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妾の選定

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【 クリス王太子の視点 】


午後の仕事のため、フィロに連れられて執務室へ向かうシェイナを見送った。。

その後、エリオットはクリスの執務室の中にある談話室にいた。

「兄上、シェイナと距離が近過ぎますよ」

「誰もが従妹いもうとだと知っている」

「義姉上は不快に思いませんか?」

「何故思う。彼女よりシェイナの方が高貴な身分だし、私の血縁だぞ?

例え従妹でなくても関係ない。
他の女を愛でようが気にかけようが受け入れるのが王族の妻の務めだ。そうだろう?」

「兄上はシェイナ以外の女には非情ですね」

「私にとって価値がある女はシェイナだけ。
私を振り回せるのもシェイナだけだ。

それは私のせいではない。価値を示せない他の女共のせいだと思わないか?」

「……」

「子供の頃から女の欲をぶつけられて辟易しているんだ。


11歳になる前日に何が起こったか知っているか?

朝、精通していた。
それを知った専属メイドが夜中に寝ていた私の上に裸で跨り、扱いて勃たせて挿入しようとしていたんだ。

子種を胎に注がせて孕めば、良くて王子妃、悪くても妾だ。寵愛は受けられなくともメイドの生活より夢のような生活を送れるからな。


それから夜這いは時々起こった。

ある夜は目覚めるとメイドが咥えていたし、
ある夜は睡眠薬を盛られて襲われていた。
巡回の警備が気が付いて捕らえた。

成人間近になると媚薬を盛られたことも何度かあった。
その頃には大きな音の鳴る笛を首から下げていて、体に異変を感じると吹いた。

媚薬を盛った犯人を捕らえると同時に、監視下の元で避妊薬を飲ませた女が奉仕しに来た。
まるで観客のいる強姦だ。心は無いのに体がいうことをきかない。薬が切れるまで続く。

社交や学園では欲深いが言い寄ってくるし、他国の王女や貴族令嬢も言い寄って来た。

失敗すると親に泣きついて、馬鹿な親が抗議してくる。追い払い慣れたけどな。

婚約者選定の時は王子妃への欲と権力の誇示で醜悪な蹴落とし合いが始まった。

私が純粋なシェイナに傾倒するのは必然だろう?癒されたいと思うことは贅沢か?」

「父上は何と?」

「世継ぎのために一人以上娶らすことに謝られたよ。
嫌でも孕むまで何度も注がねばならない。

いっそのこと、搾精して注入器で注ごうかと思ったが、瑕疵の無い妃には駄目だと言われた」

「……」

「四日前に産まれたのはまた女児だ。第二妃の催促が出る前に先手を打って妾を迎える。

条件はただ子を産むだけだと弁えること、処女であること、契約中は他の男を受け入れたり薬物摂取やアルコールの過剰摂取をしないこと、初夜以外は注入器を使う事を受け入れること、三年の間に孕まなければ契約解除、五年以内に男児を産まなければ慰労金を受け取り契約解除、そして秘密の厳守だ」

「そんな条件を令嬢が承諾するのですか!?」

「したよ。既に二人決まっていて、署名も済んだ。今月末に後宮に入れて膜が付いているか検診をする。
その後、そのまま後宮で1ヶ月監視下置いて月のモノが来ることを確認する。
それが済めば初夜を迎えて多額の結納金を女の実家に支払う」

「いつの間に」

「王太子妃の第一子が女児だった時点で家門の調査を始めた。

後継ぎではない令嬢がいて、三親等まで罪人や継承疾患者が居らず、二親等まで素行調査をした。

そして金か物資の支援を必要としている家門。

令嬢自身が健康で処女。見目は普通以上。
性格が極端に悪い者は除外した。

出産1ヶ月前には再調査をして、出産した日に打診に行かせた。

一軒目は断られたが、二軒目、三軒目で署名を貰った」

「義姉上は?」

「男児が産まれなければ二人目、三人目を娶ることは承知だ。
迅速に動いたが第二妃を防ぐ為だと分かれば安堵するだろう。妾なら脅かされないからな」

「なるほど。

しかし、シェイナを振るなんてどんな男ですかね」

「さっきの話からすると昔から知っている歳上の男らしいな」

「引き篭もっていたのに?領民ですか使用人ですかね」

「シェイナには可哀想だが、お陰でシェイナと過ごせそうだ」

「兄上……」

「騎士学校の実習先のリストだ」

「取り寄せたのですか!?」

「王家の血筋が通っているからと言ったらくれた。ストラの行き先はテステュータル子爵家だ」

「シェイナが揉めていた辺境伯の隣りですね」

「ここにシェイナと行こうかと思っている」

「はい?」

「良くない噂があってな。時々王太子の力を示さなくてはならないから行くことにした。
公務だとシェイナは見習いだから難しい。

だが、私の従妹が実兄が恋しくて行きたがったから、保護者として連れて来たとなれば警戒が緩くなる。
視察がついでだと言えばいい」

「危険は無いのですか?」

「無いとは言えないな。
でも、今王都に残していくよりいい」

「ヴェリテに預ければ」

公爵叔父上とギクシャクしているんだ。これ以上拗れたら大変だ。途中ヴェリテを通るからシヴァを預けようと思う」

「反対なさると思いますよ。愛娘の長い帰省が立ち寄りで終わるのですから」

「試してみて、駄目なら諦めるよ」



その後、ヴェリテ領の叔父上に手紙を出した。

“シェイナには王都でもヴェリテでも無い場所で過ごしてみることが大事です。
今のままでは突然消えてしまうでしょう”

返事は、

“手練れを付けてくれ”


そこでシェイナを昼に呼び出した。
客間に食事を用意した。

「お話しとは何でしょうか」

テステュータル子爵領のこととストラのことを話すと着いていくと承諾を得た。

「それで、ノワールの工作員を借りようと思うのだが」

ビクッ

シェイナの表情が曇った。今の問題はノワールだったのか?

「シェイナの休暇ということにするなら、王宮騎士では無い方がいいと思うんだ。だがノワールが嫌なら王宮騎士から選出しよう」

「シヴァは連れていけないんですよね」

「犬連れで他領に押しかけるなら宿に泊まらねばならない。そうなるともっと護衛が必要だし、シヴァと一緒に寝ていいと言ってくれる宿があるか分からない。外の何処かに繋がれるか、良くて厩舎の何処かだろう。

ジェイクとザナンを連れて行くか?」

「彼らは家族のために内勤希望を出しているのですから巻き込めません。
特に警護は必要ありませんわ」

「手練れを就けるのが同行の条件だから駄目なんだ」

「どうしてもノワールから頼むのであれば、ノワール公爵籍とデュケット子爵籍の者意外でお願いしてください」

「分かった」



【 セヴリアンの視点 】


俺宛にシェイナから、当主宛に王太子殿下から手紙が届いた。

ローエン様が不在なので父上が手紙を開封した。

「……護衛依頼だ。辺境付近のテステュータル子爵家へ行くためらしい」

「何故うちへ?」

「シェイナの護衛だ」

慌ててシェイナからの手紙を読んだ。

“セヴリアン・デュケット様

来週からの休暇は純粋な休暇ではなくなりました。ヴェリテで過ごせません。
申し訳ございませんが、ヴェリテ行きは無かったことにしてくださいませ。

シェイナ・ヴェリテ”


は? 何故だ……

「ノワールとデュケットに籍を置いていない者と指定がある。これではキースもセヴリアンも派遣出来ないな。

ローエンがいたら騒いだだろうな」

この時、ローエンはノワール領にいた。

ベアトリスを処刑して、タイラー達も適性なしだったため、一先ず妾を入れ替えて子を成すことにしたのだ。

「何故私では駄目なのですか」

「さあな」


その日の夜、アコールに行ったが反応が無かった。居留守か、帰っていないのか。

三日目に父に聞いたらヴェリテ邸から通っているらしい。

流石にヴェリテ邸に忍び込むわけにはいかないので、日曜に手伝いに来るのを待っていたが、トビが忙しそうに答えた。

「閣下が不在ですのでお休みです」

クソッ!

避けられている予感がして苛立っていた。

そこにトビが決定的なことを口に出した。

「小切手が落ちていないんですよね」

「何の支払いだ」

「天使シリーズの買い物です」

デュケット邸に行って確認すると、

「天使の衣と天使の微笑みからはございません」

店に遣いを出すと、

「シェイナ様が支払われたそうです」

ノワール邸に戻り、調査部門に近々のシェイナの金の流れを追わせた。

「シェイナ様は宝石を売りに出されて資金になさったようです。
既に決済の済んだ小切手の分は、ノワール領に寄付をなさっています。閣下が知るのは遅くて来月かと」

清算して、ノワールと距離を置くつもりだ!

「それはいつのことだ」

「土曜日です」

「ありがとう」

「…失礼します」


父上に報告に行くと、

「何か気に障ったのだな。ローエンが冷静に対処できればいいのだが」

アコールの帳簿付けはやっているようだ。
しかも土曜日は一緒に食事をしたらしい。

一体何が起きているんだ……








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