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事件の調査報告

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解放されたのは三時間後だった。
その後、噂を聞きつけてエリオット兄様(第二王子)まで加わってしまったからだ。

職場に戻って仕事をした。



定時になり、帰ろうとした時に宰相に廊下で引き止められた。

「ボルデン公子がシェイナも今夜の晩餐に誘いたいと仰っているのだが」

「残念ですが先約がございます。
それに犬を預けていて引き取りに行かねばなりません」

「そうか。気を付けて帰ってくれ」

「お先に失礼します」



馬車乗り場へ行くとノワール家の馬車が待っていた。
公爵が降りて手を差し伸べてくれた。

中には荷物とシヴァも一緒だ。

「送ってくださりありがとうございます」

「シヴァはお利口だったよ。執務室で私の側で大人しくしていた。手触りもいいし離れたくないくらいだ」

「お散歩できれば張り合いがあるのでしょうけど、嫌がりますから」

「充分癒される。
またシヴァを泊まりに連れてきてくれないか。明日からシヴァがいなくて執務室が寂しく感じるだろう」

「ご迷惑になってしまいます。変な噂がたってしまうかも知れません」

「他の屋敷と離れているし、犬連れでそんなことは思わないよ」

「公爵夫人は、」

「やましくなど無いだろう?」

「はい 」

「体調が優れない時も連絡をくれ。
自立と孤立は違うからな。これは助け合いだ。私もシェイナにお願いするかも知れない」

「分かりましたわ」



アコールの前に着くとローエンはシヴァを抱っこして馬車から降り、そのまま二階へ上がった。

「シェイナ、夕食を屋敷から持ってきたから一緒に食べよう」

「嬉しいです!」

「持って来るから待っていてくれ」

「手伝います」

「ここにいてくれ。支度ができる者を連れてきているから大丈夫だ」

見習料理人を一人連れてきていたようだ。
シヴァの分まで用意してもらった。

「帰ってきて何もせずに食事ができるなんて贅沢なことだと実感します」

「寂しいんじゃないのか」

「少し。でもシヴァがいてくれるので。
時々叔父様が食事に誘ってくださいますし」

「叔父様って父のこと?」

「はい 」

「そうなんだね」



食事が終わり別れ際に。

「王太子殿下のパーティだけどノワール邸うちで支度しない?」

「ドレスが実家にありますので実家に行こうかと。両親も領地から来るでしょうし」

「そうか。ではヴェリテに迎えに行くよ」

「はい。ありがとうございます」

「おやすみ、シェイナ、シヴァ」

「おやすみなさいませ」





【 数日後のローエンの視点 】


「閣下、ご報告を申し上げます」

「キース、座ってくれ」

「失礼します。

事件は建国記念パーティの夜、個室の休憩室で起きています。

ヴェリテ公爵令嬢は会場で酔った者に酒をかけられて拭くために休憩室に入りました。
最初の目撃証言はここまでです。

次の目撃者は御者で、夜更けに王宮馬車が公爵邸に令嬢を送り届けています。

公爵令嬢が使った部屋の掃除を担当したメイドは口を噤んでいます。
頑なでしたので、かなり地位の高い者から口止めをされているようです。

その代わり、会場近くの休憩室の洗濯を担当した下女が証言しました。
客間のシーツとタオルに閨事の痕跡があり、血が付いていたそうです。血の付着はシーツとタオルそれぞれ一枚ずつです。鼻血などの出血ではなく情交中の破瓜の証が濃厚だと証言しました。

事件の翌朝、王宮の御者や門番に聞き込みをした ある貴族の従者がおりました。
辺境伯の従者でした。

そして、その後、辺境伯は翌朝に陛下と会っています。
さらに辺境伯は従者をヴェリテ邸に向かわせたようですが、不在だったようで城から出ていません」

「その辺境伯は誰だ」

「フェリシアン・バロウ伯爵です」

「フェリシアン・バロウの情報は?」

「昔、婚約者がいたようですが、令嬢が不貞の上、孕みました。最初は辺境伯…当時は子息でしたが、彼の子だと言い張ったので、周囲は、やるだけやって責任を取りたがらない男だと非難したようです。

ですが彼は静観し産まれるのを待ちました。
産まれた子は異国の肌色と赤い髪を持っていました。

多額の慰謝料を支払わせて破棄したそうです」

「何故誰も信じなかった」

「女遊びが盛んだったようで、婚約者と寝たことがないと言っても信じてもらえなかったようです。

破棄後は堂々と女遊びをしています。
後腐れなく孕ますこともなく、伯爵夫人の座を狙う者達にも分け隔てなく、その場限りの体の関係だと念押しをして事に及びます。

女達に聞いたところ、一晩の恋というものではなく、単なる欲の発散に寄ってくる女を使っているだけのようです。

破棄から8年近く経った今も」


シェイナは“事故”だと言っていた。

つまり、辺境伯はシェイナを言い寄って来た女と勘違いをしたということか。

あの手首を縛られて抵抗した痣は合意ではなく無理に奪った証拠だ。
よく解しもせず突き入れたのだろう。

時間的に一度では済まなかったはずだ。

痛みと屈辱を与えられてもシェイナミラがそのまま沈黙したのは……辺境を守る男が誤解して抱いたと知ったから見逃して屋敷に帰ったんだ。

「閣下…」

従者に探させて、国王陛下と会い、屋敷まで従者に先触れを出しに行かせた。
これが示すことは……

「閣下?」

抱いている間にシェイナを気に入ったんだ。

馬車の行き先がヴェリテ邸だと知って陛下に打ち明けた。

屋敷に先触れを出した後、動きがないということは、アコールの二階に住んでいることを知られてはいない。

だが、責任を取るという名目でシェイナを娶るつもりなんだ。

チャンスは王太子殿下の誕生パーティ。
そこで会えると思って無駄に動いていないということか。

「なかなか忍耐強く、賢い男だ」

婚約者の腹が膨らんでいく間、両親から親戚から相手の家門から、そして社交場で相当言われただろう。だが何ヶ月も静観した。

己と同じ色の男と寝ていたらどうするつもりだったのか。

異国の男だと知っていたのか?

何故女遊びを繰り返すほど性欲が強かったのに婚約者に手を出さなかったのか。

浮気を知っていて、元々破棄を狙っていた?

「閣下、始末しますか」

「シェイナが生かした命だ。今すぐバラバラに引き裂いて肉を潰して獣の餌にしてやりたいが……様子を見る。

キース。暗殺部門のお前に調査指揮を取らせたのには訳がある。
シェイナはノワール家にとって大事な人間だ。父上が見つけてきた。
いずれ話す時が来るだろう。
シェイナの事を血縁のお前に知っていて欲しかった。

ギルバートとモリスを呼んでくれ。
ありがとうキース、退がっていい」




ギルバートとモリスが入室すると二人に命じた。

「シェイナが辺境伯と揉めているようだ。
辺境伯が自領に帰るまでノワールで匿いたい。

一人住まいの住所を嗅ぎ当てられたら大変だ」

「お部屋のご用意をいたします。どちらがよろしいでしょうか」

「私の部屋の近くに」

「私はシェイナ様の身の回りのお品を揃えます。着替えも購入してかまいませんか」

「頼む。あまり華美過ぎないようにしてくれ。また、給料から払えないと気にしてしまう」

「かしこまりました」




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