10 / 84
休日の成人パーティ
しおりを挟む
【 ローエン・ノワール公爵の視点 】
やっと父上がミラの生まれ変わりと言ったシェイナに会う日がやってきた。
流石ヴェリテ公爵家。王都の一等地に広い敷地を持つ大きな屋敷だった。伯爵時代からここに構えていたという。
「ようこそお越しくださいました。
当主のセイン・ヴェリテです。ご無沙汰しております。
妻のティーティアと娘のシェイナです」
「ご無沙汰しております」
「ノワール公爵様、初めまして。長女のシェイナと申します。お会いできて光栄です」
「愛らしいお嬢さんだ。ローエンと呼んでくれ。父が世話になっているようで感謝している」
「私がデュケット子爵様にお世話になっています。明日からもっとお世話になる予定ですわ」
「近いうちにノワール邸にも遊びに来て欲しい。いいかな?」
「? はい」
スン スン
「この子達は?」
「大きい方がティーティアが子供の頃から飼っている犬でミスラと言います。
小さめのがシヴァです。
殺気に反応します。特にティーティアとシェイナに対しての殺気があると手がつけられません」
「どうなったのですか」
「屋敷の塀を越えたところで噛み殺しました」
「それは優秀な子ですね」
「さあ、中へどうぞ」
「シェイナ嬢、エスコートしてもらえるかな」
「喜んで」
内輪の成人パーティには王太子と第二王子、宰相のパラストラジル侯爵と娘夫婦、ウィルソン公爵家の面々と前ヴェリテ公爵夫妻という顔ぶれで、普通の貴族なら食べ物は喉を通らない程の緊張を強いられるだろう。
ひと通り歓談が終わると背後を取られた。
「ノワール公爵様」
振り向くとシェイナとシヴァが立っていた。
離れた父上を見ると口の端が上がっていた。
「シェイナ嬢、どうしたのかな?」
「デュケット子爵様の嫌いな食べ物は何ですか」
「父上は嫌いなものを悟られないようにしているから私でも分からない。シェイナ嬢になら教えてくれるかもしれない」
シェイナは父上の隣に座り尋問を始めたようだ。あの父上が嬉しそうに口を開けてシェイナの摘んだチョコレートを食べた。
シェイナも笑っている。
王太子と私と父上とシェイナで庭園を歩いているとシヴァが立ち上がった。
「グルルルッ」
「シヴァ、静かに」
シェイナは辺りを見渡すと王太子の短剣を奪い生垣に向かって投げた。
「グッ」
王太子の護衛騎士が王太子を囲み、ヴェリテ家の護衛が生垣から引き摺り出したのは王宮の騎士服を着た男だった。
だが、王宮騎士ではないようだ。
「叔父上、シェイナ、申し訳ありません。
私を狙った者のようです」
「ティアやシェイナではなさそうだな。シヴァが大人しくしているからな」
「シェイナ嬢だったらシヴァは」
「唸ったと思ったら誰よりも早く賊の元へ行き、頭を噛み砕くか肢体を引き千切ります」
「さっきはシェイナ嬢が命じていましたね」
「ほとんどティーティアとシェイナの言うことしか聞かず、特に攻撃し出したらティーティアとシェイナでないと止まらないのです」
「ヴェリテ公爵、店の二階にいつでも犬を連れてきてもかまいません。狭いですが」
「この子達は何故か散歩を嫌がる風呂好きなので寝床さえあれば大丈夫です」
「散歩を嫌がる犬ですか。一匹で留守番はできますかな?」
「大丈夫でしょう。シェイナの部屋で大人しく待っていますから」
「トイレは?」
「人間のトイレを使えます。賢いんですよ」
「では問題ありませんね」
「感謝します」
王太子達は刺客を連れ帰り、ウィルソン公爵家とパラストラジル侯爵家はヴェリテ公爵夫妻と話をして、私と父上はシェイナに屋敷の中を案内してもらいながら会話をした。
「私のことは叔父さんとでも呼んでくれ」
「叔父様ですか?」
