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閑話
しおりを挟む【 サーシャの視点 】
フェリシアン・バロウの噂は聞いている。
次期伯爵でかなりモテるのだと。
遠縁の子爵の娘はなかなかバロウ家の催しには呼ばれなかった。
成人後、大きなパーティでやっと姿を見ることができた。
一目で心を奪われた。
だけど既に彼には婚約者がいた。
聞いたところによると、気持ちは無さそうだ。
だったら私でもとお父様とお母様に聞いたら相手にされなかった。
“高望みが過ぎる”
どうして?うちは子爵だし、私は綺麗だし、問題ないわ!
私は自身の縁談を全て潰し機会を待った。
そしてやっと“フェリシアン様が破婚した”と聞かされた。
そのすぐ後、お兄様と婚約し、嫁いできたのは辺境伯のバロウ家の長女ミレニア様だった。
ミレニア様は他の方と婚約していたのだけど何故か破棄に至って、決まっていなかったお兄様の元へ。
後で聞いた話では 純潔を重視する家門の令息と婚約していたけど、婚前半年の検診で処女ではないとバレてしまったらしい。
婚約前は検査に通ったらしいから、婚約中の浮気ということだ。
当時の辺境伯が慌てて嫁ぎ先を探し、兄の元へ。
兄は仕方なく娶った感じだった。
婚姻式で再会したフェリシアン様はまだ独身だった。私はその日からアプローチしたけど、他の女達と遊ぶだけで相手にしてもらえない。
どんどん年月は過ぎて行くのに…。
お義姉様も心配して、私のことをフェリシアン様に薦めてくれるけど断られ続けるし、他の女は手を付けるくせに 何故かフェリシアン様は私に手を付けてくれない。
お兄様からは別の縁談を探された。
「これ以上は嫁ぎ先が平民になるぞ」
「私にはフェリシアン様が、」
「何度も断られただろう」
そんな矢先 隣の領地で事件が起き、後処理に文官が来るようだとお兄様とお義姉様が話していた。
「そんな怖いことが起きているのならしっかりと話を聞きに行くべきだわ」
そう言ってバロウ城を訪ねたらフェリシアン様の側には女の子がいた。
仕事で来たと言ったくせに フェリシアン様が見たこともない表情で甘く彼女を見つめるのが許せなかった。
だけどお義姉様も公女には敵わず、ついにはお兄様まで動かしてしまった。
「妹のようなお前は抱けないし政略結婚にもならないとはっきり振られただろう。
残り少ない縁談の中から選ばないというなら除籍する。
これ以上バロウ伯爵に付き纏う親族を野放しにはできない」
「そんな!」
渡された釣書は4つ。
貧乏男爵家の嫡男との婚姻…ギュエル子爵家からの支援金はそんなに出せない。貧乏生活なんて嫌。
準男爵との婚姻…一代限りの貴族なんて嫌。
子爵家の妾…は?妾? あり得ない。
男爵家の後妻…。
聞いたら裕福な方だと聞いた。
貧乏よりマシだし、後妻でも男爵夫人。
ソレに決めた。
後妻ということもあり、半年後に輿入れを持って入籍。教会で誓いをたてただけ。
教会で初めて会った男爵は37歳。フェリシアン様には足元にも及ばないけど顔は整っているし体格も良かった。
教会から男爵邸に移り家族を紹介された。
学園卒業したての長男ロビン、16歳長女のサラ、14歳の双子のトニーとマリア。
義娘は二人とも大人しく、義息子はニコニコしていた。
初夜は想像よりもあっさりしていた。
「ふぅ……(こんなものか)」
「え?」
「ゆっくり休むといい」
吐精し終わると、私から離れて寝室から出て行ってしまった。
体を拭いにメイドが入室した。
「男爵は何処へ?」
「ここは男爵夫妻の伽の間で、夫婦の部屋とは違います。最初にご案内したお部屋に奥様は過ごされて、旦那様は別に部屋を持っていて そこで過ごされます。
奥様は今夜はこのままこの部屋でお休みになられても、私室に戻られてもかまいません」
そして避妊薬を渡された。
それが男爵家の意思だと飲み干した。
翌日、家令が説明をしてくれた。
「特になさることはございません。
社交も王宮行事のみとなります」
「お茶会は?」
「このお屋敷で茶会はひらかれません。
夜会は奥様は出席できません。
パーティは稀にございますが、次にあるとしたら当主交代の時でしょう」
「え?……この屋敷で夜会を開くのに私は参加できないの!?」
「はい。
招待された茶会のみ、お一人で参加なさることは可能ですが、陽の出ている間のみ。
つまり遠くのお屋敷へは出向けません。
外泊は以ての外です」
「そんな!」
それではフェリシアン様にお会いできないじゃないの!
