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疲れた…
しおりを挟む赤茶色の髪と瞳の女生徒が私の前に立って指をさしている。
「早く譲りなさい」
「ベリー嬢、ここはメイが先に座った席だ。そんなにここに座りたかったらもう少し早く登校すれば良かったじゃないか」
「向こうに行きなよ」
「私はニコラ殿下の婚約者ですのよ!」
「カレン嬢、後ろの空いている席に座ってくれ」
「で、殿下」
「くだらないことで王族の婚約者の立場を使うな」
「ですが、普通は殿下の隣に私が座るものではありませんか」
「そんな決まりはない。ここは学園だぞ。それに私の隣はアレンじゃないか。何故アレンに言わないんだ?」
「殿下っ」
「私が後ろに行きます」
「「駄目だ」」
「メイちゃん、座っていていいのよ」
カレン様、優しいな。
「なんか、その方が早く片付くと思いまして。
みなさんの視線がこれ以上冷たくなると、王子殿下も恥ずかしいでしょうから」
「あ、あなた!誰に向かって、」
「カレン・ベリー。その我儘な振る舞いが私の評判まで落とすということが分からないのか?都合の良い時だけ一心同体のようなことを言うが、今おまえの我儘で私まで恥ずかしい思いをしているところだ。侯爵には まだ社交に出すのは早いと文を送らねばならぬのか?」
「も、申し訳ございません、失礼いたします」
王子にお辞儀をして後ろへ消えていった。
「すごい〈本当に王子様だ!貫禄ある!ステキ!〉」
「メイ。余計なものを見るんじゃない」
「そうだよ。手を繋いであげようか」
「今、メイは私のことを褒めたんだろう?アレン、余計なものとはなんだ?」
「あ、始まりますよ」
「全く…」
「それより、殿下は“メイ”と呼んではいけません」
「いいじゃないか」
「駄目です」
「始まりますわよ」
入学の挨拶などが終わると、注意事項を先生が説明していく。
「学園内では平等と書いてありますが、無礼に振る舞っていいということではありません。教職員が平等に接し、生徒のみなさんが平等に学べるという意味です。王子殿下も生徒として扱いますが、みなさんは殿下が王族だということを忘れないようにしてください。
学園から一歩出れば学園内の生徒間のルールは適用されません。友人として許されている場合を除き、さん付けで呼ぶのは学園内だけにしましょう。
殿下だけは学園内だろうと“殿下”と呼びましょう。殿下のご友人は結構です。
特に女生徒のみなさん。軽々しく男子生徒の体に触れてはいけません。婚約者のいる方も多数おりますので揉め事の原因となってしまいます。
当学園では虐めに関しても厳しく処罰します。
退学もあり得ますので注意してください。
本日配布した校則に目を通しておいてください。
ではクラス分けを発表します。
名前を呼ばれたら立って後ろのドアから出て、校内図に載っている自分の教室へ向かってください。席は教室に行けば分かります。座って静かに待つように」
次々と名前が呼ばれ、双子の名が呼ばれた後、私の名も呼ばれた。
講堂を出ると双子が待っていた。
「行こうか」
「もしかして、クラスも操作を?」
「「当然」」
「カルデック公爵家 怖い」
「やっとわかった?だから逃げようだなんて思わないで僕達と一緒にいればいいからね」
「よそ見は駄目だぞ」
「何ですか、よそ見って」
「君達、早く行きなさい」
「「「はい」」」
Aクラスには王子とセレス様
Bクラスには双子と私とあのカレン・ベリー。
席は一番後ろで双子に挟まれた。
前の席に男の子が座ろうとした。
「私、メイ・モヴィーです。よろしく」
「俺はエミール。よろしく…お願いします」
「綺麗な黒髪」
「え?」
「艶々でまっすぐでいい髪ね」
「揶揄ってます?」
「全然〈黒髪黒目、落ち着くわ~。しかもカッコいい。もしかして〉」
「ご実家はお店とかやってる?」
「やってます」
「敬語じゃなくていいわ。一応貴族だけど崖の中腹に引っかかってる滅亡間近の男爵家だから」
「分かった。メイちゃんは寮?」
「通いよ」
「僕達と暮らしているんだ」
「メイはカルデック公爵家が庇護しているんだ」
「す、すみません」
「あ、先生来ちゃった。エミールくん、今度お店のこと聞かせてね」
「分かりました」
〈あーあ。敬語に戻っちゃった。もしかしたら私の嫁ぎ先になるかもしれないのに〉
「「……」」
説明を聞いて、クラス内で自己紹介をした後は下校になった。
馬車の中では双子はどちらも不機嫌で、居心地が悪いのに、彼らは私をピッタリくっ付きながら挟んで座る。向かいの席に行きたい…。でも向かいの席に行ったら今度は目が合う。お給料が高いのは嬉しいけど精神的に大変だわ。
元の世界でいうと月収100万といった感じ。引かれるものは無いから丸々貰える。
その代わり健康保険とか年金とかないから貯金は必須。まあ、ファラルからの報酬もあるから頑張ろう。
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