「シェイナ」
「ローエン様、何でしょう」
「明日の夜、三人で夕食を食べないか。入居祝いをしよう。
必要な買い物は終わっているのか?」
「はい。完璧です」
ヴェリテ公爵邸を後にしてノワール邸に向かっていた。
「完全に生垣に身を潜めて姿が見えていなかったはずなのに、的確に足にナイフを投げ刺しましたね」
「ミラで間違いない」
「あの気配の消し方、ゾクッとしました。
あれ、犬なんですかね」
「さあ、何だかは分からないが最強の護衛だろう。まず裏切ることがないからな」
翌日は午後に買い物をしてティータイムに店舗を訪れた。父上に挨拶をしてそのまま上に行きノックをするとジャケットとトラウザーズ姿のシェイナが出てきた。
「シェイナ?」
「これ、仕事着なんです。オーダーしていた最後の服が届いたので念のため袖を通してみました」
「似合っているけど、あまりピッタリに作ると体のラインが出てしまうよ」
「 ? 」
「馬鹿な男には刺激的かもしれない」
「ええっ!」
特に腰回りなんか……小ぶりで形の良い尻の丸みが良く分かる。
これではどんな男も目がいってしまう。
「もっとゆとりを持たせるなり、ジャケットを長くしないと駄目だな。何着作ったのかな」
「まだ一着です」
「最後と言ったか?」
「はい。……はぁ」
「作り直せばいいだろう」
「けっこう費用かかったんです。
多分採寸からやり直して型起こしもするとなると……半年後……一年後ですね」
ヴェリテは富豪なのにか?
「ヴェリテ公爵が出してくれないのか」
「自立をする為に就職して態々部屋を借りているので、仕事服を買ってくれなんて言いません。
最初の二着は男物の既製品です。女物のこういった服は無くて」
「頑張っていたのだな。ちょっと確認するよ」
そう言ってクローゼットを開けた。
やっと父上がミラの生まれ変わりと言ったシェイナに会う日がやってきた。
流石ヴェリテ公爵家。王都の一等地に広い敷地を持つ大きな屋敷だった。伯爵時代からここに構えていたという。
「ようこそお越しくださいました。
当主のセイン・ヴェリテです。ご無沙汰しております。
妻のティーティアと娘のシェイナです」
「ご無沙汰しております」
「ノワール公爵様、初めまして。長女のシェイナと申します。お会いできて光栄です」
「愛らしいお嬢さんだ。ローエンと呼んでくれ。父が世話になっているようで感謝している」
「私がデュケット子爵様にお世話になっています。明日からもっとお世話になる予定ですわ」
「近いうちにノワール邸にも遊びに来て欲しい。いいかな?」
「? はい」
スン スン
「この子達は?」
「大きい方がティーティアが子供の頃から飼っている犬でミスラと言います。
小さめのがシヴァです。
殺気に反応します。特にティーティアとシェイナに対しての殺気があると手がつけられません」
「どうなったのですか」
「屋敷の塀を越えたところで噛み殺しました」
「それは優秀な子ですね」
「さあ、中へどうぞ」
「シェイナ嬢、エスコートしてもらえるかな」
「喜んで」
内輪の成人パーティには王太子と第二王子、宰相のパラストラジル侯爵と娘夫婦、ウィルソン公爵家の面々と前ヴェリテ公爵夫妻という顔ぶれで、普通の貴族なら食べ物は喉を通らない程の緊張を強いられるだろう。
ひと通り歓談が終わると背後を取られた。
「ノワール公爵様」
振り向くとシェイナとシヴァが立っていた。
離れた父上を見ると口の端が上がっていた。
「シェイナ嬢、どうしたのかな?」
「デュケット子爵様の嫌いな食べ物は何ですか」
「父上は嫌いなものを悟られないようにしているから私でも分からない。シェイナ嬢になら教えてくれるかもしれない」