「男爵は何処」
「“旦那様”もしくは“ご主人様”とお呼びするように」
「……分かったわ」
何、この圧は…。家令が女主人に威圧をするなんて!
「旦那様がお会いになる時間を決め次第 お伝えしますのでお部屋にお戻りください。後で屋敷内のルールを説明させに行きます」
部屋に戻ると間もなくメイド長がやってきた。
「昨日 お部屋を出る時は 如何なる場合も紹介いたしました専属メイドのメリーかアンナを呼んで伴わせてください」
「一人で自由に歩けないと?」
「はい」
「そして、夜の10時から朝の5時まで、部屋の外に出ることを許されておりません。どうしてもという場合は先ず、専属メイドを呼び 理由を説明してください」
「それでは軟禁じゃない!」
「奥様は本当の軟禁の体験をなさったことが?」
「ないわ」
「軟禁なら昼間も理由無しには部屋から出られません。本当の軟禁を経験したくないのであれば賢く振る舞ってくださいませ」
私は子爵家の令嬢よ!
こんな扱いは許されないわ!
午後に会いに来た夫に不満を爆発させた。
夫は反論すること無く全て聞き終わると溜息を吐いた。
「キュエル子爵家はバロウ伯爵家の長女が輿入れしただけで、他に優れた部分は無い。
持参金も微々たるものだし、肝心の女は行き遅れ。
美貌も無く、スタイルも普通。具合も普通。
才も無く、ただ子爵令嬢だったというだけ。
己の立場が分かっていないから 何年もあのバロウ伯爵に付き纏って行き遅れるんだろうな」
「なっ!」
「マルソー男爵家に嫁いだからといっても血の繋がりのないお前は子供達よりも格下だ。
役に立たない分、使用人達よりも格下と言ってもいい。
だが不自由の無い生活をさせてやるんだ。感謝して欲しいくらいだな」
「だったら縁談など申し込まなければいいじゃない!」
「申し込んでいない。申し込まれたんだよ」
「え?」
「お前、あの方の機嫌を損ねたな?
高貴なお方が後妻に使ってくれと言ってきた。娶った後は好きにしていいと言われたから恩を売るために娶っただけだ。子爵からも打診があったからな」
「何のこと?」
バシッ!
「痛っ!」
「子爵家では敬語を習わないのか?」
「叩いたわね!」
「貴族や当主というものを理解していないようだな。
随分と甘やかされて育ったようだ」
「お兄様に、」
「今すぐ離縁しても構わないぞ?
次の嫁ぎ先は平民の家だろうな。
商家なら働けと言われるだろう」
「っ!」
「はぁ。バロウ伯爵が羨ましいよ。
賢くて美しくて可愛らしくて多くの後ろ盾を持つ公女と婚約できて」
「え?」
「王宮行事で会ったが、知識も豊富で宰相補佐官は縁故でもお飾りでもないことが分かった。
男爵の私に対してもしっかりと腰を落として洗練されたカーテシーをしてくれた。
その後も、マルソーに有益な情報をくれたよ。
貴族の仮面など付けておらず笑顔が可愛かった。
バロウ伯爵が溺愛するわけだ。
あの触れ方からすると、既に夜をともにしているのだろう。
皆の前で浮気をしないと宣言して求婚していた。
女を使い捨てていた あの伯爵がそう宣言するなら 閨事も素晴らしいのだろうな」
あの女!やっぱりフェリシアン様を狙っていたんじゃない!
「みんな騙されて!」
「哀れだな。
出て行く時は離縁届に署名してからにしてくれ」
そう言って男爵は机から無記名の離縁届を取り出して私に渡した。
お兄様に手紙を出した。
お兄様ではなく、お父様が訪ねて来た。
「離縁は許さない」
「え!?」
「離縁するなら縁を切る。平民として自力で生きていけ」
「お父様!?」
「行動制限くらい何だ。厳しい家門なら普通にあり得る話だ。難ありのお前を引き取ってくれたのだから感謝して大人しくしろ!」
「そんな!」
優しかったお父様まで変わってしまった。
お父様は男爵に詫びを入れて帰ってしまった。
その夜、あの部屋に呼ばれて待っていると、男爵と義息子のロビンとトニーがやってきた。
「今日から二人にお前を解放する」
「は?」
「もうお前を抱く気がしない。
せめて息子達の閨の練習台として生きていけ。
息子達が求めたら朝でも昼でも応じるように」
「私は妻でこの子達の義母ですわ!」
「血に繋がりは無い。
抵抗すれば、息子達がお前を躾けるだけだ。
閨の拒否は大罪だからな」
「いや!」
「父上」
トニーが男爵に甘えるように“父上”と言うと、男爵とロビンは私をベッドに縛り付けた。
「トニー。これで大丈夫だ。好きにしていい。
ロビン。しっかりとトニーに教えてやれ」
「はい、父上」
ロビンは服を全部脱ぐと潤滑油を垂らしただけで挿入した。
「いっ!」
少し痛かった。まだ子供のせいか男爵よりは小ぶりだった。
腰を数回振ると直ぐに果ててしまった。
次男が退くと長男が挿入してきた。
「……サラの方がいいな」
え?
二度吐精した後、もう一度次男が挿入して二人は出て行った。
入室したメイドは縛られて、精液を溢れさせている私を見て哀れむ顔をした。
体を拭き、紐を解きながら話をしてくれた。
「後妻は奥様で三人目です。旦那様は飽きるとご子息に解放なさいます。
大人しくなされば飢えることなく生きていけます。
寒さに震えて冬を越すこともございません。
抵抗しなければ殴られたりはしません。
帰る家が無ければ抵抗をせず、ご子息達のお相手をなさってください」
「以前の後妻は?」
「一人目は自殺をなさいました。二人目はルールを守らなかったので使用人に下げ渡されました」
「え?」
「離縁して、庭師の妻に」
「!!」
翌日の昼前には。
「継母様」
振り向くとトニーが立っていた。
「どうされましたか?」
「部屋に行こうよ」
「え?」
専属メイドが閨事の部屋に誘導した。
部屋に入るとトラウザーズから陰険を取り出したトニーが振っていた。
「早く!」
「え?」
「いい歳して分からないの?口でしてよ」
「ふざけないで!」
「僕にそんな口をきいていいの?」
「冗談じゃないわ!」
「仕方ない。兄様を呼んで」
「かしこまりました」
トニー付きのメイドが退室した。
「失点だね」
「え?」
どういう意味か直ぐに分かった。
「止めて!」
「敬語はどうした?」
「止めてください…」
「弟を悲しませた報いを受けさせているだけだ」
平手打ち10発が終わった後は、口の中にアレを押し込まれた。
喉を突かれ吐き気が襲う。
「いいか?噛んだら歯を抜くぞ」
そのまま頭を掴まれて喉で擦り上げた後に吐精された。ロビンの腹に顔が埋まるほど奥まで押し込まれていた。
息ができず失神寸前でズルッと長い陰茎が抜かれた。
「オエッ!ゲホッ!ゲホッ!」
「次はトニーを拒否するな。分かったな」
「ううっ…」
その日からロビンとトニーの性奴隷になった。彼らが飽きるまで。
もうすぐ二年になろうとした頃、サラは嫁いで行き、私は解放された。
男爵の愛人が息子二人に下げ渡されたことと、末妹マリアが成人したのでロビンとトニーがマリアを使い始めたからだった。
大人しく過ごしていたが、ある知らせをもらった。
“フェリシアンと公女の婚姻式が半年後にある”と。
私はこんな目に遭っているのに…。
ミレニア義姉様に手紙を送り、招待状を貰えた。
婚姻式ではなく、パーティだった。
私と夫とロビンの三名で出席した。
場所は王都のヴェリテ邸。
宿泊先は王都の高級ホテル。招待客はヴェリテ負担だった。
考えられないくらいに広くて豪華なお屋敷だった。
そして高貴な方ばかり。王族までいた。
フェリシアンと妻になったシェイナが招待客に挨拶にまわっていた。
フェリシアン様の嬉しそうな顔……見たことがなかった。
「マルソー男爵、久しぶりだな」
「マルソー男爵、夫人、ロビン様。ご出席いただきありがとうございます」
「バロウ伯爵。おめでとうございます。
バロウ夫人。相変わらずお美しい上に気品に溢れておられますな」
「マルソー男爵こそ、髪型をお変えになりましたか?お似合いですわ」
「夫人が短い方が良いと仰いましたので」
「男爵の笑顔は魅力的ですから、髪で隠してしまうのはもったいないと思いましたの。
フェリシアンもそう思わない?」
「確かに。
だが 妻の視線を奪うなんて妬いてしまいそうだ」
「美しくて賢くて向上心を忘れない高貴な方を夫人に迎えることができる伯爵が羨ましくて仕方ありませんが、命が惜しいので奥方のファンということで許していただきたいです」
「それは仕方ないな」
「ファンだなんて…」
見たこともない笑顔であの女と話す男爵と、頬を染めてあの女から目を離さないロビン。
「素敵なお祝いをありがとう。大喜びだったよ」
「きっとお二人は貴重な品や高価な品をお祝いに贈られているだろうと思いましたので、私は以前にお話しに出てきた かなり大きな愛犬の物を贈ることにしました。
喜んでいただけたのなら良かったです」
「父上、何を贈ったのですか?」
「愛犬用の台車だよ。
散歩が好きじゃないらしいから、乗せてワゴンのように押せば抱き上げるより簡単に移動させられる」
「そんなに大きいのですか?」
「ロビン殿、向こうの端に座っている二匹のうち、白っぽい方がシヴァだ」
「え!?あれ、置物だと思いました!
だって、側にいる私兵と比較したら……大き過ぎますよ」
そんな話をしていると、見つけてしまった。
彼女の首筋にキスマークが。
私が妻になるはずだった。そのキスマークは私が付けてもらうはずだった!
「グルルルルル」
気が付いたら大きな犬が私の側にいて牙を剥いていた。公爵夫妻とフェリシアンと悪女が犬を抑えていた。
「マルソー男爵、ご夫妻はホテルへご案内しましょう」
「ノワール公爵閣下」
「どうやら奥方はシェイナに殺気を向けたようだ。
この犬達はヴェリテ夫人とシェイナに向けられた殺気に反応する護衛犬なんだ」
「大変失礼いたしました。妻をお願いします」
「旦那様!?」
「さあ、ホテルへ送らせよう」
馬車に乗せられてホテルへ向かう中、同乗した男の顔に驚いた。
「あ、貴方!」
「以前、バロウ城で会ったな」
あの悪女が連れていた美男子だった。
「もう、王都と辺境伯領に近付くな」
「は?何でそんなことを言われなくちゃならないの!」
「次は確実に排除するぞ」
「え?」
「死ぬぞと警告しているんだ」
「一体何なのよ!」
「ちゃんと伝えたからな」
その数時間後、パーティからホテルに戻って来た夫に殴られた。
夫「恥をかかせやがって!」
ロ「あんな可憐な女性に嫉妬か?図々しい」
夫「戻ったら離縁だ」
私「離縁?」
夫「町までは送ってやるから好きな場所に行け」
私「そんな!」
屋敷に戻ると無理矢理署名させられて、荷物を鞄に詰められて町に置き去りにされた。
「誰か!荷物を運んでくださる?」
沢山の小汚い子達が運んでくれるために集まったと思ったのに、鞄を持って散って行った。
「待って!泥棒!」
「あんた、馬鹿だねぇ」
通り掛かりの老婆に呆れられた。
貸し切り馬車にギュエル邸までと頼むが、代金前払いができないと乗せないと言われた。
仕方なく身に付けていたイヤリングを売って宿を取った。こんな庶民宿に泊まらなくてはならないだなんて!
そしてお兄様に手紙を送ったが、“迎えに行かない”と返事が返ってきた。
また顔を見れば気が変わるはずと、辻馬車を沢山乗り換えてギュエル邸に到着した。
「私よ!妹のサーシャよ!」
「子爵様に妹はおりません」
門番が入れてくれない。だけど行き場がない。
しばらくしてお兄様が出てきた。
「お兄様!」
「子爵様と呼んでくれ」
「お兄様?」
「マルソー男爵家から籍を抜き、その後父上がギュエル家に籍を戻すことをお許しにならなかった。
パーティにどれだけの高貴な方々が集まっていたと思っているんだ!
王太子殿下が溺愛する従妹に殺気を向けたお前に対する抗議の手紙が届いたのだぞ!」
「何もしていないじゃない!」
「うちを没落させるつもりか?」
「違います!」
「とにかく、もうどうにもならない。親族会議で決まったことだ。立ち去れ」
「お兄様!!」
小さな巾着袋を渡された。
「手切れ金だ」
「お兄様!!」
そう言って屋敷の中へ戻って行ってしまった。
町でお兄様達の気が変わるのを待ったけどダメだった。一年保たずにお金が尽きてきた。
こうなったら平民でも仕方ないと結婚相手を探し始めた。
声を掛けられて一晩を共にした。
「は?結婚!?」
「だって抱いたじゃない」
「そんなセリフが言えるのは貴族か生娘くらいだよ。
俺には妻がいる。今妊娠してるから外に女を求めただけだ。
勘違いしないでくれよ」
かといって、話だけでは相手にされない。
何人目かのおじさんに言われた。
「そりゃ妻にするなら若い女の方がいいさ。
宿暮らしの年増なんてヤるだけしか価値がないだろう。
死にそうな爺さんでも引っ掛けるんだな」
よく見ると、どの男達も若い女の子には笑顔で話をしていて、直ぐにベッドに…なんて様子は無い。
「ちょっといいか」
身なりの良い男が話しかけてきた。
店を出て少し歩くと路地に連れ込まれて殴られた。
「何 商売の邪魔をしてくれてんだよ!
お前みたいな無料娼婦がいたら、町の娼婦の売上が落ちるだろう!」
「私は結婚相手を探してるのよ!」
「他所でやれ!次に見かけたら顔に傷を付けるからな!」
その後、徒歩と馬車を使ってバロウ城へ辿り着いた。
城門にフェリシアン様が出てきてくれた。
「フェリシアン様、妾でもいいから置いてください!」
「誰だ」
「サーシャです!」
「サーシャ!?
……無理だ。領地から出て行ってくれ」
「フェリシアン様!」
「伯爵と呼ぶように。
早く去れ。妻が不快に思う」
「あの女は、フェリシアン様に興味がないと言ったのに!私のフェリシアン様を横取りして!!」
「そうだ。シェイナは俺に興味が無かった。
俺が彼女の心を軟化させて、恩を売って婚姻を承諾させた。
シェイナは俺の策略に気付かずに妻になっただけだ」
「フェリシアン様!」
「早く帰らないと命を取るぞ」
フェリシアン様は城内へ戻ってしまったけど、諦めたくなかった。
夜になり、大声で騒いだ。
場内に入れるしかないと思わせたかったのに…
「どお…して」
胸に剣を突き立てられた。
「シェイナは俺の子を孕っているんだ。まだ初期で不安定なのに、こんな騒動が耳に入れば流れてしまう」
「フェリシアン様…」
フェリシアン様が私を刺したのだ。
「俺はシェイナを守ると誓ったんだ」
剣が抜かれると血が溢れ出た。
「事切れたら捨ててきてくれ。血の跡が無いよう綺麗に頼む」
「かしこまりました」
「助けて……」
フェリシアン様が立ち去っていく姿を見つめながら地に倒れた。
ずっと愛してきたのに。
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