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閑話 最終話

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【 フェリシアンの視点 】


初夜のやり直しをして シェイナを抱き潰した後、アリオンに婚姻契約書を作ってこいと命じ、宰相閣下に面談を求めた。

「シェイナは?」

「寝てます」

「まだ17歳になったばかりだ。無理を強いらないでくれないか」

「1年間我慢しました」

「……で?何かな?」

「20歳の誕生日に婚姻します。その半年前に辺境に連れて行きます」

「退職日の相談かな?」

「はい」

「シェイナ抜きで?」

「何だかんだ言ってもシェイナは女です」

「シェイナを支配する気か」

「ちゃんと甘やかしますよ」

「……」

「それまでは甲斐甲斐しく王都とヴェリテ領に通って愛を育みます」

「シェイナを大事にしてくれよ」

「当然です。愛していますから。
それにノワールが見張ってるので気を抜けませんよ。
抜きませんけどね」


夜にはシェイナとヴェリテ邸に戻り、婚約を交わした。



その後、シェイナが辺境に引っ越すまで、シェイナの元に通った。

その度にシェイナを抱いて愛を囁いた。

可愛いシェイナは俺が会いに行くとようになっていた。

既にヌルヌルで、少し解すだけで充分だが、そんなやり方では昔の女達と変わらない。

執拗に愛撫を繰り返し、懇願させる。
そして侵入すると歓喜の震えで迎えてくれる。

俺だけのシェイナ。


「ちょっと、フェリシアン! 触らないで!
罰として1ヶ月間しないって言ったじゃない!」

「だから、あれは誤解だって」

「廊下で密会していたくせに!」

「密会じゃないよ、偶然だよ」

「“そろそろ飽きたでしょ”なんて言わせて!」

「俺のせいじゃない」

「ううっ…」

「悪かった!俺が悪かった!泣かないでくれ!
変な女が寄って来るのはシェイナへの愛情の掛け方が生ぬるいんだろう。

よし!任せろ!徹底的に見せつけてやろう!」

シェイナの身体中にキスマークを付けたら怒られた。



「五分五分ですね」

アリオンが鼻で笑う。

シェイナを支配したい俺と、俺を翻弄させるシェイナと引き分けていると言いたいらしい。

だけど、シェイナを手に入れたのは俺だ。

「隙を見せると盗られますよ」

「うるさい」




【 セヴリアンの視点 】


婚約者のツェリーがシェイナに殺気を向けたことを報告した。

ローエン様が紹介した女だった。

「ツェリー・キートンとの婚約は忘れていい。こちらで
別の女を探すから、もう会わなくていい」

「よろしくお願いします」

ふと見ると、既にツェリーの暗殺指示書が机の上にあり、担当はキースだった。


翌日に、ツェリーが遺書を残して死んだと連絡が入った。

葬儀に参列した時、ツェリーの友人らしき夫人達の立ち話が聞こえてきた。

「夜会を開催したキートン夫人の実家で大騒ぎだったそうよ。

ツェリー嬢がキートン夫人の弟と裸で眠っているところを、夫人に見つかったらしいの。
合意にしか見えない状況だったらしいわ」

「致命的ね。

ツェリー嬢は美男子のデュケット子爵令息と婚約して喜んでいたじゃない」

「叔父と寝て騒ぎになったら婚約なんて破棄されて貰い手なんかなくなるものね。死にたくもなるわ」


葬儀の後にキートン伯爵夫妻から謝罪を貰った。

「恥をかかせて申し訳ありません」

「終わったことです。忘れましょう」

「ありがとうございます」

夫妻の顔色は悪かった。


屋敷に戻るとまた別の釣書が届いていた。

酒を飲みながら馬鹿な考えが頭をよぎる。
シェイナを妻に娶れば良かったと。

ミラと一緒にいたい。
シェイナは美しいし、いい匂いがした。

あいつといるとつい感情的になってしまう。
だけど一緒に寝ると熟睡できた。

妹のように見ていたが 妹ではない。
妻に迎えて抱いていたら 妹から女に変わった?
そうすれば辺境などに遠くへやらなくて済む。


だが、ローエン様の手間、それも難しい。

やっぱり俺に家庭など向いていない。
任務として割り切って、釣書を手に取り次の婚約者を選んだ。




【 クリスの視点 】


愛するシェイナがバロウ伯爵の求婚を受けてしまった。

こんなに愛しているのに従兄妹だからと結ばれることはなかった。

シェイナは私の最愛。それを知らない人間はシェイナ本人くらいだと思う。

虫が怖いと抱き付くシェイナをきつく抱きしめ返した。
地下道の向こうに待つノワール公爵に渡すのでは無く、私の寝室に連れて行き シェイナと一つになりたかった。

私の寵妃として囲い 愛ていたい。
“クリス 愛しています” と毎日言ってもらいたい。

相手は節操の無い男だ。
そう遠くない未来に 他の女に手を出すだろう。
その時は私が傷付いたシェイナを私の宮に閉じ込めて全力で愛を注ごう。
シェイナは私のことだけを考えて楽しく生きればいい。

出産はリスクが伴うから、シェイナを失うくらいなら子は要らない。だが、シェイナが子を望んでくれたら 二人までなら産ませよう。

今は王太子の身だが、いずれ国王となる。
そのときは……。


そこでノワール家に依頼をだした。


「公爵が直々に依頼を受けに来てくれたのですね」

「王太子殿下の依頼ですから」

「ある男を見張って欲しい」

「……バロウ伯爵ですか」

「はい」

「残念ながらお受けできません」

「何故です?」

「既にうちの者を張らせているからです」

「ではその報告をくれたらいいではないですか」

「考えていることは同じでしょう。
あの男がシェイナを裏切った時は、シェイナを隠す」

「……」

「シェイナはノワール公爵家でします」


公爵は未だに恋敵だと分かった。
影の力を持つ恋敵。

ならば王家の権力で争わなければ。




【 ローエンの視点 】


領地の妾達が次々と男児を産み始めた。
それを“吉兆だ”と側近が喜ぶ。
そうかもしれないが、私にとっては仕事だ。

早くシェイナの気が変わるよう祈りながら準備はしている。

あの男のことだ。きっとシェイナを裏切って他の女に手を出すだろう。

その時はシェイナがどう考えようと遠慮はしない。

鍵付きの引き出しを開け、箱を手にした。
中には桃色の液の入った小瓶と 黒い液の入った小瓶が入っている。

黒い液は記憶を欠落させる薬。
これでシェイナの記憶もミラの記憶も無くなり、私を兄だと思わなくなるし辺境伯のことも忘れるだろう。

桃色の液は思考を奪う薬。
私を受け入れられなかったときはコレを使おう。

もう外へは出さない。

私はだいぶ歳上だからその分早く死ぬ。
子を産ませて母親シェイナのことを引き継がなければ。
決して屋敷の外には出さず 大切にして守れと。




【 トビの視点 】


ト「今 何て?」

キ「父上!?」

デュケット子爵に呼ばれて応接間に行くと、ローエン様とセヴリアン様とキース様がいた。

デュケット子爵が口に出した言葉にキース様は驚いているがローエン様とセヴリアン様は驚いていない。

キ「ミラと会いたいかって…死ねという話ですか」

え?俺ミスった!?

ロ「そんなはずがあるか」

子「ミラは死んだ後、その魂のまま生まれ変わった。記憶を取り戻したのは一年前だ」

キ「まさか…あの子ですか」

え?誰!?そんなことが本当に?

子「会いたいか?会いたいなら教える」

キ「会いたいです」

「冗談とかじゃないですよね……場合によってはミラ様の棺を掘り返して 抱えて消えますよ」

セ「間違いない」

子「すぐに気が付いたぞ。
気配の消し方がミラそのものだ。
本人が消していることに気が付いていないところもな」

気配……あの子も時々気配が無かった。

「シェイナ嬢ですか」

子「私の最愛の娘だ」

え?だって…ローエン様はシェイナ嬢のことを求婚するくらい好きだったはず…

キ「会いたいです」

「お願いします」


後日、シヴァと現れたシェイナ様は苦笑いをしていた。

シ「蘇っちゃった…わっ!」

キース様がシェイナ様を抱きしめていた。

キ「ミラ!ミラ!」

視界が滲む。

次から次へと靴や床に雫が落ちていく。

キ「記憶が戻った時に直ぐ言えよ」

シ「だって、頭おかしい人だって思われそうだったから」

キース様がミラ様に手を差し出した。

手の握り方が……。

昔キース様が中指を怪我してから、幼いミラ様は兄であるキース様と手を繋ぐときは小指と薬指を握っていた。

そのままだ。

本当にミラ様だ……


シ「トビ。心配かけてごめんね」

心配なんてもんじゃない!何度後を追って死のうと思ったか!!

シ「トビ?」

ああ、その顔を少し傾けて上目遣いに覗き込む姿……

シ「トビ……泣き過ぎ」

たまらず抱きしめた。

シ「ごめんね、辛い思いをさせて」

「一緒に行かなかったことをずっと悔いていた…俺はミラ様をサポートをする為に残された補欠要員だったのに…。

俺の実力じゃ ミラ様を救えなかったはずだけど、一緒に行っていれば 独りで死なせることはなかったはずだ。

ミラ様と一緒にあの世に、」

シ「トビ!

あの時 トビに招集はかからなかった。だから行くと言い出してもバチスが許さなかったはずよ。

トビは何も悪くない。もう過去に囚われないで」


その後、みんなで話をして、帰らなければいけないミラ様を見送った。

シ「次に会うときはシェイナと呼んでね」

「はい」

シ「家族を持って。トビはきっといいパパになれるわ」

「考えてみます」


ミラ様の魂は生きていたけど、死なせてしまったことに変わりはない。


数年後、シェイナ様が辺境へ引っ越すタイミングで転職することにした。
デュケット子爵の推薦状を持ってバロウ伯爵の元へ向かった。


そこには悲観にくれたトビの姿ではなく、今度こそ小主人を守り抜くと決意を込めた男の顔だった。




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