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教材 (注)残虐な表現あり

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【 フェリシアンの視点 】



シェイナは仕事に出かけたようだ。
窓から馬車に乗るシェイナを見送った。 
公爵まで乗り込んだ。送り迎えをしているようだ。

昼食まで暇なので鍛錬の申し出をしたが、どの男も精鋭だった。

流石に気が抜けない鍛錬に疲れてしまった。 

昼食後に元公爵夫人を見に行った。

首から下は土に埋まり、開口器で口を開けさせられ、瞼を糸で縫い付けられて半分しか閉じることができない。
今朝方、蜂蜜を塗って放置していた。
 
鉄製の網目カゴを被せてあった。 
まるで鳥籠だ。

シェイナとのことを聞いたのか、殺気を宿したセヴリアンというデュケット子爵の養子になっている男が説明してくれた。

「獣や猛禽類や蛇やネズミなどの小動物にやられては困りますからね。虫だけが入れるようにしてあります」

覗くと、涙と鼻水と涎と血と蜜で塗れた女に様々な虫がついていた。

蜜に足を取られて死んだ虫もいるが、それがさらに餌となっているようだ。

「ゲボッ ゲボッ オエッ」

時折、咳をする。

口や喉に入り込んだ虫を出そうとしているようだ。そして喉に入り込んだ虫が刺激して嘔吐く。

「あ~、あ~」

何言ってるか分からないが助けを求めているのだろう。

「辺境伯、少し下がってください」

そう言うと、スラックスのボタンを外し、イチモツを取り出した。

「あ?」

女も気が付いたようだ。

セヴリアンは女の後ろに回ると後頭部に向けて排尿しだした。

ビチャビチャビチャビチャ

「ん~!! ん~!!」

出し切ると振って下着の中におさめた。

「これでもう少し虫の付きが早まるはず。
これでも遅ければ汲み取った糞尿をかけないと」

そこまでするのかと驚いた。
しかも目の前で。

この男は子爵や公爵よりもヤバい奴かもしれない。

「辺境伯が滞在している内に、頭部に産み付けられたハエの卵が孵ってウジが頭部を蠢く姿が見せられるといいんですがね。

少し髪の毛剃らせれば良かったですね。
頭皮を破る様がよく見れたのに。失敗しました」

「オエッ! オエーッ!!」

女が泣きながら嘔吐きだした。

「煩いな」

近くから大きめの葉っぱを取ってきて、葉っぱ越しに耳を掴むとナイフを取り出して片耳を削いだ。

「あああああ゛」

葉っぱと耳を捨ててナイフを地面に突き刺した。

「また、夕方ですね」


とんでもない現場に来てしまった。
こうするように教育されているのか、それともこの男が元から残忍なのか。





【 セヴリアンの視点 】



セヴリアンは昼食後に、辺境伯にに誘った後、イスマエルとローエンに報告した。

「後頭部に尿を掛けて片耳を削ぎましたが、流石辺境伯ですね。顔色も表情も変えず、昼食を吐くこともありませんでした」

「あまり早く死なせるなよ」

「辺境伯に早く逃げ帰って欲しいだけです」

「シェイナが心配なのは分かるが、時間という恐怖も部下やバロウ伯爵に見せなくてはならない。せっかくの教材を無駄にするな」

「はい、父上」

「セヴリアン。シェイナに護身術を復習させろ」

「護身術?」

「シェイナがあいつの鳩尾に正拳を喰らわせて、怯んだところに喉を目掛けて手刀を入れた。王太子殿下の誕生パーティの会場のダンスホールでだぞ?」

「ハハッ、やっぱりミラですね」

「まあ、手加減したのだろうが、あいつはシェイナを掴んだ手を離さなかった。

あいつに腕を掴まれて反応して拳を入れたはいいが、シェイナの体は一切訓練などしていない。だから威力が弱いんだ。まあ、あれでも普通の男なら手を離しただろうがな。

だからお前が見てやれ。シェイナの好きな時間に少しだけだぞ。あくまても今は華奢な令嬢なんだ。分かったな」

ニヤッ

「ちょっと待て。今のは何だ」

「いえ。ちょっと頬が痒かっただけです」

「……シェイナに確認するからな?
あと、茂みに近付けるなよ。昔のミラなら大丈夫だが、今は分からないからな」

「近付けさせません」





【 イスマエルの視点 】


セヴリアンが下がった後、イスマエルはローエンに問いかけた。

「トビはどうする」

「シェイナがミラの記憶があって、トビを覚えているかによります」

「もし、告げることができたとして、それがトビにとって良い方に向かうのかどうか」

「分かりませんね」





【 ナディスの視点 】


ティータイム後にノワール邸を訪ねた。

「公爵、助かったよ。
無事に婚約破棄ができた。

やはり、彼女は当主の子ではなかった。
流石に当主がいいと言わないと駄目だよね。うちもそういうの敏感だからね。

私と彼女じゃ、もう他人が継いじゃう感じだからね」

「おめでとうございますでよろしいのですか」

「娘は可哀想なんだけどね。身を寄せる先があるといいけど。

公爵の言っていた貴族に連絡を取りたいから帰るよ。

感謝しているんだ。本当に。

だけどシェイナは欲しい。
まずは兄をなんとかしてからだよね。
それまで独身でいてくれたらいいけど。
目処がついたら婚約の申し込みをしたいな」

「さあ、どうでしょう。手助けする代わりに政略結婚を条件に出されるかもしれませんよ」

「まさか……」

「いつ発つのですか?」

「明朝だ。
今日の昼はシェイナと食べたよ。 
王子が二人もくっついてきたけどね。
クリス王太子殿下の方はまさに溺愛だった」

「……」

「公爵、送別会の意味を込めて夕食に誘ってくれないの?」

「今夜シェイナを口説かないと約束してくれたらいいですよ」

「分かったよ」

「今、客人が滞在していて、朝昼夕に罪人の観察をさせていますが同行しますか?いい機会ですよ」

「罪人?何やってるの?」

「シェイナを襲わせようとした女を罰しながら教材にしています。まだ1日半しか経っていません」

「面白そうだね。見せてよ」

何故私は話に乗ってしまったのか。
バカだった。



15分ほど待つと。

「なんで彼がいるの?」

客人とはあの辺境伯だった。

「伯爵も被害にあうところだったんです。

こちらはボルデン公子。彼はセヴリアンといって一つの部門を任せています。

セヴリアンがお二人をご案内しますので付いて行ってください」



屋敷の裏に木々が生い茂る場所があった。
灯りを持った男と、ジョウロとバケツを小さな台車に乗せた部下らしき男が待っていた。

茂みを進む途中、辺境伯に話しかけられた。

「公子、戦争の経験がおありですか」

「ないな」

「拷問の経験は、」

「無いよ。何の心配?」

「いえ、大丈夫ならいいんです」


セヴリアンが立ち止まると三人とも手袋をはめだした。

セヴリアンが屈んで鳥籠のようなものを手に取った。

セ「キース、灯りをくれ」

男が灯りを近付ける。

セ「窒息しかけてる。薬をくれ」

セヴリアンが足元にある何かの後ろにまわった。

ナ「人!?」

辺「首から下を埋めたんです」

ナ「どうなってる」

辺「蜂蜜を塗って虫を寄せているのです」

セヴリアンが注射器で鼻らしきところに何かを注入するとすぐに頭がもがき始めた。

次に布で首辺りを拭うと別の注射器を刺した。

段々と揺れがおおきくなった。

セヴリアンが前髪を掴み引くと顔が上を向いた。

セ「ジョセフ、水」

ジョウロを持ち、男が口に目掛けて水を注ぎ始めた。

ゴボコボコボゴボ

水で薄まった血と、大量の虫が口から出てきた。生きている虫もいれば死んでいる虫もいた。

そのうち罪人が嘔吐いて自力で吐き出し始めた。

「オエエエエエッ」

辺「窒息しかけて意識が混濁していたから覚醒させて誘吐剤を使ってから水を流し込んでいます。

多分、強い虫が胃壁に食らいついているんじゃないですか」

鼻からムカデが出てきた。

ナ「一体、何者なんだ。ここまでせずとも首を刎ねればいいのに……」

ジョボジョボジョボ……

また水を注ぎだした。

そして吐く。

「オエエエエエッ」

辺「です。
あの女はノワール家の掟を破りました」

ナ「身内か?」

辺「公爵夫人です。もう、元ですが」

ナ「公爵夫人!?」

信じられない。妻だった女にここまでやるのか。

セ「ボルデン公子、この女はノワール家の掟に従うと誓って嫁いできました。
厳しい制裁をして、裏切ったり掟を破ればどうなるか部下達に教育しているんです。

首を刎ねる方が楽ですが苦しみが一瞬で済むならと思うも者もいますからね。

同時に拷問の方法を伝授できます」

セヴリアンが開口器を外した。

セ「何か言いたいことはあるか?」

女「殺して……オエッ……お願い…今すぐ殺してください」

何度か嘔吐させるとまた開口器を装着した。

こんなにも入っていたのかと驚くほどの虫が吐き出された。

セ「俺、慈悲って持ってないんだよ。
お前が狙った相手がシェイナじゃなければ一応公爵に確認したかもしれないが無理だ。

シェイナだけは狙っちゃ駄目だったんだよ」

ナ「この拷問を公爵は知っているのか」

セ「公爵が指定した拷問方法ですからご安心ください。

さあ、また翌朝に見にきましょう。
朝になったら蜂蜜塗り直さなきゃ」

手袋を外すとバケツの水で洗いハンカチで拭いたセヴリアンは笑顔だった。

セ「さあ、食事にしましょうか」

ナ「悪いが帰ると伝えてくれ」

セ「キース、ご案内してさしあげろ」

キ「かしこまりました」


あんなの見た後に食えるか!

辺境伯は残るということは、あれを見ても平気なのか。






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