シェイナは父上の隣に座り尋問を始めたようだ。あの父上が嬉しそうに口を開けてシェイナの摘んだチョコレートを食べた。
シェイナも笑っている。
王太子と私と父上とシェイナで庭園を歩いているとシヴァが立ち上がった。
「グルルルッ」
「シヴァ、静かに」
シェイナは辺りを見渡すと王太子の短剣を奪い生垣に向かって投げた。
「グッ」
王太子の護衛騎士が王太子を囲み、ヴェリテ家の護衛が生垣から引き摺り出したのは王宮の騎士服を着た男だった。
だが、王宮騎士ではないようだ。
「叔父上、シェイナ、申し訳ありません。
私を狙った者のようです」
「ティアやシェイナではなさそうだな。シヴァが大人しくしているからな」
「シェイナ嬢だったらシヴァは」
「唸ったと思ったら誰よりも早く賊の元へ行き、頭を噛み砕くか肢体を引き千切ります」
「さっきはシェイナ嬢が命じていましたね」
「ほとんどティーティアとシェイナの言うことしか聞かず、特に攻撃し出したらティーティアとシェイナでないと止まらないのです」
「ヴェリテ公爵、店の二階にいつでも犬を連れてきてもかまいません。狭いですが」
「この子達は何故か散歩を嫌がる風呂好きなので寝床さえあれば大丈夫です」
「散歩を嫌がる犬ですか。一匹で留守番はできますかな?」
「大丈夫でしょう。シェイナの部屋で大人しく待っていますから」
「トイレは?」
「人間のトイレを使えます。賢いんですよ」
「では問題ありませんね」
「感謝します」
王太子達は刺客を連れ帰り、ウィルソン公爵家とパラストラジル侯爵家はヴェリテ公爵夫妻と話をして、私と父上はシェイナに屋敷の中を案内してもらいながら会話をした。
「私のことは叔父さんとでも呼んでくれ」
「叔父様ですか?」
「シェイナ」
「ローエン様、何でしょう」
「明日の夜、三人で夕食を食べないか。入居祝いをしよう。
必要な買い物は終わっているのか?」
「はい。完璧です」
ヴェリテ公爵邸を後にしてノワール邸に向かっていた。
「完全に生垣に身を潜めて姿が見えていなかったはずなのに、的確に足にナイフを投げ刺しましたね」
「ミラで間違いない」
「あの気配の消し方、ゾクッとしました。
あれ、犬なんですかね」
「さあ、何だかは分からないが最強の護衛だろう。まず裏切ることがないからな」
翌日は午後に買い物をしてティータイムに店舗を訪れた。父上に挨拶をしてそのまま上に行きノックをするとジャケットとトラウザーズ姿のシェイナが出てきた。
「シェイナ?」
「これ、仕事着なんです。オーダーしていた最後の服が届いたので念のため袖を通してみました」
「似合っているけど、あまりピッタリに作ると体のラインが出てしまうよ」
「 ? 」
「馬鹿な男には刺激的かもしれない」
「ええっ!」
特に腰回りなんか……小ぶりで形の良い尻の丸みが良く分かる。
これではどんな男も目がいってしまう。
「もっとゆとりを持たせるなり、ジャケットを長くしないと駄目だな。何着作ったのかな」
「まだ一着です」
「最後と言ったか?」
「はい。……はぁ」
「作り直せばいいだろう」
「けっこう費用かかったんです。
多分採寸からやり直して型起こしもするとなると……半年後……一年後ですね」
ヴェリテは富豪なのにか?
「ヴェリテ公爵が出してくれないのか」
「自立をする為に就職して態々部屋を借りているので、仕事服を買ってくれなんて言いません。
最初の二着は男物の既製品です。女物のこういった服は無くて」
「頑張っていたのだな。ちょっと確認するよ」
そう言ってクローゼットを開けた。
216
お気に入りに追加
1,165
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる