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手首の痣
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【 ローエンの視点 】
応接室のソファに降ろすとローエンはしゃがみこんでシェイナの手のひらを見た。
「少し擦りむいたか」
「大丈夫です」
「脚とかは」
「本当に大丈夫です、ローエン様」
「捻ったりしてないか」
「はい 」
その時、袖口から手首の痣が見えた。
これは……
「シェイナ」
ローエンの声が低くなり、鋭い視線をシェイナに向けた。
「……この手首の痣は何だ」
「!! 」
「シェイナ」
「何でもありません」
「これは縛られて踠いてついたものだ」
「……」
「シェイナ、何があった」
「何も…ありません」
「そんな嘘を信じろと言うのか」
「そうです。何でもないのです」
「誰にやられた」
「ただの…事故で…」
「誰にやられたんだ!」
口を割らないシェイナに語気を強めた。
「もう止めて!!」
「っ!」
シェイナが泣き出してしまったのでそれ以上聞けなかった。
「すまなかった」
「ワン!ワン!グルルル……」
異変を察知したシヴァが扉の外で唸っている。
シェイナはドアを開けてシヴァを撫でた。
「何でもないのよ、シヴァ」
激しい怒りと胸の痛みに格闘しながら、シヴァを撫でていたシェイナを抱きしめて宥めた。
眠り薬を嗅がせ、眠りについたシェイナをソファに寝かせると執務室に戻り笛を鳴らす。
「トビ、シェイナはこの後戻れない」
ただならぬ主人の気配を察知したトビは返事だけに止めた。
「かしこまりました」
コンコンコンコン
「入れ」
「閣下、お呼びでしょうか」
「キース、一昨日の夜から今朝にかけてのシェイナ・ヴェリテの足取りを追わせてくれ。諜報に優秀な奴が空いていなければ他の部門でも構わない。
誰かが私のシェイナを襲って傷付けたようだ」
ローエンはカードに住所を書いた。
「彼女はここに住んでいる。一階はアコールだ。職は宰相補佐見習い。
父の王兄殿下は母ティーティアと共に王家の相談役。上の兄は宰相補佐で婿入り、下の兄は騎士学校の寄宿舎だ。
念のため、家族や親類、交友関係が犯人という説も念頭に調べてくれ。
デュケット子爵のお気に入りだ。分かるな」
「かしこまりました」
呼び鈴を鳴らすと執事が入ってきた。
ローエンはシェイナの荷物から鍵を取り出した。
「ギルバート、アコールの二階がシェイナの部屋だ。今日のような男物の上下とブラウス下着、王城への通行証があるはずだ。女の調査員に取りに行かせてくれ。
その時に手紙の類などを確認してきて欲しい。
これからシェイナを私室に運ぶ。信頼のおけるメイドを一人付けて欲しい」
「かしこまりました」
眠るシェイナを私室のベッドに運び、シヴァに任せて一階の応接間に戻った。
「ボルデン公子、お待たせして申し訳ございません」
「意外だったよ。公爵が取り乱すなんて。
彼女、何者?」
「アルバイトの子です。
依頼内容の続きをお伺いしましょう」
「今は彼女のことが聞きたい。
名前はなんていうの?素性は?」
「申し上げるつもりはございません」
「彼女の調査報告書をちょうだい。仕事の依頼として出すから」
「ボルデン公子、何のおつもりですか。
彼女のことは忘れてください」
「若くて可愛い子だよね。せっかく今日出会ったんだからもっと知りたいな」
「彼女だけは駄目です」
「それは公爵が決めることじゃないだろう」
「私が雇い、私の屋敷で、私が拘束している時間に起きたことは、私が判断することです」
「そう。益々気になるな……まあいいよ。
兄の素行調査だが、弱みを調べて欲しいんだ。
先に話した婚約者の素行調査の依頼だけど弱みも握ってきて欲しい」
「かしこまりました。では、兄君についてお聞かせください」
「名前はパトリック・ボルデン。私の5歳上だ。私の髪の色と同じで瞳は私の色より薄い。
学校を卒業した後は父上の補佐をしている。
木曜の夕方から姿を消し、夜の9時に戻る。
父上はここ数年 目眩いや虚脱感が増し、引退を考えている。
その症状が現れた辺りで木曜の外出が始まった気がする」
「誰か一緒に着いて行きますか」
「侍従のガイールがついて行く。その侍従が雇われたのも同じ時期だと思う」
「例えば侍従が姿を消す、といったことが起きてもかまいませんか」
「殺すのか」
「捕らえるとしたらそうなります」
「事故死を装えるなら」
「侍従は一人で外出することはありますか」
「規則性はないがあるな」
「では事故死ということで処理します。
令嬢の弱みについてですが、言うことを聞かせたいとか、令嬢の実家から何かを得たいということでよろしいですか」
「気が変わったら解消できるようにかな」
「ではその様にいたします」
「よろしく頼む」
ボルデン公子は金貨の詰まった小袋をテーブルに置いて立ち上がった。
「雇用関係と言ったよね。
つまりシェイナは公爵の恋人とか愛人ではないのだね」
「………」
「ノワール邸の外で会ったら遠慮しないよ。
私の自由だからね」
「ボルデン公子は婚約者が、」
「公爵は妻も子供もいるじゃないか」
「シェイナはノワール家にとって特別な子です」
「ノワール家に?公爵にとってだと感じたけど。
じゃあ、報告待ってるよ」
応接室のソファに降ろすとローエンはしゃがみこんでシェイナの手のひらを見た。
「少し擦りむいたか」
「大丈夫です」
「脚とかは」
「本当に大丈夫です、ローエン様」
「捻ったりしてないか」
「はい 」
その時、袖口から手首の痣が見えた。
これは……
「シェイナ」
ローエンの声が低くなり、鋭い視線をシェイナに向けた。
「……この手首の痣は何だ」
「!! 」
「シェイナ」
「何でもありません」
「これは縛られて踠いてついたものだ」
「……」
「シェイナ、何があった」
「何も…ありません」
「そんな嘘を信じろと言うのか」
「そうです。何でもないのです」
「誰にやられた」
「ただの…事故で…」
「誰にやられたんだ!」
口を割らないシェイナに語気を強めた。
「もう止めて!!」
「っ!」
シェイナが泣き出してしまったのでそれ以上聞けなかった。
「すまなかった」
「ワン!ワン!グルルル……」
異変を察知したシヴァが扉の外で唸っている。
シェイナはドアを開けてシヴァを撫でた。
「何でもないのよ、シヴァ」
激しい怒りと胸の痛みに格闘しながら、シヴァを撫でていたシェイナを抱きしめて宥めた。
眠り薬を嗅がせ、眠りについたシェイナをソファに寝かせると執務室に戻り笛を鳴らす。
「トビ、シェイナはこの後戻れない」
ただならぬ主人の気配を察知したトビは返事だけに止めた。
「かしこまりました」
コンコンコンコン
「入れ」
「閣下、お呼びでしょうか」
「キース、一昨日の夜から今朝にかけてのシェイナ・ヴェリテの足取りを追わせてくれ。諜報に優秀な奴が空いていなければ他の部門でも構わない。
誰かが私のシェイナを襲って傷付けたようだ」
ローエンはカードに住所を書いた。
「彼女はここに住んでいる。一階はアコールだ。職は宰相補佐見習い。
父の王兄殿下は母ティーティアと共に王家の相談役。上の兄は宰相補佐で婿入り、下の兄は騎士学校の寄宿舎だ。
念のため、家族や親類、交友関係が犯人という説も念頭に調べてくれ。
デュケット子爵のお気に入りだ。分かるな」
「かしこまりました」
呼び鈴を鳴らすと執事が入ってきた。
ローエンはシェイナの荷物から鍵を取り出した。
「ギルバート、アコールの二階がシェイナの部屋だ。今日のような男物の上下とブラウス下着、王城への通行証があるはずだ。女の調査員に取りに行かせてくれ。
その時に手紙の類などを確認してきて欲しい。
これからシェイナを私室に運ぶ。信頼のおけるメイドを一人付けて欲しい」
「かしこまりました」
眠るシェイナを私室のベッドに運び、シヴァに任せて一階の応接間に戻った。
「ボルデン公子、お待たせして申し訳ございません」
「意外だったよ。公爵が取り乱すなんて。
彼女、何者?」
「アルバイトの子です。
依頼内容の続きをお伺いしましょう」
「今は彼女のことが聞きたい。
名前はなんていうの?素性は?」
「申し上げるつもりはございません」
「彼女の調査報告書をちょうだい。仕事の依頼として出すから」
「ボルデン公子、何のおつもりですか。
彼女のことは忘れてください」
「若くて可愛い子だよね。せっかく今日出会ったんだからもっと知りたいな」
「彼女だけは駄目です」
「それは公爵が決めることじゃないだろう」
「私が雇い、私の屋敷で、私が拘束している時間に起きたことは、私が判断することです」
「そう。益々気になるな……まあいいよ。
兄の素行調査だが、弱みを調べて欲しいんだ。
先に話した婚約者の素行調査の依頼だけど弱みも握ってきて欲しい」
「かしこまりました。では、兄君についてお聞かせください」
「名前はパトリック・ボルデン。私の5歳上だ。私の髪の色と同じで瞳は私の色より薄い。
学校を卒業した後は父上の補佐をしている。
木曜の夕方から姿を消し、夜の9時に戻る。
父上はここ数年 目眩いや虚脱感が増し、引退を考えている。
その症状が現れた辺りで木曜の外出が始まった気がする」
「誰か一緒に着いて行きますか」
「侍従のガイールがついて行く。その侍従が雇われたのも同じ時期だと思う」
「例えば侍従が姿を消す、といったことが起きてもかまいませんか」
「殺すのか」
「捕らえるとしたらそうなります」
「事故死を装えるなら」
「侍従は一人で外出することはありますか」
「規則性はないがあるな」
「では事故死ということで処理します。
令嬢の弱みについてですが、言うことを聞かせたいとか、令嬢の実家から何かを得たいということでよろしいですか」
「気が変わったら解消できるようにかな」
「ではその様にいたします」
「よろしく頼む」
ボルデン公子は金貨の詰まった小袋をテーブルに置いて立ち上がった。
「雇用関係と言ったよね。
つまりシェイナは公爵の恋人とか愛人ではないのだね」
「………」
「ノワール邸の外で会ったら遠慮しないよ。
私の自由だからね」
「ボルデン公子は婚約者が、」
「公爵は妻も子供もいるじゃないか」
「シェイナはノワール家にとって特別な子です」
「ノワール家に?公爵にとってだと感じたけど。
じゃあ、報告待ってるよ」
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