」
心配なんてもんじゃない!何度後を追って死のうと思ったか!!
シ「トビ?」
ああ、その顔を少し傾けて上目遣いに覗き込む姿……
シ「トビ……泣き過ぎ」
たまらず抱きしめた。
シ「ごめんね、辛い思いをさせて」
「一緒に行かなかったことをずっと悔いていた…俺はミラ様をサポートをする為に残された補欠要員だったのに…。
俺の実力じゃ ミラ様を救えなかったはずだけど、一緒に行っていれば 独りで死なせることはなかったはずだ。
ミラ様と一緒にあの世に、」
シ「トビ!
あの時 トビに招集はかからなかった。だから行くと言い出してもバチスが許さなかったはずよ。
トビは何も悪くない。もう過去に囚われないで」
その後、みんなで話をして、帰らなければいけないミラ様を見送った。
シ「次に会うときはシェイナと呼んでね」
「はい」
シ「家族を持って。トビはきっといいパパになれるわ」
「考えてみます」
ミラ様の魂は生きていたけど、死なせてしまったことに変わりはない。
数年後、シェイナ様が辺境へ引っ越すタイミングで転職することにした。
デュケット子爵の推薦状を持ってバロウ伯爵の元へ向かった。
そこには悲観にくれたトビの姿ではなく、今度こそ小主人を守り抜くと決意を込めた男の顔だった。
終
397
お気に入りに追加
1,165
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる